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セブンスター第六位 オーバー 一頁目


「どうなってやがる、攻撃が全然当たらねぇ!!」


 巨大なビル群と沈みゆく夕日を背景に――――三つの影が衝突する。

 二つの影が残る一つの、人の形から逸脱した影に戦いを挑む。


「……」

「ちぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」


 オーバーが攻めれば蒼野とゼオスはその悉くを回避し、オーバーが引けばそれに合わせて二人は前に出て攻勢に出る。

 完全に自身の動きを見透かされている事実にオーバーはこれ以上ない程の苛立ちを覚え、鎧の内部では額に浮かんでいた血管が千切れ、彼の頬に血が伝う。


「まだか……まだ来ないのか!」


 傍目に見れば少年二人が場を支配し敵対者を圧倒している状況だが、その顔に余裕はない。

 蒼野とゼオスの二人は無線機で伝えられるルティスの指示で次に来る攻撃を知ることで回避し続けているが、放たれる攻撃の余波だけで肉が軋み体が悲鳴を上げる。


『オーバーが後退します!』

「……っ」


 オーバーが後退するとルティスが告げればその瞬間に合わせ攻撃を放つが、傷一つ付けられない。


 つまり二人は、ルティスの指示で先の動きを知ることで動きだけならば完全に捉えていたのだが、結果としては終始手ごたえを感じられず、むしろ圧倒される状況が延々と続いていた。


「風刃・六閃!」

「ちょこまかと意味のない攻撃を……しつけぇんだよ!」


 動きに合わせ背後を取り鋭い風の刃を飛ばしても傷一つ付かず、


「……魔転狼」

「うぜぇ!」


 回転の勢いまで加えた強烈な斬撃も溶岩と炎で守られた肉体には届かない。


『二人とも! 来たわ!』

「「」!」



 どれだけ足掻こうと傷を付けられず敵を打倒できない戦いに希望はない。



 傍から見ればそのように言われてしまうかもしれない戦いであったが、そんな中二人の耳に待ち続けていた言葉が聞こえる。

 その内容の全貌を聞くよりも前に二人が気を引き締め、訪れるであろう最大のチャンスに向け意識を集中させる。


『オーバーさんの炎と地の属性粒子が底をつき始めてます!』


 二人が待っていたのは、オーバーが纏う二種類の鎧がなくなる瞬間だ。


 オーバーの傷を見るに、数時間前に大きな戦いをしたのは確かであると二人は認識。

 その相手が誰であったかは別として、それほど大きな戦いをしたのならば、少なくない量の属性粒子を使っているはずだと彼らは考えた。

 加えてここに来てからも強固さが売りのクライメートの壁を溶かす程の攻撃を幾度も行い、なおかつあらゆる攻撃を跳ねのける守りを展開し続けているというのならば、いかに属性粒子の量が多いとはいえ、どこかで粒子は枯渇するはずだと二人は考え、


