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ウルアーデ見聞録 少年少女、新世界日常記  作者: 宮田幸司
1章 ギルド『ウォーグレン』活動記録
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原口善VSレオン・マクドウェル 二頁目


 常闇を体現したかのような黒刀が虚空に一切の淀みない弧を描く。


「躱すか!」

「まあ流石にな!」


 一呼吸の間に幾度となく襲い掛かる謎の脅威。

 それを目の前にして善は反撃ではなく回避に徹しきる。

 徹底抗戦を基本とする善からすれば心底悔しい行為であるが、それも仕方がないと自分で自分を納得させる。


 虚実を混ぜて挑発を行った善だが、それは目前の相手に本気を出させるためだ。

 レオン・マクドウェルという男は昔から『土壇場になるまで切り札を隠す』相手からすれば厄介この上ない性格をしている。


「ととっ!」


 ヒュンレイとの戦いを知らず、なおかつ先程戦い気絶させた後に縛り上げた暗殺者が目を覚ましていないことが前提であるが、善も『練気』というレオン・マクドウェルが知らない切り札を備えてはいる。

 とはいえ土壇場で隠していた力を発揮され一気に形勢逆転だけは避けたかったため挑発を繰り返していた善であるが、


「まさか」


 それでももう一本神器を手に入れていたという事態は想定外であった。


「もう一本神器を手に入れてやがるとはな…………」


 その事実に対し、善の口から驚きに満ちた声………………ではなく申し訳なさを多量に含んだ言葉が漏れる。


 神器を二本所持しているという事自体はありえないことではない。

 例えば賢教最強の男『聖騎士』は一人で四本の神器を所有しているのだ。それと比べれば、極めて珍しい事には変わりはないが、二本はまだ常識の範疇といえるだろう。


「悪かったなレオン。俺は、消えたお前をすぐに探すべきだった」


 問題は新たに手に入れた神器の経緯だ。

 他者から所有権を譲り受けるという極めて稀な事態を除き、神器が手に入る条件というものは決まっている。


 すなわち、『力』と『意志』だ。


 ただ強いだけで確固たる意志を宿さぬ者には神器は振り向かず、例え誰もが認める理想を抱いたとしても強ささえなければ神器は資格なしと判断し現れない。

 並の者ならば、一本だけしか手に入れられない理由はここにある。

 たとえ自他共に世界最強クラスと言われる段階に辿り着いた戦士であってもそれほど強い思いと言うのは早々持てるはずもなく、ゆえに二本以上手にすることは珍しいことなのだ。

