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四大支部会議 二頁目


 善とアイビスの二人が長い廊下を進み続け五分が経過した。

 その途中、体全体が奇妙な感覚に何度か襲われ、それと同時に廊下の背景が全く違うものに変化する。


「どっかに飛ばされてるのか」

「ええ。これが今から行く場所への移動方法。決まった場所を決まった地点から一定の距離だけ歩くことで、次の場所へと移動させられる。それが何度も続くことで、目的地へと続く転送装置のある場所に辿り着けるの」

「なるほどな。理解したよ」


 十二回目の模様替えが行われてから十数秒後、彼らの前に一台の転送装置が現れる。

 それを見たアイビス・フォーカスが小走りで台座の上に乗り、専用のパスワードを打つことで耳に響く稼働音を発しながら、転送装置が起動。


「先に行くわ。向こうでまた」

「おう」


 落ち着いた声色を発しながら彼女が善に手を振り、送るべき主を認識した転送装置は金色の光を放ちながら目的地へと彼女を飛ばし、その場には善一人だけが残された。


「さて、俺も続くか」


 その後彼もギルドの代表に渡されていたパスワードを打ち込み転送装置を起動。

 すると転送装置を包みこむかのように翡翠色の光が発せられ、僅かな浮遊感が善を襲ったかと思えば、奥に一筋の光が灯っている真っ黒な一本道の中腹に善は移動。その様子を興味深げに眺めていた。


「ここが……」


 一時期は神教にて戦力としては最高位であるセブンスターに所属していた善であったが、この場所に来たのは初めての事であった。


「あいつが日夜戦ってる戦場の一つか」


 この会議に出席するのは基本四大勢力各々が四大支部に置いている本部長である。なので常日頃ならば神教は東本部を統治しているノア・ロマネが参加する事となっている。


 が、各支部の本部長が出なければならないと決まっているわけではなく、代表を変えることは自由であり、なおかつ人数も三人までならば自由とされている。


 今回の場合、ミレニアムの討伐を成し遂げたい神教は各勢力の協力を必ず取りつけるために自軍の最強戦力であるアイビス・フォーカスが代表として参加しており、それに加えて協力関係をスムーズにまとめるためにギルドに協力を要請。

 会議に参加する代表を原口善に変更して欲しいと説明した。


 その結果、普段ならば北本部の本部長が出る中央会議に善が代理で参加する事が決定し、こうして代表となった善は、始めて目にする場所の様子を探りながら一歩ずつ前に進んでいた。


「こりゃまるで闘技場の入場ゲートみたいな道だな」


 明かり一つ点いていない道を慎重な足取りで歩き、光が溢れる出口へと進んでいく善。


「来たわね善。中央会議へようこそ」

「ここが……」


 数秒間歩いた末に真っ暗な一本道から抜けると、彼は光で満たされた部屋に到達。

 強烈な光に目が慣れず、反射的に目を細くする善だが、一度瞬きをすれば目が慣れ、部屋全体の景色が瞳に映しだされる。


 善から見て真正面、部屋の中央には二十人程で囲むことができる傷一つない真っ白な円卓があり、周りを見渡せば善が出てきたものと同じ出口が三つ存在している。


「何というか……思ったよりも殺風景だな」


 天井からはいくつもの蛍光灯が敷き詰められており、彼らが座るために用意された椅子は快適かつ実用性の高い高級品。加えて円卓の周りには資料を置くための机がいくつも置いてあり、電子機器のバッテリーを充電をするためのコンセントもいくつか存在している。


 けれども、この部屋に存在するものはそれだけだ。


 豪華な装飾品があるわけでもなければ休憩するためのソファーや飲食物が置いてあるわけでもない。

 そのため善はこの場は会議をするという目的のためだけに存在する部屋だと感じた。


「まあこの部屋はみんな仲良く集まって和気あいあいと話しあうって場所じゃないから。それを考えたらこんなもんよ。とはいっても、参加者の要求に応えるために最低限の設備は内部に隠されてるわよ」

「なるほどな」


 アイビスの言葉を耳にしながら、善が普段集まるメンツを想像する。


 『神教』からはルールや作法を重視する東本部長ノア・ロマネ。

 『賢教』からは神教打倒を考える過激派筆頭格の一人、西本部長ゼル・ラディオス。

 『ギルド』からはトップギルド『麒麟』から三人の総大将の内の一人、神経質で猜疑心の強い性格の北本部長キングスリング。


 集まるメンツを考えれば、確かに他者との会話を楽しむという面子ではない。


 唯一貴族衆が治める南本部長だけは場を盛り上げようとしそうだが、それでも真面目が服を着て歩いている面々や敵意を隠さずに吐きだす存在を前にすれば、重苦しい空気を変えるのは中々難しいだろう。


