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西本部襲撃事件 四頁目


「流石は西本部長ゼル・ラディオスと言ったところか」


 眼前で繰り広げられる光景を目にしながら、背後で行われている騒動の鎮圧を行い善は嘘偽りのない喝采を送る。

 ゼル・ラディオスが所持している神器を使い始めた瞬間、劣勢であった状況はほんの一瞬で好転し、既に相手方の戦力の約一割を削っている。


「噂では聞いちゃいたが、まさか単騎で雨と見間違える程の針を撃ち出すか」


 ゼル・ラディオスが使う神器『賢者の魔針』は様々な毒を備えた針の神器だ。

 一度に発射できる毒の種類は未だ解明されていないほどの数が存在し、弾数の限界値も不明。

 一本一本が鋼鉄さえ貫けるほどの速度と威力だけが認知されている。


「さて、となりゃ俺が潰さなけりゃならねぇのはあのどっちかか」


 状況が当初の計画に近いものに変化し、取るべき道を考える。

 彼が動くとして最速で対処しなければならないのは二ヶ所。


 すなわち、雨のように降り注ぐ神器の猛攻を前にしても動き続けるソードマン周辺とギャン・ガイアだ。


 その二人の状況はといえばギャン・ガイアは先頭付近で攻撃を受けながらも平然とした様子で前に進み入口へと迫っており、ソードマンはといえば入口から少し離れた位置で先頭の部隊が入って行くのを眺めている。


「流石に対応が早いな」


 ギャン・ガイアの元へと動きだそうとしたとき、その側で爆発が起きる。

 同時にギャン・ガイアへと向け神器を掲げた戦士が五人程向かっていき、その背後から現れた十数人の兵士が銃撃による援護を行う。

 その光景を目にしながら善がギャン・ガイアの纏う気を確認すると、その身に纏う空気は消沈したもので、これならば然程脅威ではないとすぐさま判断する。


 ギャン・ガイアはソードマン同様武闘派にカテゴライズされる『十怪』だ。

 ただ彼の場合その強さは他の武闘派連中と比べ『ムラ』がある。


 というのも信仰心に燃えていたり『邪教』と判断した宗教を破壊する際は『十怪』最強クラスの実力を発揮するのだが、テンションが盛り上がっていない場合は『十怪』の武闘派の中でも最弱クラスにまで力が落ちるのだ。


 今のギャン・ガイアは最弱の状態にかなり近く、神器使いが五人とその援護がいるのならば、そうそう負ける事はないと善は判断。

 視線はギャン・ガイアからソードマンへと移り、最寄りの窓から外部へと跳躍。


「よお。まさかお前がそっち側につくとは思わなかったぜ!」

「原口善か! こいつはいい!」


 針の雨をものともせず、仲間を入口から中へと入れるソードマンの真正面に着地。

 拳を握り攻撃に映るよりも早く高台から飛び降りたソードマンが、獰猛な笑みを浮かべながら腰に携えた二刀を抜刀し、善の首を斬り落としに襲い掛かる。


「なんだ。俺と戦いたかったのか? あいにくだが、俺はお前のような面倒な輩はお断りなんだが」

「そう言うな。仲良くしようじゃないか!」


 するとその挟みこむような一撃を善は真正面から掴み取り、両者の衝突により衝撃波が生じ、その勢いに押し負けた針の雨が周囲に吹き飛んで行く。


「思ったよりも容易く止めるな!」

「悪ぃな。首を執拗に狙う馬鹿とはここ最近戦ったばっかなんでな!」


 頭の片隅に自身の友の姿を連想しながら掴んでいた二刀を真上へとかち上げ、がら空きになった腹部へと数発の拳が叩きこまれる。


「そうか! それは楽しめそうだ! どちらの方が厄介だったか、後で教えてくれ!」


 しかしそれを受けてもなんの影響もなさそうな様子でソードマンは再び前へと飛びだし、剣と拳が対峙する二人のど真ん中で衝突。

 拳と刃の衝突により被害を受けているのは剣の方で、善の拳が触れるたびに白と黒の長剣は刃こぼれを起こし、瞬く間に行われた千回と少しの衝突が終わったところで、ソードマンが手にしている二本の剣の刃が折れる。


