西本部
「待たせたなミレニアム!!」
原口善が去り、走りだすのは『賢教』の大軍。
「よい。耐え忍ぶことも歓喜の瞬間を味わうには必要なことよ!!」
対峙するのはたった一人の覇者。腕を組み待ち構える黄金の王、ミレニアム。
両者はこれ以上ないというほどの闘気を身に纏いながら距離を縮め、衝突の瞬間までの僅かな時間を消費していく。
「ぬぅん!」
手にしていた巨大な白金の針を、ミレニアムの拳が届くより前の位置でゼル・ラディオスが投げつける。
対峙するミレニアムはそれを拳で容易く弾き、周囲に甲高い音が鳴り響くのだが、それがたった一人と数万もの大軍が衝突する号令となった。
「ミレニアムゥゥゥゥ!」
ゼル・ラディオスと大軍の間に挟まれた神器部隊の内の二人が、前へと飛びだし各々の神器を手にしながら攻撃する。
一方は剣、もう一方は鉄槌だ。
「ふん!」
ミレニアムは一歩も引くことなくそれらを片手ずつで防ぐと、他を圧倒する膂力で剣の刃と鉄槌の柄を掴み、そのまま持ち主ごと地面に叩きつける。
「ぐっ!?」
「あぁぁっ!?」
前を行く二人の口から悲鳴と血が漏れ出し、彼らの息の根を止めるために両手が掲げられる。
「蹂躙せよ!!」
数万にも昇る大軍の第一波が黄金の王の元に届いたのはその時だ。
神器を備えている者も備えていない者も、誰もが同様に武器を突き出しミレニアムへと向け前へ進み、殺意の先端を黄金の鎧に刻んでいく。
「ダリア様! ルクセンブルク様!」
「今です!」
そうして大地に崩れ落ちた二人が自由になると彼らに対し声が掛けられ、その声に応じた二人が立ち上がりと同時に再び手にする神器を目前の存在に叩きつける。
「諸君! 無作為に狙ったところでこいつの守りは崩せん! 狙うならヒビが入った場所だ!」
そうしてミレニアムが僅かに押し返されると全員の脳内へと向けゼル・ラディオスが指示を出し、それを聞いた彼らの視線がミレニアムの全身に集中。
善とゼル・ラディオス、他にも数多の者が足掻いた末に僅かにできた小さなヒビ、すなわち右膝・左脇腹、左頬、そして胸の中心へと注がれ、遠近の区別なく、様々な攻撃がそれらの場所へ叩きつけられる。
「良い! やはり良い! 仕事意識で動く俗物共とは違う! やはり自らの信仰心を掲げ戦う賢教! 貴様こそ我が宿敵!! 我が怨敵よ!!」
「貴様に褒められたところで嬉しくないわ!!」
それら全てを真正面から受けながら、肩にできている僅かな関節部分から真っ赤な練気を溢れさせ、黄金の王は前へと飛びだす。
「HAHAHAHAHAHA!!」
「っ!」
最前線から僅かに離れた位置にいたゼル・ラディオスが、寸でのところでそれを躱す。
しかし全ての者がそのようにできたわけではない。
むしろ『超越者』の位に達したゼル・ラディオスが紙一重で避けたたった一人の進軍を躱せた者はほんの僅かしかおらず、大半の者が真正面から襲い掛かる宇宙一固い物質の突進の勢いに敗け、無残な肉塊となり果て命を落とす。
「手を休めるな! 死んだ者の分まで、残った者が足掻くのだ!」
「「おおおおぉぉぉぉ!!!!」」
それを目にして、大軍の中の誰かが叫ぶ。
その声を聞き身分の関係もなく誰もが雄叫びを上げ、死んでいった者の体を踏むことすら気にせずに、ミレニアムへと攻撃を行っていく。
「素晴らしいな」
身分でもなく、個々人の醜い欲望でもない。
一人一人が共通の認識を抱き、他の勢力では見られない程の一致団結の意思で迫りくる。
賢教が神教に打倒するまで続いてきた所以、誰もが胸に抱いている強い意志に彼は賞賛の念を抱く。
「――――ディアボリック」
それらを前にして、ミレニアムの口から厳かな声が漏れる。同時に彼の黄金の掌に光を通さぬ黒と紫が混ざった気体を固めたかのような球体が現れ、
「ノインホール!」
ミレニアムがそれらを投げつけると、それは大軍の真っ只中で静止。
