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闘争潮流 三頁目


 自分たちの前に立ちファイティングポーズを取る男の姿を目にして、背後に控える子供たちが安堵する。

 ミレニアムが無意識に放っていた重圧からも解放され、これで自分たちは生き残れるという確信を抱く。


「ぜ、善さん。援軍に来てくれたんですね。ありがとうございます!」

「いやいや、なに喜んでんだよ蒼野。むしろ来るのが遅すぎだっつーの! 俺なんて何度漏らしかけたかわからなかったくらいだっつーの!」


 すると先程まで短い単語しか口にできなかった口も妙に滑舌が良くなり、蒼野が感謝の言葉を、積が照れ隠しでもするように笑いながら悪態を吐く。


「あーうるせぇうるせぇ。けどまあ、パペットマスターを相手にして生きててよかった。それだけで合格点をやれるよ」


 その様子を耳にしながら笑う善。

 彼は再び起きた奇跡に感謝をして、その上で自分が絶対に守らねばと胸に誓う。


「あら、アタシ達は結構接戦だったと思うんだけど、善さんは合格点程度しかくれないの?」

「……あー九十点!」

「あと十点は、撃破できたらってとこッスかね。まだ遠いなチクショウ」

「点数チェックなんて後でいいだろ馬鹿野郎!! それより今は危険区域から脱出だ。策はあるんだろ?」

「……………………」

「え、なぜそこで黙るクソ兄貴」


 思わぬ返しに対し真顔になる積。

 その様子を目で見る事はなかったがなんとなく想像できた善は、申し訳なさげに息を吐いた。


「いやマジな話な、お前らがここにいるとは思わなかったんだよ。だからお前らがいる場合の作戦なんか、考えちゃいねぇよ」

「ナ、ナンデストーー!!」


 善の説明を聞いた積が奇声を上げ天を見上げる。

 すると開いた口から魂が出て行くような感覚に彼は襲われるが、その錯覚が長く続くことはない。


「う、お!?」


 積がそのような態度を摂っている目の前で、剣と拳が衝突し、善とソードマンを中心に発生した衝撃波が彼の体を吹き飛ばしたからである。


「ギ、ギョエェェェェ!?」

「おいこら! 奇声をあげるんじゃねぇよ!!」

「よそ見とは余裕だな原口善!」

「ちぃ!」


 奇声を上げる積に対し突っ込みを入れる善だが、ソードマンが繰り出す斬撃を前にしてそれ以上何かを口にする程の余裕はなく、絶え間なく繰り出される連撃に意識を注ぐ。


「原口善!」

「貴様の相手は我だ」


 すぐに援護をするために神器をそちらに向けるゼル・ラディオスだが、黄金の王がそれを許さず、背後から勢いよく練気を放出し、一息の間に距離を詰める。


「ちぃ!」

「HAHAHAHAHAHAHAHA!!」


 大きく一歩後退し、射程圏外へと逃れるゼル・ラディオス。

 近接戦は不利であると十分に認識した彼は、そのまま距離を取り公園の外へと移動。ミレニアムも歓喜の声をあげながらそれを追う。


「しっかし驚いたぜ!」

「ん?」

「おめぇは厄介者ではあったが悪人ではないと思ってたからな! まさか! 世界転覆を狙う悪人に協力するとはな!」

「私の目的は強者との戦い! 絶え間ない研鑽だ!どちらの方が都合がいいかを考えて、こちら側についただけさ!!」

「気狂いが!」


 その一方で、鋼鉄の刃でさえ切ることのできない最硬度の拳と、鋼鉄さえ容易く斬り裂く水の剣が衝突する。

 秒間千回にも及ぶその衝突は、荒々しい衝突を繰り返すような様子ながらも細部では両者の技量が光り、結果としてどちらも一歩も譲ることのない拮抗状態が続いていた。


「失敬な。せめて戦闘狂と呼べ! それにな」

「それに?」

「正義とか悪を現時点で語るのはおかしな話だ。勝った方が『正義』! 負けた方が『悪』!それが歴史というものじゃあないか!」

「なるほど。勝てばそれが正義だと!」

「そういう事だ!」

「なら」


 瞬き一つすることも許されない勢いの拳と剣の衝突。

 それはソードマンが撃ちだした僅かに大ぶりであった一撃を善が素手で掴んだ事で終わりを告げ、


「やっぱ悪人じゃねぇかおめぇ!!」


 そのまま剣士の腕を掴み、虚空に持ちあげたかと思えば大地へとぶつける、背負い投げにより終わりを迎える。


「ふっ!」


 しかし目前にいるのは『十怪』最強格。

 そのまま頭部を地面に衝突させるなどという事はなく、片腕で地面にぶつかる衝撃全てを受けきり、反撃で善の腹部を蹴ると、空中で一回転しながらも腰に携えていたペットボトルの水を撒き散らし、掌に収まるほど小さな短刀をいくつも虚空に作り、善へと向け発射する。


