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移動要塞都市『エグオニオン』 二頁目


「爆雷槍」


 能力により元々の威力を遥かに上回り、持ち手の数倍の巨大さを誇る雷の槍が鍛え抜かれた腕により投擲される。


「四人とも後ろに! あたしが壁になる!」


 自分以外ではそれを防ぐ手立てがない事を理解した優が一早く前に出て水の壁を作り、まっすぐに飛んできた対象と衝突。

 部屋全体が眩い光に包まれ、子供たちが自分の目を手で隠す。


「やりおる! しかし…………ぬるい!」


 迷う事なく参加を決めた彼らではあるが、言うまでもなくこれは背水の陣である。

 彼らは現体制に反旗を翻す反乱軍である。

 この戦いに敗北すれば十数年、いや数年後に控える破滅を待つまでもなく消滅するだろう。


 それほどのリスクによるプレッシャーは並の物でなく、それがボルト・デインの背中を後押しして、目の前の五人へと一切の油断なく襲い掛かる原動力となっていた。


「ぬるいぬるいぬるい!」

「っっっっ」


 圧縮された雷の槍は、水の盾にぶつかると急速に膨れ上がり弾け飛ぶ。

 水の壁を貫通し全身に襲い掛かるその余波から五人全員が身を守る最中、ボルト・デインは五人に勢いよく迫って行き密集陣形のど真ん中に移動すると、ゼオスと優を三人から離れた場所へと蹴り飛ばす。


「優!」

「ゼオス!!」


 壁に叩きつけられた衝撃から二人の思考が一瞬だけ停止した瞬間、過去最大速度でボルト・デインが二人に迫る。


「二人とも動け!」

「ま、ずっ!?」


 蒼野の声に反応した優が床に掌を置き立ち上がろうとするが、既にボルト・デインが目の前まで迫っており、彼が降り下ろした拳が顔面に迫っている。


「ぬ!?」


 防御が間に合わない優を救ったのは、ゼオスが作りだした拳がすっぽりと入る程度の黒い渦だ。

 データにはなくともそれが隣にいる少年が使う能力によるものだと既に気が付いているボルト・デインは、寸でのところで拳を引っ込め体勢を整えると、すぐさま黒い渦の射程が届かない真横の位置へと移動し、彼女の首から上を吹き飛ばす心意気で蹴りの姿勢を取る。


「反射!」


 しかしその頃には優の思考は通常時と同等の状態にまで戻っており、ボルト・デインが蹴りを撃ちだすより先に反射の紋章が展開され、それを見た老兵は崩れかけた姿勢を整え、天井近くの高さまで飛びながら後退。


「そこだ!」

「若造が! そのような見え見えの策が通じるものか!」


 着地する瞬間を狙い神速の早抜きを行った康太が引き金を絞るが、既にその展開を予知していたボルト・デインは、勢いよく飛んでくる弾丸の軌道を見切り、飛んできた五十を超える弾丸を掴み取り、