「い、いかん! 全員退避!!」
それが一体なんなのかを知る者が声を上げるが一手遅い。
霞状の黒い物体は周囲にあるもののを生物無生物の違いなく引き寄せ、触れたもの全てを砕いていく。
「重力操作か!」
弓矢の神器を所持している者が瞬く間に消えていく無数の命を救うために矢を撃つと、部下の体を貫きながらも矢は霞状の物体に到達。
神器の力により能力は消滅し、あらゆるものが自由落下を始めていく。
「むぅん!!」
しかしそれでミレニアムの攻勢が終わったわけではない。
彼は次々と同じものを作りだすとそれらで周囲の者達を再起不能または絶命まで追いこんでいき、自身へと迫る相手は神器持ちならば自らの手で。他ならば能力や地属性の力で、確実に捻じ伏せていく。
「賢者の魔針!」
するとそれを見かねたゼル・ラディオスが戦場全域に大量の針を山なりに撃ち出し、それらは敵味方の区別なく多くの者に刺さり、同時に展開されていた能力全てを解除する。
「総員! 自身の体に刺さった針を抜くな! 体に針が刺さらず、なおかつ神器を持っていない者はすぐに地面に刺さった針を手にしろ!」
「ほう! そうくるかゼル・ラディオス!」
味方にも当たった神器だが、それこそが彼の狙いであり、意図を察したミレニアムが笑う。
「ミレニアムの能力を恐れるな! もはや我々に対しては何の意味もない!」
その言葉の通りミレニアムが能力を使ったところで大半の兵士が効果を受けず、雄叫びを上げながら再び攻撃を開始。
様々な毒を付与することができる『賢者の魔針』だが、その最大の真価は味方にこそ発揮される。
神器とは、持っているだけであらゆる能力や異能、この世の不条理を無効化する物質だ。
その対象が担い手であるかどうかは関係なく、ゼル・ラディオスの場合、撃ちだした針を消滅させずに現世に留めておけば、刺した全ての存在に神器の恩恵を与える事ができる。
「「おおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」
「「ああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」
喉が千切れるような叫びが精鋭達の口から突いて出る。
絶え間なく行われる攻撃の数々は確かにミレニアムの体に届いており、その成果が現れる瞬間を、彼らは信じ続ける。
「HAAAAAAAA!!」
拳の応酬と凄まじい速度による突進により、数多の存在が意識を手放し、天へと昇る。
ただの兵士たちだけでなく、神器使い達も一人ずつ戦場から消えていく。
「座標確認! 転送します!」
以前蒼野や優がウークで目にした、転移の力を持つ神器の使い手が神器を持っていない数十人の戦士をミレニアムの神器の恩恵の射程圏からギリギリ外れた空中に移動させ、
「死ね化け物!!」
「ぜりゃぁぁぁぁ!!」
真下から落ちていく彼らが、全身を凶器へと変貌させ、雄叫びを轟かせながら黄金の鎧へと到達する。
「甘いわ!!」
その半数以上はミレニアムの拳の一薙ぎにより彼方へと吹き飛ぶが、残る半数はヒビの入った部位へと到達。
「せいのっと!!」
ミレニアムが反撃を行い彼らが胴体に穴を開けられるよりも早く、身の丈程の大きさのキセルを携えた男が大ぶりの一撃でミレニアムの体をのけ反らせ、他が一歩退避。
彼がそのまま数多の攻撃を続けていくと、
「「「!」」」
――――バキリと、希望を告げる音が黄金の王の身から鳴り響いた。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
本日語ることは特になし。
なんというか、書いている自分が無粋であると感じたので。
次回が西本部襲撃編最終話。
最後までお付き合いいただければ幸いです。
それではまた明日、おあいしましょう




