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竜虎遭遇 二頁目


その男が現れた瞬間、既に緊張状態であった空気が一段と張り詰めた。

それは目に見えない空気の変化だけにとどまらず、彼らのいる石造りの階段や壁一帯に伝播し、耳に響く嫌な音を周囲に反響させながら、それらの物体に亀裂を刻む。


 そのような影響が無機物有機物の差別なく現れるのだが、その中でも最も大きな影響があったのは、軍属でありながらもクライシス・デルエスクの警護を務めていた、甲冑に身を包んだ騎士たちだ。

 彼らはみな顔を青くしながら、直属の上司と派閥の上司のどちら側に付けばいいかわからず困惑していた。


「……諸君、これは見せものではないぞ。用事もないならば階段の途中で止まらず、自室に戻りたまえ」

「いえ、その……」

「それとも何かね? 君たちはここに居座る理由があると?」

「い、いえ! 失礼いたします!」


 が、シャロウズが一度強い気を放つと一度だけ大きく肩を揺らし、射貫くような視線で見つめられると強烈な尿意を催し、これ以上この場に留まり続けるのは色々な意味でまずいと考え、足早に下の階へと降りていった。


「それで、彼らが何だって?」


 そうして残ったのはアビスを含めた六人の少年少女に、賢教における最大の『個人』にして賢教第三位の地位に就く存在シャロウズ・フォンデュと、老齢の『教皇』のかわりに賢教を運営している枢機卿、賢教内第二位の地位に就くクライシス・デルエスクだ。


 彼らは正面から相手を捉え、繰り出す一手を模索し始めた。


「彼らは私に刃を向けた賊だ。その審判をここで下そうとしていた」


 最初に動いたのは、クライシス・デルエスクだ。

 頭一つ分程大きなシャロウズを見上げる彼の瞳に恐れはなく、毅然とした態度でそうはっきり言いきる。

 するとそれを聞いたシャロウズは首を左右に振り、


「何かの間違いだな。お前は先程まで、聴衆の前で一人で演説をしていただろう? 部下を引き連れた状態の今のお前に対しそんな事をするくらいなら、その時を狙ったほうが勝算は高い」

「確かにその通りだ。だが事実彼らは私に向けて獲物を構えかけていた。この事実は覆らない」


 至極当然と言う様子で、彼は宿敵に対しそう指摘。

 それを聞いたところでクライシス・デルエスクの余裕は崩れず、自身こそはこの場の全てを決める権利があると暗に伝える。


「………………いや覆るさ。そもそも彼らが得物を向ける相手は本当にお前だったのか?」

「何?」


 対するシャロウズも自身の地位や諸々の関係から、事態は彼らにとって不利な事を十分に理解しており、この状況を覆す打開案をすぐさま閃く、


「彼らは先程まで私の自宅に招待していてね。その際少し癇に障ることがあって彼らに敵意を振りまいたのだ。それを感じ取った彼らはここまで逃げた。だが上階から迫る私の気を感じ取り、すぐに対処しなければと武器に手を添えたのだ」

「…………証拠は?」

「二人に聞いてみればいい。君たちが武器に手を添えたのは何故だ? どこの誰の殺意や敵意に当てられたからだ?」

「……上階から見知った敵意を感じ取った」

「だからオレとこいつは、どうにかする必要があって武器に手を回しました」


 迷う事なく言いきる二人を前に、クライシス・デルエスクが舌打ちする。

 証拠のない、信用する二値しない被疑者の発言だ。詭弁といっても問題ない。


 しかしそもそも自分が言いだしたきっかけもこの男に詭弁と言われればそれで終わりであり、彼らが浴びた殺意が自分が飛ばしたとものいってしまえば、彼らの行動は正当防衛であると言い返される。


