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第三幕 輪攻墨守の果てに 三頁目


 蒼野を先頭に五人が二体の『禍鳥』の攻撃を凌ぎながら作戦会議を行うのに対し、対峙するパペットマスターはヒュンレイの人形を自らの元にまで手繰り寄せていた。


「流石ヒュンレイ・ノースパスダ。まさか……ココまで早く二ツ目の宝石ヲ消費するトハ」


 結論から言うと康太の気づきは的中しており、人形となったヒュンレイは外部から補充される粒子をエネルギーを用い生前の技を駆使していた。

 オーバーやボルト・デインも含め三体の人形が属性粒子を使った様々な力を連発していなかったのも彼らが考えた通り粒子の温存が理由であっている。


「交換完了DEATH」


 が、同時に悪い予感もまた的中しており、パペットマスターは三体の人形が大量に粒子を使った際に補充できるように予備のエネルギーも十分に蓄えており、ちょうど今、それを交換し万全の状態に戻した。


「サア……行きますカ」


 ほとんど空になった空色の宝石を投げ捨て、新しい宝石を備えたヒュンレイの人形を前線に舞い戻らせようと指を動かす人形師。

 その時彼が感知したのは、そんな自分に向けて飛びこんでくる子供たちの姿であった。


「来マスか」


 パペットマスターが計算する彼らに残された余力と、その身に纏う空気が伝えている。

 恐らくこれが最後の衝突であると。


「イイでショウ。これで終ワリDEATH」


 それを理解した彼は、これまで以上に神経を張りつめ、あらゆる場所で操っていた有力者たちの人形からも意識を外し、目前の彼らに集中。

 広範囲の攻撃で膠着状態を作りながらジワジワと追い詰めるという戦略を投げ捨て、刹那の瞬間に全てを出しきり、彼らの全力に応じる事を決意した。




「じゃ、一番大変なところは頼むぞ」

「オレ達はそこに辿り着くまでの道を必ず作る。その後は不本意だがテメェらが頼りだ。情けねぇ話だがな」


 いの一番に積がバリケードから出ていき、それに追従する形で康太が外に飛びだす。

 積はさっぱりとした挨拶を残し、康太は心底無念という様子でそう口にするのだが、それに対し蒼野と優は頷き、ゼオスは言われるまでもないと息を吐いた。


「…………先に行く。古賀蒼野。言うまでもないかもしれないが、役目はしっかり果たせ」

「………………本当に今更だな。ま、提案した立場ってのもあるし、しっかりやらせてもらうさ」


 その後疲れを一切見せぬ様子でゼオスが立ち上がり駆けだしていくと、その場には一人の少年と一人の少女だけが取り残された。


「…………」


 彼らの出番はこれから約十秒後。少しではあるが間を置いてからの事であった。

 出ていく三人の顔をしっかりと眺めていた少年の顔には覚悟の相が浮かんでおり、二の腕から先を震わせている姿を目にして、金の長髪を携えた少女は口を開いた。


「怖いの?」

「ああ。怖いよ」


 甘く、優しい、子供を慰めるような声色で発せられる短かな言葉。

 それを聞いた蒼野は僅かな間を置くこともなく、早口で言葉を返す。それは嘘偽りのない彼の本心だった。


「俺の作戦は本当に成功するのか……………………怖くて仕方がないよ」


 うまく回れば勝利を掴める方程式を、彼は確かに導きだした。

 だがその方程式を成功させるために、なんと試練の多いことか。


 今こうやって蒼野の能力もなく、たった三人で戦いに挑むこと然り。


 人形師がとある事実に気づいていないこと然り。


 そして最後の最後に重要なのが、ある程度の準備はあれど、運否天賦に任せる部分が存在する事。


 どれか一つでも失敗すれば蒼野の考えた勝機は崩れ、なおかつ誰かが死ぬことになる。

 それでもこれが最も勝率が高い方法ゆえに仲間達は賛同してくれたが、人形師の弱点を外してしまった蒼野からすれば、あまりにも危険な綱渡りに見えた。


