原口善VSレオン・マクドウェル 三頁目
「この! お前は! 毎度毎度人が頭を悩ませるような真似をして!」
「うっせぇ! 人の事とやかく言える義理かこの野郎!」
両手に神器を携えた男と、青い練気を纏った男が罵詈雑言を口にしながら衝突する。
切り札を晒した両者は、各々の奥の手が直接的な勝利に繋がらないと理解した瞬間、荒々しい動きをしながら衝突を始めた。
「練気――――抜刀!」
「させるかよぉぉぉぉ!」
撃ちだされる脅威を前に善が咆哮を上げ一気に接近。斬撃が撃ちだされる暇さえ与えず、無数の拳を撃ちだしていく。
「お前の思い通りにいくと思うな!」
レオン・マクドウェルは距離が離れていれば練気の刃で、距離が近ければ銀の剣で青い練気を斬り裂き黒い刀で触れようと考え、原口善は防御を貫通し直接体にダメージを与える練気の攻撃を躱す事と、刃が直接体に触れない事を意識しながら拳を叩きこむよう立ち回る。
「そこだ!」
「甘ぇ!」
そのような戦いが数分間続き、その間に互いが互いの切り札に関する情報を集めていく。
「扱えるようになったのも最近だろうに。素直に感心するよ! 死ね!」
「そうかい! ありがとよ! ブッ潰れろ!」
青い練気を眺め感心するレオン・マクドウェルに対し、拳を打ちだす原口善。
それを斬り払ったレオン・マクドウェルであったが、青い粒子はすぐに巨大な掌の形に変貌し、彼の体を掴み上空へと放り投げる。
「空中戦だ。気張れよ!」
「!」
そう告げながら善が行う猛攻をレオン・マクドウェルは剣で受け流し、僅かでも攻撃が緩めば反撃。
そうして行われ続ける攻撃の衝撃で両者の体は上昇していき、空を駆け制空権を奪おうと二人は躍起になり、その末に両者ともに地上へ墜落。
「だぁ畜生!」
「まだだ、まだまだだ!」
地面に体を埋めた両者が同時に立ち上がると、目の前の宿敵を睨みつける。
「おぉぉぉぉ!」
「なんだぁ! まだそんな顔もできるんじゃねぇかおめぇ!」
迫るレオンの表情。それは十代のまだ若かったころ、何度も善と対峙した時と瓜二つだ。
どうすれば相手の攻撃を封じられるのか
どうすれば相手に攻撃を当てられるのか
どうすればこの強敵を下すことができるのか
そんな事を考えている『生きた表情』だ。
その表情ができるのならば、こいつはまだ戻ってこれる。今ならば助けることができる。
そう確信し、頬が緩む。
「そこだ!」
「おっとあぶねぇ! そりゃ受けきれねぇな!」
そんな事を思う善の気持ちなど知ることなく、レオンは善の纏う青い練気の特性について把握しようと躍起になる。
彼の纏う練気はただ体に纏わせているだけではそこまでの硬度はないものの、様々な形に変える事ができ、属性粒子のように圧縮させ盾の形にまとめれば、真正面から受ける事はできずとも、彼が使う刀身を使った受け流しに近いことはできる。
「そら! 避けてみろ!」
「避ける必要もない! 全て斬り落とす!」
さらに言えば伸ばして掴み、自分の元に引き寄せるなどの動作も可能で、地面を掘って足元を掴み、機動力を奪っている間に本体が相手を殴る等の器用な事も可能である事がわかった。
「おらぁ!」
「っ!」
「ああクソ! 面倒だなおい!」
対する善も、魔剣ダンダリオンの特性に関して多くを知った。
まずダンダリオンがレオン・マクドウェルに与える効果範囲は彼の全身で、手にする黒刀だけでなく、もう片方の手に持っている聖剣アスタリオンや彼の全身もその恩恵を受けている。
なので素手で殴った場合それだけで属性ごとの特性が発揮されてしまうため、接触を避けるため青い練気を全身に纏う事は必須となる。
「斜陽一閃!」
加えて魔剣ダンダリオンを経由した遠隔斬撃や練気を用いた攻撃にも能力は付与されるので、これらが直撃し練気の守りを破られれば、属性ごとの特性は発揮される。
しかし魔剣の効果は人体にしか影響はない様子で、善の纏う練気はもちろんの事、地面や木々に触れたとしても効果は発揮されない完全な対人特化。
まさに人間を殺すためだけの能力だ。
「おらぁ!」
「ぐっ!」
そして両者ともに相手の能力に関し理解すれば、次に行われるのはいかにして自身の力を通し、目前の敵を打倒するかという事だ。
