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ウルアーデ見聞録 少年少女、新世界日常記  作者: 宮田幸司
1章 ギルド『ウォーグレン』活動記録
209/1361

Hero's story origin



 これは十年と少し前の物語。



「試合形式とはいえ負けたのは久しぶりだ」


 夜空を照らす満天の星を眺めながら、上下ともに真っ白な服に身を包み、髪の毛をワックスで固めオールバックにした原口善がそう口にする。

 彼がいるのは巨大な銅像の頭頂部。

 彼は真下の明かりにも負けずに光り輝く星々を眺めながら、隣に座る、巨大な銅像のモデルとなった人物に話しかける。


「俺達二人にさほど差はないように思えたがな。勝敗を分けたのは、単純にリーチの差だ」


 隣に座り、言葉を返すのはレオン・マクドウェルだ。

 一目見るだけでは少女に見間違えるほどかわいい容姿の彼は、焦げ茶色の革製の上着に黒のチノパンを履いた状態で隣に立っている男に返事を行い、それを聞いた善が苦々しい表情をしながら胡坐を掻く。


「それがなおさら気にいらねぇんだよ。技術や身体能力の差じゃなく得物の差なんて言われりゃ、拳が剣に劣ってるって言われてるみてぇじゃねぇか」

「今回のルールがリーチが長い俺に有利なものだっただけだ。これが別のルールでの戦いなら結果は違ってたさ」


 『拳が剣に勝てるはずがない』と内心で胸を張りながら、レオン・マクドウェルが善を慰め、それを聞き気を持ちなおしたのか善が勢いよく立ち上がり、大きく伸びをすると砂漠を奔る列車に視線を向ける。


「ま、やさぐれてても意味ねぇか。さっさと立ち直って、修行だ修行。ゲゼルのジジイに、長物相手の特訓をしてもらうか。まあ今日は遊ぶが」


 そう口にして真下で行われている、煌びやかな明かりを放つお祭り騒ぎに加わろうとする善であるが、


「その前に、一つ聞いていいか?」

「どうした?」


 それをレオン・マクドウェルが引きとめた。


「いや、一つ聞きたいことがあったんだ。何でお前はそこまで強さを追求する。何か目的でもあるのか?」


 彼がこの土地に生を受けてから十数年が経過した。

 来る日も来る日も戦いに明け暮れ、様々な強敵に打ち勝ってきた。

 しかしその相手というのは常に年上の人物で、自分と同年代、いや年下相手にこれまでで最も苦戦することになるとは思ってもいなかった。

 なのでそんな人物がこれほどの強さを得るに至ったきっかけに、後に『勇者』や『英雄』とよばれる少年は強い関心を持ち聞いてみたのだ。


「…………復讐だよ」

「そ、そうか…………そうなのか」


 その問いに対する答えにレオン・マクドウェルはどのようなもの期待していたのだろうか。

 返ってきた冷たい鉄のような声は彼が原口善から始めて聞いた声色で、常人ならば身を竦ませ動けなくなるほどの強烈な敵意と殺意が籠っていた。

 しかし彼はそうはならず、むしろ善からしたら少々意外な事に、強い落胆を込めた声が帰って来た。


「ま、それだけじゃない……というかもう一つあるんだけどな」

「もう一つ?」


 その思わぬ反応を前に善が普段ならばそこで終わるはずの話を続け始めると、レオン・マクドウェルが興味関心を再び抱いた様子で顔を上げる。


「ああ。俺は戦争孤児みたいなもんでな。復讐相手ってのもそれをしでかした犯人なんだが、俺と同じような奴らを作りたくねぇと考えてる。だからそう言う奴らを作らねぇように強くなって悪党どもをぶちのめしたいと思ってるし、もし俺みたいな奴が現れたら、手を差し伸べて助けられるようにはなりてぇとは思ってる」

「つまり………………広い意味で捉えるならヒーローか?」

「まあ……そうなるな」


 あまりにも直球的なレオンの物言を聞き、恥ずかしそうに頬を掻きながら肯定する善。

 それを前にしたレオンはニコニコと笑い、その顔を見て善は顔を赤くした。


「おいおめぇ、その気色悪い顔を止めろ」


 この時既に様々な経験をしてきた彼は、その夢が幼い子供の見る夢物語に近い事を既に理解していた。

 それゆえ普段ならば恥ずかしくて誰にも言わなかった秘密を、思わず目の前の少年に教えてしまったことを早くも後悔し始めていた。


「それは奇遇だな。俺も同じものを目指してる」

「あ?」

「その…………ヒーローって奴を目指してるん、だ…………」


 がしかし、そんな彼に告げられた内容は全く想定していなかったことで、勢いよく顔をそちらに向けると、顔を真っ赤に紅潮させ、思わず口が滑ったというような顔をしているレオン・マクドウェルと目が合った。


