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闘争潮流 四頁目


 善とソードマンが短いながらも熾烈な争いを繰り広げていた一方で、残る二人の戦士も戦いを続けていた。


「賢者の魔針!」

「HAHAHAHAHAHA!」


 ゼル・ラディオスは数えるのも馬鹿らしくなるほどの針を展開しては撃ちだしており、ミレニアムはそれらを一切避ける様子もなく愚直な直進を続けてくる。


「魔針――――山脈!」


 地面を盛り上げ、山を形成するかのような勢いで銀色の針が大地を食い破る。


「無駄だ!!」


 それを前にしても黄金の王は足を止めることなく、苦戦した様子もなく前へと進む。


「っ」


 先程エクスディンがゼル・ラディオスの事を死にかけであると口にしたが、その内容は正しくない。

 西本部に仕える優秀な治癒術師に体の傷を治してもらった彼は、瞬く間に全身の傷を治癒し、多少の疲労感はあれど、体力面においても十分な回復をした。

 つまり延々と戦い続けているミレニアムと比較した場合、十分な余裕を手にしているはずなのだ。


「この程度か? 地獄の淵から生還し、再び戦場に立つ貴様の全力は、この程度なのかゼル・ラディオス!!」

「きさまぁぁぁぁ!!」


 だというのに――――遠い。


 人類としては同じ最高位――――すなわち『超越者』の位にいるにも関わらず、果てしなく遠い。


「捉えたぞゼル・ラディオス!」

「!!」

 

 この世界の強さの値は大きく分けて五つに分かれている。


 上から順に


 超越者

 万夫不当

 一騎当千

 百人薙ぎ

 名無し


 となっており、条件を満たせば上の座に変化する。


 『名無し』から『百人薙ぎ』は『万夫不当』以上の座にいる者の評価で。

 『百人薙ぎ』から『一騎当千』は、同格の『百人薙ぎ』と百戦して一度も負けず勝ち続ける事。

 『一騎当千』から『万夫不当』は、同格の『一騎当千』と千戦して一度も負けず勝ち続ける事。

 そして『万夫不当』から『超越者』の位には、同格の『万夫不当』相手に十連勝かつ『超越者』の位にいる人物相手に引き分け以上で名乗ることができる。


 ゼル・ラディオスはこれらの試練を乗り越え、『超越者』という戦士として最大の賛辞と栄光を得ているのだ。


「HAHAHAHAHAHA!」

「が、あぁぁぁぁぁぁ!?」


 それだというのに、目の前の存在には届かない。

 数多の攻撃を続ける事で小さな罅を幾つか付ける事はできたのだが、それ以上の成果を得る事ができない。

 そして今彼は肩を掴まれ逃げられないように抑えられた上で、再び拳の嵐に晒された。




「おい! こっちは終わったぞ! そっちはどうだ!!」


 ソードマンが動かなくなったのを確認した善が、急いでゼル・ラディオスの元へと駆け付ける。

 一分一秒でも早く加勢をしなければと考える彼の呼吸は荒く、その様子には普段のような余裕はない。


「!」


 そんな彼が目にしたのは血の海に沈むゼル・ラディオスの姿だ。


「んの野郎!」

「原口善か!」


 すぐに気を練り拳を飛ばす善であるが、邪魔を嫌ったミレニアムが放った重力の塊によりそれらは容易く押しつぶされ、黄金の王はゼル・ラディオスの首を片手で掴んだまま、もう一方の手を自身へと向け駆け抜けて来ようとする善へと向ける。


「う、お!?」


 その瞬間善の体を襲ったのは、真後ろから引っ張る謎の力だ。


「引力か!」

「応とも!」


 その力の正体について瞬時に理解した善がそう口にすると、ミレニアムはゼル・ラディオスに動くだけの力が残されていないのを確認し、彼をぞんざいに投げつけながら嬉々とした様子で善へと向かってくる。


「HAAAA!」

「くそっ。めんどくせぇ事になってんじゃねぇか!」


 その様子を目にした善が大きく回り込みながらゼル・ラディオスの方を眺めようとするのだが、迫る黄金の王はそのような時間を与えては紅。


「どうした。先程同様熱き拳の応酬といこうではないか!」

「ちぃ!」


 僅かに意識を逸らした一瞬の間に放たれた一撃は、威力ではなく早さに重点を置いたものであり、善といえど完全には避けきれず頬に掠る。


「お、めぇぇぇぇ!」


 すると直撃していないにも関わらず善の体は勢いよく背後へと吹き飛んで行き、少年少女がいる公園の一歩手前で体勢を立て直し、肩で息をしながら黄金の王を睨みつける。


「悲しいな原口善」


 それを見下ろすミレニアムの視線には憐憫の感情が含まれており、それを前にした善が苛立ちを募らせる。


「なんだと?」

「貴様は強いが、我に傷をつけるだけの手段がない。頼みの能力は神器の前では無力ときた。

 いや、強力ゆえに使うための粒子が多すぎ、確実な突破口も存在するその力では、例え効果があったとしても然程脅威になりえまい」

「おめぇ…………どこまで知ってやがる…………」


 善の能力はまさにミレニアムが口にした通りの内容だ。

 強力無比だが大きな欠点を抱えている。

 善自身もその事についてはしっかりと理解しているため、この能力については両手の指でおさまるほどの人数にしかその正体を明かしておらず、使うとしても勝負の決め手となり、なおかつ相手にばれない状況でしか使わないようにしているほどだ。


