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ウルアーデ見聞録 少年少女、新世界日常記  作者: 宮田幸司
1章 ギルド『ウォーグレン』活動記録
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神器


「ゲームセット! 一対三で、勝者赤サイド!」


 十数分後、第4ゲームを終える電子音が部屋の中に響きわたり、摸擬戦が終わった事を告げる。

 それを聞き観覧席が地上に辿り着くよりも早く康太が地面に飛び降り、大の字で倒れている蒼野の元にまで走っていった。


「康太か」

「こっぴどくやられたな」

「ああ。完膚無きまでに叩きのめされたよ」


 奇跡的勝利から続いた第三、四戦目。

 その結果は一方的なものであった。

 というのも蒼野が秘密兵器として隠していた『希少能力』も、一度目にされてからはヒュンレイには全く通用せず、続く二戦はほとんど抵抗できず完全にヒュンレイに奪われた。


「ま、でも悪くなかったよ。なんていうのかな…………世界の広さを実感した感じだ!」


 最後の戦いはろくに抵抗できなかった蒼野だが、その口調は軽い。

 負けたからといってウジウジと気を落とす様子は一切なく、全てを出しきったのか満足したような表情を浮かべていた。


「そうかい。それなら、観覧席でオレの勝利を見守っておけ」


 能力を使い痛みをかき消した蒼野が入口真正面にある観覧席の方へと向かって行き、それを確認しヒュンレイも蒼野同様入口正面にある観覧席へと向かって歩き出す。

 そうして蒼野とヒュンレイが戦場から観覧席へと完全に移動したところで、古賀康太と尾羽優が向きあう。


「「じゃんけんポン!!」」

「勝った!」

「ちっ!」


 そして二人は最初のステージ権と初期位置設定権をじゃんけんをすると、勝利した優が天高く拳を掲げ、誇らしげにそう宣言。


「これで勝敗は決まったようなものね。アンタは遠距離型でアタシは近距離型、じゃんけんで勝った方が最初の戦いで有利な条件で戦えるから、総合的には3勝2敗で勝ち越せる。残念だったわね。まあ、アンタ有利の状況でもアタシは勝ち越せる自信があったんだけどね」

「ぬかせ。じゃんけんで勝った時の大げさな喜びようを見れば、それが嘘な事くらい一目でわかるぞ犬っころ」

「何とでもいえば。どっちにしろ、アンタはもう負けるしかないのよ!」


 そう口にした優が遮蔽物がない『草原フィールド』を選択し、二人の初期位置設定を近いところに変更。

 部屋は彼女の指示に従い変化し、戦闘服を着こんだ二人の両肩、両膝、そして頭部に赤と青のペイントボールが設置。

 犬猿の仲である両者は銃と鎌を構え、摸擬戦ゆえ相手を殺すことはないと理解しているからこそ殺意を相手に飛ばし、地面を強く踏む。


「「死ね!」」


 そして蒼野とヒュンレイが呆れかえるような声をあげながら、両者は衝突を始めた。




「そういえば気になってたんですが」

「どうかしましたか?」


 優と康太が『草原フィールド』で戦いを繰り広げる中、蒼野が持っていたスポーツドリンクをストローで吸い上げながら横にいたヒュンレイに気になっていた事を尋ねる。


「俺の能力『時間回帰』は触れた瞬間問答無用で発動する能力なんですよ。けど昨日ジコンで戦っていた相手は、なぜかそれを破壊したんです。その理由がわからないんですが、心当たりありませんかヒュンレイさん?」

「……むしろ私は、君の能力の方に強い関心を抱いているんですが、まあそれは後回しにするとして、その君の能力を破壊した相手というのは、何らかの武器を持っていましたか?」

「武器、ですか?」


 ヒュンレイの問いに対し、なぜそのような点を気にするのであろうかと首を傾げる蒼野。

 だが聞かれたからにはしっかりと答えたいと思った蒼野が自分の能力が破壊される瞬間の記憶を思い起こすと、謎の狂人は武器として鉤爪をつけていた事を思いだす。


「持っていました。確か靄を纏った鉤爪を装備していました」

「そうですか。であればそれは、『神器』の担い手であったのでしょう」

「『神器』?」


 聞いたこともない単語が現れ、疑問形で反芻する蒼野。

 それに対しヒュンレイはさして驚くことなく、一度だけ頷くと、続けて説明を行い始める。


「神器とは、あらゆる道具の到達点とも呼ばれる存在です。多くは武器や防具の形をとっており、戦闘能力と心の在り方がある点を超えた者が手に入れられると言われる特別な道具です。これらには必ず一つの能力とある特性が備わっているんです」

「ある特性?」

「ええ。それが、あらゆる能力を無効化するというものです」

「え!?」


 ヒュンレイの発言を聞き、蒼野の口から素直な感想が再び飛びだす。


「そ、そんな事言ったら、世界中の色々な能力が形無しじゃないですか! いやそれ以前に、そんなすごいものなら、もっと認知されているはずじゃありませんか」


 ヒュンレイの話す内容が本当だとしたら、それはまさに地上最強の道具である。

 そんなものがあるとは信じ切れず蒼野は反論するが、ヒュンレイは冷静沈着なまま、事情を説明する。


「君の疑問はごもっともです。しかし神器の担い手自体が神教では極少数ですし、神の座は基本的にこれを世間一般には公開しないようにしていますからね。実際に担い手に会うことも滅多にないため、神教で活動している限りは噂程度の存在でしかないんですよ」

