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ウルアーデ見聞録 少年少女、新世界日常記  作者: 宮田幸司
1章 ギルド『ウォーグレン』活動記録
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古賀蒼野、少女と出会う 一頁目


「う…………ぐっ!」


 二人の気配が遠くへ離れていくのを感じ取り、倒れていた蒼野が顔をあげる。

 蒼野の脳天を貫くはずだった一撃は、額の前に展開した半透明の丸時計に張り付いており、致命傷は回避し九死に一生を得ていた。


「脳、天向け……迷い……ぶ! はぁはぁ、……ひでぇ事しやがる」


 もはや蒼野にははっきりと言葉をしゃべる気力さえ残されていない。全身は思ったように動かず、僅かに残る意識を失った瞬間、彼はその命を落とすだろう。


 しかし僅かにでも意識が残っているのならば、蒼野にとっては十分であった。


「はぁ……はぁ………………」


 残る意識全てを能力の発動にのみに集中し、数えるのも馬鹿らしくなるほど発動させてきた能力を思い浮かべる。


「………………っ!」


 するとそれに合わせるように半透明の丸時計が現れ蒼野の体に重なり、時計の針が逆向きに動くにつれ辺りに飛び散っていた血液は蒼野の体内に戻り、抉れていた右肩が元の形を取り戻す。


「あぶねぇ! 死ぬかと思った!」


 燃え続ける街の一角に、瀕死の重傷から回復した少年の声が響き渡る。

 額からは大量の汗が流れ、心臓は早鐘を打っている。

 彼は体に付着している砂埃を払い落とし、落ちている竹刀を再生させながら立ち上がり、額にびっしりとついた汗を拭きとると、大きく息を吐いて自身が死なずに済んだ事に安堵した。

 リバースが戻せる人間の時間は五分まで。もし敵対していた二人がこの場で話し込み始めていたとしたらどうなっていたか、考えるだけで背筋が凍る。


「とりあえず、死ななくてよかった」


 胸を撫で下ろし一息ついた蒼野が、先程の二人が話していた内容の中で気になった言葉と行動を思い浮かべるが、答えは出ない。


「あいつの向かった方角……」


 のだが、しかしヘルメットを被った男が走って来た方角が町の最奥であるとある事に気が付く――――いや気がついてしまった。


「あいつら……まさか」


 蒼野の顔が青ざめる。それは目の前に自らの命を奪おうとする前輪が迫った時でさえ感じなかった程大きな衝撃であり、四の五の考えるよりも先に、彼の足は自然と動きだしていた。


「急げ……急げ!」


 奥へと進んでいった先にある、敵の目標となりえる標的。そんなものは一つしかない。


「孤児院がやばい!」




 風属性の粒子を全身に纏い、音速を超える速さで蒼野が孤児院へと走りだす。


「!」


 全速力で走る蒼野が目的地まで辿り着くには一分もかからなかった。彼の目に映ったのは燃える孤児院に宿舎と、辺りに転がっている息絶えた人々の姿だ。


「あ…………」


 それを見た瞬間、蒼野の全身から血の気が引いていく。う

 めき声が漏れ、無力感に襲われ、肩から力が抜けていき膝をつき、地面の土を握りながら胸の奥からドス黒い殺意が湧いてくる。

 ほんの数十分前まで、彼らは普段通りの生活を送っていたのだ。それがわけもわからず奪われた。倒れている者達の顔をじっと見れば、どれも見知った顔で……


「……ん?」


 が、そこで奇妙な違和感に気付く。死体の中に一つとして見知った顔がないのだ。


「どういう事だ?」


 もう一つ気になった事は死体の周りの出血量が異様に少ないという事実。

 この場所で殺されたにしては、明らかに飛び散っている血の量が少ない。

 それらを元に頭を捻り考えれば、有事の際非難するよう孤児院に住む全員に伝えられていた地下通路の事を思いだし、その記憶を頼りに孤児院の奥へと向かう。

 すると途中から血が散見し始め、奥の部屋の前辺りで最も濃くなる。


「あの死体はここで……」


 思わず嗚咽を漏らす程の臭いを放つその部屋は、子供たちが集まり遊ぶ遊戯室だ。

 蒼野も幼い頃は毎日来ていたその部屋には様々な形の木のブロックが置いてあり、プラスチックでできた滑り台と部屋に設置するタイプのブランコがあるのだが、それら全てが血を被り、凄惨な雰囲気を醸し出していた。


「…………すいません。失礼します」


 部屋を見渡せば見知らぬ男が三人、壁にもたれかかっている。

 蒼野はその死体に手を合わせ謝りながら移動させ、男たちがもたれかかっていた壁を押す。


ガコン!


