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演者は舞台より星を見る 二頁目


 光を通さぬ暗闇の中、鉄板の上を歩くかのような足音が周囲に響く。


「パペットマスターDEATH」


 音の主は目の前に立ちふさがるものを確認すると自身の名を告げ、目の前にあった赤い豆粒はそれに応答するかのように幾度か点滅。


『指紋承認。声帯承認。肉体を構成している粒子の配合率――――承認』


 人形師の声に反応し、合成の電子音が言葉を発する。

 すると三つの項目から彼の存在を本物であると確信を得た機械仕掛けの扉は、蒸気を上げるかのような音を発しながら真上へと上がって行く。


「遅れテ申し訳ありまセン。少々手を離せない状況デあったものデシて」


 彼の視界が足元から発せられる黄緑色の光に包まれ、部屋の内部にいる存在達の姿が映しだされる。

 そこにいるは錚々たる顔ぶれ。


「手を離せず時間に遅れる、か。ハッ! テメェら下等種族の数少ない美点を潰しやがって。お前もう生きる意味がねぇんじゃねぇか?」


 パペットマスターから見て真正面に座っているのは黄金の王ミレニアム。そんな彼の左隣に座るは獣人族の王にして亜人最強格――――すなわちギルド最高戦力の一人ウルフェン。

 彼は頬杖をかいたまま、不遜な物言いで人形師を煽る。


「そう煽るなウルフェン殿。最後には戦い合う事になるとしても今は同士だ。仲良くやって行こうじゃないか!」

「気が抜ける事を口にしやがって。決めたぞ。神教と賢教をぶっ潰したら、まずはテメェを殺す。覚悟しておけよ下等種族が」

「ハッハッハッハッ! 最強の獣人である貴方にそこまで評価してもらえるとは! 一人間として誇りに思うよ!」

「チッ!」


 そんな彼の殺意を受けてなお笑う、ウルフェンとパペットマスターに挟まれている人物は。こと単純な戦闘力ならば『十怪』最強クラスと言われている双剣の剣士ソードマンだ。

 一仕事終えた様子の彼は灰色の服のところどころに切り傷を受けており、ミレニアムと同様に腕を組み、心底楽しそうに笑っていた。


「んな事はどうでもいいんだよ! 重要なのは次にどこを攻めるかだ! おじさんとしてはだな、やっぱ人をぶっ殺しまくれる場所に送ってほしいなぁ…………いや逆に! 平和ボケしてる奴の眉間をぶち抜くのも楽しそうだな! そう言う奴の死に様は面白くってなぁ!!」


 そんな様子のソードマンとは逆側、パペットマスターの左隣に座っているのはエクスディン=コルだ。

 彼は自身の上半身を目の前にある円卓に預けながら、時に気だるげ、時に興奮した様子でそう口にして、細く鋭い切れ味の鋭い目を更に細くし、期待を込めた物言いで黄金の王を凝視した。


「下らない」

「あ?」

「君の意見も、今後の動きも、何もかもが下らない」

「ほう、言うじゃねぇの。そりゃ俺に喧嘩を売ってんのか。お?」

「そんな事よりもだ。重要なのは僕が以前告げた内容だ。ミレニアム、あの件についての返事はどうなった?」

「おいコラ! 無視すんなこの野郎!」


 最後の一人、ミレニアムとエクスディン=コルに挟まれる形で存在するのは、ソードマンに並び『十怪』最強クラスの実力を持つと言われているギャン・ガイアだ。

 彼はこの話し合い事態にさほど関心を持っていない様子を周囲に示し、自身が気になっている話題の事に関してだけ意識を傾けていた。


「フム。本題に入る前に貴様の問いにだけは答えておこう。件の二人に関しては、貴様の指揮下に置いてもよい」

「望み通りの答えをありがとう」


 ミレニアムが返事を行うと彼は体を持ちあげ、感謝の言葉を口にする一瞬だけ生気を感じられる声を発する。しかし再び座っている椅子にその身を沈めると、それまでと全く同じ、周囲には関心一つ抱いていない様子を周囲に晒した。


