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High voltage 一頁目


「これは……」

「お姉さま!」


 アイビス・フォーカスが管制塔一帯にプレッシャーを与えた事は、十三階で戦いを続けていた蒼野達にもしっかりと伝わりそれにより状況は一変する。


「アイビスさんが来てくれたなら安心だ。あ~助かった!」

「馬鹿言うな。アイビスさんが来たからってオレ達のやることは変わらねぇ。このクソジジイをぶちのめす!」

「えーアイビスさんが来るんだしもうラクしたっていいじゃねーか!」

「馬鹿言うな。こっちは四肢の腱まで斬られたんだ。ここで許す筋合いがねぇよ!」

「とはいえ、余裕ができたのはホントだけどな!」


それまで時間制限を前に状況の打開を考えていた蒼野達がアイビスの参戦で勢いづき、


「むぅ!」


 それとは逆に時間制限を見切り、勝負を進めていたボルト・デインの額に汗が滴る。


「トラップを仕掛ける!」

「わかった!」

「……承知した」


 これまでボルト・デインが優勢に進めていた最大の理由が消え、勝つための手段が限られていた蒼野達に無限の選択肢が現れる。

 無論善の懇願により彼女がこの場に乗り込んでくることはないのだが、事情を知らない彼らは勢いづき、康太に至っては獰猛な肉食獣のような笑みを浮かべている。


「トラップと聞いてそう簡単に動く理由はないのう!」


 それを目にしたボルト・デインはそう口にして、最前線で戦うゼオスと優が足を踏んだ場所にのみ足を付け移動するが、


「かかった!」


 二人が足を付けた場所を踏むと、風の刃が地面から現れボルト・デインの足を貫く。


「どういうことじゃ?」

「そこだ!」


 思わぬ事態を前に僅かにだが声をあげるボルト・デインであるが、雷属性が有する凄まじい機動力が失われた瞬間を狙わないほど康太は馬鹿ではない。

 銃身に複数の紋章を付与しながら、狙いを定め銃弾を撃ちだす。

 先程同様それを掴みにかかるボルト・デインであるが、紋章と風属性の力によって速度が倍々に加速した鋼の銃弾を捉えきることはできず、分厚い筋肉の鎧に突き刺さり、老兵を後退させる。


「行けるわ!」


 状況が好転した事に対し優が嬉々とした声をあげ、蒼野と積が弾幕を動きを束縛する中、ゼオスと共に再びボルト・デインを挟みこむ。


「それはもう見ておる!」

「だけどよ、その時は俺がいなかっただろ?」

「むぅ!」


 最前線に立ち優とゼオスの連携をあしらうボルト・デインだが、遠距離から絶え間なく打ち続けられる攻撃がボルト・デインの思考を奪い、


「あらよっと!」


 康太と蒼野の弾丸を躱し続けていた老兵の体に、積が撃ちだした鎖が撒きつき、ほんの一瞬だが彼の体ををその場に固定。


「はぁ!」

「おぉぉ!?」


 その一瞬を狙った優が拳に紋章を付けた状態で彼へと殴りかかり、真後ろからはゼオスが首を斬り落とす軌道で攻撃。


「ぬぅん!」

「え? わ! きゃ!?」

「…………ちっ!」


 迫る危機に意識を集中させていた老兵はそれらを両手で綺麗に掴み投げ飛ばすが、


「よっし! 一瞬俺から意識が外れた!」


 その一瞬、彼の情報処理能力が限界を迎えたのを見切った積が、持っている鉄斧で老兵の右太ももを深々と抉った。


「うっし! 練習通り!」

「原口積! 貴様『能ある鷹は爪を隠す』という奴だな!」

「はっはっは。何をおっしゃいますかボルト・デイン殿。たまたまだよ、たまたま!」


 形勢が徐々に傾き始め、ボルト・デインが追い詰められる。


「窮地か……これほどのものは久々だな!!」


 熟練の兵士百人すら凌駕する実力の少年が五人に一回には『超人』原口善。そして未だ遠くにいる事は理解してはいるが、世界最強の一角アイビス・フォーカスが迫ってきている。