「希望が……見えてきたな!」


 自分たちが援軍に頼ることなくこの男を打倒するならば、その一点に賭けるしかないとも考えた。


「見えた文面はなんて!?」

『えっと、流石に使いすぎた……ここから去る時のために力を温存して置く必要がある、みたいな感じです』

「そうか。まあ、思った通りの内容ではあるな!」


 ここまで暴れまわりなお逃げる時の余力を残せる事実に驚愕しつつも、狙っていたチャンスが目の前に迫っている事に意識を向ける蒼野。


「……あとどれくらいかはわかるか」

『そこまでは……』

「いや、その必要はないみたいだぞゼオス」


 ゼオスの問いに対し無線機越しに申し訳なさそうな声が返されるが、そんな彼女を慰めるように蒼野が確信を持った様子でそう口にすると、


「ちぃ!」


 命がけの綱渡りを続ける二人の前でオーバーが全身に纏っていた炎を消し、仕掛けるべきチャンスが迫っている事を二人はその目で理解した。


「さっさとくたばれ羽虫どもがぁ!」!」


 がしかし、属性粒子を使わないとはいえそれにより攻撃の手が緩むわけではない。

 地属性を腕に注んで固め、巨大な岩石を装着するとこれまで以上の勢いで攻撃を始め、二人の反撃に出るだけの隙を無理矢理埋めてくる。


「う、おぉ!?」

「死ねやぁ!」


 延々と続く攻撃を耐えきれなかった蒼野の肩にオーバーの放った拳が衝突し、嫌な音を周囲に響かせながら肉が抉れ骨が砕ける。


『そ…………』

『蒼野君!!』


 その様子を見ていたレウとルティスが無線越しに声をあげるが、ゼオス・ハザードだけは声をあげず一気に後退。蒼野が顔を歪める様子を見て、悦に浸っているオーバーが生んだ『隙』を見極め、


「……そこだ」

「なにぃ!?」


 自らの背後に、オーバーからは見えないように能力を発動。


「紫炎装填・冬煉牙ふゆれんげ


 体を小さくしてその中に入ったゼオスはオーバーの真上を取り、刀身に零度を下回る温度の紫紺の炎を纏い、強固な鎧の関節部分の可動域に刃を差し込んだ。


「が、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 ただの炎ならば耐えきれると思って油断していたオーバーの右足が寒さで凍りつき、更に関節部分に剣を差し込まれた影響で姿勢を崩すオーバー。


「……古賀蒼野!」

「ああ!」


 そのチャンスを蒼野もまた逃さない。

 わざとくらった一撃の時間を瞬時に戻し傷を修復すると、吹き飛ぶはずだったところを何とか踏ん張り前進しながら剣を構え、


「て、めぇら……こ、の!」

「はぁぁぁぁ!」

「…………おぉぉぉぉ!!」


 風を纏った刃と紫紺の炎を纏った刃が、ここが最後のチャンスとばかりに踊り狂う。

 守ることを意識の外に放り投げ、オーバーが体勢を立て直す隙を与えず攻撃を繰り返し、力任せに溶岩の鎧を破壊しようと前に出る。


「羽虫が調子にのるんじゃねぇぇぇぇ!!」

「っ!」


 その最中、乱雑に振り払われたオーバーの拳が、蒼野の頬を掠める。


「お、おぉぉぉぉぉぉ!」


 それだけで頬の皮膚が剥がれ鮮血が地面を濡らすが、蒼野は雄叫びをあげることで無理矢理恐怖を消し去り剣を振り、これ以上抵抗する暇を与えぬとなおも攻撃を続けていく。


「…………待て、それ以上こちらに近づくな!」


 がしかし、絶え間ない猛攻を続けている最中にゼオスが冷や汗を額に浮かべ声を荒げる。

 だがそれは一心不乱に動き続ける彼の耳にゼオスの声は聞こえず、すぐにその事実を認識したゼオスが蒼野の動きに合わせ挟み込む状況を固持しようと足掻くがうまくいかず、漆黒の剣の切っ先が蒼野に近づくと同時に彼の全身が硬直した。


「……ちぃ!」


 蒼野とゼオスが二人だけの連携を取る場合、そのコンビネーションには限界がある。

 ゼオスの体には『盟主の絶対命令状』の効果により、蒼野に対し剣を向けられないよう強烈な拘束術がかけられている。

 それにより他者と比べ高い連携を望まれるこの二人のコンビネーションについては、指導者の面々も頭を悩ませ、結果的に半年の間では満足いくものにまで仕上げられなかったのだ。


「腕が止まってんぞコラ!」

「ゼオス!」


 金縛りにあったように硬直したゼオスの体にオーバーの拳が襲い掛かる。

 僅かに速くその事態をルティスから説明してもらった蒼野が間に割り込み攻撃を捌こうとするが、オーバーの猛攻に耐えきれずゼオス共々一番近いところに会ったビルに吹き飛ばされた。