「勝者、赤コーナー!」


 そうは言われても納得しきれない蒼野であるが、追求しようと口を開きかけたところで遺跡で行われていた戦いが終わり、勝利した優が飛び跳ね、康太が不機嫌な様子で腕を組んでいた。


「さて、一度下に降りましょうか」

「いえ。見ている感じですと、そんな暇はなさそうですよ」

「え?」


 蒼野とヒュンレイが戦った時と同じノリで、下に降りようと動きだしたヒュンレイであるが、そんな彼が見ている中康太が機械盤を操作し、5分のクールタイムを待つことなく、新たなステージ『遺跡フィールド』を選択し、第2戦の準備が整えられる。


「あら? 単細胞モンキーはもっとよく考えなくていいのかしら?」

「今のうちにキャンキャン吠えとけ駄犬が。ほえ面かかせてやるよ!」


 そうして開始の合図が鳴るのと同時に離れていた二人が接敵し、第2戦目が開始される。


「あいつら…………どれだけ相手が嫌いなんだよ」


 頭に手を置き苦笑する蒼野と戦いをじっと見つめるヒュンレイであるが、少ししたところで視線を外し、再び蒼野に視線を移した。


「神器についての説明の続きなのですがね、先程言った特徴に加えてもう一つ特徴がありました」

「え?」

「何といっても神器は固い。様々な検証をされた結果、観測できる範囲では宇宙上で最も固い物質としても知られています」

「そ、そうなんですか」

「ええ。隕石の衝突を受けても傷一つつかず、星の爆発を受けたとしても破壊することができないほどの硬度。これを破壊するだけで、偉業と称えられるほどの硬度です」

「能力を必ず一つ持っていて、全ての能力を無効化する道具。加えてその硬度は世界最高。なんというか、すっごくずるいですね」

「まあそうですね。とはいえ、本当に希少なものですし、敵として遭遇することも普通に生きている分にはまずないです。だから君の能力が強力なのは変わりありませんよ。まあしかし『三大禁忌』同様、遭遇した場合、決して戦わず逃げる事に専念しなければなりませんが」」


 蒼野をおだてながらも注意するよう促すヒュンレイ。

 それを受けた蒼野が何度も顔を変化させるが、顔がしっかりと引き締まったのと同時に二度目の電子音がフィールド内部に流れ、今度は青コーナーである康太が勝利した事を告げる。


「展開が早いですね」

「ええ。お互い、自分の有利な環境に持ちこんで速攻で勝負を決めにいっていますね」


 康太の優を見下す笑い声がフィールド全域に広がり、優が地団太を踏み続ける。

 それからすぐに優が操作盤をいじると、障害物の少ない『草原フィールド』を再度選択し戦いを始める構えを取る。


「ところでヒュンレイさんはもしかしてエルフの亜人だったりしますか?」

「おや、やはり分かりやすいものですか。おっしゃる通り、私はエルフです」


 亜人とは、一般的な人から外れた特徴を持つ人間の総称だ。

 動物の感性を備えた獣人を筆頭に、鳥の特徴や風属性に長ける鳥人や、水属性の扱いに長ける魚人などが一般的な種族だ。

 蒼野が尋ねヒュンレイが肯定したエルフは、基本的に何らかの粒子の扱いに長けており、不老長寿かつ容姿端麗な事が一般的とされる希少種族である。


「へぇーエルフって始めてみました」

「獣人と比べれば本当に数が少ないですからね。それはそうと三戦目が終わったようですよ」

「早いですね!」


 蒼野がその話題に華を咲かそうと考えたところで、三度目の電子音が聞こえ無傷の優が勝ち誇っているのが目に見える。

 それを受けた康太が殊更不快そうな表情を浮かべるが、すぐに機械盤を弄りステージを再び『遺跡フィールド』に変更し、第4戦の準備を始めた。


「先の2戦も早かったですが、3戦目は更に早かったようですね。数秒じゃなかったですか?」

「そうなんですけど……うーん、ちょっとおかしい感じがしますね」


 ペイントボールの一つも割られることなく勝利した優が意気高揚といった様子で4戦目に備える姿を確認すると、それほど短く終わった勝負を録画した動画で確認していた蒼野が腑に落ちないと口にする。


「何か問題でもあったのですか?」

「えっと、なんというか康太にしては呆気ないなという気がして。普段の康太ならこう……もっと粘り強いんですよ。いや優も十分強いのはわかるんですけどね」

「ほう」


 話を聞き、メガネの奥にあるヒュンレイの目が鋭いものに変化する。

 それからこれまでで最も長い戦いが続く四戦目にチラチラと視線を向けながらも、これまでの戦い全てを見直し、


「ああ。これ、このままだと4戦目5戦目と優が負けますね」


 彼は今後の展開を予期しそう口にした。



ご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


はい、まずはすいません。

前回の話で今回は康太VS優になると言いながらも、説明回となった今回です。

しかもこの物語の中でも超重要な要素となる武器についてです。


と、同時に以前の話であったカオスが蒼野の能力を無効化した件の説明でもあります。


ヒュンレイが作中でも説明した通り、中々出てこない武器ではあるのですが、分かりやすい強者の基準の一つですので、覚えていていただければ幸いです(なお、賢教勢は除く)。


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