革命狂騒劇 破
「ダメです! 止めきれません!」
「クソッ! まさかここまで数を揃えているとは!」
「撤退しますか!」
「いやダメだ! レイン殿の指示なく、持ち場を離れるな! 指示なく動きだせば、そこから崩れるぞ!」
悲鳴と発砲音それに爆発音が絶え間なく続く戦場に、声を枯らすのではないかと思うほどの大きさの声が響きわたる。
周りの音に負けない程の声をあげるのは隣同士で話し合っている老練の司令塔と若い青年で、真横にいる人物に話をするためだけにそれほどの声を上げるその姿は、この戦場の熾烈さを表していた。
「っ! りょ、了解しました! では私から全軍に指示を!?」
「き、貴様ぁ…………!?」
頭上を飛びかう危険な攻撃から身を守りながら、指示を受けた若い兵士が応答する。
彼はそのまま無線を繋ぎ他のものに指示を出そうと考えるのだが、無線を掴むはずの腕は腰に携えていた剣を掴み、手元を見ていなかった彼は意識せずそれを抜くと、自分の耳元へと持って行く事なく、目の前にいる味方の腹部に刺した。
「一体どういうつもりだ!!」
「え? あ、いや!?」
「き、緊急事態! 緊急事態! 前線に出ていた兵の一部が離反! 陣形が崩されました!」
「!」
思わぬ事態を前に剣を刺された老兵が頭に血を昇らせるのだが、彼が何かをしでかすよりも早く、周囲から異常事態を知らせる悲痛な叫びが連続で聞こえてくる。
すると司令官を務めていた老兵の視線がそちらに向き、その直後に若い兵士の腕が手にしていた剣を老兵の首に近づけ、一思いに振り抜く。
「この裏切者がぁ!」
が、効果はない。
地属性に秀でた老兵の司令官の分厚い首は、剣が内部に侵入するのを防ぎきり、目を見開く青年が何かをするよりも早く、彼の心臓を抜き取りその命を掴み取る。
「ご、ご無事ですか!?」
「ふん。いらぬ心配だ。支給品の剣が備えている刃程度で、この儂が死ぬものかよ!」
するとその様子を目にしていた兵士が彼の側に近寄り安否を確認。それに対し老兵が勝気な様子で返事をする。
「ぐぎゃ!?」
それでこの話は終わりのはずだ。
しかし次の瞬間には老兵が再びその剛腕を振り回し、自身の側に近寄った幾らかの兵士の命を奪い去った。
「!?」
その光景に誰よりも驚いたのは部下の命を奪い取った老人自身で、目を見開き、僅かな時間硬直。
「まずい!」
正気に戻った彼はこのような事態になった理由の答えにすぐさま辿り着いたのだが……意味がない。
「お、おおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
何かをしでかそうと動き出そうとした瞬間、彼の全身が自身の意思とは無関係に動き出し、自身の心臓に指の先で触れたかと思えば、体内へと続く肉を抉り――――自身の心臓を貫いた。
「!!!!」
口から血が溢れ、全身が痙攣する。
それでもなおも足掻こうと考え彼は動き出すのだが、
「しつこいDEATHネェ」
そんな彼の耳に、耳障りな声が聞こえてくる。
「さっさト死んデください」
その正体に気がつく頃には彼の意識は既になく、声の主にとって役に立つ人形が一つできていた。
「レイン様敗北! レイン様敗北! て、撤退! 撤退だ!」
「あっちはあっちで終ワッタようDEATHね」
そのまま戦況を混乱させるために人形を操ろうとする声の主であるが、その寸前に此度の戦いの終わりを告げる吉報を耳にする。
「ナラバ、後は残党狩りDEATHネェ」
指揮系統と隊長格が敗北し、全軍の撤退が始まる中、人形師が腕を鳴らす。
そうして放たれた糸は数多の命を奪い、無数にある彼の手足が更に多くの命を奪い、戦場が赤く彩られる。
これは、この世界の非日常
千年続いた治世に罅を入れる革命の業火
水面下の戦いが終わりを告げ、世界を狂わす意志が動き出す
「ああもう! このアタシがこんな森を通らなくちゃいけないなんて! 会ったら全力で文句言ってやる!」
太陽の光を遮る木々は生い茂る森の中に甲高い声が響く。