「本当に……何者だコノヤロウ」


 ゆえに目の前の怪物がその内容について知っているはずはなく、得体の知れない感覚が善の体を襲い、それを振り払うために問いを投げる。


「それを明かすのも貴様らの仕事の一つだ」


 ミレニアムが行う返事の答えは至極当然なものではあるのだが、この上ない嫌な感触が善の心にこびり付き、


「最も、ここで死ぬ貴様には、それをできる機会すら訪れんがな!」


 すると次の瞬間には目標へと向け、黄金の王は再び孤軍による進軍を開始する。


「行ってくれるじゃねーの!」


 善も一切引くことなく真正面から衝突するが、自身の拳が痛むことはあれど、傷の類はなおもつかない。


「っ!?」


 そんな衝突が十数秒続いた時、西本部からここに来てまでの連戦により疲労を蓄積していた善の足から力が抜ける。 


「さらばだ! 原口善!!」


 その一瞬の間に善へと向け振り下ろされる握り拳。


「はっ! 悪いがまだ死ぬつもりはねぇよ!」


 それを前にしても善の闘志は未だ衰えず、回避が間に合わないと瞬時に理解すると、片腕が使えなくなることも覚悟の上で、真正面から神器の拳に自らの拳をぶつける。


「っっっっ」


 相手はことパワーにおいては自分を圧倒的に凌駕しているため善は耐えきる事ができず、いくつのも木々を貫きながら、蒼野達の元へと吹き飛びながら帰還。


「善さん!」

「待ってて、すぐに回復を!」


 目の前に現れた善を前にして腕が直りソードマンを縛りつけていた康太が声をあげ優が走りだし、それに続いて蒼野も動き出すのだが、そんな彼らの体が大地に沈む。


「大人しくしているがいい少年達よ。そうすれば、これ以上貴様らが無駄に怪我をすることはない」

「あ……う……」


 目に見えない透明の手で抑えつけられた感覚が彼らの体を襲い、指先すら動かず地面に沈んでいく。


「お前ら!」

「よそ見をしてもいいのか原口善」


 その様子を前にして声をあげる善の前に、ミレニアムが瞬く間に接近。

 どれほど戦おうと一向に衰えのない様子で、善へと向け拳を撃ちだす。


「クソが!」


 拳を交えるたびに、自分も相手も手の内を晒していき、学習していく。

 その速度はほぼ同等であるのだが、強烈な神器の守りを乗り越える策がない善の方が、ジリジリとだが追いつめられて言っている。


「他の奴らを連れて撤退しろゼオス!」


 このまま粘ったところで勝ち目はなく、戦い続ければ背後に控える部下たちさえ巻きこんでしまう。


 それだけは、どうしても避けたかった。

 ヒュンレイが残したかけがえのない『遺産』だけは、どうしても失いたくなかった。


「…………承知した」


 ゆえに彼は意識を取り戻した様子のゼオスにそう告げると、ゼオスが頷き能力を発動するのだが、


「まったく…………してやられたよ」

「「!!」」

 

 ソードマンが意識を取り戻し、積や康太が施した拘束の術式を容易く破ったのはそんな時であった。



ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


今回の話でやっとこの世界の強さの基準をお話できたので本当によかったです。


これまでの話で何度か万夫不当や一騎当千という単語を使っていたのですが、

皆さまからしたら少々首を傾げる内容であっただろうと思うので、やっと説明できるタイミングができたので安堵しております。


さてこの星の位についてなのですが『一騎当千』まではある程度実力が足並みをそろえられるものであるのですが、それ以降は上下の差が激しいものとなっています。

これは『万夫不当』の中でも『超越者』一歩手前と入りたての差であり、

なおかつ最高位の『超越者』はそれ以上の位がないため、どうしても縦に伸びてしまうためです。


なので今回のゼル・ラディオスとミレニアムように同じ位でも、これほどまで差があるわけです。


あと今まで出て来たキャラクターの強さについてですが、

善さんやレオンさん暮らすが『超越者』

イレイザーやらネームレス、倭都の雷膳や賢教の神器部隊の大半が『万夫不当』

蒼野やゼオスなどが『一騎当千』レベルです。


それではまた明日、ぜひご覧ください


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