「おらぁ!」

「マジか!」


 その悉くを一切速度を緩めず叩き落とした善が彼の目の前にまで迫り、渾身の力で彼を蹴り飛ばす。


「まだだ!」


 そのままとどめを刺すために亜光速で肉薄し、勢いを殺さぬまま足を上げるが、


「いいやここまでだ」


 その瞬間、吹き飛ばしたはずの短剣が善の体を貫いていく。


「っっ!?」

「剣は私にとって手足に等しい。とするならば、この程度の芸当くらいはできて当然だろ?」


 思わぬ反撃に対し、顔を歪め硬直する善。

 そう語るソードマンの手には先程投擲した短剣が再び握られており、彼の意思に沿って虚空を泳ぎ始める。 


「さあて――――仕留めさせてもらうぞ」

「!」


 そのまま短剣は善の体に向かって飛来し、善は見えにくくなっていた物も含め全てを叩き落とし、


「流転水蓮!」

「おらぁ!」


 迫りくる高速回転する幾重もの水の刃によって形成された壁を、拳で破壊。


「選択を誤ったな」

「!」


 するとその壁の奥から白と黒の剣を携えた戦人の姿が現れ、


「双子三日月!」


 放たれた二発の水の三日月が、善の肉体を深く抉った。


「…………あの能力は使わないのか」


 その影響で全身から血を流し、口から勢いよく血を吐く善。

 彼は片膝をつき項垂れるのだが、その光景を前にしてもソードマンの表情は優れない。

 狙っていた光景を目にできず目に見えるほどわかりやすく落胆している。


「…………俺の能力は言うなれば奥の手だ。そうほいほいと使うもんじゃねぇんだよ」

「そうか、ならばこれで終わりか」

「兄貴!?」

「優! 援護を頼む」


 その様子を前に積が悲鳴を上げ、蒼野が慌てた様子で一歩前へと出て行こうとする。


「待って蒼野! 相手は『十怪』でも最強クラスの実力者。アタシ達が勝てる相手じゃ!」


 肩を押さえながらそう口にする優の意見は最もであり、なおかつ相手は強者以外は興味がない戦闘狂だ。

 このまま黙っていれば、刃がこちらに向くことはありえない。


「わかってる、分かってるさ! けど……」


 それでも蒼野は、いやまだ意識がある四人は考えてしまうのだ。


「もう周りの人が……死んでほしくないんだ」


 半年前、ヒュンレイ・ノースパスが死んだという事実を。


「「…………」」


 あの時の苦い経験を二度と味合わないために五人は強くなった。

 次は自分の手で止めるために、日々訓練を続けてきた。

 だというのにここで動かなければ、原口善は死んでしまう。



 ならば、この半年間は一体なんの意味があったというのだろうか?



「…………おい犬っころ。俺と蒼野で動きを止める。その間に善さんを……」


 彼らが胸に抱いた答えは全て同じであり、これから進むべき道をこの中で最も重い傷を負っている康太が示し、体を左右に揺らしながらそう口にして目前の敵を睨むと、 


「なに?」


 そこで彼らは思わぬ光景を目にすることにある。


「ど、どういう事だ!?」


 ソードマンが地面に刺さっていた短剣を呼びよせる。

 すると短剣は彼の意に従い彼へと向かっていくのだが、ソードマンはその短剣をうまくコントロールする事ができず、自身が呼び寄せた剣を手に刺してしまった。


 つまり…………普段ならば然程意識せずとも出来るはずの動作に失敗したのだ。

 結果彼は手から大量の血を流し、理解が追い付かず、その身を固まらせる。


「ねぇ見て! 善さんの様子が!」

「なぁ蒼野。お前クソ兄貴に能力使ったか?」

「いや使ってない。使ってない……はずだ」


 彼らの見ている前で、全身から流れていた彼自身の血が、逆再生のような動きで善の体に戻っていく。

 次いで体に刺さったいくつかの短剣が善の体から抜け大地へと落ちていき、満身創痍だったはずの体の傷を修復した善が、ソードマンを殴りつける。


「がっ!?」


 普段と比べれば幾分か遅いその一撃を、ソードマンは避けれない。いやそれどころか動く事さえできず、見事に顎を捉えられた事で、脳が揺れ、体の動きが瞬く間に鈍くなる。


「ま、いくら奥の手とはいえ隠したまま負けてりゃ関係ねぇ。ちょいとずるいが、相手はお前だけじゃねぇんでな。少しばかりずるい手を使わせてもらうぜ」

「!」


 その言葉を聞き彼は理解した。恐らくここまでの一連の流れが目の前の男による芝居で、自分はまんまとその術中に嵌ったのだと。


 焦りすぐに動こうとするソードマンだが迫る脅威には間に合わず、


「参式・乱天!」


 流星の如き勢いで撃ちだされた数多の拳が彼の身を抉り、


「こいつで………」

「お。おぉぉぉぉぉぉ……!?」


 攻撃を捌こう手を伸ばせばそれを潰され、回避しようとすれば行く手を遮られ、


「終いだ!」


 あらゆる反撃と逃走手段を一つずつ丁寧に潰され、最後の一撃が彼の頭部に突き刺さると全身を持ちあげ、捻るように回転しながら原形を失った大地に崩れ落ちた。


「悪いが、こっちは半年前に現代最高峰の双剣使いを下してんだ。お前程度に負けるわけにはいかねぇな」


 善とゼル・ラディオスにより、撤退していった面々の八割近くは討伐することができた。

 しかし幹部格以上を打倒することができていなかったゆえに彼は焦りを抱いており、その焦りが杞憂に終わり額の汗を拭く。


「さて、あっちはどうなってるかねぇ」 

「善さん。こいつは俺達が」

「ああ。頼む」


 とはいえ、戦いはまだ終わってはいない。

 ゆえに彼は視線を彼方へと向け、走りだす。


 かつて工場地帯で諦めた結果を、得るために走りだす。


ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


最終決戦開始。

なのですが、今回はかなりコンパクトにまとめられたと思います。

毎度毎度こうですと味気ないような気もするんですが、たまにはこう言うのもいいな、

等と思ったりしています。


なお、今回の話の最後で善さんがソードマンに捨て台詞を吐いていますが、

実際には決着はつかず終わったので、この言葉をレオンさんが聞いていれば必ずキレます。


それではまた明日、ぜひご覧ください

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