 ここまで追い詰められたとなれば取るべき策も限られており、彼はそれを成しえるために腹を括る。


「さあて行くとするか! 足掻けよ坊主共!」


 ボルト・デインの咆哮にも似た声と共に管制塔全体が大きく揺れ、ボルト・デインの体が再び雷に包まれるのだが、その眩しさはこれまでの比ではない。


「……来るぞ!」

「まあそりゃそうだよな!」


 アイビス・フォーカスが来れば全てが終わる。それはこの場にいる全員が理解している。

 その事実に疑いようはなく、その前提がある限り『エグオニオン』の面々が取れる選択肢は、彼女が降臨するよりも早く侵入者を片付け逃げるしか方法はない。

 それゆえの限界越えの能力行使。

 数分後には動けなくなるだろうことは承知の上で、彼は全盛期を超える力を備え彼らの前に立ちふさがる。


「だが何度も言うけどな、オレたち舐めるなよクソジジイ!」


 一般論で言うのならば蒼野達は均衡状態を保ち続ければいい場面であるが、しかしこの状況で五人全員が前に出る。

 この依頼は自分たちの手で終わらせると決意する。


「はっはっは! 良いぞ! これこそが戦場の醍醐味よ!」


 通常ならばそれは下策と罵られる行為だ。

 背後にアイビス・フォーカスがいるのならば、任せたほうがいいに決まっている。

 しかしその勢いと熱意そして覚悟が、反射神経と身体能力を研ぎ澄ましたボルト・デインと戦うだけの力を与える。


「ぜぇい!」

「風刃・曲閃」

「鉛怪魁!」

「甘い!! その程度で儂を捉えられるものか!」


 だがそれだけの力を発揮しても、老兵が培ってきた知恵と勝負勘を乗り越えることはできない。


 康太の援護を得たゼオスの剣を容易く捌くと裏拳で吹き飛ばし、蒼野の放った曲がる不可視の斬撃を躱し積の撃ちだした触れた相手に重力の束縛を与える弾丸を飛び越え二人を蹴り飛ばす。


「片足抉れてるのによくやるわねホント!」

「なんの! この程度、怪我のうちにも入らんよ!」


 異様な機動力と反射神経を頼りに行われる攻撃の数々を前に舌打ちする優。


「五対一を巻き返すか!」


 その勢いは凄まじく、気が付けば勢いに乗った五人全員を再び追い詰める状況にまで戻していた。


「ワンチャンスだ、ワンチャンスが欲しい!」


 このまま戦ってもジリジリと追い詰められ負けるだけだ。

 既に彼らの行う攻撃のほとんどが見切られ、目前の老兵が限界を迎えるよりも早く自分たちが敗北する。


 そう彼らのうち数人が認識する。


 とはいえボルト・デインにも限界は迫っているのだろう。

 これまでに与えたダメージの蓄積や疲労から息が荒く、反射神経こそこれまでと変わりないが、速度に関しては徐々にだが落ちてきている。


 次に大きな一撃を当てた方が勝つ、それを全員が理解しているがその表情は真逆だ。


「礼を言うぞ坊主共! ここまで楽しめたのは久々だ!」


 ボルト・デインはといえば痛みや苦しさから脂汗を流しながらも、久々に感じる生と死が混ざる感覚を前に歓喜の笑みを浮かべており、


「クソッ、しつこいんだよクソジジイ」


 対する五人は未だ倒れる気配のない老人を前に苦悶の表情を浮かべている。


『みんな……相談だ』


 そうしてジワジワと追い詰められていく子供たちだが、康太救出に甚大な集中力と粒子を使い、最も疲労が濃い蒼野が四人に対し念話を飛ばす。


『なんだ』

『なに?』

『一瞬でも止めたら……ボルト・デインさんを倒せるか?』


 義兄弟からの通信を聞いた康太と五人の中で最も動きを見切れている優がそちらに意識を割き、返された返事を聞き康太の脳裏に警報が鳴り響く。


 一体何を考えているのかと問い正そうと康太が思うが、


「作戦会議に付き合うほどわしは甘くはないぞ!」


 それよりも早く、当たり前の理由でボルト・デインが動く。


「は、早!」


 その速さ――――まさに迅雷


 徐々に速度が遅くなってきていたのがこちらを油断させるための策だと気づいた時には時すでに遅く、唯一閃光による被害を受けていなかった積の虚を突き、その剛腕で彼の腹部を貫いた。



ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


更新が遅くなってしまい申し訳ありません。

本日分の投稿です。


話の内容はと言いますとボルト・デイン戦クライマックス。

両者ともに限界を迎えるまで暴れるのみです。


この小説の醍醐味(と自分は思ってる)である死闘ですので、楽しんでいただければ幸いです


それではまた明日、よろしければご覧ください

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