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各々が得たもの 一頁目


「それでは儂もこれで失礼する」


渦中の中心に立っていた人物が消えてから一時間後、情報交換を終えた事で役割を果たした雲景がその場を去り、見知った顔の三人だけが残り穏やかな空気が流れ始める。


「で、あんたは何であいつの味方をしたのよ」


 するとアイビスが半目でシロバを睨み、睨まれた本人は首の後ろで手を組みニカッと笑った。


「あ、ばれてた?」

「バレバレよ。貴族衆が手を貸してくれたらもっと情報を絞りだせただろうに、どうして邪魔したのよ?」

「いやそれがダメなんじゃないか」


 アイビスの言葉を聞き、貴族衆の代表である男は笑って一蹴する。

 クライシス・デルエスクが去ってから西本部で起きた事態による被害と現状の世界の様子、それにミレニアムを筆頭に敵軍の面々について話をしていた一行であったが、その話し合いは賢教と貴族衆、神教とギルドという二陣営に対立しての話し合いとなり、結果として彼女が望むような展開で話し合いが進むことはなく終わりを迎えた。


「貴族衆の役目はバランス取りと交通整備だ。世界中の均衡を保ち、なおかつ動きやすいものにする。それが重要なんだよ。今回の話だって、僕が賢教側につかなくちゃ神教がめちゃくちゃすると思っての行為なんだぜ。そこら辺は考慮してくれよ」

「む!」


 シロバの話す内容を聞き、アイビスが痛いところを突かれたと押し黙る。

 その様子をシロバはニヤニヤと笑いながら楽しそうに眺め、その視線が気に入らないアイビスは話題を変えようと頭を働かせ、何かを思いだしたように手を叩いた。


「そうそう。確かあんたに頼んでたゲーム、あれはどうなったのよ。あれ結構楽しみにしてるのよ?」

「その大切な物はさっき誰かさんが壊したじゃないか」

「は? 誰それ? 説教してやるわ」

「そうか。それなら鏡を見るといい。そこに犯人の顔は映ってる」

「……マジ?」

「大マジだよ」


 シロバの苦笑交じりの返事を聞き、アイビス・フォーカスが顔を青くする。

 その後勢いよく机に突っ伏したかと思うと美女が発するにしてはあまりにも汚い声が口から絞り出され、善がため息を吐きシロバが肩をすくめた。


「マジでショックなんだけど! マジでショックなんだけど! あーもう、それ絶対無意識よ! 初回限定版、まだ確保できる!?」

「発売日から日が経ち過ぎてる。諦めてくれ」


 勢いよく言葉を発する彼女はシロバの返答を聞き彼女は体を半液体状に変貌させるが、何かを思いついたのか体を固めながらこれまた勢いよく顔を上げると、目を見開き善の方を見つめた。


「そうよ! こういう時は蒼野君の出番じゃない! 彼に直してもらいましょ!」

「別にいいとは思うが、貸し一だからな」

「はいはい。できる事ならやりますよっと。で、今どこにいるの?」

「ちとあいつらたちだけで動いてもらっててな。うまく合流するのに時間がかかる可能性がある」


 アイビスが機嫌よく返事をして善を指差す。がそれに対する善の返事は少々困った様子で、頭を掻き毟りながらため息を吐いた。


「あら? お仕事中かしら? まあ直してもらえるのならいくらでも待つけど」

「まあ一週間はかからねぇだろうから安心してくれや。あ、そういやシロバ、うちの風使いの部下がお前の動きに感銘を受けててな。よかったらまた会ってやってくれねぇか?」

「僕に? いやーかっこよすぎる男はこれだから困る!」


 めんどくせぇなこいつ


 楽しそうに馬鹿笑いをする男の姿を目にした善が思わずそう考えるが、口には出さず飲み込む善。


「あ、ところで君たちに聞きたいんだけどさ、デュークは元気かい? 最近は忙しくて全く連絡で来てないんだよね」


 そのようにして会議とは一切関係ない取り留めのない話題が彼らの間で続けられる中、シロバが投げかけた問いかけを聞き、二人が肩を僅かに震わせる。


「ん? 二人ともどうしたんだい?」


 風属性の使い手としては当代一と称えられるシロバ・F・ファイザバードは人々の微妙な動きの変化すら敏感に察知する。

 ゆえに嘘やごまかしの類については滅法強いのだが、そこまでわかっていながらも二人はこの場で嘘偽りのない真実を話すべきか迷った。


(さてと)

(どうするべきかしらねぇ)


 二人がその事実を話すべきか迷ったのはこの事実が極秘事項だからというわけではない。

 相手が他ならぬシロバ・F・ファイザバードであるからである。


 今では六大貴族の一角をまとめるほどの男になったシロバだが、数年前まではかなりやんちゃをしており、人様に迷惑をかける事など日常茶飯事であった。

 湯水のように財があり、トップクラスの才能を備えており、父親以上の力を所持している若者であれば十分にありえた事態ではあったのだが、結果としてファイザバード家は彼を抑えきることができなかった。


