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ウルアーデ見聞録 少年少女、新世界日常記  作者: 宮田幸司
1章 ギルド『ウォーグレン』活動記録
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少年少女、死闘を演じる 五頁目


 自然発生した雷では、目の前の怪物は倒せない。

 ゆえに用意された雷属性の増幅装置を用いた威力の増強。加えて雷の衝突に合わせ水柱を球体に変化させることによって威力を外に逃さず集中。

 それらの策が合わさる事により、ただの自然発生でしかなかった雷の威力は、熟練の使い手でもそうは真似できない威力の怪物級の一撃に変化した。


「まだだ!」


 思惑通り青白く発光する水の球体を見て康太が叫ぶが手を緩める事はない。持っている雷属性粒子全てを避雷針に向け撃ち続け落雷を落とし続ける。


 それらは二度、三度、四度……幾多の雷撃が狂戦士に落ちていくき、眩い輝きで周囲を照らす。


「tuuuuuuuuuuuuuuuuuu!!!」


 これまで聞いたことのない叫びを耳にして、作戦の成功を確信し拳を固める蒼野と積。

 それから程なくして康太の持つ雷の属性粒子が切れ、それと同時に水の球体も解除される。


「a…………aaaa…………」


 全身から黒い煙を発し落ちてくる狂戦士は崩れた橋の島側におり、会った時同様に瞳の空洞からおびただしい量の赤い涙を流しながら片膝をつく。

 そのような状態でもなお橋の向こう側にいる蒼野達に迫ろうと立ち上がるが、狂戦士の体は痙攣を繰り返すばかりで前へ進むことはなく崩れ落ちる。


 雷属性の特性である痺れ状態における影響だ。


「逃げるぞ!」


 康太が叫んだのと時を同じくして雨が急激に弱まり、雷も止む。


 狂戦士が装着していた服の中に着こんでいた鎧が剥がれ落ち、康太たちにとって攻撃が通る千載一遇の好機が訪れるが、仕留めようと前に出る者は誰もおらず、積が用意した大型二輪に康太と積、優と蒼野のペアで跨り町へと向け疾走。

 音速を超える速さで走る機体は不安定に身を揺らし、それでも彼らはアクセルを踏む足は決しては離さず。明かりを放つウークの町へと駆けこんでいく。


「見えたぜゴール地点!」


 目を凝らせばそこにあるのは、深夜の町を照らす眩いばかりの光。

 この地獄のような世界から抜け出す天国への道標を前に、積の喜びに満ちた声が雨の騒音を掻き分け他の三人の耳を衝く。


「っ!?」


 だがその瞬間、康太の背筋に寒気が奔る。


 それは想定外の事態であった。

 振り向いた先には体を覆う鉄の板を外した狂戦士が存在しており、体を襲っていた痙攣から解放され、四人から然程離れていない位置にまで迫ってきている。


「おいおいおいおい! 今の喰らってまだそんな動けるのかよ!」


 このままでは追いつかれるという非情な答えが四人の脳裏に浮かび、積が声をあげる。

 どうにかして足止めをしなければ、全員が命を落とすと瞬時に悟る。


「優、ここまでありがとな。先に行け」

「ちょっとアンタ!?」


 その時、すぐさま立ち上がったのは、優の体にしっかりとしがみついていた蒼野だ。

 彼の声は震えており、足に籠る力は頼りない。


「俺が……残る!」


 しかしそんな状態でも勇気を振り絞りそれだけ伝えると、残る三人を逃がすために少年は大型二輪から飛び降りた。




「Shiiiiiiii――――――――――――――――aaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!」


