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ウルアーデ見聞録 少年少女、新世界日常記  作者: 宮田幸司
1章 ギルド『ウォーグレン』活動記録
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災禍の前触れ 一頁目


「それで、康太君が感じた直感とやらはどのようなものなんだい?」


 康太が怪しい気配を感じ取り少しして、四人が公園内にあった机を囲み近くにあった『コンパクトストア』通称『コンスト』で買った昼食に手を付けはじめ、ゴロレムが康太に尋ねる。


「申し訳ないッス。残念ながら俺の異能である『直感』っていうのはそこまで具体的に先がわかる『未来予知』のような能力とは勝手が違いまして。虫の知らせみたいなものを強化したものに近いんですよ。だからどんなことが起こるかはわからない。

 ただ自分を中心に置いた場合、危険がどの方角から来るかはわかりますし、危機が大きくなればなるほど、訴えかけてくる直感も大きくなります」


 『能力」が属性粒子を混ぜる事を示す言葉に対し、『異能』とはいわば人間の持つ機能の一部が大きく伸びた場合に使われる言葉だ。

 『視覚』や『聴覚』などの五感が平均と比べ最初から異様によい場合や訓練した場合の伸び率が以外に高い場合、

 腕や足が異様に長い場合や筋肉の圧縮率や成長率が異様に高い場合、

 他にも属性粒子の生まれつきの貯蔵量が尋常でない場合や、『魔眼』に代表される粒子が混じることで体に変調が起きる場合などが『異能』と称される。


「それで、今はどんな感じなんだ康太」

「差し迫ったような感じはないな。ただ、間違いなく悪意を持った輩が公園にいる、または迫っている、という感じだな」


 康太の場合は五感全てが周りの状況を認識する力に関して秀でており、風の僅かな変化、他者の体から放たれる殺気の感知、臭いの変化など様々な要素が混じり合い、周りの状況を無意識に理解し、康太の脳に指令を送っている。

 そんな康太の脳が危機が迫っていると告げているにも関わらず彼らが昼食を摂っているのは、康太の直感が差し迫った危機ではないと言った事が原因で、今の時点で警戒心から周りを動きすぎ犯人に無駄な警戒心を抱かせないためである。


「私には君が謙遜しているように聞こえるが、そう悲観する程でもない。むしろ、細かな危険を感じられ、それに合わせれば危険な状況を逐次回避できるというのならば、一々準備が大掛かりな未来予知の能力と比べ利便性に優れていると私は思う」

「そうです。康太さんのおかげでこうやって前準備ができるんですから、それってすごい事ですよ。それにしても……神教のコンストは賢教とは趣が違うんですね。電球が付いてるなんてびっくりです」

「ありがとうございます。それにしても…………リスみたいだな」

「神教はってことは、賢教は違うんですか?」

「賢教は粒子至上主義だからね。内陸部に行けば行くほど、あらゆる物事を科学用品ではなく、昔からの粒子の研究成果を利用するんだ」

「へー」


 アビスがコンストのパンを頬張り頬に溜める姿を目にし、頬杖をつきアンパンを頬張りながら思ったままの事を口にする康太。

 その横では蒼野が神教にある情報誌にも載っていなかった情報をゴロレムから聞き、感嘆の声をあげていた。


「それで、これからどうしますか?」

「ふむ……」


 康太の言葉を聞き顔を赤くして恥ずかしそうに俯くアビスを穏やかな気持ちで康太が眺め、その横で蒼野が向かい側にいるゴロレムに尋ねると、彼はハンバーグ弁当から手を離し、懐から取りだした本に手を置いた。


