真理の番人 二頁目
「二人とも、こっちへ来い!」
康太が叫び、それを聞いた蒼野とゼオスが時折能力を使う素振りを見せてはターゲットを自分に向けるようにしていたのを止め、銃弾の真っ白な床を駆け雨を防ぎ続ける五人の側に近づいてくる。
そこで康太から簡易的に作戦を聞き鋼の壁が崩れるのと同時に、彼らは四方へと三回。
「……時空門」
最初に仕掛けたのは最初と同じくゼオスだ。
彼が厳かな声を発すると普段と同じく能力を発動。
それが発動するか否かという状況で、憲兵達は一斉にゼオスのもとへと集まり、襲い掛かる。
「彼は大丈夫なのかね!?」
「大丈夫だ。あいつはオレらの中で一番強い。回復役なしでもそうそうくたばらねぇ」
その様子を視界の端に収めながら、康太に宗介、優と積が、一丸となって壁を駆ける。
「不敬也」
それとは真逆の方向ではゲイルが光の速度で背後に回り込むが、一早く自分に対し到達するという結論に至った審判者が、ゼオスに向けていた攻撃とは別に、憲兵達を操りゲイルの行く手に槍を投擲する。
「クソッ、後は頼んだ!」
攻撃の激しさに耐えきれなくなったゲイルはたまらず地上へと移動。しかしその隙を突き、康太達四人が審判者とほぼ同じ位置にまで到達した。
「知恵なきものに裁きを」
「さっきから上から目線で語りやがって。うっせぇんだよ!!」
しかし審判者は四人を無視して、そのさらに上空、風の膜を纏い姿を隠していた蒼野に対し激しい弾幕で対抗。その勢いに耐えきれず、蒼野が地に墜ちる。
しかし結果的に激しい攻撃を然程受けていないことで康太を含む四人が審判者よりも上空を取ることに成功。
「だから!」
「我の上に昇る……不敬の極み」
そのまま体に飛び乗り駆ける彼らを前に、無機質な声が響きわたり、同時にただ空の上を気ままに飛んでいただけの審判者の動きが激化。
更に全身が黄金を纏った姿から赤黒く変色し禍々しい空気を発し天井付近まで上昇すると、全身の至る所から真っ赤な光線を発射し、自身の体に乗っている彼らごと、周囲一帯を焼き尽くさんと暴れはじめた。
「こんにゃろうが。大人しくしてなさいよほんと!! いやしてください!」
彼らにとって幸運だったのはこの部屋に敷き詰められているタイルの物質が想像以上の硬度を誇っていたことで、その場から飛び降り天井や壁に着地し動き回る分には、どれだけの攻撃を受けても傷一つ付かない壁や天井は好都合だった。
そうして一塊になって移動しながら、康太と積が銃弾を撃ち出し、他の二人が積の鋼属性で作りだし宗介の能力で防御力に振りきらせた鋼の盾を使い凌ぎ続ける。
「耐えろ! ここを耐えればオレ達の勝ちだ!」
高い錬成技術を誇る積の力に宗介の能力が混ざった鋼の盾は万物を防ぐ壁である。
その防御力を目にした巨体は突如体を捻り、尾を回りこませるように動かし攻撃。鞭打のようにしなる一撃が真正面からではなく真横から迫り最初に能力を使った宗介を叩き落とし、次いで残る三人の始末に動く。
「?」
しかしその時、巨体が揺れる。
「我、墜落せり。何故……謎……理解できず」
「空間系能力者やら上に昇るオレ達への対処は完璧だったんだがな。まあ、こっちの方が一歩上を行ってたってことだ」
康太の作戦は単純で、審判者の中に組み込まれた優先的に排除しなければならない相手の順序、それに含まれていないであろうもので隙を突くというものだ。
ゼオスや蒼野を狙っている事で空間系能力者を特に厄介視している事はすぐにわかった。
優を撃ち落とす様子から制空権を奪われる事を嫌がることも理解できた。
逆に康太やゲイルの攻撃など自身にダメージを与えない者に対しては然程気にしていないこともわかった。
つまり相手の動きは、自分に近づき制空権を脅かす相手や空間能力を使い逃げる相手を仕留める事が基本で、そのほかに対しては然程気にしていない。
ならば、その然程気にしていないものに仕掛けを施せばいい。
その答えが宗介の能力により『千切れない』事に特化させた鋼属性で作った糸を吐きだす様に設定させた特殊弾だ。
