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ロストテクノロジー


「おいおい…………威勢がいいのは最初だけかよ。それならさっさと諦めろ。その方が俺も楽だ」

「こ、の……クソ親父が!」


 蒼野達がボルト・デインとの戦いを続ける中、ゲイルとラピスによる親子の戦いは一早く佳境を迎えていた。

 それほどまで早く勝負が決しかけている理由は単純で、優たちが粘り強く時間を稼いでいたのと比べ、こちらは粘る暇もなく一気に形勢が傾いたからだ。


「借り物の力で偉そうに威張り散らすなんてなぁ…………底が知れるぞ!」

「優秀な道具を必要な時に手に入れ、使いこなすのも一つの強さだ。文句があるのなら、この差を覆してみろってんだ」


 そう得意げに語りながら見下ろすラピスをゲイルは怒気を孕んだ表情で見返すが、それでも彼らの間に広がる差が埋まることは無論ない。


「まあお前が文句を言うのは気持ちもわかるがな。『ウルバミ』に限らず、ロストテクノロジーの類はどれもこれも化け物だ」


 そう言いながら誇らしげに眺めるのは、彼自身が持っている鞭だ。

 ラピスが持っている鞭の正式名称は『ウルバミ』と呼ばれる蛇剣だ。

 通常時は掌に隠せるほど小さいものだが、持ち手が決められたコードをを撃ちこむと、それに従い鞭にしか見えない姿へと変化。

 この状態になった『ウルバミ』は使用者の思考を読み取ることで長さや硬度を自由自在に変更させることが可能で、鞭のように伸びた状態を基本の形状として、打撃や斬撃に適した武器の形に変化させることが可能で、円状に広がることで鋼鉄の盾へと変化することさえできる。


「まだ……まだ! 諦めてたまるかよ!!」

「まだ立ち上がるか。どうやら俺の知らない間に、ある程度は鍛えていたようだな」


 立ち上がったゲイルが鞭の射程に入らぬよう距離を取りながら、光属性を固めた球体を形成し撃ちだす。


「ま、無駄だがな」


 しかし光の速度で放たれた光弾は、光速で迫っている物体に反応した『ウルバミ』が自動的に動き叩き落とすことで難なくかき消され、


「ほうら、お返しだ!」


 それと同等量の光属性粒子をラピスが鞭へ送り込むと鞭は途端に強力な光を発し、ゲイルが放った光弾の数倍の大きさの光弾を形成すると、驚愕に目を丸くするゲイルの腹部へと一直線に迫り衝突した。


 『ロストテクノロジー』とは『今の科学技術の類では決して存在しないはずの物』に付けられる名称である。

 この星における『科学』とは、広い定義で捉えた場合、それまで極少数の物しか使えなかった『能力』や『技術』を大多数の人間が使えるようになったものの事を指している。


 例えば冷蔵庫の『物を冷やしたり凍らせたりする力』は、かつては氷属性の使い手がいなければ難しかった領域の事だ。

 電子レンジやガスコンロのような熱を使った調理というものも適した属性使いがいなければ中々難しく、テレビやパソコンなども『科学』の発達があったゆえに実現できたものである。


 この『科学』の発達は千年前、神の座イグドラシルが星の外側に目を向けた結果であり、『科学者』という言葉ができたのも、千年前の戦争が終わってからしばらく経ってからの事で、数百年の時を経て大きく発展した『科学分野』であるが、それでもまだまだ実現ができないものは多い。


 『神器』の類の力はもちろんの事、ここ最近になり『空間の拡張』などの『空間操作』の類にまでは手を伸ばせるようになったが、『概念操作』や『強烈な熱や冷気』などの機械が耐えきれない力を備えてはいない。

 それら現代の『科学レベル』ではまだできない領域の力を備えたものを、知りえない過去の文明に存在していた物として、彼らは『ロストテクノロジー』と呼んでいる。


「クソ…………マジで反則的な性能してやがる」


 先に述べた性能だけでもこの星の最先端技術と同等かそれ以上の性能を備えている『ウルバミ』だが、この武器の兵器としての真骨頂は装備されている威力増幅装置の存在だ。

 ボルト・デイン程の熟練者と比べれば僅かに劣る性能ではあるのだが、『ウルバミ』の場合込めた粒子の種類に関わらず威力を倍増することができるため応用性が高く、持ち主が思い浮かべればある程度複雑なこともやってのけることができる。


