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三狂 死王 デスピア・レオダ 一頁目


 デスピア・レオダという怪物は、言うなれば善悪の区別がつかない子供が、世界中の生物を殺す事ができる兵器を手に入れたかのような存在だ。

 炎属性が備える『燃やす』という特性を除けばほぼ全ての攻撃をカットできる体に、神器使いを除けば万物に対し効果を発揮する数多の病。

 この星の総人口の約一割である35億人以上を殺した彼は、幼いとはいえ馬鹿ではない。


 自らの欲求を抑えることが難しいからと言って猪のように何にでも突っ込んでいくわけではなく、攻撃する相手を選ぶだけの脳は備えている。

 なればこそこちらの戦力を感知すれば決して攻めてこないであろう、そうクロバと善の二人は考えていたのだが、その想定は容易くひっくり返された。


「よぉ。俺様を探してたみたいだな玩具共」


 色素というものが一切含まれていない真っ白な肌に病的な白さの白髪。瞳孔が完全に開き瞼から飛び出かけた眼球は、人間では決して見られないような奇妙な動きを披露し自分の目の前にいる戦力を確認。

 見るものの背筋を凍らす、醜悪な笑みをその顔に張り付ける。


「デスピア・レオダ!」


 その姿を確認した善の胸に激しい憎悪が宿り、自らの片腕を殺した実質の原因である男の名を口にするが、体は激情に流されることなくその場に張りつき、冷静な脳がこの状況を分析する。


 デスピア・レオダに野生動物を遥かに上回る勘があるのは既に知っている。

 だからこそ絶対に負ける戦いにこの男が自ら現れることはなく、現れた場合何らかの勝機がある場合という事になる。


 善達のいる側の集団は、過去のデスピア・レオダのデータを元にして作られた勝率九割超えの部隊だ。

 勝負になればこちらの損害はごくわずかで、敵の戦力を大きく削げる計算であった。


「全員臨戦態勢のまま待機だ! 勝手に前に出るなよ、特に鬼人族!」


 そんな精鋭部隊を前に、『死王』の異名を備える怪物が歩み寄る。それは完全に予想外の事態であった。


「「……………………」」


 来るはずのない敵の出現に血の気の多い連中は武器を構え、それ以外は酷く動揺した様子で身を硬直させるが、そんな部下たちの乱れた意識をクロバの怒声が正常に戻す。


「言う必要はないと思うけどよ、あんたもおとなしくしててくれよ壊鬼の姉御」

「おいおい、どうしたんだい善?」


 そんな中、声を強張らせ此度の戦いにおける切り札に言葉を投げかける善。


「どうしたもこうしたもねぇよ。あの野郎がこっちに向かってきたってことは、つまり俺達を前にしても勝てる自信があるってことだ。それが何かわかる前に出られて万が一あんたがやられたら、一気に戦力はガタ落ちだ。それだけは避けなくちゃならねぇから、俺たちの背後でドンと構えててくれ」

「なるほど、了解了解」


 深刻な表情で語る善とは対照的に、顔に喜悦の笑みを浮かべながら鬼人族の長は頷くのだが、そんな彼女の足は、その言葉とは裏腹にデスピア・レオダの前へ前へと向かっていた。


「話を聞いてたか? 最後尾で情報収集に努めてほしいって、伝えたつもりなんだが?」

「分かってるよ」

「それがわかってるなら…………なぜ前に出る姉御!」


 静止をかけるゼオスの言葉を耳にしても彼女の足取りは緩むことなく、ゼオスが肩を掴んで止めようとした瞬間数十メートルの高さまで一気に跳躍。

 善の悲鳴混じりの抵抗を耳にしながら『死王』と呼ばれる怪物の元へと迷うことなく向かっていた。


「壊鬼殿!?」


 自分の頭上を通りすぎた人物の姿にクロバがその風貌に似合わぬ声をあげる中、彼女の肉体が赤黒く変色し、両手から出した地属性と炎属性の粒子が交わり、そこに鋼属性を混ぜ、見るからに頑丈な鉄色の金棒が出来上がる。


「さあ…………」

「あん?」

「派手にいこうじゃないか!」

「ギャハハハハハ!」


 獲物を前に舌なめずりし声を張り上げる壊鬼の存在に気が付き、デスピア・レオダが右腕を巨大な大砲に変化。

 自らの粒子を固めた、触れたものの全身を病で蝕む砲弾を二発三発と連続で撃ち出した。


「しゃらくさいねぇ!」


 触れれば勝負が決する一撃を前にしても、しかし彼女は一切動揺せず、顔に張り付けた笑みを外さない。

 持っている棍棒を一度だけ振り払うと、炎の波を生み出し、迫る三つ砲弾を一撃で消滅させた。


「あぁ!?」

「あらよっと!」


 攻撃の直撃ではなく余波だけで三つの砲弾全てが消し炭になった光景を前にデスピア・レオダが目を丸くするのを認識し、壊鬼は動揺から来るほんの僅かな硬直を見逃さず空中を蹴り一気に肉薄。


