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ウルアーデ見聞録 少年少女、新世界日常記  作者: 宮田幸司
1章 ギルド『ウォーグレン』活動記録
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真理の番人 五頁目


「康太、こいつは」

「気ぃ抜くなよ。今のところ、こいつが何の目的できたのかもわからねぇんだ。いつでも戦えるように準備だけしておけ」

「あの魔方陣は見覚えがある。確かこの大神殿で使われている者だ。しかしあの男についてはわからん。聖書にも全然書いてない…………一体何者だ」


 突如現れた男を相手に対し全員が警戒心を抱き、数人が反応を示す。

 ゲイルはページをめくり情報を得ようと足掻き、積や優は固唾を飲んで状況を見定めている。

 蒼野と康太は警戒心を顕わにし、ゼオスに至ってはいつでも斬りかかれるよう鞘と柄に手を添える。


 そんな彼らの様子など気にしていない様子で男は表情一つ変えず辺りを見渡し、蒼野達全員の顔を確認すると、右腕を虚空へと掲げ小さくつぶやく。


「――――――――」


 それがどのような意味なのかは彼らにはわからない。

 ただ高速で何かを念じているのだけはしっかりと認識することが可能で、それが終わるとともに十体の審判者は砂へと変化。風が吹いたかと思えばその痕跡を一切残さず消え去っていた。


「これで邪魔者は消えた。君たちの障害は既になく、ここに残る理由もない。警戒心を持つ必要もないと思うが……残念ながらまだ俺の事が信用できないか」


 未だ警戒を解かぬ彼らを男は一瞥し、それに対し返される無言の解答を前に息を吐く。


「……残念ながら、貴様を信じるに値する情報が一つもない。この対応には目をつぶってもらうしかないな」

「せめてアンタの素性でも明かしてくれれば、信用もしようもあるんだけど…………どうかしら」

「そうだな。まずは俺が来た理由と自身について話をさせてもらおう事が先決か」


 ゼオスと優の言葉を聞き、男が胸に手を置く。


「先程も近い事を口にしたが――――ようこそ諸君俺はこの大遺跡の守護者、平たく言えば管理人だ。名前は…………好きに呼んでくれて構わない」

「な!?」

「管理人だとぉ!?」


 男が口にした内容を聞き、驚愕の声を上げるゲイルと宗介。


「そうだ。そしてここに来た理由だが、俺は君たちを救いに来た」

「救いって」

「……どういう事だ。話が掴めん」


 それに続き明かされた内容を聞き、二人だけでなく残りの面々も混乱。

 そんな中で最初に回復したのは積であり、半ばまくしたてるような様子で疑問を口にする。


「じゃ、じゃあ……じゃあ俺達は無事に帰れるのか!」

「あぁ、俺が保障しよう」


 迷いなく言いきる男の言葉に積が安堵するのだが、ゼオスは未だに手に沿えた柄を離さず、自身が『信用するに値する』と確信を得るために言葉を紡ぐ。


「……そう単純に信用していいことでもなかろう。救いに来たと言ったな。それが嘘偽りないものだとするのならば、そもそもなぜ俺達を救う必要がある? 探索者の死など、日常茶飯事だろうに」

「実は今回君たちがここに飛ばされたのは完璧な手違いだったようなんだ。それで死んでしまっては目覚めが悪い。罪なき者達が死ぬことも忍びないしね」


 手違いを謝る様子の男を見て、ゼオスは目を細める。

 そのまま新たに生まれた疑問を口にしようとするが、宗介がゼオスの前に立ち、それよりも早く疑問をぶつける。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! あんたは今、管理人と言ったな……それはほ、本当ですか!?」

「本当だ。この点において、嘘はついていないと約束しよう」


 震える声で質問をする宗介にいとも容易く答える男。その答えを聞き宗介は腰の力が抜けたかのように倒れ込む。


「お、おい大丈夫か」

「馬鹿な、そんなはずは……だとしたら俺達は……とんでもない存在と…………うはははは!」

「ちょ、宗介さん!?」


 それだけ言い気色の悪い笑みを一瞬だけ浮かべ意識を失う宗介。

 蒼野でそのような奇行に見慣れていない積が急いで近づき自身よりも大きな彼の肩を揺するのだが、恍惚した表情を浮かべたまま幸せそうに眠る彼は目を覚ます様子がない。


「だめだこりゃ。なぁゲイル、説明を頼みたいんだが」

「……そうだな。このままだと宗介さんがただの変態で終わっちまう。流石にそれは申し訳ないし、何よりこの異常な状況について知っておくべきだ」


 頭に右手をやり、左手で心臓を抑える気絶しないようにしているゲイルが、一度だけ管理人を名乗る男に目を向ける。喋ってもいいことなのか、考えあぐねているという様子の視線だ。


「どうぞ」


 それに対し、彼は身近く返答。


「ならお言葉に甘えさせてもらいますかね。まず聞くが、おたくらは俺ら人間の歴史がどのくらい続いているかは知ってるか?」


 それを見たゲイルが、息苦しそうにしながら言葉を紡ぐ。


「……知らんな」

「そう、分からねぇんだ。ただ賢者王が現れたのは今から数万年以上前って事だけは確定していて、彼は停滞していたこの世界に新たな知恵を授けたという。そしてこの大遺跡が発見されたのは、それからすぐの事だったと言われてる」

「てことは、ずいぶんと前の話なんだな」

「そうだ。まさに遥か昔の出来事さ。だがな、そんな昔から今日までこの大遺跡は探索されているが、その歴史上の中で! 一度たりとも! 守護者を語る存在など現れなかった!」

