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想定外の結末 二頁目


「……全員集まっていたか」

「お! 来た来た!」


 周囲一帯を揺らすような衝撃から少しの時間が経ち、ゼオスが康太に積、加えて二人が見つけた優と聖野の四人と合流。

 彼ら五人の損傷具合は様々で、ゼオスはペイントボールが三つ割れており、逆にゼオスの誘導により逆サイドから二人を集めていた康太と積は目立った損傷もなく、落下時の衝撃から一つずつ割ったのみで、聖野は無傷、逆に優に至ってはゼオスと同じく三つ割っていた。


「あれ? 優が三つ割ってるって珍しいな。てっきり聖野同様無傷かと」

「ああそれね。理由を聞きたい? 聞きたいかしら?」

「え、いやぁ」


 優の返しと顔に張りついた笑みを見て、この質問が地雷であったことを積は察知。これはまずいと思い話題を変えようと口を開くが、それよりも早く優が康太の前に移動し、デリシャラボラスの動向を探っていた彼の頬を殴りつけた。


「テメェいきなり何しやがる!?」

「ここに来る前にこいつと喧嘩してたわけなんだけど、その時にいくつかのペイントボールに傷がついちゃってね。つまり……」

「つまり?」

「この馬鹿のせいで! 無駄なダメージを負っちゃったのよ! こん畜生!」


 康太が反撃するよりも早く、優の第二撃が康太の腹部に直撃する。

 康太は相当苦しそうに腹を押さえうずくまり、それを見た優がストレスを解消したのか心底よい笑顔で康太を見下した。


「おい…………やっぱこの駄犬は害悪、いや汚いぞ。ドブに体を預けたまま一度も体を洗わず、一週間経った野良犬くらい汚い。

 衛生問題から、いやこれから先の未来の平和のために、ここでデリシャラボラスによって殺されちまった事にした方がいいんじゃねぇか?」

「馬鹿なこと言ってんなって。そんな事したら善さんが怒るぞー。てか仕事中に個人の仲の悪さを持ちこむなよお前ら」


 康太から溢れる殺意を察知した聖野が二人の間に入り、両手で静止。すると二人がそれ以上争う事はなくそっぽを向き、


「……殺し合いをするなら勝手にしてろ。だがその前に尾羽優は俺の足を治せ。そして聖野が言う通り、最低限の職務程度は全うしろ」

「………………そうね。これ以上はやりすぎね。ちょっと待ってて。すぐに回復するから」


 その膠着状態を前にゼオスが口を挟むと二人はやっと動き出し、康太は監視を行いながら銃の様子の確認を行い始め、優がゼオスの側にまで近づいてきた。


「…………偵察の報告だが、まず正攻法で奴に勝つのは厳しい。勝率は一割を切ると見ていい」

「マジか。お前にそこまで言わせるってことは本当に強いんだな竜人族」


 と同時にゼオスが口を開き報告を開始。いの一番に告げられた情報を聞き聖野が額に手を置き激しく掻き毟り始めた。


「………ペイントボールを真正面から割ることによる勝率はその程度だと思え」

「一割って…………お前と蒼野が前に戦ったオーバーさんよりも厳しいんじゃね?」

「…………あれは奇跡としか言いようがない結果だ。より一層厳しかった」

「そうか! いやーそれを聞けただけでも俺は安心…………」

「…………しかしだ」


 ゼオスのその発言に安堵する積であるが、ゼオスの発言はそこでは終わらず、念を押すようにゆっくりとした口調で彼は発言。


「…………レオン・マクドウェルや原口善。オーバーやゲゼル・グレアのような一握りの怪物を除けば、奴は最強に位置する怪物だ」


 その言葉に積は顔をしかめた。


「そこまで勝率が低い理由はやっぱ地力の差か? 避けるだけなら、俺の直感でどうとでもなるぞ」