 その思いもよらぬ態度に善が唖然とするが、一秒二秒と時間が経過し、


「はははははは! うははははははは!」

「お、おい。笑うなよ! 俺は笑わなかったぞ!」


 三秒経過したところで善の脳がレオン・マクドウェルの言葉と態度を完全に認識し、腹がよじれる勢いで笑いだす。


「いやだってお前…………夢がヒーローですなんて言われてみろ! は、腹がよじれる!」

「お前も同じ夢を持ってて笑える立場か!」

「俺の意味は広義で捉えた場合だろ。俺の場合、実際はヒーローって言うよりもボランティアのおじさんだ」


 レオンの抗議を聞き何とか笑いを堪えそう口にする善。


「ほう、だがその人相では救うべき子供から好かれるのも大変そうだな?」

「てめぇ…………言っていいことと悪いことがあるだろ。ここでもう一戦するか?」


 すると彼はレオンの煽りを受け内心で抱いていた感情が百八十度反転。十五歳にして既に周りの大人と同じ風貌をしていた善は額に青筋を立てながら拳を構え、レオンが剣を抜く。


 まさに一触即発、恐らく司会者がいればそのまま実況を交えながら一戦始まってもおかしくない空気であったが、花火が空を彩り始め、光と音が感覚器官に飛びこんできたのを境に二人は戦闘態勢を解除。


「…………それで、お前の目指すヒーローってのはどんなもんなんだよ」

「ゴホッ! そ、その話を続けるのか!」

「俺だって語ったんだ、それくらい教えろよ!」


 戦いにならぬよう二人は座りながらビニール袋に入れていた焼きそばやお茶を手にして花火を眺めるのだが、善が唐突に語りかけて来た内容を聞き、レオンは飲みかけていたお茶を吐きながら返事をする。


「いや……」

「教えろ!」

「だから…………」

「教えろよ!」

「…………」


 それから善が勢いよく指を指しながら話も聞かず追及を続けると、レオンは観念したのか息を吐き、ポツポツと語りだす。


「そう……だな。賢教と神教、それにギルドに貴族衆。この四つの勢力は……色んなしがらみを抱えてる。それが大変なのはわかるんだが、そのせいで苦しんでいる人がいる。俺は…………そんな人たちを助けたい」

「つまりなんだ。お前の最終目標ってのは…………四大勢力の統一みたいなもんか?」

「まあ……そうなるな」


 レオンが語る夢物語と言われても仕方がないその夢を、しかし今度は笑わない。

 その夢自体は尊い物であり正しいものであると善は言いきれるし、具体的な目標自体に間違いはないと確信を持てたからだ。


「飲め」

「これは?」

「ただのサイダーだ。毒なんて入ってねぇよ」

「いきなりどうした」

「いや、悪かったなあんたの夢を笑って。素直に良い目標だと思うよ」


 そしてそれが叶えば自分の夢も叶ったも同然であり、ゆえに彼は不器用ながらその夢を応援した。


「そうか……ありがとう」


 渡された未開封のサイダーのペットボトルを受け取り、グラスをかち合わせるように善が飲みかけていたサイダーの勘にぶつけ、封を開ける。


「ま、期待しとくよ。未来の救世主さまに、な」

「俺が四大勢力をまとめた暁にはお前の願いも叶うはずだ。だから……俺に何かあった時は共に戦ってくれ」

「へいへい。分かりましたよっと」


 そうして二人が嬉々として話す中、最後の花火が上がり、夢見る二人の少年を照らす。


 すると大きな歓声が静寂を破壊し、彼らの世界に笑い声が響きわたる。


 それは二人の少年が語り合った過去の記憶。


 ほんの数分間、されど忘れる事ができない彼らが胸に抱いた思いを始めて口にした過去の記憶だ。




ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


私的な用事から帰ってすぐに調整したのですが、零時を過ぎてしまった…………無念。


それはそうと本日、いや先日分を投稿です。

今回はレオンと善の過去話、時系列的には善がヒュンレイと会う前の話ですね。

ここで善とレオンは語り合い、それから仕事を行ったり、組み手を行うような関係になります。


また明日、いや今日も更新するのでよろしくお願いします


それではまた次回、ぜひご覧ください

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