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その掌に救済の指針を 一頁目


「康太!」


 奥の部屋へと進んだ蒼野が入ってすぐに目にしたのは、入口から離れた場所で顔を除く全身をグルグル巻きに縛られ放置された康太の姿だ。

 明かりの灯っていないその部屋は、上下左右が自身の体を見返せるほど磨かれており、細長くどこまでも伸びている部屋の奥には、グルグル巻きにされた状態の康太が、景品でも置かれているかのように丁寧に立てかけられていた。


「待ってろ。すぐに行く!」


 目に映る義兄弟の姿が米粒程しかないことから、空間が拡張されている事実や罠が仕掛けられているであろう事実を理解し、周囲に意識を注ぎながら一直線に走りだす蒼野。


「っ、風陣結界!」


 すると数歩歩き出したところで聞こえてきた発砲音に合わし、全身の穴という穴から風の属性粒子を溢れさせ強力な風圧の盾を作りだすと、発砲音のした方角から銃弾の嵐が襲い掛かり、風の壁はその悉くを防ぎ弾き返す。


「銃弾か!」


 蒼野が罠の正体に気がつくのと同時に四方全ての壁に穴が空き、その奥から視界全てを真っ黒に染める程の量の銃弾が降り注ぐ。


「クソッ!」


 仕掛けは至って単純、しかし風圧では容易く吹き飛ばしきれない銃弾の嵐が蒼野の体に触れる寸前まで迫り、蒼野の顔が焦燥感に彩られる。


「康太!」


 長期戦はまずい!


 そう考え走りだす蒼野だが、前に進む度に銃弾の嵐は厚さを増していき、半分ほどの距離を進んだ時には、目の前の景色が銃弾で埋め尽くされるほどのものに変化。


「二人なら大丈夫とか……冗談だろ!」


 更に先へと進もうと足掻く蒼野の前に幾重ものレーザー光線が降り注ぎ、反射的に一歩下がったところで鉄の壁が出現。

 行く手を遮る存在に悪態を吐く蒼野だが、考えてみればこれも当たり前の事だ。

 ボルト・デインは自分たちの味方ではなく敵だ。そんな男が、自分たちに親切にする理由は一つもなく、むしろ殺意をもって殺しに来るのが当たり前なのだ。


「いってぇぇ!」


 そのような事を考え襲い掛かる迎撃装置を前にして一瞬でも足を止めてしまえば、先程まで何とか防いでいた銃弾の一部が蒼野の体に触れ、嫌な悪臭と共に煙を上げる。


「ただの銃弾じゃないのか!?」


 銃弾で貫かれるような痛みではなく肌が焼けるような痛みが襲い掛かり目を向けると、銃弾が触れた場所の皮膚が溶け、内部の筋肉が露出していた。


「クソ!」


 これ以上のダメージは危険だと理解し、急いで前へと駆けだす蒼野。

 しかしそうやって前に進もうと思えば銃弾の嵐は更に激しさを増していき、時折撃ちだされる風の壁では跳ね返せないレーザーが彼の歩みを後退させ、突如出現する鉄の壁が蒼野の全身を阻止。

 それら全てに対応しようと足掻く蒼野だが、彼の思考と動きを上回る速度で新しい迎撃装置が動き出し、対応に送れた瞬間、体中の至る所に酸が入った銃弾の雨がぶつかって行く。


 ブシュッ!


「?」


 耳を潰すのではないかという銃弾の発砲音に混じり何かが吹きだしたかのような音が聞こえる。

 それは蒼野の足元から発せられており、反射的に振り向けばその正体が霧吹き機のようなものである事がすぐにわかり、同時に蒼野の体に激痛が走る。


「毒……じゃなくて塩水とかその類か!」


 焼けただれた皮膚に更なる激痛が奔り、思わず膝を折る蒼野。


「ぐぅぅぅぅ!?」


 地面にうずくまってしまえば接触部位全てから強烈な痛みが襲い掛かり、情報量の多さに加え痛みが脳の正常な働きを阻害し、蒼野は何もできずその場でうずくまる。


「く…………そ…………」


 それでも風の壁を消すことが死に繋がると感じた蒼野は、意識だけは手放すまいと歯を食いしばり必死に耐えるのだが、


バチリッ!


