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ウルアーデ見聞録 少年少女、新世界日常記  作者: 宮田幸司
1章 ギルド『ウォーグレン』活動記録
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探索者集結


 旅館に止まっていた一行が身支度を終え、従業員にお礼を言いながら正面入り口から出て行く。

 その後二段階目三段目と昇っていき朝の忙しさ等微塵もない様子の研究者たちの脇を横切ると四段目まで到着。

 そうして昨日までと違う形、一般的な木造の二階建て住宅へと変化したアル・スペンディオの住居に入り少しの間待っていると、奥の部屋から大事そうに娘を抱え彼はやってきた。


「おはよう諸君。昨日はよく眠れた様子でなによ……あ、いや違うな。ひとりだけ目の下にクマができてる」

「…………気にするな」

「まあそう言うなら気にはせんが」


 眠たげな様子で瞼をこする娘をソファーに優しく置き、先頭を歩き出すアル・スペンディオ。

 彼は廊下へ出て行くのだがそこから更に三歩前へ歩いたところで足を止め、壁に手をやり人差し指で何事かを書いていると、前の道が上から降りてきた壁に押しつぶされ、それと交代で左側に新たな道が現れる。


「すげぇ……」

「そんなに驚くことでもない。古典的な部屋の入れ替えだ。この程度の仕掛けならいくらでもできるぞ」


 それと同じ仕掛けを数回繰り返し辿り着いた場所は、無数の転送装置が置いてある部屋であった。


「足を引っかけないように気を付けてくれよ」

「はい」


 地面には真っ黒な無数のコードが張り巡らされており、足を引っかけそうになりながらも彼らはアルを先頭に中へと移動。一際大きな、複数人が一気に移動するためのワープパッドにまで案内される。


「君たちが来るまでの間にアルマノフへのワープパッドは用意しておいた。あちら側にも許可は取ってあるから、これに乗ればアルマノフ地下大遺跡の近くまで移動できる。ああ、一方通行用のものなんで、帰りは別の手段か、ブクへと来れるワープパッドを使ってくれ」

「ありがとうございます。分かりました」


 アルの説明を聞き、お辞儀をする蒼野。


「礼を言う必要はないさ。依頼したのはこっちだ。ところで、君たちのもう一人の仲間とやらがいないが、いいのかね?」

「はい、あいつとはあっちで落ち合う約束になってるんで大丈夫です」

「そうか、では成功を祈るぞ」

「ん? もう一人参加者がいるのか?」


 積が疑問を覚える中彼らはあるに対するあいさつを終え、ワープパッドの上に順々に載って行く。

 そうして全員が乗り終えたのを確認すると、アル・スペンディオは近くにある巨大な機械の前に立ち、手元にある機械を弄りだした。


「じゃ、アルマノフへとレッツゴーだ」


 アルの気の抜けた掛け声と周囲一帯に聞こえる軽快な電子音に続き、蒼野達の目にしている景色が変貌する。

 機械に埋め尽くされた一室はねじ曲がり、押しつぶされ、機械で埋め尽くされた地面が固い大地とたくましく生きる草々に。

 人工の光で覆われた天蓋は太陽が輝く大空へと変化し、箱庭のような部屋は消え去り地平線の先にまで世界が出現。

 所々でテントが開かれその付近には大勢の人が集まっている。


 こうして、彼らは辿り着いた。


 賢教で語られし伝説に登場する原初の世界。地下大遺跡が眠る始まりの地アルマノフへ。




 遥か昔、人類が粒子をまだ見つけていない太古の……いや行き詰った世界。

 そんな世界に『粒子』と『知恵』を授けたという『賢者王』が最初に現れ世界の革新を始めたとされる幻の場所、それがここアルマノフだ。

 アルマノフには天へと向け伸びて行く七つの石柱と、逆に地下へと伸びていく階段の先に待ち受ける迷宮のような大遺跡が存在しており、賢教に所属している者の大多数が所持している聖書に記載してある内容によれば、この世界で唯一全ての属性粒子が潤沢に揃っている場所で、この星が終わりを迎える際、この場所を起点に再び『賢者王』が現れ、残った人々を新天地へと導いてくれるとの事であった。


