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序幕 紅の地平線


「こうして勇者は悪い悪い魔法使いを退治し、町に平和を取り戻しましたと、さ」

「わあすごいすごい! おじいちゃんありがとう!」

「フフ、お前が喜んでくれてうれしいよ」


 それは今よりいくらか過去の、とある男の記憶の一幕。

 暖かな木漏れ日が公園にある切り株に座る彼の体を覆い、その暖かさと目の前に座る小さな少年の拍手に彼の頬は自然と緩む。


「おじいちゃんはすごいね! 人形劇もできるしお話作りもできるし、風船で動物だって作れちゃう! まるでお話の中に出てくる何でもできる魔法使いだ!」


 木漏れ日を浴びているのは彼だけではなく、元気よく笑う少年もであり、その笑顔は少年の深層心理を鮮明に表していた。


「ハッハッハ。何でもできると言ってくれるのはうれしいが、魔法使いさんは勘弁してほしいな。それだと私は、いつか退治されてしまうからね」

「あ、そっかぁ!」


 愉快そうに彼が笑うと少年も笑い、それからしばらくしてやってきた子供たちが、切り株の上に座る彼を見て顔を輝かせながら近くに寄ってくる。


「お話のおじさんだ!」

「おじさんだ!」

「おーおー。お友達も揃ったようだね。じゃあ今から、とっておきの一本を始めようかな」

「「わーい!」」


 その姿を確認すると彼は嬉しそうにそう語り、雑草生い茂る大地に置いていたアタッシュケースの中身を広げ、自身の身長よりも大きな人形をいくらか取りだす。


「さあさあ皆さまご観覧あれ! 此度の演劇のタイトルは聖者の行進! 心優しき青年の、心温まる物語です!」


 そしてそれらに自身の指から出した糸を通すと、人形は生きた人間と遜色ない動きを見せ始め、すると子供たちだけでなく大人まで集まり始め、彼が繰り広げる人形劇に目を奪われた。


「おじさんまたねー!」

「ああ、またおいで」


 それから数時間、夕日が空を赤く染めるまで老人は話を続け、十八時を告げる音楽が鳴ったところで話を終え、多くの観客が手を振りながら彼の前から去って行った。


「おじいちゃん、今日もすごかったよ!」

「はっはっは。ありがとう。お前にそう言われることが、私に何よりもうれしいよ」


 そうして最後に残ったのは彼と孫の二人であり、ベンチの上に重ねておいたいくつもの絵本を片付け、自身にもたれかかった人形を箱にしまい始めた。


「そういえば…………お前はどの話が一番好きなんだい?」


 人形全てを箱に戻し、帰り支度を済ませた彼が重い腰を挙げたところで、彼はふと気になったことを尋ねてみる。


「うん! 僕はみんなが来る前におじいちゃんが話してくれた、勇者と魔法使いのお話が好き!」

「ほう? それはどうして?」


 勢いよく手を挙げ答える孫に彼がニコニコと笑いながら尋ねると、少年は満面の笑顔を見せた。


「だって勇者様がかっこよかったんだもん! 僕も将来は! あんなかっこいいヒーローになるんだ!」

「そうか……そうかそうか」

「おじいちゃん? どうしたの?」


 しかしその答えに対し老人は困ったように笑い孫の姿を見つめると、少年は何かを察し疑問を口にした。


「うん。おじいちゃんはね、できればお前には勇者になってほしくないんだ」

「どうして?」


 しみじみと、悲しさや寂しさが混じった声で叔父がそう口にすると、少年は首を傾げ彼に聞き返した。


「…………うん。そうだね。良い機会だし勇者様の物語の…………終わった後の話をしようか」

「後の話?」


 そう言って再びベンチに腰かけた老人が指先を巧みに動かすと、懐から掌に収まるサイズの小さな人形が飛びだし、たった一人の愛おしい観客のために、僅かな時間ではあるが人形劇が開かれた。




「どうかな。難しかったかな?」

「ううん…………よく分からないや」


 話が終わった時、時刻は十八時半を過ぎていた。

 夕日は既に沈みきり、電灯と月が闇夜を照らし始め、幼い少年は彼の話の意味が分からず顔を曇らせていた。


「おーい、帰ってくるのが遅いから迎えに来たぞー!」


 語り手からすればその顔すら愛おしいもので、慈愛に満ちた視線で何も口にせずにじっと見守っていると、公園の入口から見知った顔の人物が手を振るのが見え手を振り返す。

 それから目の前にいた少年を先にやって来た者の元へ行かせ、出した人形を片付け始めていると、不意に人形を落としてしまいそれを拾う。


「?」


 すると闇に覆われていたはずの空が真っ赤に変化し、自らの背中からは木漏れ日のような優しさを感じる温かさではない、身を焦がすような熱を感じる。


「あ、ああ……ああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 その感覚が心底嫌で、急いで振り向いた彼がそれを見た瞬間、


「ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 涙が溢れた。喉が張り裂けるほどの勢いで叫んだ。



 そして――――それ以上の感想を思い浮かべるよりも早く、彼はその光景から弾き飛ばされた。


ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


という事で新しい物語が開始。

先に言っておくと、単品で見た場合これまででもかなり長い話になると思いますのでよろしくお願いします。


本日の話は短め。

ちょうどいい区切りがここだったので。


それではまた明日、ぜひご覧ください


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