 迫る蒼野を目にして叫び声をあげる狂戦士。

 それだけで背筋が凍り、ゲロを吐きそうになり、心臓が破裂しそうなほど大きな動悸が襲い掛かるのだが、少年はすぐに自らの信念を頭に浮かべる。


「俺が皆を…………助けるんだ!」


 手の届くところにある全ての命を助けたい。誰かが死ぬというのならば命がけでそれを止める。

 そんな自らの信念を思いだすだけで力が湧いてくる。目前に迫る絶望を拒絶すると体が動く。


「――――ふっ!」


 振り下ろされた蒼野の一撃が、狂戦士へと向かって行く。

 すさまじい速度で四人に迫っていた狂戦士は、自分に向け近づいてくるその存在に対し反撃しようとするが思うように体を動かす事ができず、初めて防御の構えを見せる。


「っ!」

「aaaa………………」


 刃と鉤爪が衝突し、火花が上がる。

 蒼野の渾身の一撃は話にならないとばかりに容易く弾かれるが、その衝突により狂戦士は前へと走ることを中断させられ、目の前の少年とにらみ合う。


「クソッ、予定通りに行ってねぇ!」


 そうして蒼野が命がけの足止めを敢行する中、堤防へと到着した積が悪態をつく。


「ちんたらしてる場合じゃない!」


 そんな中でまず動き出した優は堤防を駆け抜け、奥にある町へと姿を消していく。

 それに続いてアクセルを全力で踏もうとする積を、康太が止まるように指示を出す。


「なんだよおい!」

「あいつらを……見ろ!」


 痛みと疲労により満身創痍の康太だが、雨と風が止みかけ、そう距離も離れていない二人の場所までなら正確に見る事は十分できる。


「俺達が、蒼野を助けるんだ……」


 体勢を整えようと動く狂戦士へ、風の刃の応酬で猛攻を仕掛ける蒼野。不可視の斬撃は狂戦士の体を捉えきることはできずにいたが、体勢を整える隙を与えず、蒼野を優勢な状態に導いていた。

 それでも…………康太の表情は浮かない。

 決定打には届かないと康太の直感が残酷な結果を導き出した。


「くそ、体力が…………」


 自分に何かできる事はないであろうかと考えるものの体は疲労に屈し、重い瞼は自然と閉じ、現実と夢の境目が混濁、


「一閃!」


 再び瞼を開いた時、地を這う風の刃がついに狂戦士を捉え、膝をつかせる瞬間を目撃する。


「勝機!」


 これから先、二度と来ないかもしれないその状況に、蒼野の腕に力が籠る。

 彼は強化した刃を大上段で振りかぶり、振り下ろした剣は膝をついている狂戦士を捉え吹き飛ばし、


「え?」


 追い打ちをかけようと進む蒼野の体に…………無数の風穴が空く。

 突然の事態に驚きながらも慌てて能力を発動させようと蒼野がしたところで、


「あ…………」


 それよりも早く、彼の首と胴体が離れていく。

 そうして少年の命が尽き、地面には血の華が一つ咲き誇ると、狂戦士の視線がこちらへと向けられた。


「蒼野!」

「うわ! いきなり叫ぶなよ!」


 そんな光景を前に康太が叫んでみれば、戦いは未だに続いている。


 とはいえ、今康太が垣間見た光景は、夢と断定するにはあまりにも鮮明であった。


「はぁ! はぁ!」


 そう、まるで未来を見たかのような感覚であった。


「なんだよ……それ!」


 その光景を思い返し、古賀康太は思う。

 この瞬間を変えてこそ、自らの人生に意味はあるのではないかと。




 大切な家族を護るために、銃を得た。

 大切な家族を護るために、人を殺す。


 今と同じく雨の日の出来事であった。


 彼の尊敬する義兄が命を落としかけた。


 その時初めて未来視に近い勘を得た康太は、犯人とされる人物を追いつめ命を奪った。

 とんでもないことをしてしまったという意識はもちろん芽生えたが、同時に彼は二度と家族が危険な目に合わないよう強くなろうと心に誓った。

 残念ながら平均と比べればどの属性粒子も少ない量しか使えなかった康太であったが、全属性の粒子が使えるため、多種多様、利便性に富んだ能力を覚える道も考えたが、どの属性粒子も量が少ないためその道は諦めた。


