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ウルアーデ見聞録 少年少女、新世界日常記  作者: 宮田幸司
1章 ギルド『ウォーグレン』活動記録
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アルマノフ大神殿の探索 三頁目


「あれ? 道がない?」


 順調にここまで進んで来た蒼野達だが、そこで障害に直面する。

 これまで絶えず続いていたまっすぐな道がなくなり、行き止まりとなっているのだ。

 その様子を不思議に思う蒼野であるが、前を歩くゲイルがカウボーイハットを深く被り息を吐いた。


「ま、これが試練が訪れるって言ってた理由だ。側面を回るだけなら間違いなく安全なんだがな、その道が必ず続いているってわけじゃねぇ。こうやって望んでなくても危険な橋を渡らなけりゃならない時もある」

「……無理矢理こじ開ければいいではないか?」

「いやいや、世界最高の歴史文化財に対して何言ってるんだよお前は。そんな事したら末代まで呪われるぞ!」


 無遠慮なゼオスの質問に対し蒼野が突っ込みを入れる。


「過去に試したことがある奴はいるが駄目だった」

「あ、試したことあるの。以外に物を大切にしないのね考古学者」

「我々がするべきは歴史の解明だ! 壁一つ壊して先に進めるのならば容易いこと!」


 がそれに対しゲイルが思いもよらぬ答えを返し、宗介の神をも恐れぬ発言に蒼野が一歩引くが、その隙をついてゼオスが抜刀。音を置き去りにする速さで壁を斬り裂いた。


「ちょ!? ゼオ、怜さん!? 少しは立ち止まろうよ! 呪われるぞ!」

「……斬れん」

「へ?」 


 そうして早口でまくしたてる蒼野であるが、ゼオスの答えを聞き声を裏返らせる。


「…………固いな」


 ゼオスが言う通り彼が斬りつけた壁には一切の傷が付いておらず、石造りの壁は万全の状態で、その存在感を主張。

 それを見ていた優や康太が感嘆の息を吐いた。


「この場所が賢者王によって作られたと言われる所以だな。壁は世界で最も固いとされる神器と同じレベルの硬度を誇ると計測され、加えて能力とかで開こうにも超高速再生に阻まれ結局は通れない。

 つまり俺達探索者は、決められた道を進むしかないってことさ」

「そんな事よりも次へ行くぞ! 試練が待っているからな! 気を引き締めろ!」


 ゲイルの解説と宗介の一喝を耳にして、全員の意識が次の部屋で待ち構えているという試練に移行。

 次の部屋へと続く廊下を数分歩いたところで、先頭を歩いていたゲイルは歩調をゆっくりなものに変化させ背後を振り返った。


「さて、あと一、二分で試練のある部屋に辿り着くわけだが、あんだけ言っておいてなんだが次の部屋はそう警戒する必要はねぇ。襲い掛かる試練ってのは、炎の鳥……いや塊が俺らに向けて襲い掛かってくる程度だ」

「それだけ聞くなら何とでもなりそうなんだけどよ、本当に大丈夫か?」


 自分たちを安心させるための嘘をついているかと思い蒼野が疑惑の目を向けるのだが、さして迷う事なくゲイルは頷く。


「ほんとかー、俺は緊張しちゃってしっかり働けないかもしれないぞー?」

「サボろうとすんな。撃つぞ」

「ちょ、銃を向けるな!? 怖いじゃないか!?」


 頭の後ろで腕を組み堂々とサボろうとする積に対し叱咤する康太。それを聞いてもゲイルと宗介はさして気にした様子もなく、それこそ顔には余裕の表情を浮かべながら話を続ける。


「まあサボっても問題ないぜ。試練つっても、第二階層程度ならたかが知れてる。ぶっちゃけお前らのうちの一人で何とでもなるレベルだと思うぜ」

「じゃあなんであんなに警戒するように言ったんだよ?」

「流石に完全に無警戒で突っ込んでは欲しくなかったからな。前もってそういうものがあると知ってほしかったんだよ」


 ゲイルの言っている言葉の内容におかしな点はなく、一安心という様子で胸を撫で下ろす蒼野。


「だがその次に控えているE2はそううまくはいかない! あそこはルールを知らなければ足元を掬われるからな!」

「…………ちょっと待ってくれ。跳ね上がった鼓動を正常に戻したいんだが」

「さあ行くぞ!」

「聞いちゃいねぇ!」


 がそんな彼を脅かす様に宗介がそう告げると、蒼野の静止を振りきり、彼は勢いよく次の部屋の前まで進んでいく。

 そうして辿り着いた部屋は先程の部屋にあった溶岩が壁中から吹き出しており、そこから無数の塊が飛来。様々な角度から一行へと襲い掛かる。


「さあお前ら、いっちょ働いてくださいな!」

「お前マジでサボるつもりかよ」


 積の言葉にため息をつく康太が銃を構え、先頭に立つゲイルがレーザーを放つ。

 それに続いて蒼野とゼオス、それに優が各々の得物を構えながら前に出て斬り裂いていけば、ほんの数秒で部屋に現れた炎の塊は全て消滅し、僅かな間慌ただしかった空気が元の静けさを取り戻す。