「さ、じゃあ事前に打ち合わせをしましょ。そのために早く集まったんだから」


 そのように彼が思案しているとアイビスが善の目の前にある椅子を僅かに傾け、善が腰かける。

 その後持っていた資料を机に開き中身の確認を始めるのだが、そんな彼らのいる会議室に、強い突風が襲い掛かった。


「それはいいことを聞いた。それならばワシも早く来たかいがあるというものよ」

「誰だ」


 席に座り資料を開こうとした二人の耳に声が聞こえる。

 声はアイビスの正面から聞こえてくるものであり、その位置から西本部、すなわちゼル・ラディオスの代役が近づいてきている事を理解し、二人は視線を向ける。


「シハシハシハシハ。久方ぶりじゃのう。第一位」

「雲景…………」


 現れたのは一人の老人だ。


 常人の数倍の長さにまで伸びた鼻に奇妙な程細長く伸びた、一本の線のようになった瞳。

 あごひげは顎から首元まで伸びており、真っ黒な鳥の翼と部屋の照明の光を反射させる禿げ頭。


 一目で亜人種とわかる見た目をした、枯れ木を連想させる老人が彼らの目の前に現れた人物である。


「姉………いやアイビス・フォーカス、こいつは誰だ?」


 アイビス・フォーカスの機嫌が最悪なのは彼女が短く発した言葉の様子や纏う気の形から明らかだ。

 それを理解してなお不敵な笑みを浮かべ、自分たちを見定めるその男を善は不審な目で眺める。


「そっか、あんたは知らないのね。まぁこいつはあんまり表に出ないし仕方がないか。目の前に見えるこいつは、賢教が保有する最高戦力の一人、鳥獣族の雲景よ」

「こいつが噂の……」


 賢教が抱える最高戦力・四賢人の内情は実はそう知られていない。

 ある程度の入れ替わりがある事は神教側も理解しているのだが、詳細についてまで握れているのは、本当にごく一部だけである。


 まず一人目はゴロレム・ヒュースベルト。

 四賢人一の穏健派で、神教との関係回復におけるキーマンと呼ばれる人物。四人いるメンバーの中で、唯一素性までが明らかな人物。


 二人目は『聖騎士』の異名を持つアビス・フォンデュの父親。

 本名は未だも明かされていないが、賢教の軍部を仕切っており、四賢人をまとめる筆頭人物である。

 基本スタンスとしては穏健派だが、ゴロレムほど二大宗教の関係改善に意欲的というわけではなく、二大宗教の関係については協力関係までは求めておらず、戦闘行為は避け、ある程度距離を取った関係を保ち続ける事を第一に考えている。


 三人目が今善とアイビスの目の前にいる雲景。情報が一切ない四人目ほどではないが実際の戦闘力や部下に対する影響力など不明な点が多い。

 少ない情報で言えることは、この男は過激派筆頭にして枢機卿であるクライシス・デルエスクの右腕という立場にあり、四人いるメンバーの中で最古参であるという事だけだ。


「……なるほど」


 他者の『気』を読み取る力がある善の目だが、この目を所持している善は一目見れば相手の使う得意な粒子の種類以外にも、相手の性質をある程度『気の形』で知ることができる。


 例えば『一般人』の場合体から僅かに溢れる程度である。

 レオン・マクドウェルのような優秀な『戦士』であれば、自分の身を包みこむようになんらかの綺麗な形をしていることがほとんどだ。

 他にも『商人』ならばその『気』は自然と相手の体に向かい伸びており、『悪人』ならば自分を中心に刺々しい見た目をしている場合が多い。


「確かに…………一筋縄ではいかなそうな男だな」


 そんな善が目にした雲景の『気』は霧のようなものだ。

 これは様々な策謀を考える『策士』などによく見られる形であり、このタイプの相手と接する場合、善は相手の真意を引きだす事を第一に考えるように意識している。


「ふむ、それでそちらは原口善か。お初目にかかる」


 しわがれた声でゆっくりと雲景がそう告げると、


「よろしく頼む」


 対峙する善も素直に頭を下げ挨拶を返す。


「それで、わざわざあんたが来るなんて、賢教もかなり本腰を入れてくるのね」


 そのような形で二人の初遭遇は何事もなく終わったのだが、気軽な様子であいさつを返す善から九十度離れた方角から、強い敵意を感じさせる声が聞こえてくる。


「ふむ、しかしこれほど急いで我々四大本部を集めるとは。神教もよほど疲弊しているようだ」

「…………あんたに何がわかるの老害。てかあたしの言葉を無視するな」


 それに一切反応しない雲景に対し、アイビスの怒りが恐ろしい勢いで膨張していくのが善の目に映る。

 なのでその状況を打開するために彼は慌てて口を開く。


「その様子じゃ、こちらの目的は良く分かってるみたいだな」

「恐らくは四大勢力の協力じゃろう。まあ基本に忠実だが最良の一手だろうて」

「そこまでわかってるなら話は早い。単刀直入に言うが、ギルドは神教側の提案に賛同する。俺が来た事がその証だ。貴族衆もそう拒むことはないと予想できる。後はあんた達だけなんだがどうだ?」


 話した内容はかなり現実的な内容であり、目の前にいる策士に類する人物ならばこの意味が分かるだろうと考える善。


「シハシハシハ……」


 それに対する老人の解答は、背筋を凍らせるような嫌な笑い声であった。


ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


という事で本日は新キャラクター、雲景の登場です。

四大支部会議の参加者についての説明もできたので少し満足。


今回の物語はこんな感じで各々が考えている戦略などに視点を当てていきます。

恐らく昨日から一週間位で終了予定。


それではまた明日、ぜひご覧ください!

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