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ウルアーデ見聞録 少年少女、新世界日常記  作者: 宮田幸司
1章 ギルド『ウォーグレン』活動記録
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アルマノフ大神殿の探索 一頁目


「いやすまなかった! つい熱くなってしまった! 治すために日々努力しているため、どうか許して欲しい!!」


 蒼野に対する説教が止まってからしばらくして、涙を流す蒼野の前で巨体が周囲一帯に聞こえる程の大声を発しながら謝罪の言葉を吐きだす。

 蒼野はと言うと男の大声に肩を震わせ、先程まで説教をされていた経験から一歩後ずさり、康太が庇うように前に出た。


「で、あんたがアルさんの言ってたガイドなの?」

「ああそうだ! 姓は久我くが、名は宗介そうすけと言う! ギルド『アトラー』所属の考古学者だ! 短い間かもしれないがよろしく頼む!」

「『アトラー』所属……」


 男がそう口にすると、それまで恐れて隠れていたはずの蒼野が真剣な面持ちで口を開き、隠れていた康太の体から飛びだした。


 そのギルドの名は、彼にとって大きな意味合いを持っていたのだ。


「ああ、だから君の事は聞いているよ。リリさんの死に本気で悲しんでくれたそうじゃないか。そんな君があんな様子を見せたから、自分は……自分は思わず!」

「いや、いいんだ。こっちこそすまなかった」


 耳にした名前を前に、胸が痛む。

 かつて救えなかったその名を聞き身が引き締まり、こんなところで気持ちを上下させている場合ではないと自身に対し発破をかけ頬を叩く。


「アルさんの言ってた案内役が来たってことは」

「メンバーが揃ったってわけだな。俺の義兄弟も復活した。ならさっさと行こうぜ」


 蒼野が復活したのを見届けると、康太が全員にそう告げ親指で一ヶ所を指す。その先には、中に入る人物達を確認するための検問エリアがあった。


「ご苦労様です。こちらで許可証の確認をさせてもらいます」

「おう、お疲れさん。ほらよ」


 立ちふさがった男性に対しゲイルが許可証を取り出し、それを男が確認。


「ありがとうございます。貴族衆ファン家のゲイル様ですね。確かに拝見しました。ではあちらに今回の参加メンバーを書いて提出してください」

「あいよ、んじゃさっさと書かせてもらうかね」

「あたしも手伝うわ」

「手伝う事があんのか?」

「ちょっとだけね」

「じゃあ俺も行くかな」


 そう言って離れて行くゲイルに優、そして積を残った面々が見送り、彼らは天へと向け伸びている石柱の日陰で一息つく。


「すぅーはぁー。すぅーはぁー!」

「……何をしている」


 腹を膨らませるほど大きな深呼吸を突如行い始めた蒼野に対し、ゼオスが疑問を投げかける。


「深呼吸。昨日からずっと緊張しすぎて意識を失ってたからな。いくら調査されているエリアを通って奥に進むと言えど、危険はある。そんなところで気絶しないよう、今のうちに心の準備をな!」

「…………殊勝な心掛けだな。いちいち面倒だ」

「いやそもそも、蒼野を引きずろうとすんなボケが」

「そうだぞ、仲間は大切に扱いたまえ! えーと、君の名前は?」

「康太だ。よろしく頼む」

「うむ。よろしく!!」

「おう待たせたな。登録を終えたぞ」


 康太が宗介と握手を行っていると、ゲイルが優と積を引き連れ帰還。

 蒼野達はそれを確認すると立ち上がり、ゲイルと宗介を先頭に彼らは足を踏み入れる。


 世界中の存在する謎の坩堝、アルマノフ大神殿へと。




「うごぉあ!?」


 入ってすぐにガツンと殴られるような衝撃が蒼野を襲う。

 それは昨日からずっと感じていた、期待と興奮の感情に、大神殿内部へと足を踏み入れた喜びが合わさったもので、誰に攻撃されたわけでもないというのに強烈な衝撃が頭部を突き抜けしたのを感じとった。

 すると義兄弟を支えようとする康太だが、蒼野はそれを断りなんとかその場で踏みとどまった。


「おお……耐えた!」

「めちゃくちゃ楽しみにしてたんだ。倒れて貴重な経験を失うような事、しないようにしなくちゃな!」

「かっこよく言ってるつもりかもしれねぇが、緊張感が理由で気絶しかけてるっていう事実を忘れんなよおたく」


 不安げな様子で自分を見てくる面々に対し口から飛び出た液体を拭い取りながら笑いかける蒼野であるが、ゲイルが突っ込みを入れると顔をしかめ、気を取り直して一行は先へと進む。