 八年前までのレオン・マクドウェルにしても実力はあれど意志の面については変わらず、だからこそこれまで手にしていた神器は『聖剣アスタリオン』のみであった。



 だというのに、今レオン・マクドウェルはもう一つ新たな神器を手にしている。



 それはどれほどの絶望と諦念を意志という形で抱いた末の結末なのだろうか



 それほど追い込まれるまでに手を差し伸べられなかった事実が、善はただただ悔しい。


「はぁ!」

「っ!」


 とはいえ、今はそれ以上のそこに意識を割けないのもまた事実だ。


「円月蹴り!」


 強く大地を蹴り攻撃を躱した善が、レオン・マクドウェルが接近するより早く蹴りを放ち、三日月型の衝撃波を撃ち出し接近を妨げる。


「練気――――抜刀」

「しまった。選択をミスったか?」


 一息つき状況を整理しようとする善であるが、距離を離せば、何が行われるかもまた自明の理である。


「目で追いきれねぇ!」


 練気を刃に乗せているため僅かに速度は落ちるものの、それでも千を超える斬撃が空と大地を駆けまわり、赤と桃色が混ざった色が通った道に刻まれる。


「クソめんどくせぇ遠隔攻撃はあの黒刀でも行える、と」


 一拍遅れて生じる斬撃をしっかり躱しながら、彼はなおも分析する。

 これまで行ってきたような攻撃は一通り行えるのか、行えるとしてそこに変化はあるのか、そして聖剣アスタリオンとの併用は可能か。

 どれもこれも決して軽視できない重要な要素なのであるが、今のところ理解できるのは聖剣との併用は見て取れないという事だ。


 レオン・マクドウェルが黒刀を手にしてから今まで、聖剣は鞘に収まったまま微動だにせず、それまでレオン・マクドウェルを包んでいた神秘の輝きが今はない。


「まあそれがブラフの可能性も十分あるわけだが…………」


 とはいえそれが確定事項であるとは決めつけない。

 目の前の男はそのあたりはしっかり隠し、勝てるタイミングになると撃ちだしてくるタイプだ。

 それを幾度となく戦い、敗北した善はよく理解している。


 なので細心の注意を払いながら戦いに挑むのだが、


「いくら注意しようが無理な事ってのもあるわな」


 黒刀に触れることなく戦うという事は流石に無理難題と言わざるを得ない。

 ゆえに何が何でも神器の能力を解明し、一早く対策を立てなければならないと考える善だが、


「……ありゃなんだ?」


 その時、善の視線に異物が映る。


 真っ黒な刀に何かがまとわりついているのだ。

 それはあまりにも小さいため正体に辿り着くには至らなかったのだが、見ているだけでも胃の中がムカムカとしてくる。


「そこまで考えさせちゃくれねぇか」


 そうさせる原因のアレは何か、もしや敵の能力とは挑発の類なのか、そこまで考えたところで地面に張り巡らされた軌跡から斬撃が生じ、それに合わせ善は跳躍。

 空を駆ける彼を目にしてレオン・マクドウェルもまた空を駆け、勢いに乗った猛攻を浴びさせる。


「らぁ!」

「ちっ」


 だがしかしその動きに先程までの速さはなく、緩急による目の錯覚や地面に敷かれた斬撃による邪魔は入るものの、聖剣の加護がない今、善が優勢な状況を誇示していた。


「そこだ」

「っ」


 このまま押しきれる、そう善が感じた瞬間、まさに今しかないというタイミングでレオン・マクドウェルが攻勢に転じる。

 その身は再び緑色の光の膜を纏っており、速度が上昇。


「んだよ、併用できるじゃねぇか!」


 攻めの姿勢に傾倒していた善がすぐさま回避行動に移るも完全には逃げきれず、常闇の如き刀の数多に行われる斬撃に耐えきれず刃は体に触れ、


「がっ!?」


 その時、誇張表現でもなんでもなく、全身に電流が奔り彼はこの能力の正体を察した。




 原口善という人間は氷属性と雷属性の耐性が異様に高い。

 氷属性に関してはヒュンレイ・ノースパス相手に組み手を幾度となく行った事による成果で、馬鹿らしい程の冷気をその身に受けても活動することが可能となった。

 雷属性に関しては生まれつきの素質と仮想敵を『三狂』ヘルス・アラモードに捉えているからであり、自然界の落雷はもちろんの事、名が上がる雷属性使いの大半の力を封殺してしまうほど、高い雷耐性を誇っている。


「う、お!?」


 そのような雷属性使いと比べた時、目の前の旧友が使える雷属性は本当に微々たるものだ。

 それこそ得意属性ではない一般人が使える何とか行える『携帯が電池切れに陥った際の充電に使う程度のもの』であり、対峙して使われたとしても何の脅威でもない。

 はずなのに、善は今、そんな大したことがないはずの雷属性を纏った斬撃を受け、全身が自由に動かない状態異常『痺れ』にかかっている。


「攻型火ノ太刀――――」


 そのような状態の善に対し向けられるは破滅の呪文。

 当たればただでは済まないと瞬時に判断できる炎の太刀。


「っぅあっ!」

「ちぃっ!」


 脳もうまく働かない中、それでもすぐに対処しなければと思った善は普段の彼では決してしないような大ぶりな一撃でレオン・マクドウェルに攻撃し、その反撃を予期していなかった彼は一歩後退。


「煌炎!」


 しかしなおも攻撃の意志を見せる彼の刀に炎が宿り、それを前に体は動かずとも意識が鮮明になった善は口を開き、



 その瞬間、口に咥えていた花火は地面に落下し、大量の水が持ち主を中心に周囲を満たした。



「こ、これは!?」


 花火に溜めていた水属性粒子の大開放。

 善の奥の手であるそれは滅多に開放されないものであり、思いもよらぬ不意打ちを受けた男は善への攻撃を止め、風を纏った斬撃でそれらを一刀のもとに払いのける。その後再度炎を剣に纏うが、