「犯人を刺激しないため、離れたところから見守るというのがいいと思うな。ただ、この位置ではまだ足りない。できれば私たちが公園から出た状態で監視を続けたい」

「それはそうですが……維持装置の周りにはカメラがあるとはいえ、それを譲ってもらう場合、結構時間が掛かりますよ」

「蒼野君のおっしゃる通りだね。だから別の手段を取るとしよう」


 そうゴロレムが呟くと同時に、彼が取りだした本が閉じたまま僅かに青白い光を放ちすぐに消える。


「今のは?」


 それは同じ机に座る彼らだからこそ確認できる淡い光であったのだが、ほんの一瞬で消えてしまったため、見ていた蒼野が目の錯覚と思い尋ねてみた。


「いきなりで申し訳ない。監視の目を幾つか作っていたんですよ」

「監視の…………目?」

「ええ。彼らです」


 ゴロレムが二人に説明をしながら指差した所には数匹の雀が草むらにおり、チョコチョコと歩きながら付近にミミズはいないかと視線を彷徨わせていた。


「あの雀に何か仕掛けを施したんですか。視界の同期とか」

「同期に関しては正解です。しかし正確には違う。あの雀たちは、今私が作ったんだ」

「雀を作った?」


 ゴロレムの口にすることの意味が理解できず戸惑った声をあげる蒼野。

 そんな彼と康太の前でゴロレムが指を動かすと、雀はそれに合わせ動き出し、指を空にあげればそれに合わせて空を飛び、今回の監視対象である結界維持装置が内部に内蔵されている四大勢力の長がサインした記念石碑を指差すと、雀は石碑の上に止まった。


「まさか…………あの雀達は」


 予期していなかった現象を前に戸惑いの声をあげる蒼野。

 それが何を意味するのか理解したゴロレムが、彼が最後まで口にするよりも早く肯定するように頷いた。


「ええ。あれらの雀は全て私が作りだした氷の彫像です。彼らは私の指示で動くのはもちろんの事、私が一度念じれば視界を共有することもできますし、命じれば敵を足止めすることもできます」

「す、すごいですね」


 黙々とおいしそうにパンを頬張るアビスを凝視する康太を尻目に、目の前で繰り広げられた光景に息を吐く蒼野。

 更にゴロレムが足先を見るように蒼野に告げると足の先端部分だけが色が抜けたかのように青白い氷に変化し、それが彼の作ったゴーレムの類であると完全に理解。

 無意識に口に溜まった唾を飲みこむが、今見た光景はそれほど凄まじいものであった。


 何せゴロレムが瞬時に作りだした使い魔は、見た目から動きまで普通の雀と寸分変わらぬものであり、それが人の手によって作られたと言われたところで、到底信じられないものであった。


「これで足りないようならば追加の兵士を足すこともできるのだけれど、康太君と蒼野君はどうしたいかな。人型から動物まで、様々な物を作れるよ」

「えっと……それでしたら人型のものをオレ達が出た後に配置してもらってもいいッスか。それでその人形を一定時間ごとに違うものに変える……のは流石に無理ですか」

「いや、問題ない。老若男女に加え様々な背格好や顔の人を用意できる。即席の物だけでもパターンは千種類近くあるが、それで蒼野君の要望には応えられるかな?」

「あ、はい大丈夫です」


 流石に欲張りすぎたかと考えた蒼野の問いにさして苦も無く答えたゴロレムの返しに、蒼野はそれ以上の言葉を告げることができなかった。

 そして同時に理解した。


 始めて会ってからこれまで普通に話していたのだが、考えてみれば蒼野と康太が今一緒に仕事をしている男性は数百億人の教徒がいる賢教における最高戦力の一人なのだ。

 出来る出来ないで不安げに物を尋ねるのは失礼であるし、そもそもここまで親しげに話させてもらえるだけでもありがたいことなのだ。

 そんな事を思いながら蒼野が机から立ちあがり先頭を歩き出し、康太やアビス、そしてゴロレムも続き公園の敷地から外に出て、人々が歩いている交差点に出る。


「で、これから俺達は見張りをすることになるんだと思うんだけど、どこでする康太?」

「そうだな。オレとお前の二人だけだったらネットカフェ何かでやればいいんだが……」


 信号を待つ蒼野と康太に隣り合うように並んでいる存在は、賢教最大戦力の一角と見るからに名家が生まれの少女の二人だ。

 この二人組をネットカフェ等という庶民的な場所に放り込んでいいものかという疑問が、康太の頭をよぎる。


「遠慮しなくていいよ康太君。監視の仕事の際は、私もよく近くにあるネットカフェを利用しているんだ。そうかしこまらずに、君や蒼野君が仕事をやりやすいようにしてくれて構わない」

