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ウルアーデ見聞録 少年少女、新世界日常記  作者: 宮田幸司
1章 ギルド『ウォーグレン』活動記録
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古賀蒼野と古賀康太、ギルド『ウォーグレン』に行く 二頁目


戦場カメラマン


 自分たちが一時寝食を共にした土方恭介という人物に関してはこれまでのいくらか調べていた二人であったが、彼の本職についてはしっかりと掴めずにいた。

 ただ、いつぞや聞いた時に、世界中を回っていると本人も語っていた事から、よくよく考えてみればありえる話であると納得。


「腕はいいんですが神出鬼没でしてね。今もどこでやっているのか、分かったもんじゃないんですが」

「そうですか……残念です」


 あわよくば会うことができるのでは、そんな思惑が外れ落胆する蒼野と康太だが、新しい情報が手に入っただけ良しと考えた。


「ところで善、二人が来たからには幾つか必要な事があると思うのですが、どうするのですか?」

「そうだな。今日の予定は俺だけだったな。まあ、俺が帰ってからでもいいんだが、お前の方で手が空くのなら、優と一緒に頼んでいいか? 無理そうなら後で俺がやるが」

「わかりました。今日は書類仕事もそう大変ではありませんし、何とかしますよ」

「おう頼むぜ。んでごちそうさん。俺の方も……ちゃっちゃと仕事に行って、早い事終わらせてくるさ」


 テレビから流れる「『境界なき軍勢』の進軍」という情報を一瞬確認した善が、ヒュンレイに返事をして食事を終える。


「私も御馳走様です。優、私が書類仕事をしている間に、空いている部屋をあてがってあげてください。それと、簡単でいいのでキャラバン内の案内を」

「はーい。あ、二人ともまだ手ぶらなんですけど、一度ジコンに転送しますか?」

「そうですね。ですがジコンには転送装置がなかったですね。どうしましょうか」

「荷物については後で連絡を入れて送ってもらいますよ。だから先にキャラバン内の案内をしていただいていいですか?」

「そう言っていただけると助かります。では、そうしましょうか」


 体の言いことを言ってはいるが、実際のところが早く中の探索がしたいだけだろ


 そんな蒼野の本音を汲み取った康太が一早く自分たちが無事な事をジコンにいるシスターに伝え、それから数分後、優を先頭にしてキャラバン内の探索が始まった。




「さてと、キャラバン内の説明をするわけだけど、まずはアンタ達二人が過ごす個室を案内するわね」


 食事を終えた蒼野に康太、それに優が集まり、入ってきた入口とは逆側、彼らが過ごす宿舎へと繋がる扉を潜る。


「へぇー。結構色々な部屋があるみたいだな」


 廊下に出た蒼野達を待ち受けていたのは、一直線に伸びた木製の廊下だ。

 向かって左側には扉や窓の類は一切なく、最奥まで進むと一階から二階へと昇る階段が伸びていた。

 また、向かって右側にはいくつもの扉が設置されており、数えたところ合計六つの部屋が設置されていた。


「単純に私室やら宿泊施設以外の部屋をぶっこんだだけなんだけどね。まあ、そこらの説明は後にして、先に上に行くわよ」


 優に促されるまま上の階へと昇ると、同じように片側は一階同様部屋のない窓のみのスペースとなっており、対してもう一方には十個もの扉が設置されていた。


「二階は私室と宿泊施設が集まってるわ。で、アンタ達二人の部屋はっと」

「なぁ優。見た感じ風呂やトイレが見当たらないんだが」

「あぁそれは全ての部屋に設置してあるの」

「一部屋毎ってことか……地味にすごいな」

「そうなの? そこら辺についてはよくわからないわ。他のキャラバンの事情なんて知らないし。で、あーここ二つが一番いいかしら」


 そう言って彼女が扉を開けた先には十二畳程の洋室が広がっていた。


「文句があるなら別の部屋も考えるんだけど、どうかしら?」

「いや、文句なんてあるわけない。だってこの部屋、孤児院の部屋よりも大きいじゃないか」


 部屋は少々埃が積もってはいたが、綺麗に整えられた真っ白なシーツが置いてあるベットと机に椅子。加えて化粧台やタンスが揃っている、簡易的なホテルの一室のような部屋であった。