 すると周囲にそんな音が響き、奥に向かうための石造りの階段が現れた。

 仕掛けについては前もって聞いていたのだが、いざそれを目にした蒼野は少々驚き、一度だけ深呼吸を行い、今にも破裂しそうなほど膨張と収縮を繰り返している心臓の鼓動を無理矢理落ち着けさせるために胸に手を置き中へと入って行く。


「誰かいませんかー?」


 奥へと進む道には明かりの類が一切なく、加えて石造りの簡素な造りが夏らしからぬ冷気を漂わせ、奇妙な不気味さを醸し出している。

 蒼野は光をつけるような能力や属性を持っているわけでもないので慎重に一歩ずつ進み辺りを見渡すが、蒼野の吐息の音だけが辺りに広がり、蒼野の胸に恐怖の感情が襲い掛かる。


 みんな死んでしまったのか、


 弱った心がそんな最悪の予想を思い浮かばせ、先へと進む足が震えはじめるが、しばらく歩いていると一本道が途切れ広い空間へと到達。


「あれは!」


 そこが避難用のシェルターである事を理解し辺りを見渡すと、彼は大きく目を見開いた。


 蒼野の目に入ったもの、それは暗闇の中でも輝く銀の髪を携え、子供たちを守るように木のバリケードを作る聖職者の姿。

 数時間前にあった時と同じ、傷一つない姿のシスターがそこにいた。


「シスター!」

「無事だったのね蒼野!」


 それが罠の類であるという疑問を一切思い浮かべず、二人は無我夢中な様子で駆け寄り相手に抱きつくのだが、二人は安堵の息を吐くこともなく、すぐに真剣な表情に戻り口を開く。