「フン!」

「ブヘっ!?」


 それゆえ彼女の言葉を聞いた彼は肩を落とし俯くのだが、そんな蒼野の背中に、優の力強い平手が打ち付けられた。


「え? 何? いきなり何だ?」

「善さんに昔習ったのよ。弱ってる奴には、こうして活を入れろって」

「えぇ~」


 その衝撃を受けた蒼野の口からは何とも言えぬため息が漏れるのだが、優はそんな事はお構いなしという様子で蒼野の両肩を掴み、美しい碧色の双眸で蒼野を射貫いた。


「アタシ達はアンタの作戦がベストだと思ったから賛同した。逃げの一手を捨て去って、勝つためにはこれしかないと思ったから賛同した。違う?」

「あ、ああ。そうだ」

「そうでしょ。で、その作戦は既に始まってる」

「…………そうだ」


 最初は動揺から思考が定まらなかった蒼野だが、落ち着きのある柔らかな口調で語る彼女を前にして胸の鼓動は正常に戻って行き、先程まで抱いていた悩みが溶けていった。


「なら今更迷ったってしょうがないでしょ! それに、この最後の攻撃はアタシ達全員の意志によるものよ。例え何があったとしても、それを一人で背負いこむなんておかしな話じゃない?」

「そう、だな」

「加えて言っておくとね! アンタの作戦は文句なしに最高だった。文句の一つも出ない程にね! だから――――――大丈夫。そんな辛い顔をする必要はね…………ないんだよ」

「あ…………」


 語りながら一足早く立ち上がり背を見せる少女の姿――――眩しかった。美しかった。そして――――


「…………作戦の立案者が動く前からへこたれてたら世話ないな」

「そ! だから立って蒼野。あんたの力で、この戦いを終わらせましょう!」 


 その隣に立ちたいと本心から思えるものであった。


 ゆえに少年は立ち上がり、堂々とした様子で肩を並べる。

 その姿に迷いはなく、吹雪が支配しているのにも関わらず、見る者の心に形容しがたい温かさをもたらした。



 そうして少年少女は嵐の中に飛びこんだ。

 今度こそ、その先に広がる光を見るために。




「来るぞ!」


 ヒュンレイの全身から出る冷気が周囲を銀世界に変化させ、近づくのも困難な環境に変貌。


「「!!」」


 堂々とした様子で人形師の周囲を走っていた康太と積の二人が氷の世界に飛び込んだ瞬間、裸で極寒の大地を走っているのではないかという錯覚に陥った。


「こ、れは!」

「ちょっときつすぎるぞ!」


 全身の痛覚が秒単位で鈍くなっていき、一歩近づくたびに体内から熱がなくなり凍っていくのが実感できる。


「原点…………回帰!」


 これまでならば近づくことすら不可能な領域の存在。

 そこに手を掛ける第一歩となったのはこの戦いで蒼野が新たに得た力『原点回帰』だ。

 何度も使う事でスムーズに全身から刀身に移動していく事が可能になった赤い光は、勢いよく大上段から振り下ろされ、ヒュンレイが舞う空を斬り裂く。


「やハりデタラメな強さノ能力DEATHね」


 原点回避の恐ろしい点についてまざまざと見せつけられてきたパペットマスターであるが、何度繰り返されても想像を絶するものであると感じてしまう。

 生命非生命、粒子の圧縮率や威力、それらの違いなど一切なく全て消し去ってしまう赤い光だが、その対象はどうやら粒子であれば何でもよいらしく、気体である冷気すら消滅させていた。


「康太!」

「わかってる!」


 全身を蝕む冷気から解放さたれ康太が炎属性粒子を振り撒き、彼らの周囲だけが温暖な環境に変化する。


「デハ攻めマしょう」


 それと同時にパペットマスターが右手を僅かに動かすと空を舞う『禍鳥』の一体が雷を纏い急降下。


「当たれ!」


 再び発せられる赤い光が空を舞う怪鳥に襲い掛かるが、怪鳥は急降下していたかと思えば向きを変え、蒼野と優を中心に旋回を開始。注意深く彼らを観察し、その動向を人形師に伝えていた。