「で、トイレとお風呂はこの扉とこの扉。収納スペースはこことここね」

「お、おお」


 そう言って案内された先には、ホテルというよりは一般的な家庭のお風呂とトイレが設置されており、収納スペースは僅かだが空間を弄った形跡すら見て取れた。


「十あるうちの一部屋というにはかなり豪勢じゃねぇか。本当に、金持ちギルドなんだな」

「そうよ。結構な金持ちよ。というか、同じことを何度も言うのねアンタたち」

「まあ昔からあんまりお金とは縁がなかったからな。気に障ったならごめん」

「それで、これからどうするんだ?」

「どうするって……決まってるでしょ」


 康太の言葉に疑問を抱く優。

 それに対し優はすぐに答えを返すことなく部屋にある収納スペースに体をすっぽりと入れ、中から埃取りやバケツに雑巾。その他諸々の掃除用品を取りだした。


「掃除よそ・う・じ。まあ見たらわかると思うんだけど、この部屋ともう片方の部屋はあんまり使ってなくてね。先に掃除でもしようかなと思って」

「あ、掃除もいいんだが、よくよく考えたら俺達一睡もしてないんだよな。軽く掃除をしたら一休みさせてもらってもいいか?」


 蒼野が部屋に置いてあった丸時計が九時半を示しいるのを確認すると、三人の体に対し途端に疲れが体に重くのしかかる。

 同時に大きく伸びをしながら欠伸をする蒼野を見た優と康太。


「じゃあまあ、さっさと掃除を終えて一休みしましょ。正直、アタシも雨と汗のせいで体中べとべとなのよ。今すぐにでもシャワーを浴びたい気持ちよ」

「それなら優は先に休んでていいぞ」

「あら、そう?」

「そうしろそうしろ。俺も蒼野もお前なんかに自分の部屋をいじられたくねぇってんだ。お前はお前で、好きに過ごせ」

「またそんな棘のある言い方をする。あ、今のは翻訳するとだな、そう大した労力もかからないから、手伝いの必要はないって康太は言ってるんだ」


 康太の物言いに眉をしかめる優であったが、蒼野の説明を聞き険しい顔を少しだが和らげる。


「でもまあ康太の言う通りそう大した労力は必要じゃ無さそうだし、俺達二人だけで十分だよ。少し眠るとして……もう一度廊下に集まるのは二時間後くらいでいいか?」

「ええ。それでいいわ。じゃ、よろしくね」




「あら、ちょっと早くない。まだ五分前よ」


 三人が各々の部屋に戻ってから二時間後、約束よりも少し早い時間に三人は廊下で鉢合わせした。


「いや俺も康太も思ったよりも早く仕事が片付いちゃって」

「睡眠も思ったよりも必要じゃなかったしな。んで、シスターも最速で荷物を送ってくれてな。服やらなんやらももう届いたよ」

「あ、これから二人が世話になるからってシスターからギルドの人にって。シスターから。菓子折りとかに使う、秘蔵の品らしいぞ」

「あ、ありがとう」


 矢継ぎ早に告げられた内容を聞き、優が少々驚いた様子で二人を見る優。


「アンタたちずいぶん丈夫ね」


 彼女にとって意外であったのは言葉通り蒼野と康太の丈夫さだ。通常ならば二時間じっくり寝込んでいても回復しきれない程の疲労が、瞬く間に消えているその様子は、一般人の段階を超え、何度も戦場に身を置いた自分たちと同じ戦士のものだ。