 その話を聞き康太が尋ねるが、ゼオスはその提案に対し首を横に振る。


「……それもあるが、大きさの違いが最大の問題だな」

「大きさ?」

「……今回の戦いは言うなれば的当てだ。決まった場所に攻撃を当て勝負を決める。

 目的に当たらない事には勝負が決しないという面で言えば、俺達の立場からすれば、普通に相手を戦闘不能にするよりもはるかに面倒で手間がかかる戦いの形式だ」

「まあそうだな」

「それに対し奴は俺達に一撃でも当てればほぼ勝負が決まる。ここが面倒だ」


 彼らが全身につけているペイントボールはかなり柔らかい。

 これは子供たちを死なせないための対策であり、彼らが致命傷に至るダメージを受けるよりも早く、この戦いから退場させるための措置である。

 デリシャラボラス、いや竜人族は言うなれば人間の以上の動きが可能な巨大ロボットのような存在だ。

 竜人族はみな音速を超える速度で動き回ることが可能で、ジャブ程度の気持ちで放った攻撃で、対峙する相手の全身を砕くことができる。

 それを思えばペイントボールの仕組みは当然の措置ではあるのだが、この仕様が捨て身に近い動きまで制限しているため彼らは頭を悩ませているのだ。

 加えてデリシャラボラスとて無抵抗で攻撃を受けてくれるわけでもない。


「……俺達が正面から戦いを挑んだとしても、十数個破壊した頃には奴も油断を捨てる。そうすれば、荒い一撃であろうと一度でも奴に触れればその時点で敗北だ」


 三十五個という数値も厄介で、全てを破壊しようとする頃には、デリシャラボラスは自分たちを必ず捉える、

 それが正攻法で戦った場合、勝率が一割程度の理由であると彼は語る。


「無駄に不安にさせるような前置きはいい。で、勝ち筋は?」


 そこまで聞いて肩を落とした積を面倒そうな目で一瞥し、康太がそう尋ねる。


 ゼオス・ハザードという男は不可能である事は最初に告げる性格の人間だ。

 だからこそ本当に勝機がなければいの一番にそれを伝えるのだが今は違う。恐ろしく厄介だと伝えながらも、不可能であるとは一言も告げていない。

 ならば勝算は十分にあるのだと、康太は認識していた。


「…………もう少し前提を話すつもりだったがまあいい。勝ち筋は単純だ。前提条件をくぐり抜ければそれで勝てる」


 康太の質問に対し一度だけそう告げ、ゼオスが指を四本立てながらそう説明する。


「前提条件って言うと、えーと真正面から行かず、的当てをせず、正面からも挑まない。って、事か? いやもう一つあるのか? なんだそりゃ?」

「……自らが優勢であるという思いこみを決して崩さないこと。つまり奴のペイントボールを破壊しないことだ」

「え、なに言ってんだお前。馬鹿なのか?」


 聖野の確認に対しゼオスが条件を足し、それを聞いた積が素直な感想を口にする。


「……無理難題を口にしているつもりはない。作戦の内容は至ってシンプル。かつ効率的だ」


 それに対しゼオスは表情を変える事もなければ気を悪くするような事もなく、淡々とそう告げる。


「ほ、ほんとかよ」


 直前に伝えられたスペックを聞けば、この戦いで勝つことがどれだけ大変か積は痛いほど理解してる。

 しかし目の前にいるのは同年代の中では優や康太、それに聖野を抑え、間違いなく最強格のゼオス・ハザードだ。

 彼の作戦に期待を寄せ、耳を澄ませた積は、


「……そうだな。尾羽優はこれを持て」

「ん。なんかこの時点で大体わかったわ」

「次に原口積。貴様には率先して囮役をやってもらいたい」

「へぇぁ!?」


 思いもよらない言葉を前に奇声を上げた。



 

