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崩壊デュエット 二頁目


「おいおいおいおい、いきなり何事だ!?」


 ゲイル達のいる周辺が天井から降り注ぐ瓦礫の雨に襲われたのと同時刻、蒼野達がいる同階牢獄前でも同じ事が起こっていた。


「どうやら上の階が丸々落ちてきたらしい。原因は一体なんだ?」


 幸いにもボルト・デインの監視を行っていたゼオスを除き、残った四人はある程度近い位置に固まっていたためたいした被害は受けずに済み、なおかつ上から振ってきた人々を確認し、何が起きたのかもゲイル達よりは早く理解。


「多分……さっきの大きな揺れが原因だ」

「え?」


 周囲に転がっている機械の残骸に視線を移し、うめき声を上げている人々に近づいた蒼野が能力で時間を戻しながら、背後で様子を見守っていた康太や優にそう告げた。


「その威力が相当凄まじかったんだろうな。『剛龍』を撃ちだした砲台の破壊だけにとどまらず、その周囲一帯にまで深い傷を与えたんだと思う」

「それが本当だとしたらバカみたいな火力だぞ。鋼鉄の砲台に加えて建物の上階をまとめてぶっ壊してんだぞ」

「お姉さまは世界最強よ。それくらい出来て当然じゃないかしら?」

「………………」


 話を続ける優や積であるが、そんな彼らの耳に瓦礫の山が砕かれる音が聞こえる。

 半ば無意識に視線をそちらに映せば、真っ黒な服についた埃を払い落としながらゼオスがこちらにやってきており、軽くではあるがため息を吐きながら彼らの側にまでやってきていた。


「お前がため息とは珍しいな。どした?」

「…………しくじった」

「え? あ、ちょ、アンタもしかして!?」


 積が尋ねるとそう呟くゼオスであるが、それを聞き焦りを覚えた優が慌てた様子で走りだし、ゼオスが出てきた瓦礫の山の中へと飛びこんでいき、体内から出した水属性粒子を操り瓦礫を撤去。


「………………はぁ」

「…………かなりの瓦礫が降り注いできてな。奴の身まで守ることはできなかった」


 その末に優が目にしたのは上半身を巨大な瓦礫で押しつぶされたボルト・デインの姿で、周囲に飛散っている瓦礫にまで付着している血の量が彼の命が既に尽きていることを物語っていた。


「………………一応聞いておくけど、本人で間違いないのよね?」


 残された服装や肉体はまさに本人のもので、なおかつ体の損傷具合からしても間違いなく本人である。しかし頭部の確認ができない限り決して言いきることができないため優が確認を取ると、ゼオスは腕を組みながら口を開いた。