「う……あぁ……」

「クソ共が……調子に乗りやがって……っ!?」


 二人の全身がビルに埋まったのを確認し、とどめを刺そうと一歩前に出るオーバー。

 しかし彼は数多の攻撃を受けた影響からその場で片膝をつくと、吐き気に耐えきれず血を吐きだすのだが、


「く、そ……」


 その千載一遇の好機を前にして動けない自らの体を蒼野は呪う。


 たった一撃、それも大幅に体力が削られ粒子すら思うように使えない状態の拳を受けただけだというのに、体が思うように動かない。


「チクショウ!!」


 どれだけ足掻いても埋め切れないその差に、蒼野の口からは悪態が零れる。


「時間回帰!」

「うるせぇよ!」


 無論そのままビルの壁にその身を埋めているわけではなく、すぐさま能力で時間を戻し動きだそうとするが、そうしている間にもオーバーは再び動きだし、二人にトドメを刺そうと一歩前に出て――――突如彼の全身が銃弾の雨に晒される。


「なぁ!?」


 一体何が起こったのか、そのような意味の言葉を発しようとしたオーバーの口は、しかし最後までその言葉を紡ぐことはできない。

 前後左右のあらゆる方角と角度から放たれる銃弾の雨が、彼にそのような事をする暇を与えないのだ。


『蒼野君、ゼオス君、大丈夫かい!?』

「レウさん。これは一体?」

『つい先ほど設置が完了した対侵入者用の無人制圧機だ。毎秒一万を超える銃弾の嵐で、相手を拘束する。今のうちに!』

「はい! ゼオス、俺が向かい側に移動するからお前は」


 未だ千載一遇のチャンスが続いている


 その事実を前にして心を燃やした蒼野が最後まで告げるよりも早く、ゼオスが銃弾の雨の中へと向け駆けだしていた。


『え、早っ!?』

「はは。あいつはそういう奴なんです。それよりオーバーと衝突する一歩手前で銃弾の雨を止めてください。でないと、オーバーを捕まえる前に俺達が死んじゃいます」

「ああ!」


 初めて共闘するものならば戸惑いを隠せない、闘争本能に突き動かされたゼオスの姿を前にしても蒼野は焦る様子もなく苦笑をしながら『風陣結界』を発動。

 いつも通りのゼオスの様子を見て強張っていた体と心を和らげると、ゼオスが能力で再びオーバーの真上を取ったのを確認し、彼もまた勝負を決するために駆けだした。


『……レウ・A・ベルモンド!』

『わかった、制圧機を止める!』


 ゼオスの咆哮に呼応し銃弾の雨が止む。

 同時にゼオスが大上段に構えた刃を振り下ろし、蒼野が最後の一歩を踏みこみ、


「っっっっ!」


 沈みゆく夕日が三者を照らす中、痛みで思考がまとまらないオーバーへと向け二本の刃が向かっていく。


「羽虫どっ!?」


 憤怒の感情が込められた声がオーバーの喉を通し発せられるが、その言葉を言いきることはない。

 目前に迫った蒼野へと彼が体を傾けた瞬間、真上から迫ったゼオスの一撃が十万発以上の銃弾の雨を受け脆くなった溶岩の鎧を砕き、オーバーの背を斬り裂き彼の注意を真上へと逸らせ、


「風刃・突貫!」


 ゼオスに視線と意識が向けられた隙に潜り込んだ一撃が、二メートルを超える巨体を震わせた。


「『倒れろぉぉぉぉ!!』」


 誰もいないオフィス街。

 夜闇が世界を彩る紅色と混ざり合うほんの一瞬の瞬間。


 三人の人間を中心に空気を貫くような轟音が発せられ、それを確認した蒼野とレウの口から、懇願にも似た叫びが溢れだす。


「…………」


 その様子を一歩引いたゼオスが注意深く観察する中、


「おぉ……」

『まだよ!!』

「え?」

『二人とも逃げて!!』

「こ、の……………………クソッタレ共がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 少女の絶叫と共に天を突くかのような叫びが無人の町全体に木霊し、周囲一帯を灼熱の世界に変えるかのようなマグマの嵐が吹き荒れた。






ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


申し訳ありません、先日投稿していた部分が間違っていたため、

先日分の話を投稿し直させていただきます。


本日分は本日分で、しっかりと投稿するのでよろしくお願いします


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