 ゆえにこの場所は世界でも最大の保護領域に認定されており、この歴史的場所に傷を付ければそれだけで重罪人とされる。


 そんな場所に、彼らはやってきた。


「ここが…………」

「……始まりの地アルマノフ、か」

「い、色々な場所を回ってきたけど、ここまで神聖な雰囲気の場所は他にはないわね」

「あれ、蒼野は?」


 康太にゼオス、そして優が口々に感想を言うが、この中で最も興奮するはずの人物の反応が帰ってこない。

 その事に疑問に思ったほぼ全員が同時に蒼野の方を向くと、そこには口から泡を無尽蔵に吐きだし白目を向いている古賀蒼野の姿があった。


「……古賀康太、一応聞いておいてやる」

「まあ今回は仕方がない。殺気を籠った一撃はできないとはいえ、一応手加減しろよ」


 康太の許可を得て、ゼオスが叩く。問題はそこに今朝の恨みが混ざっていたことで力加減を間違えた事で、その結果辺りに嫌な音が響きわたる。


「おいゼ……お前、今変な音が響いた気がしたんだが」

「首曲がりすぎてない?」

「……死にはしない。精々首の角度が一生治らないだけだ」

「何やってるんだよお前!」

「ちょ、どいて。すぐに回復させるから!」


 突如訪れた危機に、その場にいる面々が同様に声をあげ、優が慌てて水属性による回復を実行。


「ハッ! 全く、相変わらず騒がしい連中だな」


 そうしてゼオスを除いた三人が蒼野に意識を注いでいる中、至る所で繰り広げられる議論の声と比べても一際うるさいその一角にある人物が近づいて来る。


 日光に晒され焼けた焦げ茶色の肌にポケットが無数についたねずみ色レンジャー服。腰にはロープを添え、ベルトには十徳ナイフを装備。


「ああ、来たんだな。悪いないきなり騒がしくて」

「心配すんな。そいつについては、あの日の出来事である程度分かってるからよ」


 そして何より、彼を彼たらしめる祖父の遺品であるカウボーイハットをいつものように被り、ゲイル・U・フォンは彼らの前に現れた。




「大遺跡に入る鍵って、お前だったのかゲイル」

「おう、久しぶりだな積」


 あれから数分が経った。

 結局すぐには目覚めない蒼野はゲイルと積の二人が両手を持ったまま引きずり、蒼野は地面に体をこすりつけながら前へ進んでいく。

 その後ろではゼオスを挟み康太と優が共に歩いており、アルが言っていたガイド役と会いに移動している最中であった。


「でも何でお前なんだ?」

「おたくにはついて来た時に言った気がするんだけどな。うちは歴史研究に関する名家だぞ?」

「ああ、そういやそうだったな」


 そうして原口積は思いだす。かつて蒼野達と別れた後に聞いた、ゲイルの家系の話を。


 ゲイルの家系が二大宗教から干渉しにくい貴族衆なのだが、彼らフォン家が他の家系よりも圧倒的に長けているのがこの星で最大の厄ネタと言われる考古学の分野で、首都は歴史の都と呼ばれる『マテロ』という年であるという事を。


 その場所で彼らフォン家は世界中の歴史に関する様々な物を管理しており、なおかつこの場所と同じく、いつ作られたのかわからない地下遺跡を管理している彼らならば、歴史の研究の一環としてここに入る許可証を持っていると蒼野は判断したのだ。


「たく、あいつらと違ってお前は家でだいぶもてなしたんだし、少しは覚えておいてほしいんだがな」

「悪い、忘れてた」

「全然悪いと思ってないだろお前」

「………………」

「どした?」

「ところで、お前に一つ頼みがあるんだが」


 積が背後を振り返り、三人がある程度離れている事を確認、声が聞こえない範囲にいる事を確信すると、隣で自分同様蒼野の腕を掴み、彼を引きずっているゲイルにだけ聞こえるくらい小さな声で話を始める。


