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セブンスター第六位 オーバー 二頁目


 業火が世界を埋め尽くす。


「!?」

「……!」


 ルティスの言葉を聞いた蒼野とゼオスの動き出しはかなりの速さであったのだが、それでもオーバーを中心に広がる巨大な火柱を完全に避けきる事はできず、熱を纏った空気が彼らの体を撫でながら、ビルの壁に体を押し付ける。


「はぁ……はぁ……」


 闇よを貫く業火の柱が消え去り、静寂が周囲を埋めていく。

 すると炎の中心にいた男は口から熱が込められた息を吐きだし、こぼれ出た液体が地面に触れると煙が上がりのだが、そこで彼はある事に気が付く。


「…………ちっ、ゴミ共が。この下に隠れてやがるのか」


 下ろしていた頭を上げ上下に肩を揺れ動かしながら見た先には、これまで熱と衝撃に耐えきっていた地面に生じた小さな亀裂。

 その奥をしっかりと凝視した彼の目に映るのはレウが隠したがっていた真相。

 暴れまわる災厄から逃げるために地下へと移動した人々の、恐怖に染まった表情だ。


「おらぁ!」


 それを確認した彼は怒声を上げると地面に地属性の粒子を流し、周囲一帯の強固な地面を隆起させひっくり返す。


『ま、まずいまずいまずい!』


 オフィス街に連なっていたビル群が原形を留めたまま傾き、崩れ落ち、地下通路を移動していた人々の悲鳴がその轟音に負けもせず彼の耳に木霊する。


「おーおーおーおー。まるで巣を攻撃された蟻だな。えぇおい!!」


 その様子を眺めるオーバーがひとしきり笑うと、天上に向けて手を伸ばし、大量の炎と地属性の粒子を放出する。


『流星が来ます!』


 脂汗を流すレウの真横で、画面を見ていたルティスが叫ぶ。

 すると攻撃の余波で真逆の方角へと吹き飛んでいた二人がその意味を理解し立つ上がり、ゼオスが蒼野の前にまで能力で移動。


「……吹き飛ばせ」

「わかってる!」


 各々が自らの役目を達成するために蒼野が時間を戻し傷を修復し、疲労と傷の痛みで重くなった体に鞭を打ち力を振り絞る。


「しくじるなよ!!」

「…………古賀蒼野よ。それは俺が言うべきセリフだ」


 景気づけとばかりに声をあげ、目前の脅威へと駆けだす蒼野。


「……時空門」


 それを見届けたゼオスの口からは自らの能力の名が紡がれ、オーバーの背後に黒い渦が展開される。


「あ?」

「させない!」


 自分の背後にできた事を不審に思ったオーバーが動きだそうとするが、それは許さないと三百六十度、あらゆる方角から制圧射撃が行われるが


「今更そんなもんが効くかよぉぉぉぉぉぉ!」


 オーバーはただ一度の一踏みで、銃弾全てから身を守る強固な盾を周囲に展開。

 同時に溶岩で作りだした真っ赤な鞭を無数に作りだし、自身に歯向かうあらゆる障害を瞬く間に破壊した。


「時間回帰」

「てめぇ!」

「風塵・裂破!」


 ほぼ同時に、蒼野がオーバーの身を守る壁の一部の時間を戻し内部へ突入。

 虚空へと手を伸ばしていたオーバーが虚を突かれ、彼が何かをするよりも早く拳に風を纏い、全体重を乗せた拳でオーバーの体を背後にある黒い渦の中へと放り投げる。


「クソガキが! これで俺をクライメートから離したつもりか? 少し距離を置いたところで、羽虫を殺す事に変わりは……」


 すると彼の視界が一瞬だけ闇に埋め尽くされ、その後すぐに晴れていくとそこは何もない大地。クライメートに行く際にゼオスと蒼野が利用した、船着き場の前に広がる何もない夜の砂漠だ。

  目を細めればオーバー程のものならば米粒程度の大きさになったクライメートを確認することができ、その程度の距離への場所移動など何の意味もないと乱暴な言葉を吐きだすのだが、その時、怒りの感情をそのまま口にしていたオーバーが言葉に詰まる。