康太と積は各々の方法でこれらを撃ち出し、然程こちらに関心を払っていない巨体に確実に埋め込んでいき、そしてどのような攻撃を受けてもびくともしない壁に、これまた積と宗介の力を使い接着させた。
それらは一つだけならば巨体を抑えるほどの効果を発揮しないが、十二十、いや百二百と蒼野やゼオス、そしてゲイルに照準を向けている間に体の中に埋め込ませれば、巨体を縛りつけるには十分だった。
「これで!」
「…………決めるぞ」
身動きが取れず足掻く巨体に迫る二つの影。
風と炎を剣に纏った同じ顔をした青年は、動けぬ標的に肉薄し思うがままに斬り裂いていく。
「俺達もいくぞ」
無論他の面々も見ているだけでは終わらない。
これまでで最大の弾幕に晒される二人を守りながら、時折攻撃を行っていき、康太や積などは更に糸を付けた弾丸を撃ち出し、
「! おいお前ら、顔面だ顔面を破壊しろ」
「?」
そうして銃弾で余すことなく全身を撃ち抜いている最中、康太が審判者の異変に気がついた。
「このデカブツ、これまで完全に無視してたくせにいきなり顔を守りやがった!」
これまでと違うその動きは明らかに奇妙なもので、確認した瞬間康太は全身を再生させる制御に関わる物、またはそこだけは再生できないのだと瞬時に判断。
その康太の言葉に従い、蒼野とゼオスは一直線に疾走。
「さて、アタシらも怪物狩りに参加しましょうか」
「うむ! この試練! 俺達の力で見事超えて見せようじゃないか!」
それに続くように防御をしながらも各々が得物を構え、前を走る二人に追従。
その間にも審判者は糸を引きちぎり再び空へと昇っていこうと足掻くが、千切れない事に特化した数百の鋼鉄の糸を引きちぎるほどの膂力は、この怪物にはなく、
「……その首いただく」
最初の時と同じく、再び距離を詰め剣を振り抜くゼオス。彼は勝利の瞬間が目前に迫っていると認識し意識を研ぎ澄ましていき――――
「解析完了。これより対象の殲滅形態へと変化する」
無機質な、彼らに対する絶望を告げる声が聞こえたのはその時だった。
「――――――――――!!!」
「ぐぅ!?」
「こ、こいつぁ!?」
勝利を目前にした彼らを前にして黄金で覆われた獅子の頭部を持ちあげ咆哮を上げ、その声のあまりの大きさに全員が耳を塞ぎ身を縮めた。
「…………ちぃ」
「攻撃はねぇか!」
康太やゼオスはこの隙に攻撃されるのではないかと疑っていたが叫ぶ獣に動きはなく、そうして数える事十秒後、それまで部屋を支配していた音が止む。
「今のは……」
「耳塞いでるうちに天国にでも行くかと思ったんだが、そうじゃ無さそうだな」
「……厄介事には変わりなかろう」
「殲滅形態、か。嫌な響きだなおい」
彼らが考察や感想を言い合う中、部屋全体の空気が重みを増す。
同時に鹿頭の体が熱を帯びたかのように赤く発光し、苦悶の声をあげながら迫り、そのマスターである審判者が僅かに屈む。
「クソッ! 早いな!」
能力の発動を止める事に専念していた憲兵の動きが、速さと鋭さを伴ったものに変化。
「がっ!?」
「っっっっ!!」
それでも彼らは迫る鹿頭の攻撃に完全に対応していくのだが、僅かな余裕を胸に抱いた瞬間、鹿頭によって固められていた彼らを踏み潰すべく、審判者の両前足が襲い掛かる。
「こんの野郎!」
「…………死ね」
その威力はこれまでの比ではない。
直接当たっていないにも関わらず放たれた衝撃波の余波だけで骨が軋み、その勢いに押されまいと康太とゼオスが踏みとどまり、一方は銃弾の雨を、一方は漆黒の剣を振りきり、
「「なっ!?」」
その時目にした光景を前に、二人が同時に息を呑む。
放たれた弾丸と刃は全くその肉体に通らず、予期せぬ衝撃を前に二人はよろめき、そして
「答えなき者は去ね」
そんな二人に対し、真っ赤な光線の雨が降り注いだ。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
という事で戦闘の転換期、蒼野達一行に襲い掛かる危機です。
流石に雑魚とは違うのです、雑魚とは。
それはそうと今年の投稿はこれにて終了。
また明日からも毎日更新していこうと思います。
それではみなさん、よいお年を!
そして明日からも、ぜひぜひご覧ください!