「では本題に移る。まずは貴様らに感謝の言葉を。

 本日の成果をもって、我々は第二フェーズへ移行するまでの準備を終えるに至った」


 一人一人が万夫不当の兵士を鏖殺し、なおも余裕を感じさせるウルアーデ最大級の人災。

 そんな彼ら全てを纏める黄金の王は、荘厳な物言いで、戦いが新たな段階に進むことを宣言した。




 黄金の王の言葉に対する反応は様々だ。

 ある者は今後の展開に期待を込めて鼻息を荒くし、

 ある者は興味一つ湧かぬ様子で失笑を返した。

 またある者は無表情を貫き、言葉を発した男の更なる言葉を待ち続けた。


「第二フェーズに関しては依然話した通りだ。同志を募る作業は他の者に任せ、我々は邪魔者の排除に専念する事とする」

「いいねぇ! いいねぇ! で、その邪魔者ってのは誰なんだい旦那?」

「そう逸るな。今貴様らの前に表示する」


 ミレニアムが自身らが囲む円卓を弄り、自身を含めた六人の前に青い液晶画面を表示する。

 そこには番号と所属、アルファベットと名前が書かれおり、液晶画面をタッチすると下へと移動していった。


「選定の基準は?」

「単純な実力だけでなく備えている能力にも重点を置いた。能力者の類の選定基準は、最終段階に移行する際、障害となるかどうかだ。数は百と少々。今回は誰が誰を仕留めるかの分担作業が主な議題だ」