「そらよ!」


 均衡していた状態が崩れ、善が相手の領域へと一歩前進。

 打ち出された拳はソードマンの頬を僅かにだが捉えるのだが、その顔に浮かぶ笑みを見て、善は危機感を抱きすぐさま後退。


「流石に勘がいいな!」


 次の瞬間、善の両肩の端の辺りから胸筋にかけて二本の線が描かれ、僅かに間を置いて真っ赤な絵の具が溢れだした。


「……どういうトリックだ。俺は確かにそいつを砕いたはずだが?」


 動揺する善が視線を移した先には白と黒の対になった剣があり、破壊したはずの刃が再生している光景を不審に思い目を細める。


「ふふん。よく見ておけ。種もしかけもありはしないぞ」


 そう言いながらソードマンは腰に装着している専用のホルスターから無色透明のペットボトルを取りだすと、そこから水が溢れたかと思えば瞬く間にソードマンが持っているものと同じ白黒の剣が生成される。


「マジか」

「マジだマジ。水から作られた環境に優しいエコな剣だ。いいものだろう?」


 戦いの最中であるというのに散歩でもするように気軽で話される内容に彼は驚く。


 善の拳は達人の剣や銃であっても、問答無用で破壊できる程の硬度と威力を備えている。

 それは拳だけでなく全身全てが同じで、並の攻撃ならば傷がつかないほどの強度を誇っているのだ。

 その肉体を、攻撃には極端に向かない水属性で作られた刃が斬り裂いている。


「ギャン・ガイアとどちらの方に向かうべきか迷ったが、お前の方に飛んできて正解だったな。他の奴には任せられねぇ」


 これまで交戦したことは一度もなく、戦闘データで確認するのみであった相手。

 しかし遭遇してからこれまでに行われた衝突でその実力を実体験し、自らの選択は間違っていなかったと善は確信を抱いた。


「いやぁ………………今回に限って言えばお前が早いタイミングで出てきたのは悪手だぞ」


 しかしその判断を、対峙する男は否定する。


「……そりゃ一体どういう事だ?」

「いや当たり前の事を聞くが、あんたがここに来たとしてあれを止めるのは誰だ?」

「あれ?」


 投げかけられた問いを前に疑問の声をあげる善だが、ソードマンが指差した先、遥か上空から落下してくる隕石の如き物体を前に事情を理解し、すぐに動きだすがその行く手をソードマンが阻む。


「ちっ。まあそりゃ行く手を阻むわな」

「そういう事だ。だからこそ、お前の一手は悪手だと言ってるんだ」


 そう語る男と善の頭上をその物体は通りすぎるとまっすぐに西本部へと向かって行き、無数の針の雨さえものともせず屋上に衝突。


 その瞬間――――――――空気が変わった。




「本部長!」

「下がれ!」 


 この西本部を巡る闘争は両者にとって混乱に満ちた始まりを見せた。

 西本部側は内部の混乱を何とかせねばと多くの者が必死になり、今もなおその対応は行われ続け、


「い、一体何が?」

「説明は後だ! 万夫不当の戦人以外は、ここから退避しろ!」


 『境界なき軍勢』は、毒を含んだ針の雨に晒され、阿鼻叫喚の地獄を前に何とか耐えようと一部を除いた大半が対処に追われている。

 しかし『何か』が西本部に衝突し大地を揺らすかのような爆音を耳にして大半が意識をそちらに注ぎ、ゼル・ラディオスが無限に降らしていた針の雨が止んだことで、『境界なき軍勢』の者達は戦場に突如現れた物体に対し期待の視線を注ぐ。