「!」


 しかしそのタイミングで地面伝いに襲ってきた電気が蒼野の全身にこれまでで最大の痛みを与え、ついに保ち続けていた緊張の糸が解け、風の守りが消えると同時に宙を埋め尽くしていた銃弾が蒼野の身に襲いかかった。


「時間回帰!」


 命の危機を感じ、血反吐を吐きながら自らが最も信頼する力の名を唱える蒼野。

 すると自身の全身が半透明の丸時計から発せられた光に包まれ、外部からのあらゆる影響を打ち消し自身の傷を修復していくが、同時に厄介な状態になった事を能力者である彼に伝えていた。


「クソッ!」


 それは、この能力を解除した瞬間に訪れる完全無防備な瞬間。

 放っておけば堂々巡りになってしまう状況に対する答えの見えない問題であった。



「追いついたぞクソ親父!」

「ゲイル!」


 ギルド『ウォーグレン』一行が戦いを繰り広げる中、別方向ではゲイル・R・フォンもまた目的の人物、自らの父と対峙していた。


 彼らが今現在いるのは管制塔内部にある応接室だ。

 漆塗りの深みのある黒い壁と真っ赤な絨毯、名の知れた家具や食器に囲まれた空間で、机を挟みんだ状態で背後には援軍であるクドルフを侍らせ、彼は自身の父親を睨みつけた。


「捕まえる前に聞いておきたい。なんで貴族衆を裏切ったクソ親父!」


 一歩間違えれば殺し合いになるであろう空気の中ゲイルが口にした言葉。それを聞いたラピス・R・フォンがゲイルの耳にも聞こえるほど大きな歯ぎしりをする。


「まさか事ここに至ってそんなクソみたいな質問をするとは、思わず眩暈がするぞバカ息子」

「あんだと?」

「しかし次期当主になるお前の質問だ。少々面倒だが答えてやろう。今回の反逆は今後のこの世界の繁栄を考えての事だ」

「あ?」


 そんな中返された答えはゲイルの想像を遥かに超えたものであり思わず戸惑ってしまうが、胸中に抱いた疑念を無理矢理抑え込み、光弾を作成。


 自らの父が六大貴族に反逆するために、無謀な特攻をかけたわけでない事は理解できた。

 しかしだからといって今神教に対し勝負を挑むことは無謀であり、それを受け入れられるかと問われれば、否である。


「わけわかんねぇ事言いやがって。一応聞いといてやるが、投降する気はねぇのか。戦闘力が低いあんたが、俺やクドルフさんに勝てるとは思わないが?」

「投降する気はない。そしてお前たちに負ける気もない。そもそも大前提がおかしい。戦力が低い俺が、それについてなんの対策もしていないと?」

「なに?」

「伏せろゲイル!」


 父の言葉に疑問を持つゲイルの頭を抑え、壁を突き破り吹き飛んできた瓦礫を弾きながらクドルフが現れた男を睨みつける。


「いやはや、このまま護衛という名の暇つぶしに付き合うことになるかと思えば、『アトラー』の精鋭、しかも俺と同じ剣士と戦えるとは。普段は受けないような依頼も、たまにはいいものだ!」

「こいつは!」


 腰に水が入ったペットボトルを差し双剣を携えたその姿は、数日前にあった西本部襲撃事件の主犯の一人。


「ソードマン!」


 強者との戦いを最大の喜びと感じ、世界中の至る所で被害を出している剣の鬼。名も知られていないことから付けられたあだ名は剣に生きる怪物『ソードマン』。

 十怪での指折りの強者が彼らの前に現れた。


「ミスターソードマン、クドルフ・レスターの処理はあんたに任せる。俺は危険地帯にノコノコやってきたバカ息子の教育をさせてもらう」

「承知した」

「おいおい、何を調子乗ってるのかは知らねぇが、クドルフさんがいなくなったのは痛手だがな。アンタ一人くらいなら俺でも充分対処できるんだぜ。そこんとこを忘れてもらっちゃ困る」


 刃を交える二人の剣豪を前に、そのような事を口にするゲイル。


「忘れちゃいないさ。それに最後に頼れるのは自分だけだ。そのための準備もしてある」


 それに対し彼の父は腰から鉛色の鞭を取り出し、それを目にした瞬間、ゲイルが苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべ憤怒の念を放出する。


「そいつはじいちゃんの遺品…………わけわからん目的のためにそれほどのものを使うとは、許されることじゃねぇぞ代物だぞクソ親父ッ」

「使えるものは使う。それだけの事だ」


 彼が心から尊敬し慕っていた祖父の品を手にする父の姿に激怒し、両手だけでなく無数の虚空にも無数の光弾を浮かし臨戦態勢に入るゲイル。


「む、親子喧嘩が始まるようだな」

「そのようだな」


 火花散る刃の応酬を繰り返す二人も感じ取れる程の熱気が立ちこめ、それが徐々にだが部屋中に充満していき、


「「!」」


 部屋を満たすと同時に父と息子の二人が同時に動き出し――――衝突した。



ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


今回のタイトルは前回伝えた通りの物となります。

さて今回ちょっと注目していただきたいものは蒼野に襲い掛かったトラップの類です。

個々人が持っている力とは全く別の迎撃トラップの類なのですが、

これはこの星における広義の科学分野にもつながります。


これらは『万夫不当』以上の怪物を退治するには至らないものですが、全く無力というわけではなく、

蒼野程度の実力なら個々人の対策なら十分に可能なレベルという事であります。

ここらの掘り下げに関しては、近いうちに語っていければと思います。


それではまた明日、ぜひご覧ください

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