「!?」

「康太?」


 しかしその状況で康太だけが正体不明の殺気を感知。ほぼ反射的に銃を構え積のいる方角へと向ける。


「うぉ!? サボってすんません!?」


 血気迫った康太の顔と迷いなく自分へと向けられる銃口を前に積が慌ててしゃがみ、それから一拍置いて撃ちだされた銃弾。

 それは積の背後から現れた炎の塊を見事に撃ち落とし、積の口からは悲鳴が漏れた。


「どうしたんだ康太、なんかさっきからお前だけ気を張ってる気がするぞ?」

「……わりぃ、何でもない」


 心配そうに自らに尋ねてくる蒼野の言葉を躱し、胸に溜まった気持ちの悪さを息と共に吐きだしながら康太は考える。


 敵は恐らく隠密行動に長け、殺気を隠すことに慣れている暗殺者だ。


 自分が気が付くのは危険察知の直観を得ているためで、恐らく他の面々はこれからも気づかない。


「本当か?」

「あぁ。何かあればすぐ言うさ」


 今この瞬間に伝えようかと迷ったが、下手に伝えて皆が混乱、そのまま奇襲というパターンや、目標を達成できなくなるという事態は絶対に避けなければならなかった。


 なので康太はこの探索が無事に終わるまでは決してこの事実は口にしないと胸に誓い、自身の心臓を強く叩いた。


「おーい、康太君康太君聞いてるかー」

「…………」

「おーい!」

「あ、ああ……すまねぇ。何だった?」

「ダメだこりゃ。最後尾にいる宗介さんに聞くがよろし」

「なんだその口調は。まあいい。すまん宗介さん。さっきまで何を話していたのか、教えてくれ」

「うむ! 次の部屋の攻略法だ!」

「次の部屋?」


 ほとんど考え事に意識を向けていたため着いて行く事で精いっぱいだったのだが、気が付けば次の部屋はすぐ側にまで迫っていた。


「何に驚いているかわからんがまあいい。次の部屋の攻略法だー!」

「攻略法……」


 宗介のテンションについて行けない康太だったが、その内容を逃すのはさすがにまずいと耳を傾ける。


「と言っても知ってさえいれば難しい物ではない! 次の部屋に待ち構えるは遥か昔に世界を支えたと言われる王族たち! 彼らに失礼なきよう、臣下の礼を取るのだ!」

「臣下の礼……」


 なので耳を傾けしっかりと聞いていたのだが、そこで彼が口にした言葉の意味が理解できずに思わず頭を捻る。

「うむ! 右手は拳を握り地面に付け右足はつま先から膝まで地面にピッタリと。左膝は立て、左手を膝と直角になるように添える! まあよく見る動作だな。それを部屋に入ってすぐに行ってもらう!」

「分かった分かった、そう叫ぶな。にしてもその攻略法を最初に発見した人はすごいな。普通試そうなんて思わねーだろ」


 恐らく自分が万全の状態でも決して理解できない答えを前に、康太が素直な感想を口にするのだが、その言葉に宗介がピクリと反応する。 


「ん? いや次の試練の攻略法の解明した方法については、お前の思っている想像とはおそらく違うぞ」

「どういう事だ?」

「次の部屋の対処法についてはな、賢教が発行している聖書に書いてあんだ」

「聖書?」


 その言葉に疑問符を浮かべる康太。


「ああ。ってそうか。よくよく考えりゃお前らの中に賢教出身者は誰もいないんだな。それなら仕方がねぇ」


 そんな彼にしっかりと見えるよう、ゲイルと宗介が手にしていた本を見せる。 

 そこにあったのは紺色のカバーに金色の文字が彫られた、全体的に地味な装飾の分厚い本だ。


「炎の塊が飛んでくるのを炎の燕と形容したのは聖書からの抜粋だし、これから先の仕掛けについてもこの本には書いてある! これがあるからこそ、この大神殿は賢者王が作ったと言われている!」

「まあ完璧ではないんだがな」

「完璧じゃない?」

「うむ! 全てのトラップについて載っているわけではない! だから警戒するに越したことはないぞ!」

「なるほどねぇ」


 言いながら前を向くと、入ってすぐの場所で既に蒼野達が臣下の礼をしているのだが特に危なげなく先へと進み、それを見て康太自身も続こうかと思ったところで、背後を振り返る。


「あ、悪い。オレが先に入るから何かあった時は助けてくれ」

「? ああ、ポーズがずれていた場合の対処か! 了解したぞ!」


 謎の殺気に対する警戒は怠らない。

 殺意の正体は未だ表れず、しかし警戒するに越したことはないため味方に念を押し、安全に通過すると、それに続いて宗介・ゲイルの順番に部屋に入り無事に通り抜ける。


「ここは…………雷の部屋か」


 そうして一段落すると康太は振り返り、先程自分が通りすぎた部屋を覗く。

 これまでの部屋のような特徴的な物が置いてあるわけではない。しかし部屋の壁全体に刻まれている雷鳴を現すような壁画が、この部屋がどの属性か表していた。


「そうだ、そして壁に埋まっている彼らが王族達……らしいぞ」


 続いて周囲を観察すれば成人男性二人分ほどの大きさの石造りの人形が彼らから見て左右の壁に設置されている。

 その数十六体。

 礼をしなければ、これらが襲ってくるという事なのだろう。


「ちなみにあの人形達の強さは?」

「深度が浅いにしてはかなり強いな! 面倒だし戦わぬが吉だ!」

「そんな事より追うぞ。俺とおたくが最後に通ったせいで、あいつらを待たせちまってる」

「それは申し訳ない! 急ごうか!」


 ゲイルと宗介はそう口にしながら蒼野達のところまで小走りで進み、最後尾を進む康太はと言えば、先程の部屋の壁にかかっている雨の中で戦う人々の壁画を見ながら、彼らを追いかける。


 危険信号は未だ止んでいなかった。


ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


本日は全快に続き大神殿の探索パート。

まあこんな感じなんだな、と見ていただければ幸いです。

事態に変化が起きるのは、もう少し後です。


あと、急ぎの用事のせいでここ数日文章がうまく練れてません。

早めに何とかするのでよろしくお願いします


それではまた明日、よろしくお願いします

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