 デリシャラボラスは攻撃能力に特化した竜人族である。

 覚えている術技は全て攻撃に用いるものであり、単純な威力特化のものばかり。

 一点集中型か拡散型かなど攻撃の形の変化はあれど、それ以上に大きな変化などはない。


 持ちうるポテンシャルの全てをそちらに注ぐ理由は単純だ。

 デリシャラボラスは自分の身体能力の高さが他の竜人族と比べても際立ったものなのを自覚しており、体の丈夫さや元の素早さから小手先の技は必要ないと考えているからだ。


「ちっ、どこに行きやがったあの野郎共」


 その判断に間違いはない。

 こと身体能力の面で言えば彼は竜人族の大人達を遥かに上回り、人間という枠組みの中で最強クラスである善と、正面から戦える程のものである。


 とはいえ、そちらに傾倒している代償は小さなものではなく、デリシャラボラスは通常ならば早いうちに覚えるはずの探知術技をなに一つとして所有していない。

 そのため敵を探す際は、彼自身少々不服ではあるのだが、一ヶ所一ヶ所しらみつぶしに探して回る必要があるのだ。


「うぉ!」

「ああぁ?」


 鉄と同等の硬度を持つ鱗で覆われた手で木々を破壊する中、彼の耳に声が聞こえる。

 気になって目を細め視線を向けた先にいたのは、真っ赤な髪にサングラスをかけた少年。ギルド『ウォーグレン』の一員原口積だ。


「おいおい、お前さんまさか他の奴らと合流してないのか?」


 此度の戦いにおいて彼の父エルドラにとって最大の誤算は、デリシャラボラスが思ったよりも勤勉化であった事である。

 父・エルドラが考えているように息子・デリシャラボラスは傲慢でなおかつ慢心もするが、しかしそれは自分が勝てると確信した相手に限る。

 その確信を得るため彼は常に技自体は磨いており、敵を見誤らないために情報を集めている。



 全ては望む未来のために。



「いや合流したかったんだが……動いた瞬間に見つかりそうで……」

「ドラドラドラ!」


 そんな男が積の言葉を聞き、父と同様の声をあげ笑いだす。

 あまりの滑稽さに腹を抑えて笑いだす。


「で、一つお願いがあるんだが、見逃してはくれないか。正直他の奴らは世界のためだなんだの言うんだが、ぶっちゃけ俺はあんたに勝てるビジョンが湧かない時点で諦めてるんだ。最後まで逃げるだけにするから、ここは見逃してくれないかなーと」


 しかしだからといって油断しているわけではなく、彼は明確な事実に頭を向ける。

 ここ最近台頭してきたギルド『ウォーグレン』についてもデリシャラボラスはもちろん調べており、目の前の男がどれだけ足掻いても自分に届かないことは理解している。


「いや、悪いがその提案だけは受け入れられねぇな」


 けれども、ここで逃がすことだけはしないと彼は言いきる。


「ど、どどどど! どうしてだよぉ!? あんたなら俺なんかデコピン一発で倒せるだろ! 俺なんか最後に白旗あげて終わりでいいじゃないかぁぁぁぁ!!」


 目の前の男の性格も既に熟知しているゆえに、その言葉が真実である可能性が高いことは理解している。

 しかし竜人族にとってより良き世界を作るという目的のために、ここで見逃すという選択肢だけは浮かばなかった。


「ならペイントボールを割れよ。そうすりゃ、場外に出て終わりだ」

「あの浮遊感が俺は嫌いなんだよ!」


 積の言葉を耳にして思わず憐みの視線を向ける。地上からはその目に対し抗議の声が聞こえるがその言葉にこれ以上耳を貸さない。

 目前の人物のプロフィールを思い出せば、彼が口にした今の言葉に違和感のある点は全く存在しなかったのだが、しかし目的を達成するために、彼は目の前にいる障害を退けるために腕を掲げる。


「だぁ~タンマタンマ。早まるな! 俺はおいしくない!」


 別に喰う気はないと胸中で言葉を返しながら勢いよく腕を振り下ろすがデリシャラボラスだが、積はその範囲から何とか脱出し、続けて放った火球も掠りもせずに避けていく。


 ネズミのような奴だ


 そんな風に考えるデリシャラボラスが両手を大地にめり込ませ、百メートル以上の大地を持ちあげる。


「潰れろ!」

「積!」


 放り投げた大地の塊が宙を舞い、真下にある地面へと落下していく。

 同時に幼さを僅かに残した声がエルドラの耳に届き、巨大な大地の塊が真っ黒な球体に吸収される景色を目にすることで確信を得る。


憤怒エンド!」

「神教の聖野か!」


 大地を吸収した事で膨張した黒い塊が、主の声に従い周囲一帯を破壊する衝撃波へと変貌。

 常人ならば絶対に回避を選ぶ技を前に、しかしデリシャラボラスは動じない。


「ハングル・ディア(瓦解の猛進)」


 彼の得意属性である鋼属性を全身を纏う鱗に浸透させ、迫る衝撃波に対し真正面から突撃。


「ドラドラドラドラ!」


 二つの破壊の権化が正面から衝突するが、それはほんの一瞬の事であった。


「っ!?」


 衝撃波によりいくつかのペイントボールを破裂させたデリシャラボラスだが、聖野の能力『暴君宣言タイラントスペル』の中でも最高の威力を持つ技を真正面から撃ち崩し、その勢いをほとんど殺さず、直線上にいる聖野と積へと向け巨体が進軍。


