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即興劇――――Impersonators



「ぐ、むぉ……?」

 

 古賀蒼野が目を開けたのは、全身を襲う熱に襲われたからであった。

 目を覚ました時、彼の全身は炎属性耐性を貫いてきた溶岩により嫌な音を発しており、隣に目を向ければ、歯を食いしばりオーバーに殴られた痛みに耐えているゼオス・ハザードの姿があった。


「ぜ、ゼオ、い!?」


 ほんの数秒前、彼らは確かに遥か高みに座す敵対者を打倒する寸前まで迫っていた。

 しかし最後の一歩を踏みこみ撃破に至るその瞬間、彼らは弾き返された。


 ゆえに、最後の一歩は詰められず、今こうして横たわっている。


「……届かなかった、か」


 蒼野の横で頭部から血を流し、服を真っ赤に染めるゼオスの口から漏れるのは純然たる事実。


 自分たちは確かに、満身創痍ながらも脅威である存在に手が届く位置まで到達した。


 しかし――――打倒には至らなかった。


 対等に戦える段階までは辿り着いたが、同時に最後の一手だけは届かないという、勝利の二文字は決して得られないであろう現実に息を吐き、彼はこれから先を思い浮かべる。


 おそらくこれからどれだけ技や気合いで押し込もうとしても結果は変わらず、今の自分たちでは絶対に勝てない。


「…………残念だがここまでだな。退くぞ古賀蒼野」


 そう結論付けてしまえば彼の選択に間違いはなく、


「待ってくれ。ここまできて…………ここまで来て引き下がれるかよ!」


 しかし蒼野は胸に抱いた意地からそれを拒む。


「……そもそも、この戦いは住民たちが非難するまでの時間稼ぎが最大の理由だったはずだ。ここに来たことも、十中八九打倒せしめていた奴の状態を、確認で来ただけだ」

「!」


 だが大前提として、この場にやって来たのは自分たちが勝ったという思い込みがあったからであり、ここでもう一度戦う事自体が想定外の事態に他ならないと告げるゼオス。


「……諦めろ。今の俺達の実力では、奴には勝てん」


 ゆえに彼は蒼野をなだめるように、普段ならば出さない優しげな声色でそう告げるのだが、


「…………!」


 彼の見ている前で古賀蒼野は、朧げになっている意識を覚醒させるかのように自身の剣の柄で自身の頭を叩いた。


「…………古賀蒼野、貴様気でも狂ったか?」


 そのあまりに突拍子もない行動にゼオスが目を丸くしながら嘘偽りのない言葉を返すのだが、


「優が……いや善さんやゲゼルさんだって言ってた」

「?」

「相手に毎回勝つ必要はない。重要なのは、大切な一戦に勝つことだって。千回中九百九十九回負けて一回だけ勝てる運命があるのなら、それを好きな時に持って来れるのが本当の強さだって」

「…………貴様、一体何を言っている」


 頭から自身同様血を流し、全身を真っ赤に染める古賀蒼野。

 その瞳にはなおも戦いを継続するだけの意志が宿っており、しかし狂気を纏っているわけではないと理解しゼオスが尋ねると、


「要するにこれって、格上に勝つ場合は、実力以上に見せていない手札が重要って意味だと思うんだよ」


 そのために技術や奥の手、そして地形等、持ちうる全てのものを使うのだとでも言いたげな様子で彼は言い切り、ゼオス・ハザードは嫌々ながらも口を開いた。


「…………なるほど道理だな。だが今このタイミングでそこまで言うというのなら、さぞや立派な策があるのだろうな?」


 その言葉には挑発や侮蔑の意が多分に含まれおり、普段の蒼野ならばそれを聞けば渋々でも引き下がるはずであった。


「ああ、あるぞ『とっておき』が。あっちから攻めてくる様子はないが念のためだ。念話で作戦の話をする」

「……何?」


 しかし蒼野はそれらを気にせず素直に返すと、荒い息を吐き続けるオーバーを警戒しながら、自らが考えた『とっておき』をゼオスに伝えた。




 限界が差し迫り、追撃に出ることさえ億劫なオーバー。


「!」


 彼が見ている眼の前で溶岩を天へと昇らせる程の地響きが起こり、


「やるぞゼオス!」

「…………」


 その奥から声が聞こえてきたかと思えば、溶岩の壁を突き破り、頭から足元まで全身を真っ赤に染めた二人の少年が現れた。


「そうかい。ここまで足掻いた褒美で、逃げるのならそれでいいと思ってたんだがな……」


 彼の目の前で前後で重なるように駆ける二人。

 彼らに対しオーバーは嘘偽りのない賞賛の意を込めながらそう呟き、炎の球体を無数に作りだすとそれを撃ち出し、すると蒼野とゼオスの周りに無数の風の球体『風臣』が現れそれらを迎撃。


「時間回帰!」


 蒼野が叫ぶと同時に、半透明の丸時計が縦に並ぶ二人を守るように展開される。


「ふっ!」


 前に立つ蒼野がそれを投擲するとオーバーは跳躍して容易く躱し、黒い渦を真後ろに展開し後方に跳躍した一方を無視し、前方から迫る切れ味のない剣を携えたもう一方に意識を注ぐ。


