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スピーチ/王の号令


「ほいほい。んじゃ続いて第三問だ。ラジオを聞いてる奴らはしっかり聞けよ。テレビの前の奴らは…………ってあぶねぇな!」


 戦いの真っ只中に居ながらも銀の円盤に乗り一歩引いた位置にいるエクスディン。

 彼は楽しげな様子で持っていたメモ用紙ををめくるのだが、そんな彼と載っている銀の円盤型飛行物体へと向け再び、無数の銃弾が迫る。


「ま、そんなもん当たるわけねぇがな!」


 先程と同様にそれを躱す彼へと向け、空中を自由に移動できる面々が迫り、それらを手慣れた様子で撃ち落とすのだが、


「戦争屋!」

「と、神器部隊か。流石に全員は止めれねぇ……大将!」


 その奥から徒党を組んでやって来た見覚えのある顔の数々を前にして、彼の表情は引き締まり、地上で待機していたミレニアムへと呼びかけた。


「ふむ、ここまでか。ご苦労エクスディン。残る役割を終え、先に合流地点に向かうがいい。我もすぐに貴様を追う」


 ギャン・ガイアやソードマン、それにミレニアムがいくらか減らしたとはいえ、戦場を俯瞰していたパペットマスターからの報告によれば神器所有者の数は未だに二桁以上存在し、それら全てを相手取ることはエクスディン=コルには不可能であった。


 そこで彼が自身の雇い主の名を叫ぶと黄金の塊が飛翔し銀の円盤の前に立ちふさがり、円盤は更に上空へと移動していく。


「逃がすな! 追え!」

「いや追わせんよ。貴様らは、ここで死ね」

「!?」


 遥か上空へと飛びあがる円盤へ神器を構えた戦士たちが向かおうとするが、そんな彼らに対し威圧感が込められた声が投げかけられる。


「ミレニアム!」


 腕を組み立ちふさがる黄金の王に対し、鎧を纏った二メートル超えの大男がその身を超える程の大きさの大斧を掲げ振り下ろす。


「あの原口善でも俺を止められなかったのだぞ?」


 振り下ろされる一撃に対し、ミレニアムは一切動じず、腕を組んだまま回避する素振りすら見せない。

 ゆえに大剣は主の思い通りに振り下ろされ黄金の鎧に衝突し、周囲を輝かせるような火花を一度だけ生じさせ、それを見届けた黄金の王が練気により自身の拳を加速させ、目前の大男が纏う鎧を突き破り胴体に手刀をぶちこむ。


