Ulraed daily life 一頁目
惑星ウルアーデ
原口善やヒュンレイ・ノースパスが住むこの星が、日々闘争を繰り返すような世界となったのは幾人もの人々の努力の結果である。
彼らはこの宇宙の基本原則が粒子というもので形づくられている事を知り、多くを学び、自然や様々な常識を打ち破り、今を迎えている。
だがしかし、しかしである
多くの人が願った通りの成長を、全ての人間が遂げるとは限らない。
それは環境や育ち、体質や才能、そして人の意志が関わるものであり、そのような物が現れてしまい、出る杭として打とうとしても、うまくいかない事というのはどうしても出てきてしまう。
彼は――――――――その最たる人物である。
大地が炎で焼かれ、周囲一帯が灰色の煙で覆い尽くされる。
虫や鳥が人よりも鋭いが直感で危険を悟り逃げて行き、直感がなくとも理性があれば一目散に離れていく危険地帯。
「ふんふふふーふんふんふんふーん」
そんな誰もが忌避するその場所で姿が見える人物はただ一人。
彼はこのうえなく機嫌が良い様子で鼻歌を歌い、自らが巻き起こした禍の結果を満足げに眺めていた。
「いやぁいいねぇいいねぇ! 血が滾る!」
あらゆる方向に跳ねている、うなじに届く程度の赤茶色のくせ毛に、頬の辺りにできているそばかす。
顎には喉仏の辺りまで伸ばされた無精髭が生えており、全身を赤を基点とした服でまとめている。
一目見るだけならば、街中にでもいそうな中年だが、その男の常に獲物を探している野生動物のように鋭い眼光と、全身から臭う戦場を駆け巡った事で染みついた血と煙の混ざった異臭が、そんな考えを一蹴させる。
「エクスディン!」
「お、さすがは原口善だ! まだ動くとは元気がいいねぇ!」
その姿を確認した善がその存在の名を唱えながら銃弾の雨により生じた砂煙から抜け出すと、強烈な敵意を纏いながら男に接近。
大きく振りかぶった一撃で大地を叩くと周囲の大地が揺れ、その衝撃を受けた範囲の地面でいくつもの小さな爆発が巻き起こる。
「これで!」
「終わりだとでも思ったかマヌケ!」
一呼吸の間に駆け寄り拳を握った善の足が、空から降ってきた三発の鉄槍に阻まれる。
思わず空中に視線を向ければ、遥か上空で停滞している小型の航空機が目に映る。
「そら喰らいな!」
嘲笑混じりの声をあげながら、男は地面に届くほどの長さをした鉄の銃身を善に向け、これまでの比ではない大きさの銃声が辺りに響く。
すると善に向かい弾丸が撃ちだされるのだが、その弾丸は一発だが一発で非ず。
銃口から離れた瞬間、一発が二発に分裂し、さらに二発が四発に、それがネズミ算式に増加していき、銃口が僅かに届かない距離にいた善に到達する頃には点ではなく面を攻撃する無数の銃弾へと変化していた。
「はぁ!」
「と、こっちもか。流石に人間辞めてる輩は一筋縄ではいかねぇな」
「ほざけ戦争犬!」
「そうカリカリすんなって!」
拡散弾の比ではないほどの数に分裂した攻撃を避けきれなかった善が僅かに押し返されるのだが、その肩を借りたレオン・マクドウェルが飛翔。そのままの勢いで聖剣を振り下ろすが、男が懐から出したナイフで攻撃を受けきり、着地の隙を縫って彼の肉体にナイフを滑り込ませる。
「舐めるな!」
「流石にお前さん相手に刃物はきついなぁ!」
しかしレオン・マクドウェルにも刃を使う者が相手ならば負けられないという意地がある。
迫る一撃を指二本で楽々と挟み蹴り上げ奪い取ると、鞘に納めた魔剣に触れ僅かに腰を落とす。
「おっと、そっちの一撃はまずいな!」
