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憤怒疾走


「くそっ……くそっくそっ…………あのクソ野郎がぁぁぁぁ!」


 戦闘を終え、戦場だった場所から離れた洞窟で体力の回復と自身の体の修復に勤しんでいたオーバーが一段落してまず考えたのは、原口善に対してどのような手段で報復するかという事であった。


「あの野郎、調子に乗りやがって……」


 一方的な戦いになったとはいえゲゼル・グレア相手に力を消費した状態で戦いを挑んだことを恥じ、それと同時にそんな自分に勝てたことに満足してるであろう原口善の姿を考え憤りを覚え、その感情を洞窟の壁に叩きつけるオーバー。


 それだけで洞窟全体が揺れ崩れかけるが、自らの地属性を用い洞窟を補強することでそれを防いだ。


「……少し確認してみるか」


 洞窟の崩壊という危機を前に、頭に昇っていた血が抑えられる。

 そうして冷静さを取り戻したオーバーは、懐に入っていた携帯を取り出し、電源をつけとあるページを確認。


「へぇ……あの野郎共もここまで手が届いちゃいなかったか」


 その結果を前に、見る者の背筋を凍らせるような狂気に彩られた笑みを彼は浮かべる。

 彼が見つけた機能は犯罪者の監視機能だ。

 神教の実働部隊の中でも最高位のセブンスターには様々な権限があり、これはそれらの機能の中の一つである。

 主な用途は牢に繋がず何らかの仕事に従事させている犯罪者が暴れた時などぶすぐに鎮静化に向かうためで、他にもどこでどのような行動をしているか監視するために使われる。


 アイビス・フォーカスや神の座は、ゲゼル・グレアを殺した犯人がオーバーだと理解してから、様々な権限を剥奪した。

 神の座とセブンスター・三幹部のみが持っている全世界のワープ装置を自由に使える権限はもちろんの事、カードの使用権限やあらゆる武器・アイテムの使用権限を剥奪。

 他にもいくつもあったセブンスターとして行使できる幾つもの『力』を奪い取った。

 だがしかし、全ての権限を一気に奪い取ったわけではない。


「クククク、どうやら、神は俺に味方してるらしい。いや俺の場合悪魔か」


 前述の様々な権限の剥奪は能力ではなく機械を利用したものだ。

 これは能力を用いて管理すれば『神器』使いが触れただけで無効化されてしまうという欠点を解消するための策であるのだが、機械類も万能というわけではない。

 大きな弱点として高度な雷属性の使い手ならばデータをハッキングすることで、様々な権限を悪用できる可能性がある。


 それを避けるため、神教では様々な権限を一斉に発動したり奪ったりできないよう、機械で管理する権限は細かく細分化されており、アイビス・フォーカスや神の座が急いでオーバーから奪ったのは残しておけば一目で面倒だとわかる機能であった。


 しかし、それ以上のものを取ることを二人は選ばなかった。

 そうしなかった理由は『間がわるかった』としか言いようがない。

 ゲゼル・グレアの件は最重要事態に違いないのだが、それを後回しにしてでも明日に控えた西本部と『境界なき軍勢』の衝突に介入する方法を考えなければならなかった。

 その結果、オーバーから全ての権限を奪う時間は残されておらず、直接的な強さには結びつかないこの機能が、彼の持つ携帯には残されていた。


「悪いのはお前なんだぜぇ原口善! お前が俺に殺されとけば、部下にまで手は及ばなかった!」


 陰鬱で邪悪な復讐心が男の胸中を支配し、醜悪な笑みが顔に浮かぶ。

 それから彼は、胸中に溜まったイライラを解消するため洞窟を出て走りだす。


 善を失意の底に落とすため、携帯に映しだされたゼオス・ハザードの居場所へと向けて走りだす。




 夕日が何の変哲もない住宅街を照らし続ける中、電灯に光が宿る。

 時刻は午後六時過ぎ、邪な思想を持ったオーバーが、ゼオス・ハザードと古賀蒼野の前に立ちふさがる。


「一体、どうしてここに」

「お前たちが監視しているゼオス・ハザードの様子を見に少しな」


 突如現れたオーバーを前に蒼野が困惑の表情を見せゼオスが不審感を抱くのだが、それに対し、オーバーは胸中でほくそ笑む。

 もしも自分がゲゼル・グレアを殺していると知っているものならば、このような反応は見せない。

 つまり、目の前の二人は自分の思惑に一切気が付いていないという事だ。


「…………俺の顔を拝みに? 何か問題でもあったか?」

「そう邪険に思うな。少し診断を受けてもらうだけだ。ついて来い」


 あとは人気のない場所に二人を連れ込み、なぶり殺してバラバラにした死体を善に見せれば、このイライラも晴れるだろう。

 そう考えた彼がそう口にしながら蒼野とゼオスの二人を後ろに控えさせ、先導しながら歩き始め、


「…………突然だな」

「まあこれもお仕事だろ。仕方ないって」


 すると顔程度ならば知っている二人は然程警戒する様子もなく、先導する男の後についていく。

 無論オーバーはその間ずっと、後ろにいる二人には決して悟られぬよう殺気や敵意を隠しているのだが、しかし口元をこれ以上愉快なことはないと歪に歪ませながら、迫る瞬間に胸を高鳴らせていた。