「俺としてはできるだけ歯ごたえのある奴がいいな」

「おじさんはあれだな。いい鳴き声をあげる奴がいいな!」


 ミレニアムの発言に対し一部の者が興奮の声を上げる中、作業が始まる。


「アイビス・フォーカスは無論我が仕留める。だが時と状況を見てのため、此度の会議では除外する」

「李凱。セブンスター第五位、か。この男は俺が狩っても構わないかな?」

「ノア・ロマネは曲者だ。単純な強さ以上に、神器の能力が厄介だ。万全を期し、確実に仕留めたい。と来れば」

「この俺が適任ってか。いいだろう。仲良し子良しと手を組んでる間は、おとなしくお前の指示に従ってやるよ」


 リストの順番は神教・賢教・貴族衆・ギルドと区分けされ、各勢力の階級順に並んでおり、強い者はS、最低ランクはCで分けられていた。


「おいギャン・ガイア。おたくは全く働かねぇつもりかい?」

「僕も『境界なき軍勢』に所属する身だ。言われれば働く。とはいえ選りすぐりするつもりはないから、適当に決めておくれ」

「ふむ。了承した」


 作業分担は滞りなく進んでいき、


「ではギルドの長エルドラ。こ奴は我が」

「そいつをやるのは俺様だ。異論は挟むなよミレニアム。ここで死ぬか?」

「ふん、同郷の情か。よかろう。竜人王の抹殺、見事果たして見せよ獣の王」

「俺様に指図するな!」


 時折衝突はするものの、終点へと向け進んでいく。


「…………ミレニアム、彼らハ」


 のだが、液晶画面の終盤に映った名前を前に、パペットマスターが待ったをかける。


「そ奴らは手にしている能力の厄介さからリストに入れた。我としても期待の星ゆえ外したいところであったが、目的成就の障害となるならば仕方があるまい」

「…………そうDEATHか」


 彼の目に映るのは、二度にわたり遭遇した少年と仲間数人の名。

 自身を宿敵と定めているであろう幼き命。


「ほう! こいつらか! いいじゃねぇの! 旦那。実はこいつらとは多少なりとも縁があってな。こいつらの殺害は、おじさんが担当してもいいかい?」


 それを見た瞬間、彼はどうするべきかと頭を働かせるが、


「イイエ。この子達は、私が仕留めまショウ」


 下卑た笑いを浮かべる狂人の言葉を聞き、それに待ったをかける。


「実ハ私も彼らトハ縁がありマシて。譲ってくれマセンか『戦争犬』」

「いやいやいやいや! ここは口を挟むところじゃないっすよ旦那!」


 パペットマスターの物言いに対し、高いテンションで反論するエクスディン=コル。


「譲ってクダサイ」

「これまでもほら! 重要どころ以外は早いもの勝ちだったじゃねーの!」

「譲ってクダサイ」

「てことで今回はさ、おじさんに譲ってくれよ! お願いだからさ!」

「譲ってクダサイ」


 彼はそのための理論立てをするもパペットマスターは聞く耳を持たず同じ答えを返し続け、


「………………あ゛あ゛?」


 それを聞き続けたエクスディン=コルは、不快感に顔を歪ませ殺意を放った。


「おいおいおいおい! 何スカシた態度し続けてんだテメェ! これまで流れを見てさ、ここはおじさんに譲るべきってのがわからないのか!? えぇ!!?」

「可笑しな事ヲ言いますね。そのようなルールなど敷かレテいまセン。君ノ勘違イDEATH。もしも我々の間に法や規則がアルトするならば」

 

 それに対し人形師は涼しげな様子で答えを返すと掌に無数の糸を垂らし、


「それは抱えてイル未来の展望ダケでしょう」


 彼に対し殺意を返した。


「いいのかいミレニアム」

「ん?」

「このままじゃ死闘の末にどちらか死ぬよ」


 その挑戦に応じるように立ち上がるエクスディン=コルを眺め、さして興味のない様子は崩さず意見を返すギャン・ガイア。


「構わんよ。恐らくだがこの戦い、貴様の予期するような死闘にはならぬ」

「?」


 それに対しミレニアムはそう返答。


「死んで文句を言うなよクソ人形師!」


 彼らの前でエクスディン=コルはいくつもの武器を装備し、


「君ガ相手ならばちょうどイイ。君には新シイ人形の性能テストのモルモットになってモライマス」


 対するパペットマスターは三つの棺を召喚。


「て、テメェ!!」

「ほう。こいつは面白いもんを使うじゃねぇか」

「…………」


 その中身を前にしてエクスディン=コルは驚愕し、他の者達は今回の会議で最も興味と関心を抱いた目を向けた。




 観客は演者が繰り広げる舞台を眺め、演者は部隊の上で舞い続ける。

 彼らの関係は密接したもので、その間に挟まるものは何もない。


 だが彼らには決定的な違いがある。


 観客が舞台の上の演者を見ているのに対し、演者は目の前の観客を見ているとは限らないのだ。


「何を見ているんだい?」

「戦力の確認を。期限が刻々と迫っているので」


 ある者は果ての先にある景色を見続け、


「がんばれ蒼野。本当に………………頑張れよ!」


 ある者は宙の向こうに視線を向ける。


「いや良かったじゃないか! 二人を自身の部隊に所属できて!」

「触るな。僕は貴方の事が大嫌いだ」


 またある者は目前には意識を注がず、全く別の場所を意識している。


 全ての演者が自身の目的のため、あらゆる角度に視線を向ける。


「ミレニアム」


 無論、目前の目的に意識を注ぐ者も存在する。


「ん? なんだパペットマスター?」


 とはいえ観客はそのような事情など知るはずもなく、


「一ツ」


 目前で繰り広げられる舞台に意識を注ぐのだ。


「…………大切ナ話がありまス」


 最後まで部屋に残った黄金の王を前に、人形師が手にするはいくつかの紙の束。

 五人の子供たちに関する情報が纏められた資料である。


「ほう?」


 これより始まるは舞台の山場。

 終わりへと進む上で、決して避けられない中間点。



 古賀蒼野とその仲間達にとって――――――過去最大の危機が迫ろうとしていた。



「席を外してもらうか?」

「ええ。お願いシマす」

「という事だ。貴様は引け。是より先は不要である」

「チッ!」


 その内容を知ることなく、ただ一人の観客は舌打ちを一度するとその場を去った。




ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


という事で本日分は終了。

本来ならここまでを昨日の更新分で行う予定だったので、本当に申し訳ない。


本編に関して語ると、次回からは本編で語る通り大きな山場の一つです。

ついに動くパペットマスター。

これまで最大の脅威として、彼は子供たちに動きます。


そして本編の最後で語られたたった一人の観客。

彼こそは2章の主人公たる人物の一人。


その正体に関しては――――――またどこかで語りましょう!


それではまた明日、ぜひご覧ください!

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