それを見た瞬間、目前の人物は相手を小馬鹿にしたような態度から一変し、焦りを感じさせる声を発しながらその場から離れ、すぐさま善に向けていた物と同じ銃を構える。
するとレオン・マクドウェルは奪い取ったナイフを投擲し、向けられる銃口に寸分の狂いもなく突き刺し攻撃を阻止。緑の宝石を眩いばかりに輝かせ、一気に接近。
男が何かをしでかすよりも早く、風を纏った高速の一撃で男の体を両断する。
「なに?」
のはずが――――両断できない。
男の体に触れた風の刃が、体の中に入ることなく阻まれているのだ。
「これは…………」
目を凝らして男の体を見てみれば、ゲル状の透明な物体が接触した場所から染み出ており、それがレオン・マクドウェルの一撃のダメージを限りなくゼロに近い状態まで激減させていた。
「テメェがいるとわかっていながら、なんの対策もしてないなんて愚策を犯すわけねぇじゃねぇだろボケカス!」
そう言いながら、懐からペットボトルのキャップ程の大きさの小さな球体を取り出し投げつける。
それが爆弾であると気づいたレオン・マクドウェルが後退しようとすると足が液状化した地面に奪い取られ、新たに懐から取りだされ引き金を引かれた数多の弾丸と、真上から降り注いだいくつもの爆弾が彼を囲み、鼓膜を破るような音が周囲を満たす。
「噂通り面倒な奴だ!」
「うはは! そりゃどうも!」
「ちっ!」
それらを何とか全て捌ききり、肩で息を吐きながらも、レオンは別の事を考える。
先程から何度か男が口にしているこちらの素性を理解しているセリフ。そこまではなんの問題もない。
問題なのは、先程の居合斬りを前にした際の言葉だ。
目の前の男は先程の居合を前に『そっちの剣』の一撃は受けれないと口にした。
そっちの剣とは魔剣ダンダリオンの事だろうが、この剣を手に入れたのはこの暗殺ギルドに所属してからの事だ。
この剣を切り札として扱っているレオン・マクドウェルはその存在を秘中の秘として扱っており、そのため能力について知っているのはギルドのボス以外にはそうはいない。
もしいるとすれば、戦略を考える際に能力の詳細を教え合う依頼者程度で、しかも他言無用が原則だ。
一体どこの馬鹿がしでかした。
今回の件の依頼人がシルエット越しの人物であったため、不特定多数を相手にした際の悪態を吐きながら、もう一度思考を切り替える。
今最も考えなければならない事は、目の前の脅威をどうやって退けるかである。
「悪いが、こっから先は通行止めってなぁ!」
「ッッッッ!」
それを考えながらも攻撃の手は緩めんとして前進するレオン・マクドウェルの前に、細長い真っ赤な光線を幾重にも重ねてできた赤い障壁が現れ、それを前にした彼が足を止め舌打ちする。
『十怪』戦争屋エクスディン=コル。
フリーの傭兵として生計を立てている男なのだが、彼が関わった戦いは必ず悲惨な結末を迎える。
小規模な町同士の争いに加われば混沌とした状況に変化させることで大量の死傷者を生み、国や部族の存亡を賭けた戦いに加われば敵方は全員殺し、味方にも大きな爪跡を残す。
高い実力もさることながら、それ以上に人を笑いながら殺せる悪意の塊のような精神性と、『強い』という言葉以上に『面倒』『厄介』『負けない』という言葉が適した、四大勢力全員が『最悪の輩』と批評する存在だ。
その男が今この状況で出てくるという事、それはすなわち自分と善を相手取ったとしても勝てるという自信があるという事だ。
「俺と善を前に勝てると言い切るか。傲慢だな」
「ハッタリはやめな。テメェら揃って満身創痍だろ。その状態なら、俺でも簡単に崩せるぜ!」
「ちぃ!」
「おっと、自由には動かさねぇぞ原口善。『点』でダメなら『面』を潰せってなぁ!」