 三体ずつ召喚された人形たちの中で『禍鳥』が最後まで残った理由がこの空中での機動力だ。

 あらゆるものを消滅させる赤い光ではあるのだが、その速度はパペットマスターならば十分に目で追えるものであり、何度も目にした今ならば自分自身が避けるのはもちろんの事、その神業をもってすれば機動力のある『禍鳥』を射程圏内から脱出させることも十分に可能であった。


「康太! 積!」


 それを抑えるのは五人の中でも遠距離戦に適した戦い方ができる康太と積だ。

 今は蒼野達の挑戦を受け入れ真っ向から戦いを繰り広げるパペットマスターだが、新たな人形を出す暇は与えないとしても『禍鳥』に乗って逃げる事くらいは可能だ。

 ゆえに此度の戦いにおいて最大の障害は間違いなくヒュンレイ・ノースパスの人形なのだが、『禍鳥』も一体とて残すことができないというのが彼らの総意だ。


「鉄鎖!」

「喰らってはじけろ!!」


 追尾性能を秘めた鉄の鎖と、目標とまっすぐに伸びて行く風の弾丸が、空を自由に舞う二体の『禍鳥』の動きを制限。


「頼んだ!」

「頼まれた!」


 二人が足止めをしている間に、ゼオスを先頭に蒼野と優の合計三人が通りすぎる。


「パペットマスター!」

「揺らし糸――――」


 一直線に進む蒼野達三人。その行く手を阻むようにパペットマスターの左手が動き出す。


「行進曲!」


 そうして放たれた攻撃は少々風変わりなものであり、地面の奥に沈んだかと思えば大量の根を生じさせ大地を揺らし、それが幾重にも繰り返されることで時間差で襲い掛かる波状攻撃へと変化した。


「原点!」

「ここはアタシが! 蒼野は下がってて!」


 襲い掛かる糸と巻きあげた大地を前に蒼野が赤い光を纏うが、彼の前に優が立ちふさがる。

 何度も見てきた事で彼らは気づいたのだが、蒼野が新たに得た力は圧倒的な破壊力を持っているのだが、連射性能は皆無と言ってよかった。

 ゆえに何度も発動しなければ切り抜けられない状況が来た場合、発動が間に合わず押しきられることがあると彼らは理解。

 同時に状況把握能力に関しては舌を巻くものをしなえているパペットマスターも、この弱点については既に知られているであろうと踏んでいた。


「水よ!」


 蒼野を背後に回らせ、ゼオスが能力で切り抜けたのを確認し、大量の水属性粒子を使い荒波を産み目前の脅威と衝突させ、絶え間なく続く土砂の波を相殺。彼らの進むべき道を切り開いた。


「行くぞ!」


 この戦いにおいて最も重要なのは、蒼野が手にしている切り札『原点回帰』の使うタイミングだ。

 蒼野が一度『原点回帰ゼロ・エンド』を使うのに必要な時間は約一秒。二発目を撃とうとした場合はエネルギーの補給に僅かに時間がかかるらしく三秒ほど時間がかかる。

 強力無比なこの能力の弱点はそのインターバル以外にもう一つあり、この能力に関しては蒼野や仲間達でも一切『小細工』ができなかった。

 速度は常に一定で、なおかつ波が広がるように放つことはできてもその動きを操作することはできず、一直線に進むことしかできない。康太の使う跳躍弾のように跳弾を狙った動きができないのはもちろんの事、他の技を用いた動きの変化も大半がその圧倒的な力に消されてしまう。


 その事実をパペットマスターを含む全員が知っている。


「サアサアさあサア! 演者よ。死に物狂いで踊りナサイ!」


 ゆえにパペットマスターは確信する。この戦いは持ちうる手札を巧妙に使い、相手の手の内を読みきった方が勝つと。



 そしてそれは――――――紛れもなく自分であると




ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


ラストアタック開始。

蒼野の作戦はうまくいくのか?


なお本編を見ていただいているとなんとなく分かると思うんですが、

優は主人公の横に立って心底楽しそうに笑うタイプの広いんです。

全部終わった後、渾身の力でハイタッチをし合う間柄という感じですね。


こういうタイプのヒロイン、大好きなんですよ


それではまた明日、ぜひご覧ください

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