「何やってんだ羽虫どもは?」


 彼がその瞳で捉えたのは、自身が展開したクライメート全域を覆う程の巨岩が、同じ大きさの黒い渦に飲み込まれる光景。


 半年前のデータではできなかったはずのその光景を前にして息を呑むオーバーだが、その時間が長く続くことはない。


「なっ!?」


 その理由は至極単純。空間移動で呑みこんだというのならばそれはどこかに移動している事になり、その向かう先が自身の真上、手を伸ばした先にあったからだ。


「どういう事だおい!」


 巨岩が落ちるスピードは善を相手にしたときとは違いかなりの早い。

 ゆえにオーバーは確信を持って言いきれるが、少なくとも攻撃の発動を見てから能力を展開しているようでは決して対応できるものではなかったと言いきれる。


「ぐ、おぉ!!?」


 彼は速度重視の戦士ではなく、巨大都市全域を覆える程の巨岩から逃げ延びる事はできない。

 ゆえにそれを避けきる事はできず、その全身に自らが呼びだした巨岩が重なって行く。


「ば、馬鹿な!?」


 この戦いにおいてオーバーは数えきれないほどの油断と慢心をした。


 本来ならば余裕で勝てる二人を前に、どれだけ怒りを抱こうと全身全霊で仕留めにはいかず、常に見下しながら戦いを続けていた。


 本来ならば一分もあれば仕留められる相手を前に、油断と慢心を重ねた結果この土壇場まで戦いは続いた。


「があぁぁぁぁ!」


 彼にとって最大の失敗が何かと問われれば、それは蒼野とゼオスの成長ではなく、ルティス・D・ロータスの存在であろう。

 オーバーが蒼野とゼオスの二人についてある程度理解して動いていたのと同じく、蒼野とゼオスの二人もオーバーについていくらかの事を知っていた。

 無論オーバーの攻撃手段についてもある程度は知っており、土壇場で利用できる攻撃にはどのようなものがあるかも考えていた。


「っ!」


 普段ならば間に合うはずもないゼオスのカウンターだが、心を読めるルティスがいれば迫る瞬間に合わせる事はさほど難しくはなく、その結果これ以上ないといってもいい程よいタイミングで、二人の少年は逆転の一手を打つことに成功したのだ。


「がっ!?」


 その場から離れるために温存していた炎まで使い、都市一つを呑みこむことができる大きさの巨岩に歯向かっていた男の断末魔が喉から発せられ、男は自らが放った攻撃の下敷きとなった。




「ゼオス、移動を」


 雲を掻きわけるほどの大きさの巨岩が大地に沈む様子を見た蒼野がゼオスにそう頼む。


「……あれ程の規模のものを出現させたのだ。俺の希少粒子に残りはない。気になるのならば、自らの足を使え」

「そうだな・うん、そりゃそうだ」

「…………」


 それに対するゼオスの答えはさも当然のものでありそれを聞いた蒼野が風を纏い事の終わりを確認しようとクライメートから出て行き走り出し、ゼオスも事の顛末を見届けるために後を追う。


「あれか」


 その場所に辿り着くまでにそう時間はかからず、見つける事に苦労もしなかった。

 オーバーと巨岩を転移させた場所に広がっているのは、巨大な隕石が大地を陥没させた光景であり、それを目にすれば事の顛末など考える必要もなかった。


「これ……生きてるよな」

「……この現場を見てそう言える貴様は大物だろうよ」


 それでもふ不殺を貫いている蒼野は自らの後を追うように走っていたゼオスに対しそう質問をして、その言葉に同じ顔をした男はため息を漏らす。

 しかし二人の目は、ふと奇妙な光景を目撃する。


「なんだ、あれ?」

「……」


 二人の目の前で、地面にぶつかったことで砕けた巨岩の一部が真っ赤に変色しながら溶け始める。その影響は秒ごとに増していき、一度大きく吹きあがるのと同時に、見覚えのあるシルエットが浮かびあがる。


「まさか……」

「……構えろ古賀蒼野。どうやら……俺達が相手にしているのは正真正銘の化け物らしい」


 溶岩の海から現れた男は見るからに満身創痍。

 頭部からは血を流し、目は映ろ。

 立っているのがやっとという様子で、前項姿勢のまま腕をダラリと垂らし唸り声を上げている。


「……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 その様子が、蒼野とゼオスは酷く恐ろしかった。


『二人とも……一体何があったんだい?』

「ごめんレウさん。どうやら、俺とゼオスは目覚めさせちゃいけない怪物を起こしちゃったかもしれない」

『え?』


 蒼野とゼオス、レウとルティス、四人の少年少女が全てを活かし掴んだ正気を跳ねのけ、セブンスター第六位は、ここに君臨した。


ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


先日は申し訳ありません。

投稿を失敗していたようで、投稿する順番が今回と全開で逆になっていました。


なので続き物として見た場合、一昨日から軽く見直すと、しっかりと繋がっていくと思うので、

確認をお願いします。


本編の方は2章始まりの物語がついにクライマックス。

恐らく明日か明後日で今回の勝負に決着が尽きます。


もうしばらくお付き合いいただければ幸いです。


それではまた明日、ぜひご覧ください!

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