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子供達、竜人王から依頼を受ける 二頁目


「一握りの強者じゃないって言う事は、端的に言うとそこまで強くないってことですよね? それが都合がいいっていうのはどういうことですか?」


 洞窟の中をエルドラの背に乗りながら先へと進む一行。

 そんな中教えてもらった自分たちが呼ばれた理由を前に聖野は首を傾ける。そのような答えが返って来るなど、全く予測していなかったからだ。


「今回息子を倒すうえで重要なのは、あいつの中の常識を覆すことだと俺は考えてる。名の知れた勇者に負けるわけじゃなく、名も知らぬ一市民に敗北する。そこに意味がある」


 その答えを聞いたうえで、彼は詳しい内容を語り始めた。


 デリシャラボラスはもちろんの事、多くの竜人族の者達は外で自分たちを退けられる存在はほんの一握りだと考えている。

 実際この考えに然程大きな間違いはないわけだが、この考えを基盤に置いているミレニアムの元に集おうとしている面々は、その人物達さえ避ければ自分たちを阻む障害はなくなり、自分たちは大きな戦果をあげる事ができると考えている。

 そんな面々がもしも名のある戦士ではなくただの一般人に敗北したとなれば、その考えの根底は大きく揺らぐであろうと竜人族の王は考えていた。


 デリシャラボラスも含めミレニアムの陣営につこうと考える面々は、ベルラテスで燻っていたギルドにも参加していない者達、すなわち外の人間について深く知らない者達が大半だ。

 彼らならば、事がうまくいけばそのように思考を誘導できるとエルドラは認識していたのだ。


「そんなうまくいきますかね?」


 正直なところエルドラの言った案について信じていいか一行は半信半疑であった。

 しかしそんな様子の彼らに対しエルドラは勢いよく頷き、彼らの不安を払拭させように説明する。


「竜人族はこと身体能力に関しては最強の種族だ。それゆえに力というものには正直でそれを備えている者には敬意を払う。まあぶっちゃけ根が単純だと言ってもいい。

 もしも名も知らぬ戦士に負けたとなりゃ、少なくとも今回の件からは手を引く。こいつは絶対と言ってもいい。なんせ……」

「なんせ?」


 機嫌よくそのような話を続けるエルドラであるが、続く言葉が彼の口から発せられるよりも早く、彼らが進んでいた洞窟の真横の壁が砕け、大小様々な大地の塊を吹き飛ばしながら土色の鱗をした竜人が現れた。


「は?」

「え?」


 彼は呆気にとられる一行など目もくれずに鋭利に磨かれた刃物のような鉤爪がエルドラの体へと向かって行き、


「おいおい、なんのつもりだよこりゃ」


 それが彼の体に触れ肉体を貫くよりも早く、男の腕が快活そうに笑うエルドラの手に掴また。


「あんたは外に行くならと条件がどうこう言ってたがよぉ、あんたを倒せばそんなもの聞く必要もねぇよな。だからよぉ…………ここで死ね!」

「え? きゃあ!?」

「優!」

「まて蒼野! お前は自分の身を優先しろ!」


 男の口上に合わせ、彼らのいる天井が崩れ二体の竜人が飛来。

 子供たちが空からの被害から何とか身を守っている間に、さらに三体の竜人が空を舞い、口の中には極大の火球が形成されていた。


「おいおいいくら何でも考えがなさすぎだろ。いいか少し考えてみろ」


 目を覆いたくなるほどの大火力が彼らの目前に迫り、子供たちの全身が沸騰するような熱さに襲われる。同時に子供たちの胸が締め付けられ死を覚悟する者さえ現れるが、しかしそれを前にしてもエルドラは普段と変わらぬ様子で口を開き、のんびりとした口調で目の前の竜人に話かけ、


「あのバカ息子が家から出ていった時点でそれをしなかったってことは……それができねぇってわかってたってことだ」

「え、うわ!?」

「悪いな。しっかり捕まっててくれよ!」


 そう告げると同時にエルドラが動きだす。

 掴んでいた巨体の竜人の腕を捻り、持ちあげ、上空から迫る二体を殴る武器として振り回し壁に叩きつける。


「おらよテメェらもだ!」


 その様子を見て上空で火球を溜めていた三体が急いで攻撃に移ろうと火球を形成させる速度を速めるが、エルドラが何の溜めもなく撃ちだした火球が三体を飲み込むと、ゼオスと蒼野が数日前に戦ったオーバーが見せた炎を超える規模の、大爆発を空中で巻き起こす。


