表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウルアーデ見聞録 少年少女、新世界日常記  作者: 宮田幸司
1章 ギルド『ウォーグレン』活動記録
162/1358

古賀蒼野とその仲間達、積を追う


『強化の余地なし。最高クラスの業物になっております。そして用事は終わったので自分は帰ります。あ、流石に調査費だけでお金は貰えないので気にしなくてもいいぞ』

「ど、どうすればいいんだこれ……」


 書き置きの文面を見て、顔が青くなるのがわかる。

 直接返されることなく自身の武器が返されず、積が帰ってしまうという結果を前に全員が困惑し、蒼野は読み終えたそれをゼオスと優に見せて二人に相談をするが、そこでゼオスが疑問を口にする。


「……俺は以前貴様らがこいつと会った時の会話までは知らん。だからこそ確認したいのだが、本当に原口善については口にしていないんだな?」

「俺はまだその頃は善さんの事を知らなかったぞ!」

「あたしだって口にしてないわよ」

「……その記憶は確かでいいんだな?」


 善の疑問に対し焦ったような表情で返す蒼野と、当然と言った様子で頷く優。その後更にゼオスが念を押す様にそう告げると、それに対し優が弱気な表情を見せた。


「ぜったい大丈夫! のはず。たぶん……きっと……恐らく」

「……おい、どんどん自信を無くしてるぞ」

「と、とにかく一度康太に電話だ。二人でこれからの事について作戦を練っておいてくれ」


 ヒュンレイはこのような事態になっていた場合の事も告げていた事を思い出し、公園の噴水から少し離れた位置にあるベンチの前で蒼野が携帯を取りだす。


「って、うお! マナーモードにしてるうちにめっちゃ電話かかってきとる!」


 携帯を開いたところで蒼野の携帯にかかってきていた履歴を見て驚く。三十分に一回、合計で五回康太から電話がかかってきており、最新の物はほんの数分前であった。


「も、もしもし康太か。悪い、時間潰しに資料館に行った際にマナーモードにしてた」

『そうだったのか。こっちはアル・スペンディオと無事に会えたが、ちと面倒な事になってな。話は他のメンバーも揃えてってことで話を中断した。一度合流したいんだがいいか?』


 恐る恐るという言葉がこの上なく似合う様子で蒼野が電話をかけるのだが、それに対する康太の返答は彼の想像よりもかなり軽い。


「悪い、こっちも緊急事態でさ。善さんは居るか?」

『いや、いない』

「それならちょうどいい。急いで話すから助言があったら頼む。一時間くらい前に会ったもう一人の仲間ってのが以前ウークで会った積だったんだよ。ただちょっと目を離した隙に帰っちまって。正直やばい」


 その返事を聞いた康太が胸を撫で下ろし、普段と比べ少々早口でそう告げると、電話の向こう側からは、蒼野と同様の心境をしたであろう男の唸り声が聞こえてきた。


「そうか、こっちはアルマノフ地下遺跡での探索を命じられてな。まあこっちの事情は後にして、まずそっちの問題の解決に努めるか」

「いい手段があるのか?」

「ああ、でもまあこの方法ならお前が一番早く思いついてほしいところなんだが……」

「もったいぶってないで早く教えてくれ!」


 康太の物言いに対し急かす蒼野。


「わかったわかった。それとお前はそろそろ焦ると色々と忘れる癖を直した方がいいぞ」

「?」


 その後康太の口にした作戦を聞き続けていた蒼野が数秒間の間、まるで首振り人形のように頭を上下に動かし続け、全て聞き終えたところで、裏返った声を出し何度もダダ謝りをした。


「はい作戦を聞いてきました。では発表をします」

「……貴様の時間回帰で、剣を先程まで持っていた積の手元にまで移動させる。つまり物体の位置を元の場所に戻す作業だな」

「へ?」

「剣には適当な発信器を付けておいて、積の場所を確定。今回の時間の目的が『物質の再生』じゃなくて、『物質を持ち主のいる場所までの巻き戻し』だから、発信機が取れることはないって理論ね」

