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黒海研究所 一頁目


「さてお前ら、今日は全員で海に行くぞ」

「へ?」

「海?」


 会議が行われた次の日、仕事があるはずの平日の朝に子供たちを集め、善がそう口にする。


「海っていう事は警備員みたいな仕事ですか? いやそれだけのために全員で動くことはないですよね?」

「ああ」

「じゃあなんだ? 怪獣騒ぎでもあったのか? それなら俺は後方支援に徹したいんだが」

「おめぇの後方支援はサボりと同義だろうが。却下だ却下。てかそもそも怪獣騒ぎでもねぇ」

「あらそうなの? じゃあどうして全員で海なの?」


 蒼野と積の言葉に返事を返す善に対し優が尋ね、それを聞き僅かに昂っていた感情を一度の咳で納め気を締め直す善。


「海に行く理由はいくらかあるが、まあ大雑把に言っちまうと…………休暇だと思ってもらっていい」

「…………」

「………………」


 その後そう伝えると子供たち一同は閉口し、


「ほんとですか!?」

「海! 水着美女! 海の家!」

「突然とはいえ有給は嬉しいな」


 蒼野と積、それに康太が喜びながら飛びあがり、優は何とも言えない表情を浮かべ、ゼオスだけがその喜びようを理解できない様子でサラダを頬張り続けていた。


「まあとはいえ他にも行先はあるんだけどな」

「他にも?」

「ああ。俺は別用でいけねぇんだが、お前らにはある研究所に行ってもらいたい」

「研究所? それに別用って?」


 矢継ぎ早に告げられる内容を聞き首を捻る蒼野。隣で食事をしていたゼオスも話題が変わると少々関心を抱いた様子で、視線を善へと向ける。


「別用ってのはヒュンレイからの遺言でな。まあお前らはそこまで気にする内容じゃねぇ」

「ヒュンレイさんの…………」


 その後告げられた内容を聞くと部屋全体の空気がどんよりとしたものへ変化。


「で、だ。お前らに頼みたいってのは以前アルからされてた依頼の品についてだ」

「ああ。あの鉱石の」

「そうだ」


 するとその変化を察した善が話を移し、優がそれに合いの手を入れる。


「研究所って言ってましたけど…………どこですか?」


 そうすれば好奇心につられた蒼野が話に乗っかり、普段通りの空気に戻って行った。


「おう。これまた珍しい場所でな。ラスタリアからすぐ近くにある『黒海研究所』だ」

「黒海?」

「研究所…………」

「黒海研究所…………かぁ~~~~」


 のだが、善が十分なためを作って発表した内容に対し康太と優は顔を歪め、蒼野に至っては顔を机にうずめ、全身から負のオーラを放ちだした。


「………………しくじったか」


 それを目にして、善は自分の選択ミスを認識した。




「ここが黒海研究所」

「あのおぞましい物体を研究している場所には思えねぇな」


 それから三十分後の午前九時半。蒼野達は善から教えてもらった位置情報とパスワードを入力し、目的地の目の前、草木がほとんど生えていない湿った大地に移動した。


「真っ白だな」

「そうね。あ、真っ白で思いだしたんだけど、この細長い塔を構成してる物質って、世界を二分する境界やラスタリアを囲う壁と同じだったりしないかしら? ほら、あれも真っ白だし」

「いやぁ、それはないだろ。『世界で最も固い障害』なんて呼ばれてる壁を、そんな無数に使う事はなぁ」

「いや。その予想は正しいよ」


 汚れ一つ見当たらない白亜の塔を見上げた優がそう口にして積が頭の後ろで手を組み笑いながらそう口にすると、彼らの真横から声が聞こえる。

 大半の者がテレビ越しとはいえ聞き覚えのある声を耳にして向き直ると、


「黒海研究所へようこそ。歓迎するよ」

「メ……」

「メヴィアス…………さん?」


 白衣に白手袋をつけ、右手に持ったリンゴを頬張る男性。三賢人の一人にしてその中でも最高の科学者、メヴィアス=ロウが、彼らに対し微笑みながらそう告げた。






ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


本日はキリがいいところで斬ってしまったので少々短め。

内容に関しては突如現れた休暇の予定説明回です。


なお、善は蒼野が凹んだ理由については一時間程してから気づくことになってます。


それはそうとこれまでの話の振り返りになるのですが、結構なキャラクターにはそれぞれのテーマや描きたい姿というものがあります。


オーバーなら油断してなお強敵としての壁、みたいな感じです


ボルト・デインに関してはそれをちょっと捻ったものでして、全力で挑んでくる強敵。

明確な目的を抱いた敵役、という側面です。


デリシャラボラス?

彼については、今語れる事は少ないですね


それではまた明日、ぜひご覧ください




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