 彼らは皆知っているのだ。今西本部に舞い降りたものが何であるのかを。


 西本部の天上に衝突したその存在の姿が、砂埃が散り顕わになる。


 そうして現れたのは――――――黄金だ。

 三百六十度どの角度から見ても太陽の輝きを跳ね返す、巨大な黄金の塊だ。


「ほ、本部長。まさかこいつが!」

「賢者の魔針エグワイト!」


 ゼル・ラディオスの周辺に居た面々が緊張した面持ちをしながら後退し、彼らを守るようにこの場所の主が立ちふさがり無数の針を生成。

 するとその黄金の塊は僅かに揺れたかと思えばその姿を消し去り、西本部長の脇を彼が反応できない程の速度で通り抜けたかと思えば逃げていった数人に追いつき、


「ぐぃ!?」

「ほ、ほんぶちょ!?」

「っ」


 彼らが何らかの抵抗をするよりも早く、伸ばした腕で頭部を掴み容易く砕く。


「き、貴様!」

「下らん。脅威に立ち向かう覚悟なき者が、戦場を闊歩していい道理はない」


 すぐさま振り向いたゼル・ラディオスが目にしたのは、鋭角的なデザインをした、頭部までがっしりと守られた黄金の鎧を着た、一人の偉丈夫。


「そうは思わんか…………西本部長ゼル・ラディオス」


 彼はそう告げながら一歩前へ進み出すのだが、


「う、撃て撃て撃てぇ!」


 次の瞬間、騒動が鎮静化した監視台の一部から飛びだした狙撃兵が、空を走り黄金の鎧を纏ったその男へと向け、無数の銃弾を浴びさせる。


「怯むな! 弾幕を絶やすな! 引き金から手を離すな!」


 本来ならば大地を埋める敵陣に向けて放たれるはずだったそれは、間を置くことなく延々と目標にぶつかって行くのだが、男は一切怯む様子もなく屋上から移動し要塞の壁へと移動。


「フハ!」

「どれだけ弾かれようと怯むな! 我々の手で! 勝利を掴むのだ!」


 そう口にしながら攻撃を続ける兵士たちを男は歓喜の声で迎え撃ち、銃弾の衝撃などものともせず、虚空へと手を伸ばす。

 すると出て来た狙撃兵たちが手にしている銃全てに黒い塊が生じ、音を立てながら捩れ、砕けていく。


(手にする兵器は破壊した。さあ、次は何をする?)

「!」


 その様子に彼らが目を丸くしていると彼ら全員の脳内に念話が送られ、彼らが念話の主の方角を見つめると、彼は両手を使い自身へと向け手招きして煽る。


(私に仕える全ての部下に伝える。攻撃の対象を変更せよ)


 その姿を確認した大半が属性粒子を全身のどこからか放出し飛びだそうと動き出す中、それを諫める声が彼ら全員の脳に再び念話で送られる。

 

(し、しかし!)

(なぜですか本部長。例えあなたといえど奴の相手は!)

(やめません! やめれるわけがない!)


 念話越しに送られてくる指示を前に各々が否定する中、屋上に陣取る男は息を吐き、


(私の身を案じる諸君らには感謝しかない。しかし君たちの責務はこの場所を管理する私を守ることではない)


 ただ本来するべき任務を彼らに伝える。


(諸君らの仕事は賢教と賢教に属する民を守ることだ。ならば今狙うべきなのはミレニアム一個人ではない。我らが支配する地を崩そうと目論む大地を埋める罪人どもだ)

「「!」」


 多くの者達が、ゼル・ラディオスの言葉を聞き目を見開く。成すべき使命を思い出し、胸を燃やす。


『忘れるな。我らは賢教の守護者だ。命尽き、体を失おうとその魂により守護の務めを果たす永劫の騎士だ。そんな我らが、向かうべき相手を間違えてはならない』


 気が付けば黄金の男に向けられていた視線は全て離れ、それに合わせ地上を駆ける敵対者へと向け、様々な攻撃が行われていく。


『これより私は、悪鬼羅刹を狩る騎士となる。その間、地上への諸君らに任せた』


 屋上にいる彼がそれだけ伝えるとその声を受けた兵士たちが、攻撃の圧を増していく。


「賢者の魔針エグワイト!」


 その姿を見届けると彼は自らの神器の名を唱え虚空に数多の針を生み出し、真下から現れる黄金の王を待ち構え、


 そして――――――――


「改めて――――」

 

 上へ上へと昇り続けていく黄金の王が屋上へと辿り着き、


「お初目にかかる。貴様がゼル・ラディオスだな?」

「あぁそうだ」


 世界最強の悪、『三凶』革命王ミレニアムは彼の前に君臨した。



ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


夜分の更新になってしまい申し訳ない。

本来予定していた内容から変えたため、思ったよりも時間がかかってしまいました。


そんな今回の話では二章全体における最大の敵が登場!

ヘルス・アラモードと並ぶ『三狂』の一角、革命王ミレニアムです!


彼については今後色々と語って行く事になると思うので、よろしくお願いします。


ただ、次回はちょっと視点が別の方に行って、蒼野とゼオスについての話になります。

次回一話で終わる程度の内容だと思うので、ご了承いただければ幸いです。


それではまた明日、ぜひご覧ください!


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