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ウルアーデ見聞録 少年少女、新世界日常記  作者: 宮田幸司
1章 ギルド『ウォーグレン』活動記録
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Ulraed daily life 三頁目


「て、めぇら…………」

「レオン!」

「ああ!!」


 両者の攻撃が届きその身を大きくのけ反らせるエクスディン=コル。

 その姿を確認し、彼らはこの連携が始まって以降初めてアイコンタクトを行い大きく頷く。


「おぉぉぉぉぉぉ!!」

「はぁぁぁぁぁぁ!!」


 そしてその瞬間、両者の撃ちだす拳と剣の『質』が大きく変わる。


「ぐ、お……あがぁ!?」


 これまで行ってきた連携とは、隙を潰す事に主体を置いたものであった。

 無論目の前の存在を打倒するために攻撃を続けてきたが、真正面から行う事は稀で、大半は一方の隙を突いた攻撃に対するもう一方の反撃や、隙潰しのために行った手足に対する攻撃だ。


 しかし今の二人は違う。


「こ、の!」

「悪いがな」

「ここから終わりまで、お前の手番があると思うな!」


 一度体をのけ反らせ体勢を崩した今、反撃は大きく減り、隙を潰し自分たちを敗北から遠ざける動きではなく、隙を作らぬ猛攻で一気に押しきる形に変貌する。


「さ、せ、るかよぉ!」

「うらぁ!」

「はぁ!」


 体勢を整える、反撃に何かをする。そのような事を彼らは許さない。


「っっっっ!」

「壱式・発拳」


 スイッチの類や無線の類の使用を許さず、地雷やそれに準ずるものさえ使わせぬよう、善の纏っていた練気で彼の足を抑え込み、一方的な攻撃を続けていく。


「こいつ……」

「しぶといな!」


 死にかけの自分たちの事を棚に上げそう口にする二人であるが、エクスディン=コルの生命力は確か二異常であった。


 数十秒、二人は男の全身を殴りつけている。

 にもかかわらず彼は未だ反撃をする余裕があり、絶えず攻撃の機会を伺っている。


 俺達は自分たちが想像するよりも弱っているのか?


 そのような考えが二人の脳裏に浮かぶが、すぐに否であると否定する。


「まったく……面倒な鎧だなおい!」


 先程レオンの攻撃を防いだ無色のゲル状の物質、それが攻撃の威力を大きく落としているのだ。

 それが二人に対する最大の守りであるとすぐに理解し、善もレオンも、拳や刃が届かない以上、この男を崩せないとすぐさま理解。


 ならばどうするか?


 二人が頭を捻り考える。


「ぐぁっ!」

「むぅっっっっ!」


 その瞬間、彼らは自分たちの限界を自覚する。

 実のところとっくの昔に彼らは限界を超えており、いつ崩れ落ちてもおかしくない段階に居るのだ。


 集中力が切れれば、恐らく立ち上がれない。


 そのような状態で答えがあるかもわからない思考の海に潜ることはかなりのリスクであり、ゆえに彼らは発想を逆転させる。


 つまり――――拳や刃が届けば打倒できる。


「おらぁ!」

「ふっ!」


 答えに辿り着いた二人が行った答えは簡単だ。

 纏っている場所に攻撃しても防がれるというのならば、明らかに纏っていない場所、すなわち頭部を攻撃すればいい。


 元々目の前の存在を殺す事に対し然程抵抗はなかったとものの、善は普段避けていた手段からその単純な選択肢を忘れており、極限状態に至ったことで素の性格が出たレオンも、そんな選択肢は全く浮かんでいなかった。


「いってぇぇぇぇぇぇ!」

「な……」

「にぃ!?」


 しかしここに来て本当に絶望的な事実が舞い降りる。

 自らの趣味趣向から粒子による攻撃や防御を行ってこなかったエクスディン=コル。

 彼が自身の頭部を鋼属性で固め、善の拳とレオンの剣を瞬時に防いだのだ。


「こいつは」

「やばいな」


 別に土壇場で使ってきた事を驚いたわけではない。

 命が惜しければ人間は趣味趣向など簡単に投げ捨てられるものである。


 問題なのはそれを突破できないほど、二人の膂力が残されていない事態だ。


「死ねやボケ共!」

「善!」

「助かったぜ!」


 無理矢理な態勢から放たれた反撃の攻撃を緑色の宝石を輝かせ風を纏ったレオンが弾き返す。

 そうして再度訪れる一方的な猛攻だが、彼らはすぐさま新たな手を考える必要があった。


(俺か、レオンか……どっちだ)


