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ウルアーデ見聞録 少年少女、新世界日常記  作者: 宮田幸司
1章 ギルド『ウォーグレン』活動記録
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災禍のしるべ 四頁目


「ふひー。流石に疲れてきたな」

「まあこれだけやってりゃな」


 森林の伐採と再生が始まり三時間が経過した。

 予定通りならば目的地に到着しているはずだったギルド『ウォーグレン』の一行は、迂回する道を選んだ結果未だ山の中を進み続け目的地へと向かっており、額から汗を流した積が弱弱しい声を出した。


「兄貴ー、これあとどのくらいよ。流石に疲れが溜まってきたんだが?」

「そうだな、あと一、二時間かかるかどうかってところか」

「ひー結構時間がかかるな。疲れたー!」


 積に尋ねられた善が目的地のポイントを確認し目測でそう伝えると、額に伝う汗を乱暴に拭く積が悲鳴をあげる。


「三時間休みなしでここまで来りゃ流石につかれるわな。わかった、ここらを平地にしたらそこで休憩するぞ。幸い、時間に関してはまだ余裕があるしな」


 壁に掛かっていた時計を確認すると、時刻は午後一時を過ぎており、食事をとる必要性も考え善がそう提案。


「あー大変だった。これ冬じゃ無けりゃ汗だくだな!」


 少しの時を置き、積にゼオス、蒼野の三人がキャラバンの中に戻り手洗いうがいを済ませると、操縦室にいた面々も含め全員が再びリビングに集まり休息を取る。


「特殊粒子の回復は休息でしかできないのが辛いな。属性粒子ならなぁ」


 世界中に広がっている属性粒子は体内で生成・保存しているものと同一のため、大気中から吸収したり専用のドリンクで急速に回復させることが可能なのに対し、一人一人形が違う特殊粒子は回復の手段が限られている。

 そのため一度使うと回復させることが困難なのが大きな弱点であり、疲労感の襲われた蒼野がそうぼやくと、康太が近づき持っていたペットボトルを手渡した。


「ま、栄養ドリンクでも飲んどけ」

「お、サンキュー」


 特殊粒子を大量に使った蒼野は疲労が溜まったような様子で伸びをしながら席に座り、積とゼオスの二人は全身の泥を払い落とすと同じように椅子に座る。


「今日の食事当番は誰だっけ。流石に積にゼオス、それに俺はきついぞ」

「確かお前が食事当番だったはずだが…………それなら今日はオレがやろう。今度オレが忙しい時に変わってくれ」

「悪いな。頼むよ」


 掛けてあったタオルで汗を拭った蒼野が礼を口にすると、次に近づいてきたのは善だ。


「どうだ蒼野、特殊粒子は足りそうか?」

「まあ片道分なら大丈夫です。ただ、帰りも同じことをしろって言われると無理ですね」

「まあ帰りはゼオスに任せりゃ問題ないだろ。頼めるか?」

「……承知した」


 蒼野と善、そしてゼオスがそのような話をしている中、食卓から地続きのキッチンに康太が入り、冷蔵庫から卵とニンニクを取りだす。

 

「シェフ、今日のお昼の献立は?」

「ガーリックライスニンニク増し増しと、昨日ヒュンレイさんが作ってたポトフにトマト缶を入れたミネストローネだな。あ、余ったポトフって再利用していいっスよねヒュンレイさん?」

「ええどうぞ」

「そういや稲葉で買ったワインをまだ飲んでなかったな。いつ飲むんだ?」

「ああ! 昨日の夜に飲む予定だったのに忘れてました。あまり残しておくのもなんですので、今夜開けますか」

「そうかい、楽しみにさせてもらうぜ」

「いいですねー。アタシも早く二十歳を過ぎて飲んでみたいわ」

「その時は、私のおすすめを用意させていただきますよ」


 康太が積の歓声を耳にしながら料理を作り始め、ヒュンレイが善と雑談を始めながら優の羨望を込められた言葉に笑顔で返す。

 そんな日常の一幕を過ごしていると、しばらくして蒼野の耳に耳障りな音が聞こえてきた。


「ん、これって?」

「ハエね。さっきまではいなかったし、アンタ達が戻った時に入ってきたのかしら?」

「それなら悪かった。責任をもって、外に逃がそう」

「……………別にハエの一匹や二匹くらい殺してもいいんじゃない?」

「まあそうなんだけど、やっぱちょっとな」


 机に頬杖をつき優が笑いながらそう告げると蒼野が苦笑しながら返し、すると耳障りな羽音が鳴りやみ二人が首を傾げる。


「あれ、いなくなったか?」

「違う違う。アンタの肩に止まってるわよ」


 優が笑いながら指を刺した先にある蒼野の肩には確かにハエがおり、肩を動かし追い払おうとするがうまく取れない。


「あれ、変な風に服と絡まっちまったか?」

「災難ねぇ。かわいそうだけど殺しちゃったら?」

「いやそれも嫌だな。てか優、お前の頭にも止まってるぞ」

「うぇ!? マジ……アタシもアンタも変なのに好かれたわね」


 モニター越しとはいえ外の様子をずっと観察し、疲れで眠気が溜まり瞼が半開きになっていた優であったが、蒼野の話を聞き意識を覚醒


「ん? 電話ですね」

「アル・スペンディオからか?」

「ええ。調べものに付いて任せていたのですが何かわかったのでしょうね」

「おーい、飯ができ、た……ぞ?」


 時を同じくしてヒュンレイが電話に出て、康太が二人分のガーリックライスをもって現れると、


「蒼野!」


 瞬く間に康太が血相を変えて蒼野に飛びかかり、肩に張り付いているハエを叩き落とそうと躍起になり、すぐに緊急事態だと理解した蒼野が優に向け手を向ける。


「…………大変なことがわかりましたよ、善」

「なに?」


 その一方で電話の内容を聞いたヒュンレイは真剣な声で善に向け話しかけ、


「「!?」」


 次の瞬間、ハエを叩き落とした康太の右手と優の頭部が風船が割れたような音を発しながら爆発した。



ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


久々の二話更新! そして穏やかな日常の一幕が終わり、この物語らしい戦いの始まりです!


蒼野は、優はどうなったのか?


敵は一体何者なのか?


他にも様々な疑問を抱くなか、一緒最後の戦いが始まります。


乞うご期待!





それはそうと、もしよければ次回もご覧ください


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