「ま、何はともあれキャラバン内の探索再開ね。じゃあ一階に行きましょ」


 とはいえそれに驚いて時間を潰すのはもったいない。

 そう考えた優は気持ちを切り替え、二人を連れてを歩きながら1階に向かった。


「えーと、じゃあリビングに近い場所から順番に説明していきましょうか。まずはさっき使った洗面台ね。ここはみんな共有で使うわ」

「まあ……そりゃわかるよ」

「次に倉庫兼書庫。これまでの仕事の資料やら色々な道具が置いてあるわ。あとここは資料室的な面もあるから、その場で見るための映像装置も置いてあるわ」

「へぇ~かなりの量の資料だな」

「善さんやヒュンレイさんが元々手にしてた物をここに置いたらしいわ。まあ詳しいことは本人たちに聞いて」


 資料室に並んでいる記録を目にする康太だが、その多さに目を見張る。


「けど本当に色々な資料があるんだな。大きな戦いだけじゃなくて、些細な記録まで揃ってる」

「アタシが記憶を失った時のための対策用の物も多いのよ。ほら、アタシはいきなり忘れたらいけない事を忘れる可能性があるじゃない。まあその時のための対策よ」

「そうだったのか。なんか、悪い事を聞いたな。ごめん」

「気にしない気にしない! それより、次の部屋に移るわよ」


 康太が『十怪』と書かれたビデオテープに手を差し伸べているのを無視しながら、優が蒼野の手を引きそう告げ、隣の部屋の前で二度三度とノックをして返事を待った。


「入っていいですよ」


 少し待つと、低い声が聞こえ優が扉を開ける。


「ここは事務室ね。善さんとヒュンレイさんが総務の仕事をする際に使っている部屋よ」

「ええ。書庫に近いのでここを使わせてもらっているんです。特にこの部屋は私が使うので、私が一番使いやすいようにアレンジさせてもらっているんですよ」


 赤い絨毯が敷かれた木の床に、格調高い黒のデスクにそれに合わせ作られた専用の真っ黒な椅子。

 部屋にはリビング同様太陽の暖かな光が差し込んでおり、暖かな雰囲気が部屋を包みこんでいた。


「ん? あれはなんですか?」


 そのまま周囲を見渡していた蒼野であったが、彼の視線は用途不明の物を部屋の隅に見つける。

 それは縦横50センチ、高さ60センチほどの真っ黒な箱で、基本的にどこに何があるかがわかりやすくなっている事務室の中で唯一中身がわからないものであった。


「ああ、それは小型のワインセラーですよ」

「わ、ワインセラー!?」


 明るい声で返された返事を聞き、蒼野が裏返った声で反復するが、そんな蒼野の様子などさして気にした様子もなく、ヒュンレイは内部を顕わにする。


「私、ワインの収集が趣味でして。自室にも立派なワインセラーが置いてあるんですが、こうやっていつでも飲めるように事務室にも小型の物を置いてあるんですよ」

「いつでも飲めるようにって………………仕事の最中にってことッスか?」

「んなわけないでしょこの馬鹿猿が。ここで仕事を終えて、その後キッチンで晩酌するのよ。善さんと一緒にそういうことしてるのを見たことあるわ」


 康太の信じられないというような言葉に対し、優が痛烈な勢いで批判を飛ばす。

 その光景を笑いながら作業を続けていたヒュンレイであったが、ペンを置いたかと思えば立ち上がり、三人の方に顔を向けた。


「それはそれとして、私の方も作業を終えました。どうでしょう。部屋の案内もいいですが、先にもう一つの作業のほうから終わらせませんか?」

「あ! いいですね! 実はアタシもそれを楽しみにしてたんですよ」

「もう一つの作業?」

「ええ。じゃあアタシ先に行ってますね」


 挑発的な笑みを浮かべる優が、他の3人を置いて一早く部屋を出る。


「さあ、二人ともここから一個飛ばした部屋に向かいましょう。優はそこで待っています」


 ヒュンレイに言われるがまま、蒼野と康太の2人はヒュンレイについていき一つ部屋を飛ばした先、リビングから見て四つ目の部屋に足を運んだ。


ご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


さて、本格始動を初めてから2話目なのですが、先にご報告を。

恐らくこれから50話以内で凄惨な内容の話が待ってると思いますので、心の準備だけはお願いします。

といっても、ここら辺の話はいつもと変わらぬ話の連続なので、安心して下さいませ。


それでは、明日もよろしくお願いします。

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