 すなわち、どちらの方が破壊力のある技を出せるのか。


(善は破天。俺は…………)


 今の二人に先程とは別の攻略法を考える余裕などありはしない。

 ゆえに単純な火力勝負に持ち込むしか手は残されておらず、両者は残された時間を最後の一手に繋げるため、互いの手札を見比べ即座に選択しなければならなかった。


(さっきのあれ…………あの類が一番効果的か?)


 善がその答えに辿り着くのにかかった時間は僅か一秒。

 自身の持つ最強の奥義『破天』と、先程自身の分身を襲い瞬く間に消滅させた二本の剣を用いたレオンの技を比較。

 さらに魔剣ダンダリオンの効果を顧みた時、それが最も効果的であると判断した。


(さて、後はどう伝えるかだ)


 となれば後はどうにかして伝えるだけなのだが、ここでまた問題が訪れる。

 それは単純にどう伝えるかという問題だ。


 当たり前だが声に出せばエクスディン=コルに気づかれてしまうし、念話のような自身の考えを込めた粒子を飛ばすなどという繊細なことは、今の彼らにはできない。

 いやそもそも、粒子のコントロールが極端に苦手な善は、戦闘時は全くそれが行えなかった。


「…………」

「あん?」


 それが彼もわかっているからであろう。

 体勢を崩し立ち直れないエクスディン=コルに向かいレオンが大きく前に出る。



 そして――――一度だけ両手に持っている聖剣と魔剣を重ね合わせすぐに離す。



 その様子を見て、善は獰猛な笑みを浮かべる。


「やっぱすげぇよお前」


 今レオンが行った行為は、猛攻撃を続ける中では何の意味もない行為だ。

 それをわざわざ行い、しかも内容が善が二度見た二本の剣を重ね攻撃する動作となれば、答えは明白。

 自身がその大役を担うという無言の訴えである。


「弐式・影蹴!」

「クソ、が!」


 声を出すことで普段以上の集中力で蹴りを放ち、善が率先して隙を作る。

 その間にレオンは二本の剣を重ね…………るような事はなく、緑の宝石を輝かせ風を纏った状態で居合いの体勢を見せる。


 善も、レオンも、直感で理解しているのだ。


 エクスディン=コルは今でこそ攻撃を受け続けているが、自身を破滅させるような攻撃が迫れば、それこそ死に物狂いで生き延びようとするのだと。


 それが勝つこと以上に負けないことを避け、数多の戦場で生き残ってきた彼の厄介なところで、その前提を覆すために、彼らは準備する。


「迅型風ノ太刀――――」


 すなわちそれを確実に当てられるだけの隙作りだ。


嵐刃絶刀らんじんぜっとう!」


 両者が考える限りそれは左右背後に逃げ場がなく、なおかつ与えられた衝撃で立ち上がれない状態である地面に埋まった形である。

 つまり今必要なのは、それを確実に行いながらも、ある程度の時間を稼げる技。


 それを彼らは知っている。


(行くぜ!)