「はっ! おめぇの魔剣の能力は完全に理解した! もう意味はねぇぞ!」
「減らず口を!」
善は練気の守りを纏ったまま殴り続ければレオン・マクドウェルを倒すことが可能で、逆にレオン・マクドウェルは練気の守りを崩し攻撃を通せば属性の特性をフルに発揮でき勝利することができる。
ごく少量しかなかった雷属性粒子は使いきり、周囲にもないため最初のように大きな隙を作ることはできない。
それでも鍛え上げた炎属性の斬撃が善に触れれば、耐性のなくなった善ならば腕や足ならばその部分を瞬時に焼き尽くし、胴体や顔に触れられれば一撃で殺しきる事が可能である事は容易に想像できる。
「――――ふっ!」
「あぶねぇ!」
「避けるか。小癪な!」
「避けるに決まってるだろうがバーカ!」
ゆえに彼らは今までと同じように、持ちうる技術全てを用いその前提条件の達成に勤しむ。
レオン・マクドウェルは緩急や二つの神器の能力、それに様々な技術を駆使し善を崩し、善は魔眼の力と動体視力、そして鍛え上げられた技をもって攻撃を当てていく。
「おらぁ!」
「ハハッ…………その程度で俺が倒れると思ってるのか善!」
その戦いの――――――なんと面白き事か!
気付けば彼らは童心に帰り、命がけの戦いにも関わらず、在りし日の光景を思い出して笑顔をその顔に浮かべていた。
ギルドの隊長にして超人と言われる男が、
暗殺者に堕ちた英雄にして剣帝が、
そのような称号や背負ったものさえ忘れ、目の前の旧友との最後の戦いを心ゆくまで楽しんでいる。
「っ」
「あれで崩れねぇのかこの野郎!」
しかし彼らは目的意識までは忘れず、同時に自分たちに迫る限界までは忘れない。
「そこだ!」
「しまっ!?」
黒刀の攻撃が空を切り攻撃に転じようとする善。
それを目にしたレオン・マクドウェルが柄から手を離し最後尾についている組み紐に手をやり引っ張ると、刃が軌道を変え善の頭部へと向かって行く。
すぐに回避しようと足に力を込める善であるが、度重なる斬撃に晒され疲労が溜まった体は思うように動かず、足から力が抜け前のめりに姿勢を崩す。
「っっっっうらぁ!」
「ご……ぶぉ!?」
とはいえ原口善はそこで諦めるようなやわな性格はしていない。
退けぬならばそのまま前に出ればいいと考えた彼は足を上げ、勢いよくレオンの腹部を蹴り吹き飛ばす。
「ちぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
それでも向けられた刃は彼の肩に接触し青い練気の守りを破ると一瞬で彼の肩を灰に変え、悲鳴を上げる善を見たレオンが獰猛な肉食獣のような笑みを浮かべながら隙を突こうとすると、
「くそっ……」
ダメージの蓄積が腹部に現れ、大量の血を吐きだしながら彼は崩れ落ちる。
「おい、限界ならとっとと寝ろよおめぇは」
「死にぞこないが減らず口を。お前こそ、もう動けないならとっととくたばれ――――」
話す内容こそ物騒なれど、かつての日々を思いだす二人の脳には在りし日の思い出が駆け巡り、それゆえレオンは一抹の寂しさを覚えてしまう。
「もしなおも死ねないというのなら――――――」
「あん?」
「手向けをくれてやる!」
なぜならば、この懐かしき心の鼓動に、終わりが近づいている事を嫌でも理解してしまうからだ。
「――――さあ、終わりだ」
両手の剣を逆手に持ちなおし、声を上げる。
その意味を理解しきっていない善も、彼が僅かに身を屈ませ意識を極限まで集中させている姿を見れば事の重大さを理解し、
「終わり、か」
その思いに応えるかのように口に花火を咥え、息を整え、拳を構える。
「疾走せよ!」
その姿を見届けたレオンが刃を動かし、練気の斬撃が生物のような動きで善を囲う。
「っ」
何が起こるのかは善にはわからない。
しかしその場にいては状況は悪化する一方だと感じ後退。
炎と風を纏った練気の斬撃がほぼ同時に地面から生じ、濃霧を振り払い天へと昇る灼熱の竜巻が先程まで善がいた場所に現れ、視界が塞がれたのと同時に彼が近くの木々に身を寄せるのだが、
「聖魔同舟!」
「!」