「なるほど。私の勘違いか。謝罪しよう」


 これ以上の言い争いは得策ではない


 そう考えた彼は素直に康太とゼオスに謝罪し、


「わかればいい。これ以上娘とその友人に突っかかるな」

「その心配は必要ない。少なくとも君の娘には突っかかるだけの価値がないからな」

「……………………………………………………デルエスク、貴様今何と言った?」


 とすれば、後は本題に入るのみだ。

 彼は議論の矛先を別の場所へと変え、それを聞くと少し間を置きシャロウズに火が点いた。


「君の娘には突っかかるだけの価値がないと言ったのだ。私が頼りにする人間は特定の価値がある人間だ。

 能力の扱いに秀でた者。優秀な頭脳を持つ者。そして主からの授かりものである神器を覚醒させたもの。

 君の娘はそのどれにも当てはまらない」

「我が娘には海より深い、万人に対する愛がある!」

「愛は不要だ。最後の最後に切っ先を止める原因でしかない。むしろそれは弱所だ」


 数分前、彼らのいる『賢者の栄華』の上階一帯を、比較対象がいないほど巨大な気が埋め尽くしたのをクライシス・デルエスクは感じ取った。

 その『気』は常日頃から疎ましかった人物の心の乱れであることを瞬時に察知した彼は、この好機を最大限利用できる手を瞬時に思いつき実行に移し今に至る。


「だからこそ、君の娘に対し私は価値を見出さない。そしてそんな者に構うほど、私は暇ではない」

「むん!」


 嘲笑を浮かべながら言いきるクライシス・デルエスクを前に、シャロウズが瞬時に神器である白金のランスを取り出し、持ち手で地面を小突く。

 すると彼らのいる『賢者の栄華』を巨大な揺れが襲い、光の柱が昇り黒雲を形成。

 黒雲は勢いよく渦巻くと雷霆を瞬時に作り、地響きと共に彼の怒りを伝えるかのような音を木霊させる。


「最後に一度だけ機会を与えてやろう――――その口から漏れた浅はかな発言を撤回しろデルエスク」


 世界最強と謳われる男が彼の思惑に見事に嵌り、怒髪天を衝く。

 最後に残った理性がランスを振りかぶるのだけは静止しているが、それでも声を発するだけで廊下や階段は瞬く間に崩壊し、城全体が軋む。


「ふむ」

「一度だけだ。ただ一言だけを口にする権利を与えてやる。貴様が口にする言葉はただ一つのはずだ。それをそのまま口にしろ」

「なるほど。確かに私が口にするべき言葉は一つだ」


 シャロウズの後ろにいる面々が緊張で顔を強張らせている。

 この状況で何をするべきかがわからず地面に根が生えたように動きを止めて金縛りにあっている。

 それらを一瞥したクライシス・デルエスクはしかし冷や汗一つかくことなく、彼を見下ろす白金の騎士を睨みつけ、


「口には気を付けろよシャロウズ。形式上だけとはいえ私はお前の上司だ。最低限の敬語は使え」


 挑発するかのような物言いでそう語る。


「塵一つ残ると思うな!」

「お、おいおいおいおい!?」

「雷霆の向こうのあれは何だ!?」


 その言葉を認識した瞬間シャロウズの怒りが臨界点を突破。手にしている白金のランスが強烈な光を纏い、対峙するデルエスクは懐に空いている左手を突っ込ませ中の物に手で触れる最中、子供たちは目にする。


 空を覆う雷霆が天へと繋がる穴を形作り、その向こう側に様々な輝きを放つ数多の星を従えた渦が現れている。

 それは、間違いなく彼らがこれまで見て来た中で最大規模の一撃であった。


「む!?」


 それを前にしてもクライシス・デルエスクは慌てた様子もなく動き出すのだが、自らに対し想定外の殺気が飛ばされ、発砲音が聞こえてきたのはその時であった。

 受たれると判断した彼は銃声の方角、すなわちシャロウズの背後に視線を向け、そこでシャロウズの影に隠れ強烈な殺意を目に宿し、銃を真上に向けている古賀康太の姿を確認。


 空砲か! 


 刹那の瞬間に状況を判断した彼は、真上に銃を向けたまま動かない少年を忌々しげに睨みつけ、


「『賢者の武器』よ……その真価をここに示せ!」

「しまっ!?」


 その一瞬が、彼の予定を大きく狂わせる。


「滅尽の光芒!」


 賢教最強の座が白金の槍を大きく振りかぶり、数多の星々が穴を通じ白と黒の極光へと変化。

 万象を破壊する果ての相克をその身に宿し、投擲と同時に主の敵に牙を向く。


 次の瞬間、彼らのいる場所から虚空へと、一筋の光が伸びて行った。


ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


賢教の二大権力者による大喧嘩回。

世界最強クラスとはいかなるものぞと、示す一話です。


今回繰り出した技の別名は『銀河撃ち』。

内容に関してはそのままの通りです。


本来の戦闘では溜めに僅かながら時間を使うためそうそう使えない技なのですが、

今回は戦闘ではなく話し合いで、弁明の時間を設けていたため彼は使いました。

まあ脅しで済まさず撃ちだすのは極めてまずいことなのですが、まあそこはご愛敬。


彼は他勢力に被害を出さず、身内のゴタゴタ程度ならば、いくらでも無理をしてもいいと思っているタイプの人間なのです


そんな無茶ぶりに対する対応。それについてはまた明日


それではまた次回、ぜひご閲覧ください





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