苛立ちを募らせていることが一瞬でわかる金切り声は密閉された籠の内部から響き、それを耳にすると籠を守っていた黒服にサングラスを着たボディーガードの男たちが動揺する。
「リンプー様落ち着いてください! 森の生物たち刺激してはなりません!」
「うっさい! これが黙っていられますか! アタシは虫が大っ嫌いなのよ! なのに何でこんな場所に来なくちゃいけないのよ!」
森に生息する自身の身長を遥かに超えたグロテスクな生物の数々を前に、籠の中からの声は徐々に大きさを増していき、
「そ、それはリンプー様が提案した作戦で、シャンス様にばれないためという話で」
「そんな事は分かっています! アタシが言いたいことは! そうせざる得ない状況にした姉さんに対する愚痴です! そのくらいの事くらいわかりなさいよ!」
それが臨界点に達した瞬間、金切り声は涙混じりの癇癪に変わり、黒服の一人がなだめようとすると、そのような事は聞いていないとでも言いたげな叫びが返される。
「も、もうしわけありません」
こうなってしまえばもはや何を言ったとしても無駄だ。
周囲の警備をする彼ら全員がそのことについては理解しており、彼女に対し行動を起こすのは諦め、周囲に意識を集中。
せめてこれ以上苛立ちを募らせることなく目的地に辿り着かなければという共通認識のため、周囲に対する警戒を強め、懐から真っ赤なハンドガンを取り出し、いつでも引き金を引けるように安全装置を解除。
「シキシキシキシキ!」
耳に障る声を張り上げながら近づいて来た一メートルを超える大きさの蝉を数撃ち落とし、彼女の身に決して危害は与えないことを証明する。
「ギャー!」
だというのに馬車の中から外を見守る彼女の声は止まらない。
「ご、ご安心ください! 例え相手がどのような昆虫であろうと、御身に危険は降り注ぎません!」
「そんな事は大前提です! 今アタシが叫んだのは別の理由です!」
一オクターブ高い悲鳴を聞きつけた面々が自分たちの成果を見せつけるように言うが、馬車の内部にいる彼らの主の声は一向に静まらない。
「で、では一体何が?」
「ま、窓に……窓に虫の黄緑色の血が付いてる…………き、気持ち悪っ!」
「リンプー様…………」
「なんでそこで呆れるのよ! 気持ち悪い虫が気持ち悪い色の血を流すのよ! こうもなるわよ!
うえぇ…………吐きそうになってきた。ああもう嫌! 耳栓つけて寝るから、目的の場所についたら起こして!」
その様子を見てなだめようとする男たちに対し彼女は言いたいことだけ言いきると、馬車に備えつけられた荷台のカーテンを閉め、僅かに荷台が揺れたかと思えば静かになる。
「…………リンプー様の調子はどうだ?」
「大丈夫。おやすみになられたよ」
「そうか。ならいい」
起きていれば仕事の疲れからヒステリックを起こす自らの主は、むしろ眠っていておいてくれたほうが都合がいい。
そうなった事に彼らは胸を撫で下ろし、これ以上の騒ぎを起こし目を覚まさせないため、油断なく銃を構えながら前に進み出す。
「あとどれくらいだろうな?」
「事前に集めた情報通りならもうあと一時間程だろう。なんにせよ、日暮れまでに辿り着けなきゃ危険が増す。余裕は十分にあるが、油断せずにとっとと進むぞ」
馬車を囲いながら男たちは歩き続け、結果として目的地に着いたのはそれから一時間と少ししてからの事であった。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
夜分遅くの更新で失礼します。
本日分の更新です。
もう日を跨いでしまっていますが、寝るまでは毎日更新の範疇だと勝手に思っているのでお許しを
とはいえ、中盤を告げる話で遅れてしまったのは本当に申し訳ありません。
筆者としましては、これからも面白い話を書けるよう頑張って行くので、
見ていただければ幸いです
深夜に長々と語るのもなんなので、本日はここまで。
ぜひ明日もご覧いただければと思います
それでは失礼いたします