「馬鹿共が。あそこで逃げてりゃ生き延びれたのになぁ!」


 そうして二人の少年によって行われのるは数十秒前に見せた時と同じ、嵐のような勢いと手数による挟み撃ち。

 それは脅威ではあるものの彼は全てを受け流し、同時に行われた大ぶりの一撃を拳で弾いた所で再び両者の頭部を叩く。


「……が」

「はぁ!」


 大量の出血が原因で足取りがおぼつかない二人であるが、それでもこれまでと比べ比較的早く体勢を立て直すと、闘志を宿した瞳で目前の巨体を睨む。


「ハハッ。ここまで好き勝手暴れたんだ。最後まで踊れよクソガキ共!」


 その様子に歓喜の笑みを浮かべながら対応するオーバーは残った地属性粒子を固めて拳に纏い、更にその上から炎を装着。


伴愚漸ばぐざ!」


 そのまま二人の頭部へと向けると両手の炎が眩い光を放ち、


「「!」」


 二人が首を動かし紙一重で躱すのを確認すると同時に一歩引いた。


「悪いが、ここで終いだ」


 すると彼は剣を握る二人の足を引っかけ体勢を崩し、


「まずはテメェからだ古賀蒼野。さすがにもう…………そいつは使わせねぇよ」

「!」


 漆黒の剣を伸ばし自分へと攻撃を届かせようとするが奇妙な硬直を見せた一方から視線を離し、半透明の丸時計を目の前に浮かせている少年へと向き直る。


折吏悟おりご!」


 するとオーバーは盾として構えられた半透明の丸時計を前にして回り込み、岩石で固め熱を最大限に込めた手刀で真横から少年を大地に沈める。


「――――――――!」


 寸でのところで体を捻ったものの、決定打として振り下ろされた第六位の一撃を完全には躱しきれず、少年は胴体の瞬く間に約八割を抉られ、口から血を吐き大地を真っ赤に染めながら崩れ落ちる。



――――こうして、戦いは終わりを告げる



「時間回帰」

「あ?」


 二人の少年の……最後の奇策が炸裂し勝敗が決する。


「は、はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 自身の体がどれだけ足掻いても動かず、半透明の丸時計が自分の前に展開されているのを確認し、彼の口から声が上がる。

 それは信じられない光景を目にしたという驚愕の声だ。


「よかった……通じた…………」


 ゆっくりと、本当にゆっくりと時間が戻っていく中、漆黒の剣を携えていた少年が腕を伸ばし、即死でもおかしくない、同じ顔の少年に能力を行使し時間を戻す。


「ゼオスには悪いが、俺一人で決めさせてもらうか……いや殺さない事を第一に考えるならむしろ好都合か」


 傷は直し、呼吸は正常。しかし意識を取り戻さない戦友を確認しながら蒼野は数秒かけて立ち上がり、剣を捨てて拳を構える。


「ど、どういう事だ、えぇおい!? なぜゼオス・ハザードが時間回帰を使える!?」

「やっぱそういう認識だったんですね。まあ、だからこそ勝てたんですけど」


 土壇場の撤退するかどうかという瀬戸際の中、蒼野がこの作戦を思いついたのは血だらけの同じ顔をした少年の姿と、敵と認めながらも自分たちの事を個別に呼ばないオーバーの事を思い浮かべたからだ。


 その時彼はふと思ったのだ。

 


 もしかしたら、目の前の存在は自分とゼオスの見分けがつかないのではないだろうか?



 出会いがしらから一緒くたに呼んでいたためどちらがどちらかなど技や能力でしか判断していないとして、そんな存在が相手ならば全身を血で染め拭くまで真っ赤にすれば、欺くことが可能ではないか?


 そう思った蒼野は武器の持ち替えを提案し、

 二人とも能力を使う際はもう一方の前に展開できる距離以上には離れず、決して自分を守ることはしなかった。

 オーバーがゼオスの持つ蒼野に剣を向ければ身が硬直する習性を利用した瞬間、ゼオスは剣を前に突き出さず、蒼野が途中まで剣を伸ばしピタリと止めた。


 そして


「クソォ! クソォ!」

「風塵!」


 奇策を通した蒼野が拳に風属性粒子を集中させ、オーバーの体を岩石落下の時点まで逆行。


「クソォォォォォォォォォォ!!!」

「突! 貫!!」


 彼の身を包みこむ光が消失したのと同時に、全身に炎や岩石を纏われるよりも早く、撃ちだされた特大の一撃が彼の肉体を貫き、その威力に耐えきれなかった浅黒い肌をした巨体が宙を舞い、大の字で溶岩の海から離れた位置に崩れ落ちる。


「馬鹿な……この俺が…………世界最強たる……………この俺が…………………………!」

「ゲゼルさんを殺した貴方は、確かに世界最強かもしれない。今の俺達が百万回戦ったところで、満身創痍のあなたに勝てるのは一回あるかないか程度かもしれない」


 怒りを燃料としてなおも立ち上がろうとするオーバーであるが、思うように体は動かず、頭を上げることすらままならず、


「けれど……その一回を、俺達は今日ここでいただきます」


 そんな彼に対し蒼野は語り続け、


「く、クソガキ……共、が………………」


 最後にそんな言葉を残しながら彼は意識を失った。




「はぁ~~~~~~~~」


 意識を失った姿を目にした蒼野の肩から力が抜ける。

 意地と決意、そして強くなって行く高揚感で何とか立っていた蒼野は側に会った大きな岩に背を預けながら崩れ落ち、


「何とか…………生き延びれた」


 疲労感と倦怠感、そして緊張感を吐きだすように息を吐いた。


 それは、この死闘の終わりを確かに示していた。


ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


という事でvsオーバー編は完結!

皆さまここまでありがとうございました!


次回から数話は後始末ですので、気楽にご覧ください!


それではまた明日、ぜひご覧ください!


あと、もしよければブクマや評価、感想をお願いします。

それが生きがいになるので(汗)

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