「みんなは!?」

「孤児院の人たちはみんな無事よ。早めに事態に気付いた康太が私たちを避難させてくれたの。途中十数人が追ってきたけど、うまく誘いこんで康太が」


 話を聞き、辛そうな表情をするシスターに、蒼野がそれ以上言う必要がないとシスターに目で訴えかける。

 追ってきた相手をどうしたのかなど、そこまで言われれば十分にわかる事だ。

 それからしばしの間、二人の間を沈黙が支配するが、その時蒼野が勢いよく顔を上げた。


「とりあえずはみんなが無事でよかった。ここの隠し扉って町にいる奴以外は開けられない仕組みだったよな?」


 かける言葉を見つけることができず口を閉じていたシスターの耳に入ってきたのは、底抜けといっていい程明るい蒼野の声で、


「え、ええ」


 場の空気に合わない声にシスターが戸惑う。


「自警団の人達は?」

「この木の守りの中で、けが人は傷を癒してて、まだ動ける人は外の様子を確認しているわ。五人以上で固まって動いてるから、そうそう負ける事はないと思うわ」

「そうか。そこまでしてるなら俺は必要ないな!」


 しかし彼女は蒼野がそう口にしたことで、その真意をすぐさま見極めた。


「…………そうですよ。それに加えてここには私を含め数人、戦える者もいます」


 本当ならば残って一緒に逃げ出したい気持ちでいっぱいだ。こんなこと言いたくないに決まっている。それでも彼女は目の前の少年の気持ちを汲み取り、


「だからここは大丈夫。みんな生きて……あなたの帰りを待ってますよ」


 少年が望む言葉を口にして―――――――――それを聞き少年は言葉を失う。

 心配をかけないために浮かべた作り物の笑顔はたやすく崩れ、声は裏返る。


「親不孝者で……ごめん」


 深々と頭を下げ、謝罪の言葉を口にする蒼野。

 生みの親でないとはいえ、彼女は蒼野達を本当の息子のように可愛がっているのだ。

 そんな彼女が、死ぬかもしれない戦場に好き好んで送り出すわけがない事くらい、蒼野だって当然理解している。

 一緒に安全な場所まで避難して欲しいことも理解している。

 それでも青野の気持ちを汲み賛同してくれたことに感謝しつつ、無理をさせてしまった事に心を痛めながらも少年は背を向け走りだす。


 彼女はわかっていた。蒼野がこれ以上人を死なせないため、戦地に戻ることを。

 蒼野もわかっていた。自らが死ぬことで彼女がどれだけ悲しむか。


「いってらっしゃい、蒼野」

「ありがとう、シスター」


 互いの声は離れていく相手の耳には届かない。しかし二人にとってそれは些細な問題だ。何があっても生きて再会する。

 その思いはしっかりと伝わったと確信していた。




「どうしてあいつらはいないんだ?」


 シスターと別れ町の中心にある噴水広場まで来た蒼野であったが、地下から出てからその場所まで一直線に進んでいたにもかかわらず、敵と一切遭遇せずその場所まで辿り着いたことに疑問を持つ。

 その疑問を晴らすために彼は大気中に自らの風属性粒子を放ち、即席の探知機として町一帯を覆い調査。

 町中でパニックが起こりあらゆるところで混乱がおきている中、慌てふためくことなく町の入り口付近に集まる気配を見つけた。


「あいつら……入口で固まってる…………逃げるつもりか?」


 その目的を察知して動きだそうとする蒼野が、ここまで来たときと同様に風を纏い駆けだそうとする。

 がしかし、そんな彼の前に三台の大型二輪が木々をなぎ倒しながら現れた。


「風刃・一閃!」


 問答無用で向かってくる彼らを相手に、言葉を交わそうなどとは考えはしない。

 勢いよく剣を抜き迫る三台へと向け不可視の刃が撃ちだされるが、しかしそれは容易く躱される。


「こいつら!」


 風の刃が見えている


 その事実にわずかに目を細めながらも動きを止める事はなく、向かってくる大型二輪の突撃を空を飛ぶことで躱し、大地に足をつき再び剣を構え、


「風刃・蛇!」


 薙ぎ払いと同時に放たれた三発の刃が撃ちだされる。

 その刃は不規則な動きで180度の方向転換を行い再度蒼野に迫る大型二輪へと急襲。


「っ!」


 見えにくいうえに軌道が読みにくい風の刃が、先頭を走る一台の前輪を貫き横転させ、残る二台は大周りに動き避けきる。

 だが刃が敵へとたどり着くまでに通った道のりにあった木が道を防ぐようになだれ落ち、残る二台の大型二輪とそれに跨る人影が木々に呑みこまれる。


「これくらいなら死なないと思ったんだが……大丈夫だよな?」


 道を塞ぐように倒れ伏したいくつかの樹木は、空気を焼く音を発しながら燃えている。

 それに潰された二台の安否を確認しようと蒼野が近づくが、その瞬間、木々を払いのけ潰れたはずの二台が蒼野へと飛びかかってきた。


「クソッなんでだよ!?」


 手ごたえに対する損傷の少なさに驚きながらも動きを止める事はなく、迫る脅威よりも早く腕は動き、三度目の風の刃が打ち出される。


「あれは……」


 しかし刃は蒼野がしっかりと見ている前で、電気の壁に阻まれ明後日の方向へ飛んで行く。


「あの爺さんが使ってたやつか!」


 自身の攻撃を防いだ正体に声をあげる中、一度蒼野の体を抉った時と同じ大型二輪による踏み潰しが襲い掛かる。

 とはいえ先程と違い能力の使用は間に合う範囲だ。

 だが一人でも逃せば援軍を呼ばれる可能性があり、そんな事態に陥れば一人では対処しきれない状況に陥ってしまう。


「こいつらはその方法じゃだめだ」


 どうするべきかと悩む蒼野の背後から、聞き覚えのある声がする。


「オレがやる。どいてろ」


 凹凸のない平坦で冷徹な声に、一泊遅れて聞こえてくる銃声。


 その銃弾は蒼野の横を通り過ぎ、進んでくる一台の前輪を正確に撃ち抜いた。


「あのバリアは全身を覆うと思っているのかもしれないが、それだとバイクで移動する際に地面を抉る。というかそれだと車輪とぶつかって大惨事だ。そうならないようこいつは、車輪部分には引っかからないよう設計されてんだ」