「つまり、このお兄さんを見つけたという事は世紀の大発見ってことでいいのか?」

「そうだ。彗星エリア六ヶ所目。『真の声』十五個目。どちらも歴史を辿る上での大きな手掛かりだ。けどなそれすらも霞む程の大発見かもしれねぇんだ!」

「ふむ、恐らく霞むな。なんせ俺は、大遺跡の完成当時からここに籠っていたからな。というより彗星エリアを自由に動かせる権限もあるし、『真の声』は俺が作ってる」

「あぼばべねー!?」

「ゲ、ゲイル!?」

「こいつのこんな無残な姿、始めて見たな。いや言う程長い付き合いじゃないが」


 口から泡を吐き白目で気絶したゲイルを見て蒼野と康太がそれぞれの感想を口にする。

 とはいえ、この大遺跡に関してそこまで詳しくも思い入れもない康太でも今目の前の男が口にしたのは思わず目がくらむような内容だ。

 考古学者の類からすれば、白目を向いて失神するに値する内容なのはある程度だが認識出来た。


「まああんたが守護者? とかいうすげぇ存在なのはわかったよ。ゼオ……怜やらクソ犬はまだ警戒してるようだが、敵意がない事もわかる…………だから信用しよう」

「俺も俺も! てかな、ここでこの人の提案を断ったとして、生きて帰れる予感がしない」

「……あの獣たちの主のようなものと考えれば、反抗するだけ無駄か。少々の不安はあるが、この際贅沢は言えんな」


 最も警戒していたゼオスが、康太の判断を聞き敵意を引っ込め、

 

「クソ犬、お前はどうすんだ」

「いやあたしは元々警戒はしてても信用はしてたし。ごちゃごちゃ言うつもりはないわよ」

「意見がまとまったようだな。結構、それでは君たちをすぐに転送する」


 意見のまとまった一行を見て、男が宣言する。


「さっきからちょっとだけ気になってるんですけど、ずいぶんと急ぐんですね」

「こちらの手違いとはいえ君たちはここに居てはならない存在だ。悪いが、すぐにここを出て行ってもらう」


 それはこちらの手違いのお詫びだ


 そう言って指を指したのは宗介が見つけた石板だ。


「本来ならその石板を手にする権利もないわけだが…………その情報とこの彗星エリアの存在を話すことを許す。だが、俺の事を話すのは許さない。約束を破れば…………どうなるかわかるな?」

「「!」」


 僅かに間を置き語られた言葉。

 そこに込められていたのはこの場にいる彼ら全員が生きてきた中で最も強く感じた威圧感であり、全員が全員、この一方的な約束を違えた時の未来を瞬時に理解し体を強張らせた。


 そうしている彼らを前に男は指を鳴らす。


 それだけで複雑な文様の魔法陣が蒼野達一行の真下に現れ、男が現れた時とは別の、青白い光を放つ。


「これも迷惑をかけた詫びだが、君たちの目的地にまで飛ばそう。たしか、S3だったかな。今は人もいないようだし、突如現れても問題にはなるまい」

「そうっす! いやー守護者様は気前がいい!」


 彼らを包む光が増していく中で、男が呟く。その言葉に瞬時に立ち直った積はラッキーとばかりに喜ぶ。


「……最後に一つだけ聞きたい」

「ん?」


 足元から徐々に消えていき各々が今までの事をまとめたり今後の事を考える面々を置き、ゼオスが口を開く。


「……なぜ俺達を助けた」

「その質問には先程答えたはずだが?」


 涼しい顔で男は答える。


「……本当の理由はなんだ、と聞いている。手違いが理由ならば、もっと早くに対応できたはずだ。俺達の目的を知っているという事は、早いうちから監視していたのだろう?」

「…………」

「おいおい」


 面倒ごとになったら嫌だから聞くなよとでも言いたげな様子の康太を無視して、今回の件の核心に迫るゼオス。


「…………ふむ」


 下半身が完全に消え、足元から熱気を感じる事で目的地へと移動している事を彼らが認識する中、男は僅かに思案。


「この際だ、本当の事を話そう。俺はね、気にいったんだよ、君たちが」

「え?」


 青白い光が彼らの肩辺りまでを呑みこみ、ほんの数秒後には転送を終える段階に至ったところで、彼は真実を吐露する。


「昔から好きなんだ。強い思い、信念を持った人間が。正直最初は放っておくつもりだったんだが、気絶している彼の思いや、絶望的な状況でも膝を折ろうとしない君たちを見て、助けたくなった。それだけの理由だ」

「…………そうか」


 その善悪を超越した個人のエゴを耳にして、ゼオスは男が現れた理由についに納得し息を吐く。


「気絶している宗介君によろしく」


 その彼の短い返事が木に行ったのか彼は朗らかな笑みを浮かべ、耳まで消失した彼らの大半には聞こえない、別れの言葉を告げていく。


「さら―だ、強き――を抱いた少年た―。願――ば、―の――りにまた―――」


遅くなって申し訳ございません。

そしてここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


これにて今回の冒険はほぼ終了。

次回で後始末を付け物語も終わりとなります。


さて、皆さまからして今回の話はどうだったでしょうか?


このように出自や正体が全くわからないミステリアスなキャラクターというのは、私の話の中では今回が初めてで、正直なところ皆さまの反応が気になります。

何にしても、気になってくださればありがたいものです。


それと次回の物語に関して言うと、ほのぼのしたものになると思います。

その前に短編が一つはいるとは思いますが。


あと、お正月祝いについては、三が日を過ぎてしまいますが、後日やって見ようと思いますので、よろしくお願いします


久々にtwitterのURLを

https://twitter.com/urerued

基本的に本編投降のお知らせや、裏話を載せていくつもりですので、よろしければぜひ


それではまた明日、よろしければご覧ください


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