 増幅装置を含めそれだけ多彩な機能を持っているというのに待機時は掌に収まるサイズであり、なおかつ激しい戦闘があったとしても様々な機能が壊れることはない。

 加えて研究の結果この武器には『概念防御』の能力が付与されていることがわかり、『概念操作』系統の能力を全て破壊する効果が含まれていることも研究結果として提出されている。


 それ程のものを兼ね備えていながら能力らしきものを使った形跡がないこの武器は、少なくとも今の科学技術では再現できないと判断され『ロストテクノロジー』に名を連ねた。


「さて、あっちもほとんど終わったようだし、こちらも終いにしようか」

「っ!」


 そのようにして父と子がしのぎを削る場所から少し離れた位置ではクドルフとソードマンが剣を交えており、今この瞬間、趨勢は決しようとしていた。


 二本の水の長剣を構え、いくつもの刃を投擲しながら荒々しい猛攻を行うソードマンと、最もオーソドックスな両手剣を隙なく構え、鋼属性による物質の強化と肉体の硬化を駆使するクドルフ。


 各々が持ちうる力を発揮し一進一退の攻防を繰り返してきた両者であったが、両者が手にする剣の切っ先が触れ始めてからこれまで、ソードマンが猛攻を続けクドルフが必死に耐えるという様子は一切変わらず、呼吸の乱れを察知したソードマンが一際激しい猛攻を繰り広げたところで、クドルフの肉体に幾重もの刃が刺さり大地にその身を預ける結果となった。


「どうやらここまでのようだな」


 戦闘開始から二分と少しの間で、クドルフは様々な手を尽くした。

 派手さはなくとも堅実なその技の数々は、ギルド『アトラー』のまとめ役であるクロバ・H・ガンクの右腕を務めるのにふさわしいものであったのだが、十怪の中でも正面からの戦闘に特化したこの男には届かず、繰り出した策全てを見切られた。


「いい腕だった。基本に忠実で、崩しにくい」

「…………」


 底が知れぬため言いきれずにいたクドルフだが、もしかしたら彼はレオン・マクドウェルにさえ届く存在かもしれない。

 そう思う彼の側へと、ソードマンが余裕をもった足取りで近づいていく。


「二人の元へは行かないのか?」

「ん? ああ」


 始めは迫りくる死の瞬間を前にして無言を貫いていたクドルフであったが、敵対者にこれ以上戦意がないのを見極めるとその様子に疑問を投げかけ、ソードマンは策を弄する様子もなく、その言葉に対し素直に頷き、驚いた事にクドルフの横で胡坐をかいた。


「なんのつもりだ」


 思わぬ行動をされたことで疑問を投げかけるクドルフ。

 その声には『メタガルン』の裏切りを前にしても冷静さを保っていた彼の嘘偽りのない困惑が混じっていた。


「私の仕事はラピス殿の護衛だからな。敵が厄介な相手なら私自身が立ち向かうんだが――――あの様子なら出番はないだろう」


 世界に大いなる変革をもたらそうとしている革命軍の幹部格の発言とは思えぬ台詞に、クドルフの体からみるみる力が抜けていく。

 まさかこれが真の狙いではないだろうかと思い胡坐を掻いた男の姿を一瞥すると、彼は先程までの戦いの空気をどこかへと吹き飛ばし、暇そうにあくびをしながら戦いを眺めている。


「それにだ、親子の確執やすれ違いなんてよくあることじゃないか! こういうのは結果がどうなるにせよ、死なない程度に本音や感情をぶつけあって、すっきりすることが重要なんだよ」


 すると無表情で自分を見つめる視線に気がついたソードマンが少々慌てた様子でそう付け足し、腕を組むと二人の姿を『愛おしげ』と言ってもいいような表情で見つめていた。

 その姿は戦場に迷いこんだ子羊のように無害であり、じっと眺めていたクドルフは奇妙な違和感を覚えたのだが、その正体にまでは辿りつけず、


「…………」


 結局のところ動けぬことには変わりなく、彼はソードマンと同じく、ゲイルの勝利を願いながら、黙って戦いを見続ける事を選んだ。




ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


今回はゲイルサイドという名の新設定の紹介回。

これからの話で時折出てくる名称『ロストテクノロジー』についてです。

そしてソードマン対クドルフなのですが、彼らの戦いは短めです。

重要な戦いは、別のところなので。


という事で次回は別の戦場へ


よろしければ、また明日もご覧ください

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