 車輪を撃ち抜かれた一台はバランスを崩し左に逸れ、燃えている林の中に衝突。

 その光景を目にした蒼野が振り返り、声の主の姿を目視する。


 ところどころに血を付着させ、狩人のような鋭い目で蒼野に向け突っ込んでくる大型二輪を見据えていたその姿を彼が見間違えるはずもない。


「康太!」


 いつもと同じダサい黄色い鉢巻を頭に付け、二丁の拳銃を構える、蒼野にとって最も頼りになる味方、古賀康太の姿だ。


「それに加えて」


 間を置かず聞こえてくる銃声。

 それに気付いた最後の一台がスピードを緩め銃弾を車輪部分に触れさせずやり過ごそうと考えると、その狙い通り銃弾は前輪の目の前で地面に衝突。しかし地面に沈んだ銃弾はその場で跳ね、前輪とバリアの間を無理やり通り、バリアの中で乱反射を繰り返す。


「バリアの中に入るよう撃ちこめば強固な守りが逆に自分の命を脅かす牢獄に変化する」


 この状況はまずい、そう感じた男がバリアを解き銃弾を外に追いやるが、痛みに耐えかね大型二輪から転げ落ちた。


「無事だったんだな康太!」


 辺りを支配していた威圧感が消え去り、戦いが終わった事を理解する蒼野。

 崩れ落ちた三人を康太が投げた鉄製の縄で縛り、顔を綻ばせて康太に話しかけると、それとは真逆のしかめっ面をしながら康太が口を開く。


「人の心配より自分の心配をしろ…………いや、文句は後にするか。それよりこいつらがどこに向かってるかわかるか? 十分ほど前からほとんど遭遇しなくなっちまった」

「町の入り口付近で仲間を集めているのを捕捉した。恐らく入口から外に出て行こうと思ってる人たちを逃がさないためだ。後は逃げるための経路を確保するためってのもありそうだ」

「そう効果があるとも思えんが多少は面倒だな」


 険悪な仲の二大宗教を分断する境界がすぐそこにあることもあり、賢教からの攻撃が十分予期されるこの町には秘密の抜け道がいくつもある。

 加えて正規の入口は正面ゲート一ヶ所で、他の場所は高い塀で囲まれているなど、ただの田舎町にしては十分すぎるほど敵との戦いを想定された造りとなっており、今回のような事態が起きた際にも、すぐに逃げられるような算段がついている。


「ここに来るまでに町中を回って来たが住民の大半は抜け穴で避難してる。俺ら以外の警護団は個々人では勝てないようだが、住人の非難と防衛を引き受けてくれてる。これなら入口を塞いだところでそう意味はないと思うが、まあ入口が一番近い奴からしたら足止めにはなるか」

「行こう。これ以上、あいつらの好き勝手にはさせられない!」




 蒼野と康太が住む町は神教全体から見れば小さな町だ。

 神教本部から送られてくる戦力は微量なもので、有志を募って作られた自警団の人数も百人にギリギリ届く程度の小規模なもの。

 そんな小さな自警団ではあるのだが、蒼野と康太の実力はナンバー1とナンバー2である。

 蒼野はその便利な能力で建物の再生、怪我や病気の治癒を中心に行い信頼を得ている。


「蒼野、『風の膜』使っとけ。こっちが先に相手を見つけられれば奇襲で全滅狙える」


 対する康太は非常時にこそ真価を発揮するタイプで、高い身体能力と動物のような鋭い直感を持っており、十属性の粒子量はどれも少ないが、他者を寄せ付けない戦闘センスで、そのハンデをものともしない強さを備えている。

 他の面々もある程度訓練された兵士程度の力はあり、数人で固まって動いた場合、十分な戦力になるのだが、蒼野と康太の二人に限れば、警護団の中でも数少ない『単体で十分な戦力となる』人間であった。


