剣帝 レオン・マクドウェル 一頁目
「準備はできたようだな」
燃え盛る両刃の剣。それを中段で構え、切っ先を康太に向けるレオン・マクドウェル。
「来るぞ! 意識を集っ!?」
蒼野が声を荒げ他の三人に告げるが、目前の存在が行う攻撃の動作を、彼らは目視できない。
ただ気がついた時には四人全員を一気に真っ二つにできる規模の炎の斬撃が地面から水平に放たれ目の前にまで迫って来ていた。
「この!」
蒼野に優、そしてゼオスの三人が寸でのところで躱す中、持ち前の勘で彼らよりも一歩早く避けることができた康太が銃を構え、自らが放った斬撃に追従してきたレオン・マクドウェルに銃口を向ける。
そのまま数度にわたり引き金を引くと、鋼属性粒子を固めた弾丸は一直線にレオン・マクドウェルへと向かって行った。
「隙もなくその程度の速度の銃弾を撃つのはお勧めしないぞ康太君」
撃ちだされた鋼属性を固めた弾丸を前に、レオン・マクドウェルは怯まない。
刹那の出来事であった。
持っていた炎の剣を操り、迫る銃弾側面を叩き軌道を変え、更にもう一度刃で叩き銃弾を康太の方角へと向け、最後にもう一度炎の剣の面で銃弾のお尻を叩くと、撃ちだされた時の倍の速度で康太の両肩に銃弾を跳ね返す。
「マジかよ!」
目の前で繰り広げられた神業を目視することはできない。
しかし自らが撃ち出した銃弾が肩に当たった事で跳ね返された事を認識し、康太は息を巻きながら体を後方へとよろけさせる。
「まずは一人」
その隙を逃すはずもないレオン・マクドウェルが、蒼野と優の脇を駆けると炎の刃を構え、康太の首を捉え一思いに振り抜いた。
「……ちっ!」
「完全に殺す気の一撃だったんだが…………止めるか」
それを止めたのは二人の間に漆黒の剣を挟んだゼオスだ。
彼は初撃を回避するとレオン・マクドウェルの動きがわかっていたかのように動き、膂力の差に圧倒され吹き飛ばされながらも、なんとか康太が体勢を取り戻すだけの時間を稼ぐ。
「お、お前!?」
「……直感の優れてる貴様抜きで勝てるわけがないと思い助けただけだ。礼はいらんぞ」
ただ一度の衝突で両腕が麻痺した事に舌打ちしながらもゼオスがぶっきらぼうにそう返し、康太が目を丸くさせ、
「そうかい、なら三歩下がりな。そこまでは即死圏内だ!」
その言葉を聞くと同時にゼオスが後退、それに合わせるかのように真上から降り注いだ十数発の風の刃が大地を抉る。
「前もってデータで見ていたから知ってはいたが、やはりその異能は邪魔だな」
いつの間に撃ちだしていたのかもわからない風の刃を前に蒼野と優が喉を鳴らすが、康太は焦らない。
「『英雄』なんて呼ばれるほどの人物に敵対視されるとは。感動のあまり涙が出そうッスよ」
レオン・マクドウェルを前に精いっぱいの啖呵を切り、内心でほくそ笑む。
今この場で生き残る可能性が最も高いのは誰かと言われれば、それは未来予知に等しい直感を備えている自分である。それならば他の面々の援護を得ながら、必死に生き抜くことこそ、この場における最適解であると確信していた。
面倒な蝶の対処をしてたからな、残弾がすくねぇ。だが必ず生き残ってみせる。
そのような覚悟を胸に抱き、銃を構える康太。
「いい目だ」
その目を見たレオン・マクドウェルが康太の目で追えるギリギリの速さで迫るのだが、二人の間に優が割り込むと、自身の身長の倍はある巨大な鎌を振り回し、レオン・マクドウェルの手にする炎の剣と衝突。
「てめぇ!」
「貸し一よ。今度ヨモギ亭の最高級ヨモギ餅を奢りなさい」
必死に鍔迫り合い行う中、意図を察した康太が銃を構え、同時に優がレオン・マクドウェルの足元に粘着性の水を纏わせ動きを束縛。
「わかったよ。胃が爆発するくらい買ってやるよ!」
「気前がいいじゃない!」
「あれは……」
経験と直感という相反するものを一つにして立ち向かう光景は、その様子を目にした蒼野に嵐の夜の戦いを思い出させ、この戦いを乗り越える一筋の光明が湧いて出てきた事に胸を躍らせる。
「援護しなさいクソ猿!」
「てめぇは肉盾にでもなってろ犬っころ!」
蒼野がそんな思いを抱く中、大きく踏みこんだ優が鍔迫り合いを行っていた鎌を突如手放したことでレオン・マクドウェルが前のめりに倒れかけ、渾身の肘鉄が敵対者の頭部へ、康太が撃ち出した銃弾が優の脇を抜け右脇腹へと一直線へ進み、
「え?」
「なっ!」
そこで二人の理解が及ばない光景が顕わになる。
優が撃ち出した肘鉄が、康太の撃ち出した弾丸が、レオン・マクドウェルの体をすり抜ける。
その思わぬ事態に二人が混乱する中、
「わざわざ行儀よく縦に並んでくれるとはな。手間が省けて嬉しいよ」
気が付けば、レオン・マクドウェルの声が背後から聞こえてきていた。
「こ、康太!? 優!?」
蒼野が叫んだのに気付き康太が急いで振り向いてみれば妙な浮遊感が頭部に湧き、視点がおぼつかず地面へと向け自由落下していく。
「?」
「あ……がふっ!?」
それが自らの首が落ちている事による影響であると康太は気が付かず、知覚することのできない速度で心臓を破壊された優が口から吐血しながら膝をつき崩れ落ちた。
「時――」
そして
「君も終わりだ」
能力で時間を戻そうとした蒼野の前にレオン・マクドウェルは既に存在しており、手にする炎の凶刃を振り下ろした。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
さて今回は割と衝撃的な展開ではないかなと考える一話でございます。
まあ善さんクラスの相手と正面から衝突したらこうなるよねという、無情な現実でございます。
いや、搦め手でも同じことが起きていたとは思いますが。
というかレオン・マクドウェルはめちゃくちゃ手加減してこれなので、超人カテゴリーの人間はやばいです、ハイ。
それはそうと今回は普段よりも短めなのですが、これは想像以上に筆がのり、文量が想定よりも大幅に増えたためです。
なので恐ろしい展開から続く次回は今夜の十時過ぎにあげるので、そちらもご覧いただければ幸いです。
それでは次回で、またお会いしましょう。