「三十六計逃げるに如かず!」


 そんな事を言いながら全速力で積が走りだし、それに続くように聖野も足を動かすが、デリシャラボラスからすればそれを見逃す理由はない。


「ハングル・バン(瓦解の黎明)!」


 瞬く間に積と聖野の目の前に果てが見えない高さの鉄の壁が現れ、胸を掻き毟る不快な音を携えながら二人へと向け落ちていき、逃げ場を奪われた聖野がそれを壊すために黒い靄を作りだす。


「うらぁ!」


 しかしそれが球体の形を成すよりも早く、長く伸びた竜の尾が、蒼野と宗介を一撃で退場させた時と同じく積と聖野に襲い掛かる。


「積!」

「え、うぉ!?」


 目前に迫る脅威を見て聖野はすぐさまこれを受けきることはできないと判断。

 積の着る服の襟を掴み、尾が届かない遥か上空へと吹き飛ばす。


「逃がしはしねぇよ!」


 一条の光が空へと向け昇っていく。

 しかしそれを最後まで確認することなく竜人族の青年は自らの尾を操り、空に浮かぶ積に対し、今度は頭部よりも上にあげた尾を振り下ろし、その命脈を絶つ。


「あ?」


 空中を浮く獲物は、藁のように無力だ。

 しかしサングラス越しに見える奥の瞳はあれだけ弱音を吐いたのにもかかわらず死んでおらず、何かを見据えたままこちらに向けられていた。


「ドラドラドラドラ!」


 とはいえそんな事はデリシャラボラスからしたら知ったことではない。

 一瞬揺れた意識を再び引き締め、今度こそ積へと向け尾を振り下ろそうと準備し、


「そこだ」


 その瞬間、デリシャラボラスが最も警戒していた男の声と銃声が耳に入る。

 すると彼はすぐに積に対する警戒意識を解き、声のした方角にいるであろう康太を吹き飛ばそうと体を大きく傾けるが――――一手遅い。


「テメェ!」


 爪の間や首周りに付けていた合計五個のペイントボールが同時に割れ、デリシャラボラスの体に真っ赤な塗料が塗りつけられる。


「やってくれるじゃねぇか。流石は古賀康太ってことか」

「オレを、いやオレ達を知ってるのか?」


 そう口にする康太に対しデリシャラボラスは余裕があるように見せるために嗤って返す。


 最も強いのがゼオス・ハザード。

 最も面倒なのが古賀蒼野。

 そして最も厄介なのがこの古賀康太。


 デリシャラボラスはそう認識しており、精神的優位を保つための行動だ。


 他の者には見られない超遠距離からの射撃は抜群の精度を誇り、このような的当てならば要警戒しなければならない存在だ。


「知っていたというなら……どうする?」


 彼我の距離はおよそ三百メートル。一秒もあれば詰められる距離だ。

 しかし古賀康太が彼の得た情報通りの人物ならば、迫る危険を察知し逃げられる可能性がある。


 ゆえに彼は、全意識を目の前の存在に注ぎ、一挙一動を逃さしてはならぬと自らの心に命じる。

 口からは燃える吐息を発し、自らはいつでも行けると見せつけ誘いをかける。


「いやまあどっちでも関係ねぇ」

「あ?」

「知らないのか? 狙撃手がこうやって堂々と出てきて話す時ってのは、大抵勝負が決した時だ」

「お前何言って……」


 康太の言葉を瞬時に理解できなかったデリシャラボラスだが、自身の瞳が真っ赤な塗料に覆われ、次いで聞こえてくる放送の声が真相を答えてくれた。


『戦闘終了だ。ペイントボールの完全破壊により、竜人族代表デリシャラボラスの敗北とする』

「は?」


 聞こえてきた放送を前に竜人族の青年の困惑に満ちた声が発せられる。

 それでも残った正気でほぼ反射的に全身を見渡すと、体の至る所についていたはずのペイントボールは全て破裂しており、彼の敗北を知らせていた。


 こうして、あまりにも呆気ない形で勝負は終わりを告げた。



ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


彼岸の魔手以降久々のこちらについて情報を得ている相手!

戦いの始まりと終わり!


などと、とてもスピード感のある話でした。

今回の勝利した理由については、パペットマスターとの再戦から続く謎の現象についても合わせて、近々説明を行わせていただきます。


次回はこの戦いの終わった直後から

相手は力に関しては他を画すプライドのある竜人族。

この戦い、ただでは終わりません!


次回もぜひご覧ください!

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