「さて、ここが第一の部屋だ」


 そうして石造りの壁が続く通路を歩いた先に出たところで宗介の言葉を聞き、全員が辺りを見渡す。


 壁にA1という看板が掲げられたその部屋は四本の柱が立っている正六面体の四方が石造りの部屋で、見たこともない古代文字が描かれている石碑が中央に鎮座。

 壁には様々な動物が行列をなし一方向へと向け歩き続ける様子と、人間らしき二足歩行の生物が原始的な形の斧や刀を担ぎそれを追いかけている様子が描かれている。

 さらに正面の下へと続く道の真上には下に12859と描かれた石板が設置されており、縦四十五センチ横三十センチほどのそれには、人々が様々な武器を持ち戦い合う姿が描かれていた。


「あれがロッセニム探索の…………始まりを告げる石板……」


 テレビや雑誌で何度も特集されていた考古学上では最大の価値があるとされる遺物を見て、既にそれを実物としてみた事があるゲイルと宗介を除く大半が息を呑む。


「実物は始めて見たが……なるほど言葉を見つけられない衝撃ってのはこういう事を言うのか」

「……古賀蒼野、意識は失ってないな?」

「ああ、何とか耐えた」

「うむ! 感動のあまり気を失うのをこらえるとは、君は漢だな!」

「どういう基準だよおい、てかうるせぇよ」

「すまん! こういう性格なのだ耐えてくれ」

「……少しは何とかしようと努力するべきではないか?」


 辺りを見回し、同じ部屋に集まっている人々の視線がこちらへ注がれている居心地の悪さに康太が不満をぶつけるのだが、しかしそれさえ気にするなと腕を組みながら宗介は言いきり、その様子にゼオスが肩を落とした。


「なるほど。けど本当に噂通りの内装なんだな」

「噂?」

「ほら、部屋の作りについてのよく聞く奴だよ」

「ああ、あれか。まあそうだな」


 積の指摘に対しゲイルは頷く。


 無数の部屋が存在するアルマノフ地下大遺跡だが、部屋の構造には二つの法則が存在する。


 一つ目は、全ての部屋が正六面体で形成されているというルール。

 その言葉の通りこの場所に存在する数多の部屋は、全て正六面体の形をしている。


 二つ目は、部屋のどこかに必ず、何らかの絵をかかれた石板が置いてあるというルール。

 二つ目の石板には二種類あり、一つは絵が書いてあるだけの石板。無論過去を知る大きな手掛かりとなるため、存在するだけで大きな価値がある。


 だがそれでも、もう一つの物と比べればその価値は数段劣る。


 今この場で蒼野達が見ているものは『真の声』と呼ばれる石板で、他の石板と比べその価値は格段に高い。その理由は石板の下部に書かれている年号で、その出来事が行われた年が描かれているのだ。


 世界中に散らばる遥か昔の記憶。その出来事がいつ行われたのかまで明確に示している遺物はこれらの石板しかなく、その重要性は群を抜く。

 さらに言えば一つ歴史上の出来事が確定することで、それと繋がりのあるいくつかの出来事を繋げることでさらなる歴史の探究が進むため、現在十四枚この遺跡で見つかっている『真の声』は世界中で最も重要な歴史文化財として厳重に保管されている。


 無論、石板に書いてある事が本当であるかどうかは常に議論に上がるが、すの疑問を跳ねのけるほどの魅力があるのは確実であった。


「で、俺らはどうやっていけば目的地に辿り着けるんだ?」

「めったに来れないところだし、できるだけ遠回りに、色々な場所を回っていきたいんだけど。お二人さんはそこら辺分かる?」

「と言うより元からそのつもりだ。そっちのほうが安全だからな」


 声を弾ませる優に対しそう返答するゲイル。


「うむ! 行きも帰りも安全に回る予定だ! うまく回れば比較的に安全に回れる場所だからな! 無駄に危険な目に合わないためにも、多くの場所を回るのは必須だ!」


 それにつけ加える宗介の言葉を聞き、蒼野達は目を丸くした。


「そりゃあ多く回ることと安全性には関連性があるってことか?」

「そうだぜ康太。この地下大遺跡は基本的に中心部に向けて潜れば潜るほど危険性が増す構造になっててな。だからできるだけ安全に目的地に行く場合は、外側から回り込むように歩いて、目的地から一番近い外壁エリアから奥に向かって行くのが定石とされてんだ」