僅かな間を置き、彼の纏っている練気を自身が飛ばした練気で察知した宿敵が彼の姿をその双眸で捉える。
「お……らぁ!」
すると善はすぐさま大量の練気で数多の手を作っては飛ばしていき、彼の者を捉えようと画策。
「極技!」
それを吹き飛ばす様に聖剣には風を魔剣には炎を宿らせ、主がその身を捩じると同時に二つの属性粒子が融合。
「お、おおぉぉぉぉ!?」
向かわせていた練気が容易く吹き飛ばされ、想像を絶する危険が身に迫っている善が口に咥えていた花火を口から離し大量の水が大地を埋めるが、僅か数秒前に見せた炎の竜巻など比ではない勢いの旋風が世界を席巻。
大量の水を吹き飛ばすよりも先に蒸発させたそれは、そのまま無数の風の刃を飛ばしていき、善の身に纏う青い鎧を破壊。あらゆる耐性を無視する魔剣の能力が付与された刃の熱が、彼の体を蝕んでいく。
「破却昇龍!」
そして主が声高に叫び通りすぎると、無数の風と炎の混じった刃で形成された龍の咢が目標の体を呑みこみ、原口善だったものは痕跡一つ残さずこの世から消え去った。
「――――――走馬灯が駆け巡るというのは、こういう感じなんだな」
背後をチラリと確認し、その光景を目にした剣帝の口から言葉が漏れ、同時に多くの記憶が走馬灯として駆け巡り、
「そうだ。走馬灯ってのはな、死ぬ寸前……いや負ける寸前にも駆け巡るらしい。よく覚えておくんだな」
「な…………にぃ!?」
「肆式!」
次の瞬間、少し離れた位置で地面すれすれのところに右手を置き、天へと向け左腕を伸ばす必殺の構えを取る原口善の姿を確認する。
「馬鹿な! 俺は今確かに! 練気で周囲を探索しお前を!」
善の習得した練気の最も大きな特徴が他者に譲れる事であり、自身が撃破した存在が炎の竜巻により視界を塞いでしまった一瞬の間になり変わられた水分身であるとも理解できぬレオンが咆哮をあげる中、
「ヒュンレイも引っかかった手だ。恥じる事はねぇぞ!」
そう口にしながら体を捻り前進してくる見慣れた友の姿に、彼は額から冷や汗を流す。
原口善の奥義『肆式・覇天』は、彼の知る限り近接戦闘において最強の技だ。
その威力は、全快の状態であったとしても根こそぎ奪われる。
対処するにしても一寸の狂いもなく行える広範囲攻撃や対処に適した能力を持っていない場合、これを止めるのはレオン・マクドウェルであっても至難の業で、下手な攻撃を行い身に纏った回転を利用し受け流されれば、その勢いを利用し更なる威力増強が行われる。
かつて幾度となく競い合い、彼が敗北した理由の半分以上がこの技を許してしまった事だ。
後退し体勢を整えねば、!
そう考え体を引こうとするのだが、練気の完成によって強化されたこの技は周囲に放った青い個体が逃げ道を奪うように彼の体を絡め取り、
「極技!」
瞬時に追い込まれたことで、彼は覚悟を決め二本の剣を重ねる風と炎の二属性が再び融合。
「おもしれぇ。一度も破ったことがないこいつを今ここで砕けるか! 試してやるよ!」
「ほざけ超人! 清濁極めた我が剣技に下れ!」
新たな技を前に闘争心むき出しの笑みを見せる善を前に彼は吠え、待ち受ける一度たりとも正答を選べていない選択肢へと挑みかかる。
「夢幻!」
重ねた刃を虚空へと掲げ、迫りくる脅威を前にアンダースローの要領で振り下ろし、地面を割き一歩前へ踏み出す剣の帝。
「「!!」」
次の瞬間、無数の銃弾が彼らの元へと飛来。
「ははっ、その隙貰ったぜ!」
下卑た笑い声と狂気に彩られた声が両者の耳に粘りつく。
「やっぱいいもんだねぇ。わけもわからず唖然とした顔してる野郎に銃弾が当たる瞬間ってのは」
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
此度の物語における起承転結の『転』の部分はこれにて終了。
あとはエンディングへと向け突っ走って行くのみです。
何とも気になる引きになったのではないかと思うのですが、申し訳ない。
流石に今日中にもう一話更新はできないんだ。非力な私を許して欲しい。
兎にも角にも明日も二話以上は更新しようと思います。
それではまた明日、ぜひぜひお会いしましょう!