「いたぞ、奴らだ」


 入口へと向け先導する蒼野が後ろにいる康太に合図する。現在二人を覆っている『風の膜』は、外への音漏れを防げ、透明になれるという風の壁だ。

 便利な反面大量の風が球体となって集まっているため触れられればすぐに発見されるのだが、遠距離から奇襲に使うには最適な技である。


「結構多そうだけどいけるか?」

「当たり前だ。俺を誰だと思ってやがる」


 入口付近に集まっている敵の数はおよそ百人。蒼野が風で周りを探っても見張りの様子などもなく固まっており、恐らく全員で反撃されれば、地の利を活かしても勝てない大差。

 それを見ても、康太は一切慌てず不敵に笑う。


「さて……」


 周囲の木々が燃える熱気さえ気にならない様子で、康太が銃を取り出し意識を集中させる。

 左目を閉じ、右目のみで照準を合わせ、息を整えるよう深い呼吸を繰り返す。

 先程から二人の攻撃を防ぎ続ける雷の盾だが、自動防御系でない事を幾度かボタンを押した動作を見た康太は知っている。

 ゆえに彼らにボタンを押させる暇も与えない程の早さでの一網打尽を彼は狙う。


「蒼野、頼んだ」


 康太の指示に従い、蒼野は両腕を腹の辺りに前に置き、自分の持つ風の属性粒子を目に見えないギリギリのラインまで圧縮。強い衝撃を与えれば辺り一面に台風のような風が吹き荒れる、ソフトボール程の大きさの風の爆弾を作成。

 入口の前で待機している集団のど真ん中へと向け投擲した。


「あ、すまん。少しずれた」

「なぁに、気にする必要はねぇよ……………………そこだ」


 圧縮された風の塊が誰にも触れず集団の中心に到達した瞬間、風の膜の中にいる二人の耳にのみ発砲音が響きわたる。

 発射された銃弾は人々の隙間を通り、蒼野が投げた風の球体に到達。寸分の狂いもなくど真ん中を撃ち抜いた。


「「!!」」


 その瞬間、球体を中心に台風が発生し密集していた集団が四方八方に飛び散っていき、ある者は壁に叩きつけられ、ある者は未だ空を舞っている。


「一網打尽だ!」


 その隙を康太は逃さない。壁に叩きつけられた者、風圧で宙に浮く者。その全てに鋼属性粒子を固めて作った銃弾を正確に撃ちこんでいく。

 ある者は肩に、ある者は膝に、ある者は腹部に、殺しはしないが各々に小さくはない傷を与え、一呼吸の間に百人全員の体に銃弾を叩きこむ早業。

 まさに勝負を決するに値する一撃である。


「まだ元気なのがいくらかいるな」

「任せてくれ!」


 奇襲を耐えきった面々が立ち上がり反撃に転じようとしたところで、蒼野が放つ風の刃と康太の放つ弾丸がその動きを阻止。

 残存戦力をみるみる間に削っていく。


「…………蒼野引け」

「え……うぉ!?」


 事はこの上なく順調に進んでいるのだが、その時康太の直感が危険を知らせる。

 すぐさま蒼野を引っ張りその場から引くと、二人のいた場所を光を固めた銃弾が撃ち抜き、蒼野が回避に徹しながらも銃弾が放たれた方角に視線を向ければ、ヘルメットの上からカウボーイハットを被った、先程自分を轢いた男が二人へと攻撃を続けている。


「っち、六人も残ってやがるか」


 避けながら周りを観察する康太が、全滅を狙った奇襲の結果に舌打ちする。


「町の人たちの様子はどうだ?」

「大方逃げ切った。ただ、まだ少しいる」

「…………そうか。これからけが人の救助までしなけりゃならない事を考えると、あまりいい状況じゃねぇな」


 町の様子を感知し続けていた蒼野の言葉を聞きながらも二丁の拳銃を再び構え、光弾を放ち続ける男を相手に回避と追撃を繰り返す康太。


「お主、分かっておるな」

「へいへい、分かってますよ。これも仕事ってことだな」


 対峙する男はヘルメットの上からカウボーイハットを深々と被り、老人の前に出る。

 声に意志などは一切感じず、ここで足止めを買って出る事が望まぬことであるのは誰の目で見ても明らかだ。


 何か隠している?


 その様子を眺めた蒼野の脳裏にふとそんな言葉が思い浮かぶが、それを口にする余裕はない


「んじゃ、行くか。おたくらはさっさと逃げな」

「康太!」

「ああ、来るぞ!」


 男が鉄の獣に跨り疾走を始め、康太が銃を、蒼野が剣を構え迎え撃つ。


 燃え盛る舞台、迫るタイムリミット、各々の思惑。


 それらを内包した戦いが、三者の疾走と共に始まりを告げた。




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