 原口善が瞬間的に撃ちだす拳の嵐『参式・乱天』だ。


「参式!」


 そこまで理解しているレオンは猛攻を与える立場を自ら変わり、血反吐を吐きながら両手両足を撃ち抜いていく。

 その間に善は意識を更に集中させ、自身が行う最後の仕事に挑むための声を上げる。


「いい加減にしやがれ!!」

「っっ!」


 しかし自身が撃ちだす刃の連射に体が耐えきれず、レオンが口から血を吐いた隙に彼を蹴り飛ばす戦争犬。


 それにより絶え間なく続いた猛攻がついに途切れるが、


「乱天!!」


 次の瞬間、彼の頭上から数多の拳が降り注ぐ。


「おらぁぁぁぁぁぁ!」

「しゃらくせぇぇぇぇ!」


 『クイック』によってすぐさま革袋から機関銃を取りだした彼は引き金を絞り、自身の粒子を弾に変え、迫る脅威を退けようとする戦争犬。


「おらぁ!」

「ごぁ!?」


 それら全てを退けてなお、拳の雨は降り止まない。


「聖魔同舟!」


 自身へと撃ちだされた銃弾全てを弾き返し、なおかつ殴り続ける中、この世界の多くの人を救った勇者の声が聞こえてくる。


「や、べぇ!」


 夕日を思わせる美しい紅色の炎と大量の風が剣に渦巻き、重ねた剣が光を帯びたような輝きを放つ。


「やべぇぇぇぇ!!」


 その輝きはそもそもここまで追い詰められると考えていなかった彼の想定を完全に上回ったものであり、死に物狂いで逃げようと足掻き、足と手を動かす。


「逃がすかよぉぉぉぉぉぉ!」


 だがそれを目の前の『超人』は許さない。

 体内に残っていた力を振り絞り、青い練気による拘束も合わせ、彼の体をその場に縫い付ける。


「絶技!」


 そんな彼らの背後でレオンが剣を掲げると光は更に増していき、それは天を突き濃霧を振り払い、


「壊劫――――」


 地上と天を埋め尽くす強烈な光を放つ。


「おらぁ!」


 その圧倒的な力を背後から感じた瞬間、善が最後の一撃を放ち、


「う、おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 そこでエクスディン=コルが思いもしなかった悪あがきをする。


「なに!」


 レオンが目にした光景。

 それは最後の地面に埋める拳を前に、自らの体を差し出すという行為。

 これにより拳の着弾点は想定から大きく外れ、地面に埋めることなく明後日の方角へと飛んで行く。


「千載一遇のチャンスを逃してなるものか!」


 しかしレオンはなおも諦めない。

 想定からは外れたが、敵は今なお吹き飛んだままだ。

 振り下ろす形で当てるのは至難の技になったが、それならば振り払う一撃で周囲一帯を破壊すればいい。


 そう考えた彼は剣を地面と水平に構え一歩前進し、


「!」


 その瞬間、善は悪意に満ちた彼の顔を見てしまい、そしてその意味を理解すると同時に彼は駆けだした。




「え?」


 それは完全に計画されていた行動であった。

 自身が絶体絶命の状況に追い詰められた時、それを防ぐための盾への移動。


「よぉ坊主共」


 満身創痍、意識を保ち目の前の脅威との戦いに精いっぱいだった二人が見つけられず、彼だけが見つけた最高の子羊。


「エクッ」


 あまりにも凄まじい戦いを目にして息を呑み、なおかつ安全圏に居ると思いこんだために気を張っていなかったいくつもの小さな命。


「すまねぇが――――」


 彼らに向けエクスディンは持っていた長い銃身の銃を構え、


「おじちゃんのために死んでくれ」

「は? え?」


 最高に悪意に満ち、最高に楽しげで、最高に興奮した様子で引き金に手を触れた。




「――――、――――!!」


 彼が何と言ったのかは、無駄に響く銃声の音が耳を潰し、子供たちには理解できなかった。

 ただ気がついた時には自分達を守るために男は身を呈して盾になり、そんな彼を待ってましたとばかりに戦争犬は引き金を絞る。


 すると彼の体を数多の弾丸が貫き鮮血が背後にいる子供たちの全身を濡らし、


「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!??」


 唖然とする彼らが崩れ落ちていく男を視界に抑える中、絶叫をあげた友が明後日の方角へと極光を解き放つ。

 そのまま錯乱状態になり近づいて来る彼へと男は銃を向け、引き金を絞り足止めする。


 その動きに迷いも焦りもありはしない。


 なぜなら――――――――


 この世界では、こんな事は日常茶飯事なのだから。




 幾多の人々が願った。


 人々がより強くなる事を。


 人々がより高みに昇る事を。


 人々が、いつか見た『果てのその先に進む者』に肩を並べられることを。



 そんな中現れたその男は、そんな思い全てを否定した。



 彼は強くなり勝利するのではなく敗北して死なない事に固執し、


 いつか高みに昇るかもしれない希望を、笑いながら殺していく。


 そんな彼は無論『果てのその先』など目指しておらず、


 今日もどこかで、誰かの未来を閉ざしている。



 エクスディン=コル



 彼はこの世界に現れた、癌細胞だ。


夜分に失礼いたします。

そして投稿してすぐに見てくださった方は特にありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


明日は一話のみの更新となると思うので、よろしくお願いします


それではまた明日、ぜひご覧ください

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