「だ……だめ!」


 このまま誰にも気づかれず、目的は達成されるだろう。

 そんな彼の思惑を突き崩したのは、彼が気にもしていなかった、ゼオスと蒼野の二人と一緒に歩いていた一人の少女であった。


「なんだ、用事の最中だったか? それなら早く終わらせて来い。終わるまで待つ」


 自分の計画を邪魔された苛立ちを隠しつつ、出来るだけ穏やかな声と表情を意識し蒼野とゼオスの二人に話しかけるオーバー。


「ダメよ……その人に絶対に着いていっちゃだめ!」


 だというのに目の前の少女から警戒心が解かれることはなく、むしろ全身を震えさせ、恐怖の色を宿らせた目でオーバーを見ている。


「お嬢ちゃんは何でそんなに震えているんだい?」


 一体何が彼女の琴線に触れたのか、オーバーにはわからない。

 ただ自分のしようとしている行為の邪魔をする彼女に対しどす黒い感情が募り、その思いを必死に隠しながら彼女に接するのだが、それを前にしたルティスはもはや人間の限界を超えた速度で体を震わせた。


「…………ルティス・D・ロータス。何が見えた」


 静かな、しかし言い逃れを許さないという声の問いがゼオスの口から投げかけられ、それを耳にした少女がオーバーの姿を一瞬だけ確認し、ゼオスと蒼野の二人の方へと向き直る。


「私が…………見えたの、は……」


 その一瞬の動きに加え、自らの心の動きに合わせ震えを増した少女を見て、オーバーはおぼろげながらも理解した。


「どす黒い感情です…………………文字になるほど強い思いが籠った、あなた達二人を殺そうとする感情です!」


 この少女は心が読めるのだ。


 そんなオーバーの解答に応えるかのように蒼野と浅黒い肌をした少年の体が強張り、ゼオスが感情というものを感じさせない機械的な目で彼を見る。


「オ、オーバーさん。本当なんですか?」


 信じられないという声で、蒼野が尋ね背後に控える少年も同調する。


「事情がよく理解できねぇが落ち着けお前ら。何で俺がお前らを殺さなきゃならねぇ」


 セブンスター第六位という座に就いた自分が、そんな事をする必要はないと一同に訴えかける。

 その問いに対し二人の少年は答えることはできず、心を読める少女に対しては胸中でこれ以上自分にとって不利益なことをすれば惨たらしく殺すと強く念じる。


「ル、ルティス。どうなんだ。君の……見間違いなのか?」

「………………え、ええ。そうね。どうやら…………別の人の感情と見間違えみたい」


 全身の震えを必死に抑え顔を青くしながらもレウの物言いに強い抵抗感を持ちながらもそう口にして、蒼野と彼が胸を撫で下ろす。


「い、いやそれはそれで大問題だ! 見えたっていう事は少なくとも近くにそんな輩がいるんだろ! そんな奴を僕の住む町で放置できるものか! すぐに探しださなきゃ!」

「そ、そうですね!」


 これで状況は自分の方向へ傾いた。


「俺も同盟相手の都市の中にあぶねぇ奴が混ざってるとなりゃ放っておけねぇ。手伝おう」

「…………少しいいか第六位」

「あん?」


 そう思い二人の少年に同調し動きだした瞬間、ゼオスがオーバーに対し話しかける。


「…………体の至る所を引きずっているようだが……何かあったのか?」

「!」


 脳裏を占める憎悪の炎に突き動かされ忘れていた事だが、彼の全身には多少回復させたとはいえ、善との戦いによる傷が未だに刻まれたままであった。

 善の戦闘スタイルが打撃であったため目立った傷はないのだが、それでもアザになっている場所は大量にあり、癒しきれていない部分は多少なりとも引きずっていた。


「…………ここに来るまでの間にだれかと戦っていたのか?」

「セブンスターの一角に手傷を負わせられるほどの相手。十怪や三狂か!」

「……その中で当てはまるとするならば一人だが、そいつと戦えばこの程度では済むまい。それ以外の人物で、打撃でこれだけのダメージを与えられる人物がいるとすれば……」

「! すぐに連絡してみる!」


 この時蒼野は明確にその人物の名前を思い浮かべたわけではなかった。

 どちらかと言えば目の前で起こった異常事態に対する対応策を教えてもらうために電話を行おうとしたのだが、


「いや、もういい」


 蒼野が携帯電話を取りだし誰に電話をしようかわかった瞬間、彼が手にしていた携帯が炎を浴び原形を失う。


「っ!」


 急いでレウやルティスも携帯を取り出し連絡しようとするのだが、勢いよく襲い掛かってきた熱さに顔を歪めると、手にしていたそれは塵も残さず消滅した。


 それからほぼ反射的に視線を向けた時、彼らは見た。


「クソが、いったい何だってんだ。あれか? あの原口善の野郎と関わった奴……いや元を辿ればクソジジイの系譜か。あれに関わった奴らはめんどくさくなる呪いでもかかるのか?」


 全身に怒気を奔らせ、今にも爆発しようとする悪鬼の形相。


 もはや疑うまでもない、彼らにとって明確な敵が目の前に存在していた。


ここまでご閲覧いただきありがとうございます。


本日分の話を更新です。

今回の話は、戦闘前の一幕。

流石にゼオスも蒼野も、事情を知ることなく攻撃には移りませんし、

オーバーとて暴れる場所くらいは選びますからね。


最も、ばれた以上は話が違ってきますが。


次回から今回の物語の後半戦

蒼野・ゼオスVSオーバーが開戦です。


それではまた明日、ぜひご覧ください

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