「ぐっ!」
レオンと睨み合い、話している隙に一気に肉薄しようと掛ける善であったが、一歩進んだところで周囲の地面全てを吹き飛ばす勢いの爆発が生じ、それを受けた善の片足が衝撃に耐えきれず、何とかその形を残してはいるものの、動けなくなり片膝をつく。
「戦いを見てたら誰だって分かるぜぇ。お前さんらずいぶんと無茶をしてたじゃねぇ―の。実際のところ、もう限界なんだろ? おとなしくさ、おじさんに嬲られて殺されろって。な?」
見下し、憐み、嘲笑するような様子で語りかけるエクスディン=コルに対し、善とレオンの二人は敵意を発しながらも冷静さを保ち、頭を働かせる。
万全の状態ならば話は別だが、現状は両者ともに満身創痍。
脳を沸騰させ十全のパフォーマンスを発揮させる状態からは、つい先ほどの銃弾の嵐を受けた瞬間に抜けてしまい、今は万全の状態の十分の一程度しか動けないかもしれない。
目前の戦闘狂相手にこのまま戦えば『負け』はあれど『勝ち』はない。
二人の脳は冷静に結果を算出し、この戦いがいかに無謀なものなのかをありありと付きつける。
「ああん?」
とはいえそれは一対一を行った場合の結末であり、両者の脳内にそのような選択肢は存在しなかった。
「あ! 見て見て! あそこにいるの善さんじゃない?」
「隣にいるのがレオン君ですね。そしてあれは」
「…………!」
睨み合う三者のいる空間から一キロほど離れた位置に、名もなき暗殺者を退け、通用するかどうかは未知数なれど、加勢をしようと考えた蒼野達一行がキャラバンに乗ってやってくる。
善の居場所を知る手段がなかった彼らは周囲一帯に響く轟音を頼りに彼を探し、目がいい者は裸眼で、そうではない者は双眼鏡を用い周囲の様子を伺っていた。
「俺知ってる! あいつ手配書で見た事がある!」
その結果見つけた善の姿に半数以上が声をあげる中、不自然な程楽しげな声が積の口から発せられる。
「…………『十怪』の一角、エクスディン=コル。人間の悪性を詰め込んだような奴だ」
「だよなだよな。『十怪』だよな。わはははは…………泣きたい」
「な、泣くなよ。いや気持ちはわかるけどさ」
動物園でレアな凶悪生物を見つけ喜んでいた者が、突然檻から解き放たれたその姿を見て悲鳴を上げるかのような様子でテンションを下げる積と慰める蒼野。
「それよりもよ、ありゃ一体どういう事だ?」
ヒュンレイと康太、それにゼオスを除く面々が双眼鏡でその様子を見守る中、新たに出現した第三の存在を前に困惑の康太は困惑の声を上げる。
そんな中、現場にいる善とレオンが視線を合わせると頷きあい離れていた距離を縮め近づくと、肩を並べ剣と拳を構え息を合わせる。
「ヒュ、ヒュンレイさん。あれって」
「ええ。正直もうだめかと思いましたが…………いいものが見れそうです」
目を細め、かつて話に聞いた光景が目の前で広げられることを予期しヒュンレイは心躍らせる。
それは、絶体絶命のこの状況を照らす確かな光明であった。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
さて本日一話目の投稿。そして一章における本当に最後の戦いです。
敵はパペットマスターや以前のヒュンレイと同じ『十怪』エクスディン=コル
立ち向かうは満身創痍の世界最強格
戦闘から終わりまで、恐らく今回も合わせて10話もあれば終わると思うので、最後まで追付き合いいただければ幸いです。
あ、それとウルアーデのスペルは完全な造語ですので、ご了承ください。
それではもしよろしければ、次回もまたご覧ください