「……気後れしたが頭部の確認を行った。潰れてはいたが奴自身の頭部で間違いなかろう」

「え?」

「…………どうした?」

「いやえーと………………確認したのね?」

「…………しなければ確証が得られないだろう」


 頭部は他の部位と比べ眼球や脳など、崩れた場合見るも無残な形に変化する体のパーツが多い。

 それだけでなく多少でも原形を残している場合それがかえって気持ち悪く、腕や足が潰れているのを見慣れた人も、潰れた頭部の確認したくないと考える者は多い。


「そうね。ええそうね。それで本人だとは確認できたのね?」

「……ああ。ボルト・デイン本人で間違いなかろうよ」


 自身がそれをしなければならないと思っていた重圧から解放された優が胸を撫で下ろし、咳払い一つしながら確認。

 淀みなく返された答えを聞きそれ以上の追及はせずに話を終え、


「……問題はここをどう突破するかだ」


 そう言いながら二人が周囲に意識を向けると、あらゆる方向から視線が向けられている。

 それらを向けてくるのが頭上から振ってきた敵の残党であることはすぐに理解できたが、その姿は確認できずなおかつ数が多い。


「そうね。ちょっと大変かも」


 これに対応するためには人数が足りないが、手持ちの小型転送装置はここに来るまでに全て使いきり、時間が来ているため『アトラー』に帰ったのも容易に想像できる。


 目的も達成できたので、これ以上無理はせず、隙を見てゼオスの能力で戦線から離脱する


 そう考えた優は離れた距離にいる蒼野に目くばせし、周囲の状況に神経を張りつめたままジリジリと近づいていく。


「殺意を引っ込めていただきたい。我々にはもはや戦意はない」

「「!」」


 そのような膠着状態が続き康太が蒼野と積の側にまで辿り着いた瞬間、優とゼオスの目の前に一人の男が現れる。

 すぐに剣と鎌を構える二人であるが、現れた男が両手をあげ微動だにせずこちらを凝視してくる姿を前にして武器を下ろす。


「こちらの要求に応えてくれてありがとう。私は管制塔の管理を行っているものだが、君たちに交渉をしたいと考えやってきました」

「交渉?」


 男が口にする内容を聞き、訝しげな表情をする康太。

 とはいえ彼の勘は命の危機を知らせておらず、下ろした銃を再びあげるような真似はしない。


「そうだ。総隊長殿が死んだ時点で我々に戦意はない。だから君たちをこれ以上追いかけることはせず逃がすことについては何ら問題ないのだが、その代わりに私たちの提案を受けて欲しい」

「…………内容によるな」

「感謝する」


 この場を無傷で離れられるとなれば彼らからすればこれ以上にない条件だ。

 リターンは十分にあると考えたゼオスが優や康太に視線を向けた上で前に出ると、五人を代表するようなう様子で口を開き、男は一礼をして感謝の言葉を口にした。


「提案というのは簡単です。この国を作り上げた英雄ボルト・デイン。彼の遺体を我々に譲っていただきたい」

「……なに?」

「なるほどね」


 提案の内容にゼオスは疑問の声をあげるがその横にいる優は違う。その提案は至極当然のものであると納得した。


 今回のように世界全土を巻き込むような戦いにおいて敵幹部や重要人物が死んだ場合、その死体は故郷に送られることがない事がほとんどだ。

 幹部に当たる位置づけの人物である場合、敵側の重要機密を握っている可能性が多々ある。

 それらの情報をできるだけ抜き取るために、検死を行ったり脳内の記憶を探ることが基本であるからだ。


 これらの行為をすることで、勝負が傾き一気に決まった例もあるためそれらを行う事は何ら不思議ではない。

 それに対して残された遺族が抗議することは多々ある事であり、この国の父であるボルト・デインの遺体ともなれば、回収したいという考えは当然と蒼野や康太も納得できた。


「いいわ。その提案はこちらからしても願ったりだわ」

「…………この場における基本が俺にはわからんのだがいいのか?」

「ええ。ただし一つだけ条件があります。あなた達に渡す前に、今この場で彼の全身を確認させてもらいます」


 とはいえ優からしても譲歩できない面というのはあり、右手の人差し指を上げてそう告げるのだが、彼らはその条件に意を唱える様子などは一切なく、目に見える範囲にいる面々全員が頷き、代表である人物は口を開けた。


「我々の目的は彼をこの地で眠らせることだ。その程度の提案ならば喜んで引き受けよう」


 彼らの答えは優の考え通りのものであり、それを聞いた優がゼオスを連れ死んだボルト・デインの側にまで歩み寄る。


「細かい検死はできないけど、懐のポケットやらに何かはいってないかくらいは確認できるわ。アタシは上半身を探るから、アンタは下半身周りをよろしく」

「……了解した」

「あ、股間部分に隠しておく奴もたまにいるから、そこの確認もきちんとお願いね」

「…………………………了解した」


 優の言葉に手が一瞬止まるゼオスであるがすぐに腕を動かし下半身のチェックを開始。

 数分後、二人は全身を確認したが何も奇妙なものはなく、脳に関しては潰れてしまったため記憶を読むことは諦めその場を離れた。


「ご協力感謝する」


 そう口にしながら敬礼する男を最後に確認し、五人はゼオスが開いた黒い渦の中へと飛びこんでいき、『エグオニオン』を後にした。



ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


是にて此度の戦いは終わり。

これから先は後日談の面が大きくなります。

同時に二章序盤の戦いはほぼ終了。

日常編を一つ挟み、中盤戦へと突入します。


ご感想や評価をいただければ幸いです


それではまた明日、ぜひご覧ください

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