「エルドラ!」

「おお、まだ全員立ち上がれるか。若いってのはいいねぇ体力がある! ただな…………」


 掴んでいた男を投げつけ数秒後、立ち上がった六人の若者達を前にエルドラが楽しげに口を開き、


「その体力、もうちっと有意義なことに使ってほしいもんだ!」


 困ったような、しかしどこか喜び懐かしむような発言と共に、背に携えていた巨大な尻尾を体の回転に合わせ振り回す。

 その一撃の範囲は驚異的なもので、迫る六体全員を容易く吹き飛ばし、余波だけで洞窟の来た道から周囲の地形一帯を巻きこみ破壊。


「おいクソ親父」


 そうして襲い掛かって来た六人を退けると、彼らのいる場所の更に奥から、原形が残っている洞窟の奥から声が聞こえてくる。


「テメェ…………自分が暴れた場合の被害を忘れたわけじゃねぇだろ。好き勝手に暴れるんじゃねぇよ」


 その声は彼らがこれまで聞いてきた声の中で最も低く重厚感のある声で、それほど時を置かず声の主が現れる。


「ドラドラドラドラ! いやすまん! こっちの姿で暴れるのは久しぶりでな。つい張りきりすぎた! 悪いな我が息子よ!」


 現れた男に対しエルドラが笑いながら話しかける。

 こうして彼らは、戦うべき相手と遭遇した。




 彼らがデリシャラボラスに抱いた第一印象は『でかい』という単純なものであった。

 休憩時間中に宿で見た記録によると、竜人族成人男性の平均身長は二十メートル前後であった。

 彼らを肩に乗せているエルドラは町の住人の大多数と比べ頭一つ分ほど高いため、二十三メートル程の高さであると蒼野達は予想。

 目の前にいる、日の光を通さぬ真っ黒な鱗で全身を覆い、上下とも黒の衣服を着こんでいるデリシャラボラスは、そんな彼よりもさらに頭一つ分、いやそれ以上の大きさで、目測ではあるが三十メートルを超えていると彼らは予測した。


「一応聞いておくが、要件はなんだ?」

「約束を果たしに来た。今俺の肩に乗っているのが、お前が戦うべき外の戦士だ」


 そう言って蒼野達を指差したエルドラが一人一人紹介していくと、目の前の巨体は小馬鹿にしたような笑みを浮かべた。


「伸ばすだけ伸ばしてその間に黄金の王を潰すかと思えば、まさか本当に連れてくるとは。しかも名のある勇者でもない、ただの一般人を! 俺を倒すための刺客にすると!」


 油断、慢心、驕り、それらが形となったかのような言葉を吐きだし嗤うデリシャラボラス。しかしそれを聞いてもエルドラは笑わない。自身の息子が笑い終わるのをただじっと待ち続ける。


「まさかそいつらがこの俺に勝てるとでも? 無茶な事を言いやがる!」


 普段ならば腹を立てる面々も、流石に今回ばかりは反論する気が起きず黙ってそれを聞き、


「ま、お前の言う通りかもしれないな。そこでだが今回の勝負内容について提案だ」

「提案?」


 周囲一帯に響くような大音量の笑い声が収まり周囲に静けさが戻ると、エルドラは指を真上へと向け、自身の息子に対し用意していた案を出す。


「ああ。彼らは俺達竜人族の新しい友人だ。んでお前を止めるように頼んだが死んでほしいとはもちろん思ってない。お前とてそうだろ?」

「…………まあ別にそいつらに関しちゃそこまで関心はねぇよ」


 エルドラの言葉にデリシャラボラスは少々迷った末に同意する。

 彼の目的は竜人族の自由や繁栄であり人間の虐殺ではない。ゆえに無理に相手を殺そうとは思っていなかったゆえだ。


「そこで戦闘の勝利条件を設定しようと思ってな。意識を失ったり死んだりしたら負け…………ではなく、このペイントボールを各自が五ヶ所につけ割り合う。加えてある一定のダメージを受けた場合や気絶した場合でも敗北となるよう、転送魔術を施す。そういうゲームだ。どうだ? やってみないか?」