「あ、あぶねぇなおい!」

「…………少量過ぎたか。こちらの失態だな」


 その時には既に元いた位置に善の姿は存在せず、少し離れた位置にある木の上でしゃがみながら旧友を見下ろしていた。


「雷属性…………だとちと範囲が狭すぎるな…………属性耐性の無視それがその真っ黒な神器に隠された能力か」


 すると善は真下にいる彼を指差しながらそう言いきり、レオン・マクドウェルは舌打ち。


 そこで素直に反応しなけりゃもうちっと隠せたのにな


 などと彼の素直な反応に内心で苦笑しながら、彼の手にする神器の能力の正体を正確に掴んだ。


 この星に住む人間は生まれついて大なり小なり十の属性の耐性を獲得しており、なおかつこれを無限に高めていく事ができる。

 これは気が遠くなるほど長い歴史を戦いで明け暮れたこの星の人間が築いてきた一種の体質であり、より強くなるための機能なのである。

 そんなこの星の人間ならば誰もが持ち得ている耐性をゼロにする、それこそがレオン・マクドウェルが手にする第二の神器、魔剣ダンダリオンの能力だ。


「おっそろしい事しやがるなおめぇ。触れることさえ許しませんってか」


 あの剣が纏った雷に触れればどれだけ高い雷属性耐性を持つものでも全身を痺れさせ、氷に触れればヒュンレイ・ノースパスの凶悪な氷属性攻撃にさえ耐えた善の体でさえ、感覚を奪われ動かなくなる。

 レオン・マクドウェルの得意な炎属性などに触れたとなれば、恐らく灰すら残らないだろう。


「そう言う事だ。だが」


 自信ありげに推理を披露する善を前に、彼は鞘から聖剣アスタリオンを抜刀。

 これまで善が見たこともない二刀流を披露し、善の脳内に様々な疑問を抱かせる。


「まだまだわからない事があるんじゃないのか?」


 それは善の脳内の思考のいくらかを奪い、彼の動きの精度を鈍らせ決定的な隙を生みだすための大きな布石となる。


「クックックックック…………」

「何が可笑しい?」


 はずなのだが、膝に肘を乗せ頬杖をついた善の口からは悪役が発するような笑い声が漏れ、それを受けた彼は眉をひそめる。


「いやな、こういうの運が味方したっていうんだろうな」

「?」


 笑う理由がわからず疑問符を浮かべるレオン・マクドウェル。


「ようは接触した瞬間、剣に帯びてる属性の特性を百パーセント発揮するっていう能力だろ。ならよ」


 すると善は青い練気を纏い、それを見たレオン・マクドウェルが目を丸くする。


「こうすりゃ、話は簡単だわな」

「練気の第二段階。いつの間に!」

「以前の戦いから何年経ったと思ってやがる。そんだけ時間がありゃ、俺とて強くなるさ」


 語る善を前にしながらもレオン・マクドウェルは彼を観察し、それが自身に纏う鎧のようなものであると即座に理解。

 ただ触れるだけでは刃が止まる事を認識し、口には出さずともその厄介さに頭を痛める。


「さあて、そろそろ終わらせようぜ。なあレオン」


 余裕を感じさせる善の声と、自身の秘策を躱された事実に苛立ちながらも気を纏うレオン。

 濃霧漂う山で行わている此度の戦いが終わりへと向かって行く。


「………………」


 ――――――――誰も予想だにしていなかった終わりへと…………向かって行く。


ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


という事で本日一話目の投稿です。

先日の話でお伝えした通り本日は連続投稿をする予定なので、よろしくお願いします。


今回の話でレオンも善も切り札を切り、後は互いの身体能力と技を活かした最後の攻防のみ。

恐らく次回か次々回には終わりを迎えるでしょう。


少々長い戦いとなり億劫になってしまった方もいらっしゃるかもしれませんが、

最後までお付き合いいただければ、幸いです。


あと、今回の話や次回の話は書き溜めしておいた部分が気に入らなく、完全に書き直したものなのでもしかしたら普段の書き方とは違うかもしれません


何はともあれ、感想やブクマ、良ければ評価などもしていただければ幸いです


それでは数時間後の次話で、よろしければお会いしましょう

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