「ふんらば!」

「しまっ!」


 まさか全て掴み取られるとは思ってもおらず硬直していた康太に対し、掴んだ銃弾をそのまま返す。それは寸分の狂いもなく康太が握る銃目がけ飛んで行き、


「おいおいおいおい、お前が足を止めるなよ。お前が倒れる=俺らの負けだぞマジで!」

「まさかお前に指摘されるとはな。今日は厄日だ」


 積が作りだした鉄の壁がそれを防ぐ。


「迷いなく前衛を守れる最重要人物に盾を張るか。超人と呼ばれる男の弟も、見かけによらず中々やる」

「褒めないでくれ…………照れる」

「この状況で照れるな。馬鹿が!」

「ハッハッハ! 仲が良いな坊主共!」


 康太や積の反応を前にして軽口を叩くボルト・デインではあるが、自身の体に限界が迫っていることを理解し始めていた。

 現在体に纏っている雷属性を並々に注いだ身体強化の役割は、ただの反射神経の強化の範疇には収まらない。

 死期が迫っている老兵の体を刺激し、全身を全盛期の状態まで戻す効果もある。 


 これにより彼はかつての強さをこの一時だけ発揮できているのだが、得意属性とはいえ全盛期の肉体機能を無理矢理取り戻す術技なのだ。体にかかる負荷も大きい。

 それでも諸刃の刃と言うにふさわしいこの力を使ったのは、目の前の五人がそれほど厄介な存在であると認めたからであり、厄介な動きをされる前に完全に仕留めるつもりでこの力を使ったのだ。


(むぅ。このままでは体が持たぬか)


 にもかかわらずその結果は芳しくない。

 数分のあいだ攻め続けたにも関わらず一人として仕留めることはできず、時折膠着状態が崩れ攻めきれるかと思えば、誰かができた隙を補う動きを見せる。


(あの若さでここまで隙の無い連携を組むか。良き師匠に良い才を持っているようだな)

「ハッハッハ! 見事よなぁ!!」

「いきなり何だよオイ!」


 タイムリミットを前にして蒼野達五人が慌てているのと同様に、とどめの一手に手が届かず苦しんでいるのは、実はボルト・デインも同じなのだ。


「こちらボルト・デイン。コントロール室は応答せよ」

『こちらコントロール室。いかがいたしましたか?』

「目的地までの距離はどの程度だ。」

『はっ! 現在残り百キロをきりました』

「ふむ、射程圏内か」

『射程圏内という事は』

「『剛龍』を使う。準備を頼む」

『はっ!』


 が、両者は全く同じというわけではない。

 簡単なことだ。侵入者である彼らと違い、自身のホームグラウンドであるボルト・デインにはいくらでも手札が存在し、この状況を確実に動かすことができる一手があるのだ。


「な、なんだ!」


 ボルト・デインが指示を出してから数秒後、管制塔全体が震えるかのように揺れる。

 突如起きた現象に積や康太が驚くが、観光名所の一つとしてこの場所の事について知っている蒼野は、すぐさまこの揺れの正体を突き止め顔を青くした。


「ボルト・デインさん。この揺れはまさか!」

「ッハッハッハ!」


 信じられない現象を前にしたという様子で口を開く蒼野に豪快に笑うボルト・デイン。


「うむ、少々予定よりも早いが我らは務めを果たさせてもらう。これはその第一歩にして祝砲である」

「!」


 その笑いが、蒼野には悪魔が見せる下卑た嘲笑に映った。




 一人一人が熟練の兵士であり、数が多く連携がうまい充満を超える兵士。歴戦の猛者であり寿命が近づいてなお『万夫不当』に名を連ねる古豪ボルト・デイン。

 この二つは確かに脅威だ。


 しかし少し考えればわかることであるが、これだけで世界中から一目置かれる強国になれるかといえば答えは否だ。

 兵士たちが優れてるとはいえ四大勢力と比べれば数に限りがあり、際立った戦力といえばボルト・デイン一人のみ。


 盗賊団や犯罪組織を相手取るには十分すぎる戦力ではあるが逆に言えばその程度であり、これだけならば世界中が注目するにはあと一歩足りない。


「『剛龍』発射準備開始。発射まであと一分。カウントダウンを開始する」


 そのあと一歩を埋め、世界中に『エグオニオン』の名を轟かせる最大の原因となるのが、この要塞都市における最大の兵器『剛龍』だ。

 周囲の風景にはなったく溶け込まない黒光りする管制塔の最上階部分には巨大な銃口が設置されており、この銃口を通り要塞都市『エグオニオン』の秘密兵器は外部へと発射される。