「うう……」

「……俺がこっち側だったのは発信機でわかった座標にすぐさま移動するためだな。ヒュンレイ・ノースパスは、最初からこうやって離れた場合の対策も考えていたわけだ」

「俺は自分がその答えに辿り着けなかった事で申し訳なさがすごいんだがな。そしてそれを全て説明されたことが更に恥ずかしい……穴があれば入りたい」


 全てを理解していたという様子のゼオスと優の言葉に対し、蒼野がいじけたような声を発し俯く。


「……せめて働いてから穴に入れ」

「容赦ないわねあんた」


 それに対するゼオスの返事に優が顔をしかめるのだが、そこで蒼野はふと気がついた。


「でもそれでもう一度会ったとして、その後はどうするの? あっちが善さんがバックに控えているのを見抜いてるなら、この様子だとギルドに入ってもらうのは難しいと思うんだけど?」

「……この逃げ足の早さを見るにかなり根は深い。おそらくだがそうそううまくは回らんかもしれんな」


 商売人というものは顧客に対する印象というものをかなり大切にする。であればそれを放り捨てた積というのはかなり面倒な相手であるとゼオスは判断するのだが、蒼野の表情には余裕があった。


「ああそうだな。だけどよ、さっき康太から聞いた情報をうまく混ぜればそれもうまくいくと俺は思ってる?」

「あの馬鹿からの情報?」

「ああ、アル・スペンディオから依頼を受けたらしいんだが、これが中々厄介そうでな。ただうまい事回せば、積を味方につけられそうなんだ」

「なによ、聞かせてみなさいよ」

「実は康太は受けた依頼ってのがアルマノフ地下大遺跡の探索らしいんだが」


 それから手順を追って蒼野が説明を行い、それを聞き終えたところで三人は顔を見合わせる。


「うん、ちょっとずるい気もするけど良い案じゃない。これで行きましょ」

「……焦った時もこれくらい悪知恵が働けば問題ないのだがな」

「いちいち俺の心を削ってくるなよお前は。さ、じゃあこれでいくぜ。『時間回帰!』」


 持っていた愛剣に能力を発動させ、鞘に入った状態のまま剣が宙を浮き空を飛ぶ。蒼野達により発信機が付けられたそれは、彼らが通信機で見守る中一定のスピードを保ったまま空を飛び続け、やがてその速度を落とした。


「一応まだ動いてるけど、かなりゆっくりだ」

「あ、今は剣が空を飛ぶだけでアタシ達が本体であるとばれてないから大丈夫だけど、使ったのがアンタだとばれたら恐らく人が寄ってくるわよ。場所は大丈夫?」

「……既に町からは出ているようだな。これならば無駄に人が寄ってくることもあるまい」

「よし、じゃあ頼むぞゼオス」

「時空門」


 蒼野の声に応える様にゼオス・ハザードがその名を唱える。

 そうして開いた黒い孔を見た研究者たちが再び一斉に群がるが、それに追いつかれるよりも早く、孔に入りそれを閉じる。そしてその先で、


「へ?」


 状況を理解できずにいる積の上に三人がのしかかる。あまりの出来事に混乱する積は運転していた車の操作がもたつき、あわや交通事故という事態に陥りかけるが、


「時空門」


 再び厳かに呟かれたその名は車さえ飲み込む巨大な孔を作りだし、三人は人気のない草原へと飛ばされた。


「お、お前らいきなり何して!」

「悪い悪い、でもお前の方だって悪いんだぜ。剣だけ置いて帰っちまうんだからよ。あれじゃ、話したいことだって離せないじゃないか」

「……話したいこと?」


 その後焦った様子でそう告げる積に対し蒼野はそう告げると、彼は訝しげに三人を覗き込むのだが、その程度の反応ならば問題ないと蒼野は心中で確信し、


「ああそうだ」


「一体何があるって言うんだ?」

「俺達の依頼はまだ終わってない。と言うよりもこっからが本題なんだ。なあ積、一緒にアルマノフ地下大遺跡の攻略を手伝ってもらいたい」


 彼は積に対し新たな依頼を投げつけた。


ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


さて今回で積はすぐさま確保し、次回かその次からは今回の探索地点『アルマノフ大神殿』に突入です。

珍しく戦いよりも探索寄りの話になると思うので、よろしくお願いします


それではまた明日、見ていただければ嬉しいです


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