第二幕 古賀蒼野と原点回帰 二頁目
ここまで続いた因縁を断ち切るべく、死力を尽くし動きだした蒼野とゼオス。
「――――クカカ!」
そんな中、二人の行く手を背に巨大な盾を甲羅に見立てた人形が立ちふさがる。
人形師・パペットマスターが切り札と謳う切り札、その最後の一体にして守りの要『鎧亀』だ。
「邪魔だぁぁぁぁ!」
それを前にしても、今の二人は止まらない。
紫紺の炎を纏った剣と、風を纏った剣が交差。立ちふさがる壁に真正面から衝突する。
「無駄DEATH!」
それを受けてもなお、唯一にして絶対の防御型の人形は退かない。それどころかその身には傷一つなく、盾の隙間から出て来た無数の銃口が二人の体を捉えた。
「追尾式か!」
雨の音に負けぬ勢いの発砲音と共に飛来した弾丸は、体を傾け難なく躱した蒼野達に追従し、完全に油断していた彼らの体を貫く――――――――
「馬鹿野郎! 油断してんじゃねぇよ!!」
その未来を古賀康太が否定する。
銃弾は発射された瞬間からそちらに視線を向けていた彼は、銃弾が不規則な起動で動きだしたのを確認すると、光属性を固めた銃弾を発射。
全属性最速、すなわち光の速さで目標地点まで到達した弾丸は、彼らの体に触れる直前だった銃弾を明後日の方角へと吹き飛ばした。
「…………触れたところでダメージにはならんぞ?」
「俺もゼオスも、風や炎で身を守れるからな」
「あのクソ陰険なパペットマスター相手にそれが通用すると思うか? 弾けるもんは全部弾いとけ」
「隙あり!」
「!」
パペットマスターが康太の合流に舌打ちすると、それに合わせるかのように優がパペットマスター本体へと攻撃。
すぐに気がついた彼は一歩後退しそれを難なく躱すが、
「まっタく…………面倒DEATHネェ!」
積が優と合流し五人が揃ったのを確認すると、人形師は虚空へと跳躍。
「これ逃げれるチャンスを逃しちゃったんじゃね?」
「ここまで来たらもう引き下がれないって奴でしょ。なら最後まで駆け抜けちゃいましょうよ!」
「『十怪』の一角を俺達が退ける、か。まあいつか武勇伝を執筆する際に役に立つか!」
真上から無数の糸の刃が降り注ぐ中、五人の戦士が決定打を与えるために駆けていく。
「作戦はさっきと同じだ。お前とゼオスが勝負を決めろ!」
「わかった!!」
「行きナサイ!」
防御型の人形とはいえ『鎧亀』にも最低限の装備は備えられている。
『鎧亀』は背中から無数の追尾弾を撃ち出しながら突進していき、先頭を走る蒼野へと狙いを定めた。
「頼んだ!」
「ええ!」
「任せろ!」
糸と人形の猛攻を躱した蒼野が後を任せ、優と積が突進してくる巨体に真正面から立ち向かう。
水の鎌と鉄の斧を掴んだ体が衝撃に耐えきれず大きく揺れるが、歯を食いしばり、足元を泥だらけにしながらも耐えきり、彼らはその結果に安堵し深く息を吐いた。
「甘…………」
「くねぇよクソ野郎! いつまでも調子乗んな!」
その姿を見てなおも嘲笑う人形師。彼は糸を繰り『鎧亀』の性能を更に発揮させようとするのだが、そんな彼の思惑を打ち砕くように、炎の弾丸が『鎧亀』に張り付いていた糸を正確に撃ち抜いた。
「古賀康太貴様!」
「終わりだ!」
「!」
その光景に憤慨の言葉を吐きだすパペットマスターだが、彼が予想するよりも遥かに速く、命を削り続ける蒼野が接近し、膨大な量の風を纏った刃を彼へと向ける。
「クカカカカ!」
最速にして最大規模の攻撃が幾度と放たれ、人形師の体に襲い掛かる。
しかしそれらは容易く躱され、返す刀で撃ちだされた無数の斬撃は、蒼野と途中から参加したゼオスの動きを見透かしたように彼らの体を切り刻む。
「こ、なクソ!」
なおも無理矢理前へ進もうと足掻く蒼野とゼオス。
「…………」
「え?」
「………………なに?」
そんな中、突如彼らへと向かってくる攻撃の勢いが落ちた。
「おいおい。一体どういう事だ?」
「んな事アタシに聞くな」
突然の出来事に戸惑ったのは二人だけではなく背後にいた優達三人も同じであり、人形師へと視線を向けるのだが、彼らの視線に晒された彼に変化はなく、まるで銅像のようにピタリと動きを止めていた。
「良く分からねぇが」
「…………勝機を逃すほど愚かではない」
そんな最大の勝機を前に二人は足を動かし前に出て、
「――――良イ物語ニ必要なもの。それハ苦難を超エタ時に得る高揚感DEATH」
「っ!」
決死の一撃があと一歩で届くという距離にまで近づいたところで、二人が首元に違和感を感じ飛び退く。
「…………ちっ」
勝負を決めれなかった――
その事実に落胆を感じながらも蒼野は自分達がなお有利だとパペットマスターに訴えかけるが、その顔には幾度となく見た悪意に満ちた笑顔が浮かんでいた。
「オヤ、妙に勝気な表情DEATHネ?」