 そのゲイルの言葉にギルド『ウォーグレン』の五人、の中でもやはり蒼野が興奮し、その場で空を飛び、数回転してから地上に降りた。


「ここに入るという栄えある許可を得たのだ! その証としてこれを渡そう! 無断転載やコピー、他人に何らかの手段で伝える、教える事はするなよ! 重要な資料だ!」


 そんな蒼野の奇行を目にしても宗介だけは普段と変わらぬ様子で話を進め、懐に手を入れ何かを探りだす。


「受け取るがいい!」


 彼のズボンについていたのは恐らく空間拡張がされたポケットであったのだろう。

 彼が懐から出したものは三十センチ程の巻物型の資料であり、それを蒼野に康太、優にゼオスに積の五人に一つずつ配る。


「ひゅー、久我さん久我さん、これはもしや」

「うむ! この大遺跡の地図である!!」


 滅多に見せないハイテンションの蒼野が開いた地図に描かれているのは、斜めに置かれた巨大な正方形で、その中には小さな正方形が無数に存在。

 地図には何らかの能力がかけられているのか触れるだけで拡大縮小を行い、加えて右上にあるシステムの場所を押すと様々な項目が現れた。


「ところで蒼野はこんなすごいもの貰って大丈夫? あんまり歴史の探究に興味がないアタシでもすっごく興奮する一品なんだけど」

「興奮か………………すまん優ちゃんもう一回言って」

「ふん!」

「痛い!」


 積に対し優が肘鉄を入れる中、確かにそうだと心配し康太が蒼野を見ていると、これまでのように気絶している様子はなく、渡された羊皮紙を黙々と見続けながら手を動かしていた。


「アルファベットが左斜めの番号で、数字が右斜めを示す番号なのか。それでメニューの『真の声』を押すと…………うぉ! これまで発見したものが見れるじゃねぇか!

 ん? この確認ボタンを押すと……黄色く光る部屋に真っ黒な部屋。ああ、黄色は入ったことのある部屋で、黒は入ったことのない部屋か………………すげぇ!」

「この調子なら大丈夫そうね」

「みたいだな」


 やれやれと肩をすくめる優に苦笑するゲイル。

 どうやら今は緊張感よりも好奇心が勝っているようで、気絶する兆候は一切見えない。


「よし! 全員に行きわたり少し触って見たところで、今回の目的地点について説明をする!」


 そうして全員に話を聞くように宗介が指示をすると、自らも持っている地図を開く。


「まず第一に今回俺達が向かう先はS3だ。現在地のA1からそこに向かうが、足を止めずに歩けば三時間もかからん」

「さっき蒼野君が呟いていたが、アルファベットが左斜めの番号。数字が右斜めの番号だ!」

「最も安全に行くために、俺達はS1まである程度直進。その後S3まで入って行く。まあ深くにもぐると言っても3までなら多少の危険しかないから安心してくれよ。このメンツなら、十分追い払える」

「現在位置は点滅している小さな点! これを頼りに進んでいく!」


 ゲイルと共に説明をしながら宗介が自分の地図を巨大化させ、今の現在位置を示して見せる。

 そこには確かに七つの星が密集し点滅している場所があり、それが蒼野達を示している事はすぐにわかった。


「それと他の人の邪魔にならないよう、かつ不測の事態にも焦らず行動できるよう俺の独断だが縦に列を組ませてもらった。確認してくれ」

「どれどれ」


 最も迷惑をかけるのは宗介さんの大声なのではないか?

 

 大半がそう思いながらも出された紙を覗きこむ。

 そこに書かれていた縦烈はゲイルを先頭に蒼野・ゼオス・康太・積・優・宗介の順番だ。


「あー、俺の位置がここか。できれば前のほうがいいんだが」

「ん? 具体的には誰と変わりたい」

「そうだな、できれば前から三番目くらいまでがいいんだが」

「そうか……さてどうするか。蒼野と怜の並びはわりと重要なんだが」

「…………」

「?」

「そうなのか?」


 最初誰の事を呼ばれたかわからず優と康太が硬直するが、然程時間をかけずに蒼野が正答へ到達。

 返事を返すと、宗介が頷いた。


「ああ、不測の事態があった際、蒼野の『時間回帰』で時間を戻して回復や時間稼ぎができるし、怜君は話を伺うに相当の腕前と見た。少しでも早く前線に辿り着いて欲しい」

「聞く限り、お前を背後へ持って行く余裕はねぇな」

「そうだな、おたくには悪いが今回は諦めてもらうしかねぇな」


 そう言ってカウボーイハットを深く被るゲイルの肩をゼオスが叩く。


「……古賀蒼野の『時間回帰』は外せんだろう。不意打ち・回復・時間稼ぎと何でもできる。比べて俺が数人分下がったところで、前に出るのにさほど影響はない。俺を下げろ」

「本当に大丈夫か?」

「……安心しろ。その程度は誤差だ」

「そうか。ならまあそうすっか」


 ゼオスの発言を聞きゲイルが縦列を書き直し、蒼野とゼオスの間に積を入れる。


「では進むぞ! 各エリアの内部詳細については、地図をタッチして見るがいい!!」


 そうして話し合いを終えると一行はゲイルを先頭に、宗介を最後尾に置きついに探索を開始。


「!?」


 その時、突如襲い掛かってきた殺気に気が付き康太が振り返る。


「今のは……一体?」


 尋常ならざる殺意を前に頬から冷や汗を流す康太。


 この時彼らは知る由もなかった。


 彼らがこれから体験する、想像を絶する経験を。


ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


遅くなってしまい申し訳ございません!

区切りがいいところまで書いていた結果でございます。

その分内容は濃い目なので、大目に見ていただければ幸いです。


という事で冒険の始まり始まり。

これから十数回程展開されると思うので、よろしくお願いします。


それではまた明日、よろしくお願いします

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