「充電終了まであと五十三秒、五十二秒」


 要塞全体を動かす動力に、『エグオニオン』は電力を用いている。

 その量は凄まじく、新兵器の作成や都市自体の発展が原因で、日に日にその量は増加している。


『あと四十……三十九…………』

「お前らの、いやボルトのおっさんとこの国の覚悟、それに獣人族の決意はよく分かった。だがらこそ忠告しておいてやるよ。そいつは打たないほうがいい」

「馬鹿が。ここまで来て引き下がるわけがねぇだろ」


 それだけの電力を生みだすために、この国にはボルト・デインが能力として使う『属性増幅・雷』と同様の効果を備える機械が無数に設置されているのだが、最終兵器『剛龍』は国の経営に利用しているそれらの電力全てを管制塔に集中させ、一発の弾丸として使用するというものだ。


『残り三十……二十九…………二十八』

「このカウントを止めてくれボルト・デインさん!」

「却下だ。この一手こそ今この状況で最も必要なものなのだ」


 一手に集中させた電気属性粒子を無数の増幅装置で増強し一つの弾丸として撃ちだした際の威力はすさまじく、敵対した一千万人が籠城していた巨大な要塞を、一撃で壊滅させたほどである。


「大量殺戮兵器がこの状況を変える? 頭湧いたかおっさん?」

「好きに言うがいい」


 蒼野の心からの懇願と康太の殺意に彩られた銃口を前にしてもボルト・デインの態度は変わらない。


「っ!」


 その様子を見た蒼野が目に見えない何かに押されたかのように走りだし、康太がボルト・デインに向けていた二丁の拳銃の銃口のうち片方を蒼野に向け引き金に手を掛ける。


「止まれ蒼野! 今ここでお前が言っても、時間回帰なしじゃ止めれねぇだろ!」

「というかのう、もし坊主が時間を戻したとしてもまた準備をすれば良いだけだし、そもそもお主らがいかに足掻こうと、今から管制室を乗っ取り我が軍を止める事なぞできはせんぞ?」


 康太と敵であるボルト・デインが、当たり前の提案を平和を望む少年に投げかける。


『あと二十秒……』

「それでも、それでもこの危機を見過ごすことは…………俺にはできない!」


 だがそれを聞いたからといって何になるというのだろう。

 不殺を唱え、手が届く範囲の皆を救いたいと考える少年が、大勢の人間を殺す兵器を前にして黙って見ていられるわけもなく、


「……下らん。貴様がここを離れればこの戦いの均衡が崩れ俺達が死ぬ。古賀蒼野、貴様はその可能性を見ているのか?」

「!」


 そんな彼の歩みは、ゼオスの言葉を聞いてピタリと止まる。

 どちらかを取ればどちらかが死ぬ。蒼野に取って最悪の選択肢が、無言で突きつけられる。



――――いつかきっと、お前にも選ばなければならない時が来る――――



 その台詞を聞いたのがいつだったかはわからない


 その台詞を何度聞いたのかもわからない


 それは蒼野の脳裏に幾度となく響き、蒼野の全身を巡る力を急速に奪っていき、


「蒼野!」

「崩れたな。ここが勝負の境目よ!!」

「させるか!」


 その場で棒立ちになり呆けてしまった蒼野へとむけボルト・デインの腕が迫る。

 それを防ぐように康太が引き金を引き続ける妨害を続け、ゼオスと優が道を阻み攻撃を阻止するが、それでも動けない蒼野を抱えた状態での戦いは、ボルト・デインにとってまたとない好機であった。


『残り十秒……九秒……八秒………七秒』



ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


遅くなってしまい申し訳ございません。本日分の投稿です。

そしてやって来た、古賀蒼野にとって最大の問題との直視です。

平和を愛し、不殺を掲げる蒼野。

まあ正直なところ彼自身が殺す云々という話題とは違いますが、それでもここでの選択肢は大きな意味を持っています。


彼はどのような選択をするのか、そもそもできるのか?


次回以降を楽しみにしていただければ幸いです


それではまた明日、ぜひご覧ください

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