「俺たちが今破壊したのはお前が主戦力として扱ううちの三体だ。そりゃ強気な表情だってするさ!」
その笑みに大して強気な表情と言葉を返す蒼野。
「なぁんだ。ソンナ事DEATHか。その点にツイテはご心配ニハ及びマせん」
するとパペットマスターは勢いよく地面を踏み、蒼野達が抵抗する暇もなく十数個の木の棺が出現。
すぐにそれを破壊しようと動きだす蒼野であったが、再び無数の糸による斬撃が襲い掛かると、足を止めるしかなかった。
「………………嘘だろ」
「御覧ノとおり、切り札トしていた四機ノストックならば腐るほど持っていマス。一体ズツスクラップになったところデ、痛くも痒くモあリマせん」
そうして子供たちの目に飛びこんできたのは、命を削ることでやっと倒せた人形たちの無数のスペアだ。これだけの数がいるのならば、確かに一体ずつ減った程度は勘定に入れる必要がないと彼らは理解し、全身をこれまでにない疲労感と絶望が襲い掛かった。
「ツイデに説明しておきますト、先程マデ程度の戦闘ナラバ、四体合わせテ指一本デ賄えマス。私ト君たちトノ格の差……ワカッテいただケましたカ?」
「っ」
なおも続けられる言葉を前に、思わず膝から崩れ落ちそうになる蒼野。
しかし目の前の相手に対するマグマのような熱を持った感情がそれを寸でのところで食い止め、闘志むき出しの視線で、目の前の相手を睨みつけた。
「まあコト今回に限っては、そう気にシナくていい事DEATHガね」
「え?」
それほどの絶望を出しておきながらもパペットマスターはそれらに糸を通すような事はせず、さして気にするなとばかりに彼らに告げる。
子供たちからすれば、それは何よりも恐ろしい事態でった。
「此度君達ガ相手をするノはこんなありキタリな人形デハありまセン。私ガ新しく作りだしタ、新次元の人形DEATH!」
理由は簡単だ。絶対に勝つと言いきれる布陣を捨ててさえ優先する事態がある。
そんなものが彼らにとって良い物であるわけがないと、考えるまでもなく分かるのだ。
「康太! 積! 優!」
どしゃ降りの雨の中、離れた位置にいる仲間達に対し声をあげながら駆ける蒼野。
それに合わせるようにゼオスも距離を詰めるべく走りだすが、鉄さえ容易く斬り裂く糸が幾重にも重なりながら襲い掛かり、蒼野とゼオスの二人だけでなく全員の行く手を阻み、
「クカカカカ!」
「くそっ」
抵抗空しく、新たに三つの木の棺が地面から飛び出て来た。
「サア本日の演劇の大一番DEATH!」
「演劇? その言い方からすると観客が入るみたいに聞こえるぞ?」
「もちろんDEATH。私ガ描いタ台本を前に様々なリアクションを取る者達……君たちが此度ノ観客DEATH」
見る者を怯ませる凄惨な笑みを浮かべ、蒼野の言葉に余裕の言葉を返すパペットマスター。
すると新たに現れた三つの棺は真っ白な煙を吐きだし、その奥に控えている姿を晒した。
「「!」」
その中身を前に、蒼野達五人は一人残らず瞬時に驚愕の表情を浮かべ、それから少しの間様々な表情を見せた。
積はというとその光景を前にして夢でも見ているのかと疑っているかのような表情を見せ、ゼオスは信じられないものを見たという様子でパペットマスターを凝視した。
康太と優はといえば二人以上に驚いた様子で、その顔には怒りを孕んだ表情を張りつけ、自身の得物を強く握りしめた。
「パペットマスター……お前………………」
「クカカカカ。感動の再会…………という奴DEATH」
それら四人の表情を見ては満足げに頷いていたパペットマスターが最後の一人である蒼野の表情を見た瞬間、彼は心底楽しげに口を開いた。
蒼野達五人の前に現れた三体の人形。その姿を彼らは知っている。
浅黒い肌に柄の悪そうな目つきをした巨体の男。
筋骨隆々の肉体に、光を反射する禿げ頭をした上半身裸の老練の男性。
そして一年前、自分たちが強くなると誓った出来事。
自分たちでは助けられなかった銀の長髪に袖がだぶだぶな浅葱色の民族衣装を纏った理知的な顔の男性。
「お前は…………お前は!!!」
セブンスター第六位オーバー
エグオニオン総司令ボルト・デイン
そして元十怪にしてギルド『ウォーグレン』元副隊長ヒュンレイ・ノースパス
決して忘れる事ができない三人の姿が、そこには存在していた。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司でございます。
今回の話における中間地点。絶対に外すことのできない話への導入部分です。
あれこれすることなく勢いで駆けてみたのですが、皆さまからすればいかがでしょうか?
感想があるとわかりやすいのでありがたいです。
次回は現れた彼らに関して詳しく話せればと思います。
ぜひ見ていただければと思います
それではまた明日、ぜひご覧ください