「こいつらはその条件でもいいが俺も付けるのか? そのルールは言うなれば死なないようにするための対処だろ。俺には必要ねぇし、むしろない方がありがてぇんだがな」


 エルドラの提案に対しデリシャラボラスが苦言を呈する。

 しかしそれに対してもエルドラは一切慌てず、わざとらしく大きくため息をつき息子を見つめる。


「なんだ自信がないのか?」

「あ?」

「彼らは名のある勇者と比べればまだまだ未熟な一般兵だ。そんな彼らがお前と戦うとなりゃ、普通に戦う場合そりゃただの蹂躙だ。そこまで安全な戦いしかこれからお前はしていかねぇつもりかよ?」

「クソ親父!」


 その言葉を聞いたデリシャラボラスが怒りを顕わにして一歩前に出るが、エルドラはそれを片手で静止。デリシャラボラスも上げかけていた腕を下げ、不服な様子で鼻息を吐いた。


「怒るなよ。これは当たり前の措置だぜ。こいつは外に出て行こうと勇むお前に対する試練なんだ。お前の勝ちが決まってるような勝負にはしねぇよ」

「…………」

「とはいえ、無理難題を押し付けるつもりもない。彼らが五個なのに対しお前も五個だけってのは数の上で不公平だ。人数差が違い過ぎる。だからだ、お前には五個×人数分で三十五個付けさせてやる」

「ふん、いいだろう!」


 エルドラの提案を聞き、デリシャラボラスは不満げにだが条件を呑みこむ。

 すると父が出したペイントボールをひったくり、後ろに体を引いた。


「さて、じゃあ好きな場所にペイントボールを付け合うとするか。大きさは各自に合わしたものにしてあるから、その点だけは気を付けろよ。あと、お前は口の中に含むとか見たいなズルはするなよ」

「…………」

「なんだよ。まだ不服があるのか。っと、いや一つ言い忘れてたな。会場はちょうど俺が壊したこの山脈一帯だ。洞窟にいるお前の部下はちゃんと外に出しておけよ」


 そう言いながらエルドラが彼らを背負ったまま踵を返し離れていく。


「待てよクソ親父。あんたは本当にこれでいいのか?」


 その後先程の戦闘によって生じた瓦礫の山を払いのけ、原形を失った洞窟から出て行こうとするエルドラだが、そんな父を息子は呼び止める。


「いやいや、俺がお前を止めたいんだぜ。これでいいに決まってるだろ!」

「俺達がミレニアムの軍勢に加われば形勢は一気に傾く。神教を崩し、貴族衆や賢教さえ蹂躙し、最後にミレニアムを始末すれば俺達は世界中を自由に動き回れる! これが最良の結果だろうが! 目指さなくていいのかよ!」

「ドラドラドラ! ずいぶんと都合よくいく計画じゃねぇか」


 デリシャラボラスの言葉を聞き愉快に笑うエルドラだが、それでも彼は食い下がる。


「夢物語とでもいうつもりか? そんなわけがねぇ!」

「…………」


 しかしそれも当然の事だ。


「千年前現れたミレニアムを倒したのはクソ親父、あんたじゃねぇか!」


 他者を圧倒する、父の活躍を彼は知っていたのだから。


「「え?」」


 そしてその衝撃の事実を聞き、蒼野達は声を揃えて驚いた。


ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


この物語の戦闘形式の発表とエルドラの息子、デリシャラボラス登場回。

今更かつ本編での解説が少なかったのでこちらで捕捉しておきますと、

竜人族の外見というのは、基本的にガッチリした体格の人間を巨大化させ、

全身を鱗や厚い皮膚で纏ったような見た目です。

少年漫画に出てくるような、オーソドックスなかっこいい見た目のを存在していただければ、

それで大丈夫です。


それではまた明日、よろしければご覧ください


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