演者は舞台より星を見る 一頁目
「良助! 里香! それに…………蒼野!?」
「お、重いよー。手伝って康太お兄ちゃん」
すぐ側にある四つ角の先から現れた二人の子供と、そんな二人に引きづられ現れた意識のない蒼野を目にして、古賀康太が慌てた様子で近づいて来る。
「お前達は…………大丈夫そうだな」
「うん! 優しいお兄さんと遊んでたの!」
「そ、そうか。よかった」
蒼野が意識を失っている様子を見て最初こそ戦闘があったのかと思った康太であったが、意識を失っている蒼野を確認してみると、彼は穏やかな寝息をたてており、傷一つない様子から戦闘はなかったと判断。
意識を失っている原因が疲労の類によるものだと判断し、胸を撫で下ろし安堵の息を吐きだした。
「それで、その優しいお兄さんってのは誰の事だ? 蒼野が眠ってるってことはここまでお前らを連れてきてくれた人はその人だろ。お礼をしなくちゃな」
となれば次に気になるのは子供たちが話に出している人物で、その人物について尋ねてみるのだが、質問に対し二人は首を左右に振った。
「ううん違うよ」
「違う? どういう事だ? ここまでお前らを運んでくれたのは別の人なのか?」
「そうだよ。私達と遊んでくれたのは魔法使いのお兄さん」
「魔法使いのお兄さん、ね」
魔法というフレーズが如何にも子供らしく苦笑する康太。
「で、僕たちをここにまで届けてくれたのは、恭介お兄さんだよ」
「そうか恭介さんか。恭介さん…………ってはぁ!? なんであの人の名前がそこで出るんだよ!?」
そんな彼は、しかし後に出て来た名前を聞きこれ以上ないというほど驚愕する。
その理由は彼がこのタイミングで現れると思ってもいなかった…………からではない。
「お前らあの人に会った事ないだろ!?」
そもそもの話として、土方恭介の名前を、彼らが知るはずもなかったからだ。
土方恭介という青年がジコンに居た期間は、蒼野や康太がまだ十にも満たない年齢の頃の話だ。
それはつまり良助と里香という五歳の二人がまだいなかった頃の話であり、それから先日遭遇するまで、蒼野と康太は何度も所在を掴もうとしたが失敗に終わっており、会う事ができなかったのだ。
そんな彼とこの二人が出会うタイミングなど、あるとは思えなかった。
「ううん。何度か会って、お話したことがあるよ」
「い、いつだ?」
涙を抑えている里香ではなく元気な良助の肩を掴み、弱弱しくではあるが前後に揺らす康太。
「うーん…………昔じゃないよ!」
「昔じゃない……最近か!?」
「さいきん?」
どのような言葉を口に出せば適切なのかわからない様子の子供たちに対し聞いてみる康太だが、告げられた言葉を耳にして子供たちは首を傾げる。
「ああ悪い。最近ってのはな、その…………十日位前までの間と考えてくれ! それまでに会ったか?」
「んーん。もうちょっと前に何度も会ったよ」
「そ、そうか。もうちょっと前に何度もか」
細かい日数まではわからなかった康太だが、少なくとも子供たちが恭介の名前を知っている理由は分かった。
「…………そういやここ最近は連絡も寄こしてなかったな。こりゃしくじった」
同時に自分がもう少し孤児院に電話していれば会う事ができた可能性を理解し、額に手を置きため息を吐いた。
「それは難しいかもしれないわお兄ちゃん」
「ん? なんでだ?」
そんな康太に対し落ち着いてきた様子の少女は小さく唸り、
「あ、そうだね。お兄ちゃんは言ってたもんね。蒼野お兄ちゃんと康太お兄ちゃんとは、あ……あ、あずらい?」
「あずらい…………合わせ辛い! 顔を合わせ辛いか!」
「「そう。それそれ!」」
「どういう……ことだ?」
二人の暗号染みた言葉を解読すると、康太は愕然とした。
以前ギルドで会った時の彼の態度に普段と違う点は内容に思えた。
とはいえまだ五歳の二人が嘘をついてるとはどうしても思えない。
あの人がオレと蒼野に会いたがらない? 何故だ?
疑問に対する答えはどれだけ考えても出てこない。
そんな康太の背後からはゼオスに連れられたシャンスが現れ、二人の小さな子供の姿を確認すると勢いよく抱きかかえ、遠くではシロバ・F・ファイザバードがリンプー・N・マクシームと顔を合わせ、何か問い詰めている。
それから時間を追うごとに彼の周りに人が集まり始め、答えを見つけられないまま事件は終わりを迎えた。
「うん。蒼野達は無事に合流したみたいだ…………いやしかし失敗した。すぐに忘れるだろうと思って、口を滑らせたな」
唖然とした康太を中心に集まる人々、を手にしている筒状の物体眺めながら、土方恭介がそうぼやく。
木々の間に隠れている彼の耳には小さなイヤホンが刺さっており、子供たちや康太の会話、シロバとリンプーの会話、そしてシャンスとゼオスの会話など、その場から送られてくるあらゆる音を拾っていた。
「まあ……会えないよなぁ」
事件は終わりを迎え、彼らの声には活気が戻ってきている。
だというのに彼は申し訳なさそうに笑い、ポケットから取り出した正方体の木箱をじっと眺めた。
「………………」
淡い光を放つ銀色の箱には柄も知れぬ魅力があり、それをじっと見つめる彼は目を細め自身が胸中に抱いた不安に、胸を締め付けられる。
「何事もなく進んでくれればいいんだが………………難しいだろうな」
そう語ると彼は再び康太達の様子を探り、縮小していく訓練室の姿を見て事態は終息を迎えた事を確信。
天を見上げ満天の星に思いを馳せ、その姿を消失させた。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
遅くなってしまい本当に申し訳ありません。書いていたデータが手違いで消えてしまったため、本日は短いです。
なので次回の話と合わせて一話だと思っていただければありがたいです。
内容の方はというと、土方恭介という人間に関して
一体どういう事なのかは、今後の様々な彼の行動でわかってもらえればと思います
次回で今回の物語は終了です
それではまた明日、ぜひご覧ください