「一・極・集・中!」


 手にしている神器、大黒天の能力を発動し、鬼人族でも最高クラスの剛力を右腕一本に集めさらに倍化――――目にも止まらぬ速さで振り抜く。


「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァァァァ!?」


 振り抜かれた棍棒がデスピア・レオダ……ではなく彼が足場にしている地面に触れた瞬間、善やクロバの見ている前で天変地異が巻き起こる。


「っっっっ!」

「たくっ! 無茶苦茶しやがる!」


 国一つ背負って動くことができると言われるほどの剛力が片腕に集まった状態で、さらに倍加されたその一撃は彼女を起点として扇状に広がり、大地をその上に乗っている建物ごとひっくり返し炎上。一瞬で周囲一帯を生命が存在することを許さぬ溶岩地帯へと変貌させた。


「まさかこれで終わりってことはないだろ?」

「クソクソクソクソ! クキャキャキャキャキャキャ!」


 まさに塵一つ残らず消えたデスピア・レオダの体が、地獄絵図と化した地形から僅かに離れたところで再び形成。全身を泡立たせ、黒く濁った水を出す。


「なんだいそりゃ、舐めてるのかい?」


 溶岩地帯を飛び越え自分へと向かい迫る黒い濁流を前にして、鬼人族の長は懐から『鬼泣かし』と書かれた酒瓶を取りだすと一気に口に流し込みピタリと静止。


「ぶぅぅぅぅ!」


 女性が発するにしてはあまりにも汚い音を出しながら霧状になって吐きだされたそれは超高温の火炎放射となり、迫る液体状の病だけではなく大気中に散っていた気体の病まで燃やし尽した。


「おいおい、他がお留守だぜぇ!」


 とはいえそれらは射線上にある攻撃を全て燃やしただけの話であり、左右後方から現れた黒い鎖付きの刃を消し去ることまではできない。


「ギャハハハハ! 死ねクソアマ!」


 先に待っている展開を予期し、口元を歪ませるデスピア・レオダ。

 そんな彼の思惑を砕くように、炎を纏った巨大な鉄球が壊鬼の真横を通って行き、無数の刃を砕いていく。


「ぬん!」

「ちぃ…………」


 トドメとばかりに放たれる鉄球を前にその身を霧散させ距離を取るデスピア・レオダ。

 そうして場が膠着状態に陥ったところで連合部隊を指揮していたクロバが身の丈と並ぶ大きさの鉄球を持ちあげながら壊鬼に近づき、ため息を吐き目を閉じながら彼女の前に立った。


「切り札が最初から暴れまわらないでいただきたい。リスクが高すぎます」

「そう言うなって。状況が揃って、許可を得なけりゃあたしゃロッセニムやシミュレーターのフィールドでしか暴れられないんだ。久々の実戦なんだし、楽しませておくれよ~」

「しかしですね」

「それにだよ……」


 未だ表情が優れないクロバを前に壊鬼は金棒を担ぎながら背後を見ると、鬼人族がいの一番に歓声をあげ、それに続いて各々のグループの者達も歓声をあげ先頭を切ってデスピア・レオダを引かせた壊鬼と荒々しいながらも繊細な動きを見せたクロバを賞賛していた。


「あたいが先陣をきってなけりゃ、予想していなかった奇襲に呑みこまれて結構な被害が出てた。それを阻止できて、なおかつ場の戦士たちの空気を高揚させられたんだ。それであたいの作戦外の単独行動はチャラってことにできないかい?」

「…………むぅ、確かにその通りではあるのですが」


 壊鬼の言葉は最もなのだが納得しきれず、クロバが額に手を置き僅かに思案するが、背後から聞こえてくる熱い声援と士気の高さを確認すれば、それ以上何かを言うことはできなかった。


「…………今後は気を付けてください」

「あいよ。なあに、これからは部下たちの活躍を見せてもらうさ!」


 そう口にして彼女が一升瓶に入った酒を飲みながら引き下がる壊鬼。

 彼女がヒラヒラと手を舞わせハイタッチを望むと善とクロバがそれに応えるのだが、その威力に押され顔を強張らせた。

 と同時に『死王』が気色の悪い笑みを浮かべながら踊り出て、『三狂』の一角、世界で最も多くの生物を苦しめた存在との戦いは始まった。


ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


VSデスピア・レオダ開幕!

先陣を切るのは此度の戦いにおける最強戦力の壊鬼です。

レオン・マクドウェルやゲゼル・グレアなど死んだ李動かせない面々を抜いた場合、

最大火力を出せるのが彼女です。なおかつ麒麟の首脳陣のため腕っぷしも強い。

あとは考えるよりも先に動いて、最適解に近い結果を出せるのも特徴です。

エルドラとキングスリングを引っ張っていけるのも合わせ、大黒柱のような存在ですね。


で、デスピア・レオダの出した被害に関しても詳細を発表しました。

これは殺意に振りきった場合かつ初見の場合で、特効薬を作れる今なら被害はほぼなしです。

とはいえ同じような事ができる可能性は大いにあるため、もしも同じことを繰り返そうとしていたら、

静止を振りきってアイビス・フォーカスが出てました


それではまた明日、ぜひご覧ください

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