「そんなこったろうと思ったぜ。で、なんだ」

「いやさ、以前お前の家でお泊りさせてもらった時にちょーーっとだけ口が滑っちゃったじゃん。その内容をあいつらには言わないで欲しいんだよ」

「口が滑ったって言うとお前の」

「しー! とにかく、黙っててくれ。後で無料で仕事を引き受けるから。お願いします神様仏様ゲイル様」


 拝み倒すように片手をあげ祈る積にゲイルが頭を掻く。

 正直なところ彼としては積が抱えている秘密は喋った方がいい類の物であると思っていた。

 ただかなりデリケートな問題ゆえに自分が彼らに話すことはしない方がいいとも考えていたため、結果的に頻繁に連絡している蒼野には伝えてこなかったのだ。


「…………まあ、これはおたくの問題だからな。俺が口出しするべき案件じゃないってのはわかってるぜ」

「た、助かる!」

「あ、二人ともそこら辺で左に曲がって、真正面に見える石柱を目指して。そこにガイドの人がいるはずよ」

「オッケー、左な。と、すまんでかい石にぶつけた」


 ゲイルの返事に感謝の念を伝える積。

 その時背後にいる優が指示を出すとゲイルが左に曲がるのだが、そこで蒼野の頭部が大きめの石に衝突。少しして蒼野はうめき声を発しながら目を覚ます。


「んん……アレ、さっきまでいたお花畑は?」

「よ、久しぶりだな蒼野。お花畑は夢の中だ」

「ゲイルか。悪いな、ずっと寝てたらしくて」


 正確には気絶してたんだぞ


 そんな事を口にしながらゲイルが蒼野の腕を離し、蒼野は立ち上がる。


「なんか首の辺りが痛むんだが」

「……」

「加えて背中がヒリヒリする」

「あーそれは引きずってる間についた跡だな。悪い」

「…………おまけに頭もじんわりといたい」

「すまん、さっき曲がった時にでかい石にぶつかった」

「お前らもうちょっと人を丁重に扱えよ! てかなんで引きずるんだよ。せめて背負えよ!」


 蒼野の訴えに、ゲイルが視線を明後日の方向にやる。


「こういう場所って雰囲気必要だろ。だから一度未確認生物捕獲の真似をしてみたい……ってゲイルが言ってた」

「そればらす必要ねぇだろ!」

「覚えてろよゲイル」

「そ、それよりもだ傷は優に治してもらって、服の汚れは能力で失くしとけよ。もう少ししたらガイドの相手と出会うぞ!」

「…………今度同じ事があってもお前は呼ばない。許可証だけもらってお払い箱にしてやる」


 話題を変えて恨みがましい視線から逃れようとしたゲイルであったが蒼野にそれは通用せず、僅かに怨念の籠った声でそう告げる。


「ふ、ふてくされるなって!」

「いつまで待てど来ないと思い来てみれば……」

「ん?」


 そうしてふてくされている蒼野をゲイルが慰めようとしていると、二人の前から声が聞こえてくる。


「なんか近づいてくるぞ」

「なんかってなんだよ」


 ゲイルの言葉に従い合い蒼野が前を見た時、彼は思わず後ずさってしまった。


 こちらへと向け走ってくる男。


 彼は木の幹を思わせる四肢に胴体を備え二メートルはあるのではと思える程の身長をしており、黒のチノパンと氷の結晶がワンアクセントの水色のワイシャツを着ているのだがサイズがあっておらず、パツパツだ。


 それに加え黒縁メガネを掛けたその男の一歩は大地を揺らすかのように力強く、像や恐竜の一歩を思わせる重圧を備えていた。


「おい、あれってもしかしてアルさんが言ってたガイドの人じゃね」

「ガイドって、俺以外に案内人が居るのか?」

「ああ。アルさんの研究を手伝ってる人だってさ」

「いや~あれはきっとガイドだよ。だってほら俺と同じような眼鏡かけてるし」

「なんつー判断基準だよ」

「てかなんか怒ってない? 絶対怒ってるよね。どーすんだよ、お前らが俺を使って遊んでたせいで遅れた事に怒ってるよね!」


 長方形型のレンズの奥を蒼野達は知ることができない。しかしオールバックにした髪型にその風貌を見て、蒼野は今この状況に相手は怒りを抱いていると瞬時に予想。


「なんでちょっとうれしそうなんだよお前は」

「いやここで理由をしっかり説明したら、お前らだけを叱って、俺は無罪放免できるんじゃないかなってえ思ってさ」

「ちょ、考え方が嫌らしいぞお前!」

「うるせぇ。引きずられた恨みだ!」


 そう言うと蒼野が風属性粒子を操り目に見えない縄を作り、二人の体を軽くだが拘束。

 二人はもちろんそれを千切ろうと画策するのだが、そうしている間に男の方へと近づいていき、


「すんませーん。遅れてしまいました。でもそもそもの理由としてこいつらが俺を使って遊んでいたのが悪むぎゅう!?」


 大手を振って近づきながら遅刻した理由を説明するのだが、男は小走りで近づいてくる蒼野の顔を巨大な掌で掴み、そのまま空中へと持ちあげる。


「!?!?!?!?」

「君は…………恥ずかしくないのか」

「ふぁ?」

「共に歩んできた仲間に責任を押し付けて、恥ずかしくはないのか!」

「ふぁぁぁぁぁぁ!?」


 大地を揺らすような魂のこもった叫びに蒼野が動揺する。


 思ってたタイプと違う!


 それが蒼野の感想であった。


「遺跡に入るのも重要だがちょっと時間を貰うぞ! いいかよく聞いてくれ!」

「は、はい」


 第一印象から冷静で真面目な委員長だと思っていた男はメガネの奥の瞳に炎を宿し、鷲掴みにした蒼野を地面に下ろすと、蒼野を正座させ康太や優が追い付いてもなお説教を行い始める。


 一部始終を見ていた他の面々は同じ感想を抱いた。


 とんでもない男がやってきた、と。


ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


少々時間がかかりましたが、これでアルマノフ大神殿に入るまでの描写は終了。

次回からついに内部の探索が始まります。

ご期待ください!


それではまた明日、見ていただければ幸いです!

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