「ぶっ!?」

「貴様如きが! 一人で! 止められるとでも思っているのか!」


 内臓を抉られたことで男が口から大量の血を吐きだし、動揺している間にミレニアムが頭部を掴む。


「愚者が、我が野望の礎となれ!」


 すると男は命の危機を前にして大斧を振り回しミレニアムに対し抵抗を続けのだが、ミレニアムはそれらを全く意に介さず頭部を掴む右手に力を込める。


「HA!」


 すると男の頭部はミレニアムの握力に耐えきれず徐々に小さくなっていき、気合いの籠った声を発すると同時に、耳を覆いたくなるような音を発しながら消えていく。


「ミレニアムゥゥゥゥ!!」

「ム?」


 掌に付いたに肉片を退屈そうに振り払うミレニアムの全身に、突如強烈な衝撃が襲い掛かる。

 それは幾度となく繰り返され彼を僅かにだが後退させるのだが、それ以上の成果を得る事はできず、彼の胸中に高揚感は一切なかった。


「今お前が殺した私の戦友は…………一週間後に結婚式を控えていた。恋人と一緒になれて幸せだと、いつも朗らかに笑っていた!!」

「ほう、それで?」

「っ……幸せな未来が約束されていた者をその手で殺して…………何とも思わないのかこの外道!」


 そう口にする男の腕には大砲を撃ちだすためではないのだろうかと思える程の大きさの口径が付いており、それがミレニアムへと向けられる。


「ぬっ!」


 音もなければ煙も上がらない。

 しかしミレニアムの体には男が砲撃をした勢いで腕が上がるのとほぼ同時に衝撃が奔り、僅かにだが地上へと下降した。

「お前たちは先へと行け!! わが友の仇であるこいつは、俺が必ず!」

「おい、一つ聞くが、貴様は敵を殺す際に相手の事情なんぞを考えるのか?」


 幾度となく撃ちだされる砲撃をミレニアムは全て受ける。

 そうしていくらか彼を後退させたところで彼は背後を振り返り仲間に対し声を荒げるのだが、自分から目を離した隙を無視する程ミレニアムはお人よしではない。


「HAAAA!!」


 荒々しい叫び声と近づいて来る黄金の拳を前にして、男が神器を纏った腕を盾にして防御の体勢を取り、その様子を見ながらもミレニアムは拳を撃ちだす。


「ぐ、がぁ!?」


 両者が装備している武器は共に神器だ。

 硬度についてもある程度の差はあれど、世界最硬度のカテゴリーに属している事に違いはなく、どちらも同様に能力を無効化させることもできる。


 それでも、その実力には天と地ほどの差があった。


 拳を受け止めようと足掻く男の腕が、世界最強の犯罪者の膂力に耐えきれず飴細工のように容易く折れる。

 その痛みに脳が追い付くよりも早く、男の体がまるで隕石の如き速度で落下。巨大なクレーター作る勢いで、大地に衝突する。


「ぐ…………流石はミレニアムと言ったところか。だが!!」


 怒れる双眸でミレニアムを見る男が声を荒げる。

 それからすぐに立ち上がるために力を込めようとするのだが、全身の力はみるみるうちに抜けていき、どれだけ踏ん張ろうとも足腰は震え立ち上がれない。


「これ、は?」


 自分の体に何が起こったのかがわからない。

 そう思った彼が周囲を見渡してみると、自身の体が岩で形成された無数の槍に貫かれている事を認識。


「愚かな。正気を失なったものに敗北する程、このミレニアムは甘くはない!」


 天上から降り注ぐ声を前に怒りの感情が沸々と湧き出てくるのだが、その思いに反し体は動かず、男は恨みつらみを胸中に抱き、黄金の王へと手を伸ばしながら絶命した。




「いやー流石はミレニアムの大将だ。圧倒的だ」


 円盤へと向かってくる兵士たちを前に戦いを繰り広げるミレニアムの姿を、エクスディン=コルが遥か高みから眺める。

 彼が視線を飛ばす先ではミレニアムが数多の強者を前にしながら圧倒的な実力差を見せており、その姿に不安を抱かせる要素は一切ない。


「ま、この様子なら俺に対する追手はねぇだろ。焦らずに、しっかりと依頼をさせてもらおうじゃねぇか」


 そのためエクスディン=コルは焦らずしっかりとした手つきで隣に置いてあったカメラの電源を入れ、西本部とその前で繰り広げられる激闘を映しだし、嬉々とした声をあげながら、それまでテレビやラジオに釘付けにであった多くの存在に対し、訴えかける。


「さあてテレビやラジオの前の野郎共! いや違うな。未来の同志諸君! 最後にお前たちの不安を一つだけ解消させてもらうとしよう!」


 血で血を洗うような激しい衝突を繰り広げられる地上の戦争は、地獄絵図と呼ぶにふさわしい模様を示していた。

 戦況はと言えばエクスディンの介入から大きく変化しており、彼が来てから『境界なき軍勢』の面々は新しい装備を携え攻勢に出た事で、西本部側の戦力の大半が小さくないダメージを負っており、『境界なき軍勢』に押され始めていた。


「お前らはこう思ってるはずだ! 大層なことを口にするがそれをできるだけの実力があるのかと。口先だけの扇動者じゃないかと! その答えを…………ここで見せてやるよ!!」


 そう口にしたエクスディンが映した映像を前に人々が息を呑み、意識を集中させる。


 彼らに送られたのは、西本部内部をくまなく破壊するこれまでで最大規模の爆発の映像と、耳を突き破るかのような破裂音。そしてそれを見て士気を一層高め突撃する『境界なき軍勢』の姿だ。

 それらを前に各々が各々の意思で、千年間続いた均衡を崩そうとする新たな勢力に意識を注ぐ。


「あーそれと悪いな。これがされるはずだった第三問の答え。すっげぇ重要な内容だ」


 『境界なき軍勢』が西本部という最重要拠点の一角を崩し、役目を終えたエクスディン=コルが雲の中へと姿を消し、そうしながらも電源を落とさず話を続ける。

 これだけは伝えねばと、口を開く。


「まあ『境界なき軍勢』っつー名前の時点で半ば理解してると思うが、おじさん達は生まれや育ち、宗派による違いは設けてねぇ。賢教だろうが神教だろうが差別はねぇ。普通の人間だろうが亜人だろうが関係ねぇ。ただこの行き詰まった世界を変えるっていう目的のために、集まって暴れてる。そこらへんもしっかり覚えておいてくれよ?」


 普段の相手を舐めきったような態度ではなくどこまでも真剣な声でエクスディン=コルがそう伝える。


「んじゃまそういう事で、放送は終わりだ。どの道に進めば得をするか、よーく考えてくれや」


 それによる効果がどれだけあるかはわからない。

 しかし彼は確かな感触があったのを画面に流れるコメントから察知すると、電源を落とし放送を終える。

 それと同時に、世界中のあらゆる場所の電子機器をハッキングし、『境界なき軍勢』の存在を誇示した放送が、台風のような勢いを残したままその場から去っていき、それが今回の戦いの終わりの合図となった。



ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。

私用で遅くなって申し訳ありません。

本日分?の更新でございます。


急ぎ足なため普段以上に誤字脱字があるかもしれませんが、ご了承いただければ幸いです。


さて本編の方はというとミレニアム達『境界なき軍勢』のスピーチパート2。

彼らが仲間を勧誘する物語です。


これらの効果については、次回以降で語れればと思います。


さて、今回の大規模戦闘もそろそろ終盤へと突入。

その驚きの結果を、ぜひご覧ください!


それではまた明日、よろしくお願いします!


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