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ウルアーデ見聞録 少年少女、新世界日常記  作者: 宮田幸司
1章 ギルド『ウォーグレン』活動記録
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彼岸の魔手 二頁目


 濃霧漂う山を舞台に二つの影が衝突を繰り返す。

 その余波だけで周囲の木々は耐えきれず吹き飛んでいき、大地を崩壊させる両者の実力は、まさに人類最高峰。超人と言う位を与えられる物にふさわしいものである。


「善!」

「レオン!」


 瞬き程の間に千を超える拳と剣が衝突を繰り返す両者。


「はぁ!」

「おらぁ!」


 約一秒それが続くと彼らは交戦の勢いを完全に殺すために僅かに後退し、体勢を立て直せばすぐに動きだし、己にとって最大の好敵手を打倒しようと画策。


 善は先読みができる魔眼と『後の先』を取れる動体視力と身体能力を駆使し一撃当てようと躍起になり、レオン・マクドウェルは緩急と風属性の加速を用い、相手を出し抜こうと躍起になる。

 それが一呼吸の間に千回続き、どちらかの攻撃がついに相手に触れそうという位置に迫るともう一方が危険を察知しはじけ飛ぶように後退する。

 そんな余人では決して入り込めない衝突が百度と少し繰り返されるが結果は出ず、それでも両者は息切れ一つ起こさず前に出る。


「っっ」

「う、お!」


 が、それから少ししたところで延々と続いていた均衡が崩れ、善の攻撃を紙一重で躱したレオン・マクドウェルが無理矢理前に跳び出て、善の頬に一筋の線を刻みこむ。


「やはり、リーチがある分こちらの方が一歩有利だな!」


 距離を取り声高にそう宣言するレオン・マクドウェル。そんな彼に対し、善は舌打ちをして前進。


「なんだレオン。てめぇまさか、『拳は剣に劣る』とでも言うつもりか?」

「そうだな、昔からそう考えてたよ」

「そうかいクソッタレ! なら!」


 これまでのような技巧やフェイントを交えたものと違う、見た限り罠の類などもない愚直な直進の末に拳を放つ原口善。

 それに合わせて神剣アスタリオンを振り下ろすレオン・マクドウェル。

 その二つが再び交差する瞬間――――原口善の姿が消えてなくなる。


「悪いが、それも見えてる」


 蒼野やゼオス、いやもっと位の高い万夫不当の強者でさえ見失う、弧を描く歩法による急な方向転換。

 ヒュンレイ・ノースパスでさえ経験則を用いてしか追いきれなかったその動きを、完璧に視界に捉えたレオン・マクドウェルの刃が迫る善に牙を向く。


「甘いな」

「っ!」


 完璧に対応した。


 そう自信をもって言いきれるだけの事をしたからこそ、レオン・マクドウェルは自分が吹き飛ばされている事実に僅かどころではない衝撃を覚えた。


「百歩……いや千歩譲ってリーチの差は認めてやる。だが、掌の形一つで剣以上の攻撃の形を取れる拳が、剣に劣るとは微塵も思わねぇ。それにだ、こと速さにおいてなら、俺の方が幾分早いぞ?」


 昔と比べ格段に早くなった速度で、見事目前の存在を下した善が勝ち誇ったように言いきり、それを聞いたレオン・マクドウェルが彼を睨み、


「偉そうなことを言うじゃないか善。ならばお前が俺に勝っていると豪語する『速さ』という点においても――――」


 主の声に怒気が含まれるのにに呼応し、神剣アスタリオンに嵌め込まれている緑の宝石が輝きを増す。


「真正面から捻じ伏せてやろう!」

「来やがったか!」


 その瞬間、レオン・マクドウェルの体を緑色の光が包みこみ、これまでの比でない速さで疾走。

 光速を超える速度で善の頭上を取ると、千を超える斬撃が善の頭上から降り注ぐ。


「うらぁ!」


 その全てを弾こうとまで善は思わない。

 自らの体に迫るものの中でも特に危険なものだけを拳で叩き落とし、多少の怪我は容認し未だ空を舞うレオン・マクドウェルに肉薄。

 常人では知覚するのも困難な速さの『クイック』で拳を構え、撃ちだすのだが、


「――――ふっ!」


 標的に届くよりも早く、神速の斬撃が撃ちだされた拳を側面から斬り裂いた。


「ちっ!」


 腕に奔った一本の線から鮮血が飛び出る。

 けれども、それだけだ。


「レオン!」


 深手を負ったわけでもなければ動きが束縛されたわけでもない。ゆえに善がさらに前進しながら攻撃を続けるのには何の問題もなく、


「参式…………」

「これは……………避けきれんな」


 迫る善の気迫とぼそりと口にした言葉を前に、地上に着地したレオン・マクドウェルは回避は間に合わないとすぐさま理解。

 すると彼はそれまで輝かせていた緑の宝石の輝きを抑え、すぐさま青い宝石が彗星の如き輝きを放ち、


「守型風ノ太刀…………」


 それに呼応するかのように青白い光が体を覆う。


「乱天!」

「流浪鉄衣!」


 ほぼ同時に致命傷に至る拳を四千発以上放ち続ける原口善の奥義が撃ちだされ、それを前にしたレオン・マクドウェルが手にする神器で対抗。

 急所に当たる約半分の拳を剣の面で防ぎ、残る半分のうち七割方を回避。残りが手足に衝突し顔を歪めながら山肌へと突き刺さるが、その身には深い傷は一切なく、両手や両足を襲う痛みも然程大きなものではない。