 選択肢が減り、選んだのは銃だった。

 少ない属性粒子を圧縮させ打ち出す技法。近距離から遠距離まで、あらゆる状況に対応できる強さ。

 そして何より、銃で撃てば人は死ぬという単純な理論。

 その子供でもわかる簡単な法則が気にいり、康太は銃を使う事を決め、来る日も来る日も鍛え続けた。


 雨の日も、雪の日も、仕事終わりの極度の疲労にも耐え、毎日鍛え続けた。

 家族を守るために必要な力を得ようと他にも色々な事を覚えた。


 全ては、掲げる信念を貫き通すための頃であった。


「くそっ、くそぉ!」


 そこまで力を磨き続けていたというのに、目の前の怪物はそれらをあざ笑うかのように全てを蹂躙する。

 その点については文句もあるが口には出さない。そんな存在が世界にはごまんといる事などわかりきっていたことだ。

 それでも、今見た未来だけは現実にしてはいけないと脳裏で叫ぶ。

 視線の先で戦い続ける両者に意識を集中させ、活路を見出そうと躍起になり、ほんの十数分の記憶を蘇らせ、進むべき道を見出そうと頭を絞る。


「思いだせ。思いだすんだ!」


 出会い頭に力の差を教えられ、隠れている間に西本部の兵士らしき人物たちが惨殺され、蒼野が死にかけ、気が合わない女と組み時間を稼ぎ、そして作戦通りにダメージを与えることができた。


「考えろ。考えろ考えろ!」


 弱点は、隙は、ないのならせめてこちらに意識を向けさせるような、そんな方法は、


「ん?」


 そこまで考えたところで、何かが引っかかる。

 必死の思いで戦いを挑む三人組。そんな彼らの内の一人が与えた肘の傷。

 圧倒的な強さを誇る狂戦士が、手傷を負う。考えてみればおかしなことであった。


 ダメージなど気にせず突き進むタイプならば何らおかしくないが、目の前の存在は違う。大型二輪から飛び降りた際に振り下ろされた一撃はしっかり防いでいたし、今だって攻撃のダメージを最小限に抑えるような動きをしている。

 こちらの攻撃に構わず攻めてくる事はあるが、それはダメージがないとわかってのことのはずだ。だからこそ、なぜ狂戦士は血を流すような一撃をくらったのかが問題となる。


「傷を負ってまで優先することがあったのか?」


 そんな考えが康太の口から突いて出て、彼の思考を支配。

 考えて、考えて、考えて、その末に思いついて自らの答えが正しいと信じ、


「蒼野ぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 迫る最悪の瞬間を避けるために、声をあげ銃を握る。

 狙いを定め、引き金を引く。


 そうして放たれた弾は跳躍弾は橋の鉄骨に当たり蒼野の体を隠れ蓑に使い、


「aaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」


 その瞬間、蒼野の股下を通り現れる跳弾に狂戦士の視線が注がれ、自らの被る仮面へと迫る弾丸を最優先で両断。

 再び蒼野に意識を向けたところで、


 勝利へと向け邁進する蒼野がいた。


「は、ハハ」

「おいおい大丈夫か!!」


 体力の限界が来たのか康太が意識を保てず力尽き、瞼を閉じる瞬間に見えた光景を脳裏に焼きつける。

 それは圧倒的な力の差があるにもかからず、不屈の思いを瞳に宿し、怪物へ向け走る義兄弟の姿だ。

 無論、どれだけ足掻こうが力の差は歴然だ。決して敵う相手ではないという事実は変わらない。

 しかしそれでも、康太の心はなぜか安心感に包まれていた。


――――――――蒼野が負けるはずがないと確信できていた。



ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


という事で戦いは佳境へ。恐らく蒼野達4人対カオスは次回でほぼ決着だと思います。

お楽しみに。


あと、もしよろしければブックマークや評価をお願いします。

少しでも増えていると、それが励みになります。


では、また明日お会いしましょう。

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