 そこでファイザバード家は息子の教育を神教に頼み、その結果やってきたのがセブンスター第二位のデューク・フォーカスだ。


 彼は好き勝手に過ごすシロバを一年間自分の仕事や調査に同行させ、一年後には心身ともに大きく成長させたシロバをファイザバード家に送り返した。

 この結果からファイザバード家はデューク・フォーカスに対し多大な感謝の念を抱いており、当の本人も周囲から大親友や盟友と呼ばれるほど彼と親しい間柄になっていた。


「「…………」」


 それゆえにここで事実を話すべきかどうかを二人は迷う。

 真実を話し力になってくれるのならば六大貴族の一角が味方になり、本人のスペックも十分だ。これ以上に心強い味方はないといってもよい。


 しかし同時に一抹の不安が募るのも本音である。


 もしここで目の前の男が真実を知った結果、全てを放りだし思うままに動いてしまいよくない結果を出した場合、貴族衆全体のバランスは崩れ、今の混乱しきった世界に更なる混沌をもたらす可能性がある。


「…………これから話すことは内密にできるかしら?」

「なんだい訳ありか。まあ黙れと言われれば黙るさ」


 なのでここの返答はとても重要なものであり、そこまで理解したうえでアイビス・フォーカスが選んだ選択肢。


「そう。なら教えるけど、今あいつは単独任務で動いている最中なのよ」

「単独任務?」

「ええ。その内容は………………ミレニアムの監視」


 真実を話す

 嘘をつく

 煙に巻く


 それはその全てを合わせたものであった。


「監視?」

「知っての通りあたし達はずいぶん前からミレニアムの危険性について考慮してたの。そこでイグちゃんは大分前からデュークに監視を頼んでるってわけ」


 右手の人差し指をたて訳知り顔で説明するアイビス。そんな彼女に対するシロバの視線は何とも言えないものであり、頬杖をつき考えるような仕草を取ったかと思うと、ため息を吐き項垂れる。


「どのくらい前からそんな事をしてるのかは知らないけど、まあそれなら会えなくても仕方がないか。にしても残念だ。会って話しができればと思ってたんだけどね。何とかして合う機会は設けられないのかな?」

「監視任務だからそれはちょっとね。ミレニアムを倒したら好きなだけ話すことができると思うから、今はミレニアムの打倒に力を注ぎましょ」

「だよねー。ならまあ合うのはしばらく我慢するとして、僕が元気にやってるか聞いてたとだけ、機会があれば伝えといてくれ」

「ええ」

「いやダメだろ。監視中に携帯鳴らして相手にばれたなんて、笑い話にすらなりゃしねぇ」


 頬をかきながら億劫気に口を挟む善に、アイビスが慌てて賛同。


「そ、そうね。ダメねダメダメよ。諦めなさい」

「ちぇー」


 彼女の返事を聞き、今度はシロバが机に突っ伏し息を吐いた。


「さて、俺は戻るか」


 するとこれ以上この話題を続ける事は危険であると感じた善が席を立ち、


「ん? 話が途中で終わっちゃったけど、君の部下の件はどうする?」

「まあ暇な時間があれば好きに来てくれればいいさ。俺も部下たちも歓迎するぜ」


 それを確認したシロバが顔だけをあげ善を覗きこみながらそう尋ねると、善は懐から花火を取り出し口に咥え、ポケットからライターを取りだしながら返事をする。


「ここ、禁煙だぞ善」

「前から思うんだが俺の花火は喫煙者と同じ扱いなのか? 成分としては全然別だろ」

「いや煙を立たせる時点で邪魔なんだって。火を点ける前にさっさと消せ」

「やるせねぇな、ほんと。ま、さっさと喫煙室に行くとするか。姉貴はどうする?」


 その後注意を受けた善がライターをしまい歩き出し、部屋の扉の前まで辿り着くと、振り返りながらアイビスにそう尋ねる。


「え? あたしは…………そうね。仕事が残ってるし、帰るとするわ。あ、そうだシロバ。壊れたゲームをちょうだい」

「いいよ。もしよければ感想でも教えてくれ」

「もちろん。で、ほい善。蒼野君に言ってちゃんと直しておいて頂戴」


 突如話題を振られアイビスが疑問に思うが、善が視線で訴えかけてきたのを見て事情を理解。善に続き立ち上がるとシロバから受け取ったゲームを善に渡す。


「じゃあなシロバ。また会おうぜ」

「ん。善は僕のファンによろしく言っておいてくれ。姉さんは話せる機会があったらでいいから、デュークに僕の事を伝えておいてくれよ」

「はいはい」


 穏やかに手を振りながら見送るシロバを傍目に、二人が別々の出口から会場を出る。

 こうして、四大勢力の代表を交えた会議は水面下は平穏無事に終わりを迎えた。




「ふむ」


 二人が海上から去ってから数秒後、ただ一人その場に残った男が、頬杖をかきながらため息を吐く。


「ふむ……」


 それから口に手を添え少し考え事をするかの様子を見せると、誰にも聞こえぬよう細心の注意を払い、机に突っ伏しながらボソリと呟いた。


「あいつら…………僕に嘘をついたな」


 歴史というものには数えきれないほどの分岐点があり、その選択ひとつで未来は大きく変わる。


 アイビスと善が取った選択肢もその一つであり、大きな転換点に他ならない。


 この瞬間、彼らの選んだ未来が、一つの道を確定させたのだ。



ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司でございます。


さて本日は先日お話した通り彼らが得た情報を整理する話で、今回は貴族衆の代表であるシロバ側です。

今回では会議中の内容まではお伝えしなかったのですが、それは次回の残りの三陣営でお話できればと思います。

で、その後は新しい物語です。


それではまた明日、よろしければご覧ください

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