「『守りの青』でこれだけのダメージが入るか。確かに…………腕をあげたな」

「俺からすれば今のを千発近く喰らってそれだけのダメージしかねぇ事が驚きだよ。自信無くすわ」


 口元に付着した血を拭い、再び剣を構えるレオン・マクドウェルの様子を前に、苦々しげにそう呟く善。


「やっぱ面倒な能力だな。『スタイルチェンジ』」


 神器には特殊な例を除き、原則一つは能力を備えているのだが、神剣アスタリオンに備わっている能力は『スタイルチェンジ』というものだ。

 神剣アスタリオンに装着されている『赤・青・緑』の三つの宝石は、それぞれ『攻撃力・防御力・速度と反射神経』を司っており、特定のものを輝かせることで、その色に『特化』した身体能力を得る事ができる。

 これにより基本的な身体能力では善と比べどの分野でも一歩遅れを取るレオン・マクドウェルは、一分野だけならば逆に一歩優れた状態にまで持っていく事が可能である。


「――――ふっ!」

「クソッ早すぎるだろおめぇ!」


 レオン・マクドウェルはこの状態でさらに属性粒子を注ぎこむことが可能で、


 攻撃力が足りないと感じた場合は炎属性を、


 防御力が足りないと感じた場合は鋼属性を、


 機動力が足りないと感じた場合は風属性を、


 それぞれ加えることにより、更に身体能力に磨きをかけ、各々の属性を活かした戦闘が可能。


「迅型風ノ太刀――――」

「クソが!」

嵐刃絶刀らんじんぜっとう!」


 更にそれらを自身が決めた九つの型に嵌め込み、敵を倒す奥義とした。


「おらぁ!」

「!」


 神器による速度と反射神経の強化、更に風属性で全身を最速まで上げた結果、光速を超える速度を維持している状態での居合い術。

 それをギリギリ捉えた善は、一度鞘に戻された聖剣が撃ちだされた必殺の一撃を、胴体に到達するよりも僅かに速く拳で弾き、自身の身を何とか守るのだが、


「――――二連!」

「ち、畜生が!!」


 しかし善の体を通りすぎ五メートルほど離れた位置で、レオン・マクドウェルはすぐさま善の方へと再度向き直ると再び居合いの構えを取り、善が体勢を完全に戻す前に二撃目が撃ちだされ、


「おらぁ!」


 それさえ善は対応し拳を振り下ろし――――――空を切る。


「迅型鋼ノ太刀――――」

「レオン!」


 レオン・マクドウェルはこの土壇場で緩急を駆使し、振り抜かれるはずの腕の動きを極端に落としたことで善の拳は目標に触れることなく空ぶり。

 それを優れた反射神経で認識した瞬間、レオン・マクドウェルが神器の刃に鋼属性を付与し更に強化させ、コンマ一秒……いや一厘の隙も与えず善が姿勢を戻すよりも早く一閃。


斬鋼嵐刃ざんこうらんじん!」

「っ!」


 初撃を防ぐために突き出された腕を弾き更に一閃。その一閃が善の右足に当たり体勢を崩すと更に一閃。

 もう片足に衝突し体が大きく傾くとそこから更に何発も撃ち出し体を浮かせ――――――――


「――――はぁ!」


 彼の体を宙に浮かせると同時に数多の斬撃を撃ちだしていく。


「ぐっ……おぉ!?」


 気が付けば原口善は神器の刃に千度切られ、最後の一撃で地面に叩きつけられた。


「…………やはり火属性や赤でなければ致命傷には至らないか。鍛えているのは知っていたが、それでも丈夫すぎだろお前」


 それでもなお原形を留め息がある男を彼は油断なく観察し、とどめを刺すための解を模索し続ける。



 これが剣帝レオン・マクドウェル


 

 原口善に勝ち越している、剣の道の頂に手をかけている存在だ。


ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


という事で原口善VSレオン・マクドウェルの本格戦闘回です。


ヒュンレイとの決戦を含め善はこれまで身体能力では誰にも負けていない、作中の最強格として書いてきました。

今回の敵レオン・マクドウェルは、ヒュンレイのように属性粒子で圧倒するのではなく、真正面から対抗して戦う剣士として書いたのですがいかがだったでしょうか?

個人的には結構強く書けたのではないかなと考えたりしています。


なお、善やレオンは秒間千度の衝突を繰り返していますが、これはドラクエで言うところの『一ターンに何回攻撃できる』という奴ですので、相手が単体だから単純に拳や剣で相手しているだけで、相手が大蹴れればもっと多数を狙う攻撃も可能です。


神器を持ってるレオン・マクドウェルは更にあらゆる能力や法則無視する力を無効化する神器を手にしてるんで、クソゲーこのうえないやろうです。


それではまた明日、ご覧いただければ幸いです。


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