「私もです。それに恥ずかしながらネットカフェや漫画喫茶に入った事がなくて。その……ぜひそういうところに行ってみたいです!」


 ゴロレムの格下を相手にしているとは思えないほど快い返事に蒼野が胸の奥が熱くなる感覚に襲われ、アビスの笑顔を前に康太の胸が熱くなる。


「よし! 満場一致なら問題ない。行きますか漫画カフェ!」


 各々が別々の事を考える中、信号が変わったのを目にして先頭を歩く康太が力強い声でそう口にし、


「あ……」


 そのすぐ後に落胆の声をあげながら足を止めた。


「どうした康太?」


 賢教から来た二人は別として、付き合いの長い蒼野ならばすぐにわかるほど目に見える康太の変化。

 交差点の真ん中にも関わらず蒼野も足を止めゴロレムとアビスの二人にも目くばせし何らかの異変があった事を伝えると、


「…………連中、もうやってきやがった」


 優に関する愚痴や恨み事を口にする時のような心底腹立たしげな様子で、康太がそう三人に伝えた。


「いらっしゃいませー」


 昼食を買ったフードスペースがあるコンストに足を運び、情報閲覧用のパソコンがある場所に四人が移動し周囲にある椅子を奪い取ると固まって座る。

 それを見た店員が困惑するような表情を浮かべるが、さして気にする様子もなくゴロレムが懐から水晶玉を取り出し、手を添えると同時に先程までいた平和公園の姿が映りだした。


「見たところ、気になる影はないようだが」

「ええ。私の目から見ても、異常があるようには見えない」


 蒼野とアビスの二人が空を飛ぶ雀越しに見える光景を前に思ったままの感想を口にするが、康太はかぶりを振る。


「いや、間違いなく今ここに誰かがいる。俺の直感はそりゃミスすることだってあるが、産毛が逆立つ感覚が襲って来ている時は必ず危険が迫ってるんだ」


 言いきる康太を前にして長い付き合いの蒼野は何を言うまでもなく彼の言葉を信用するが、


「……ふむ」


 その効果を実際に見た事がないゴロレムは半信半疑といった様子で、境界維持装置が埋め込まれている石碑をまじまじと見つめていた。


「……康太君。ものは相談なのだが単純なトラップを仕掛けないか? 私が作りだした僕を用いれば、ここからでも察知されにくい罠を仕掛ける事ができるが」

「ぜひ!」


 さして間を置くことなくゴロレムの提案に乗る康太。

 するとゴロレムが懐から本を取り出し、主の手を煩わせることなくページがめくれ、ピタリと止まると同時に青白い光が僅かに灯る。


「これは?」

「石碑の上に乗せた雀を対象に術式を発動した。これで石碑に強い衝撃が奔った場合、それを防ぎ、接触した相手の体を凍らせることができる」

「そんな便利なトラップをこれだけ離れたところから……」


 ゴロレムが行った早業に感嘆の息を漏らす蒼野と拍手をするアビス。


「来る……」

「なに?」


 その横で康太がそう呟き、それを不審気にゴロレムが見るが、

 次の瞬間、石碑が大きく揺れ、人の影一つ映っていない空間が突如凍りだした。


「こ、これは!」

「行くぞ!」

「ああ!」


 予想だにしていなかった展開の速さに下を巻くゴロレムを尻目に、康太が勢いよく席から立ち上がり蒼野に声をかけ、同じ声量の声をあげながら蒼野が走りだす康太の後についていった。


ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


本日は遅くなってしまい申し訳ありません。

ただ、月曜日に限りこの位の時間になることもあると考えていただければ幸いです。

さて本編の方はと言いますと、やっと話が動きだした感じになります。


ではまた明日もぜひぜひ。

あと、ツイッターでは小説に関する小話やらも呟いてるので、またぜひご覧ください。

宮田幸司で検索すると出てきます。

アドレスを直接貼れば楽なんですが、どこを張ればいいのかまだしっかり分かってないのでしばしお待ちを。

近日中にできるようになります!

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