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ウルアーデ見聞録 少年少女、新世界日常記  作者: 宮田幸司
1章 ギルド『ウォーグレン』活動記録
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本と知識の町『ブク』 五頁目


 秋から冬へと移り変わり始めるこの時期、太陽の光は夏と比べ弱弱しいが、降り注ぐ光は秋風の寒さを和らげてくれるそんな季節。


「………………誰もいないな」


 落ち葉舞う道路端にゼオスを連れキャラバンを降りた蒼野は辺りを一瞥。

 周囲に誰もいないことを確認すると、近くにある壁に向かい一直線に走って行き、おもむろにまさぐりだした。


「すげぇ、壁だ壁がすげぇ。固いのに柔らかい。プリンやゼリーみたいな寒色なのに壁としての機能を果たしてる。すげぇ!」

「……おい、俺が不審者と一緒にいる変人みたいな扱いになるから、その奇妙な動きを止めろ」

「この道もおかしい。街灯がない代わりに、白線の部分に蛍光塗料に似てる物が含まれてるのか」


 キャラバンを降りてすぐ突如目の前で繰り広げられる自らと瓜二つの姿をした男の醜態を見て、ゼオスが唸る。

 普段の蒼野ならばそれだけで手を引くのだが、観光名所に辿り着いた彼は半ば自我を失いつつある様子で、辺りを自由に観察していた。


 いっそ斬るか、そんな考えが浮かび腰に携えた剣に手をかけるゼオスであったが、それを優が静止。

 

「ところで、あんたたち二人はこれからどうするの?」


 優がそうして話題を変えると、蒼野がピタリと動きを止める。

 二人の方に振り返った。


 こいつを止めるにはこれが結構効果的よ、そんな風にサインをしてゼオスに対し笑いかける優。


 あまりにも単純な蒼野の思考回路を前に頭を抱えたくなるゼオスであったが、そんな事をしたところで意味がない事を悟ると無言でうなずいた。


「まずは三段目にある資料館に行く。ここの一番メジャーな観光スポットだ。その後は近くのブク大食堂で飯食って、後は二時まで散策だ。この町のいろんなものを見て回る」

「それ時間たりなくない?」

「どうせこいつは俺の監視下なんだ。能力を使ってどこでも一瞬で移動すりゃ時間は一気に短縮できる」

「……おい、人の能力を便利アイテムのように使うな」


 蒼野が提案した観光の道順に毎度おなじみな苦言をゼオスが口にすると、蒼野は両手を合わせ頭を上下させながら頼みこむ。


「まあ今回は許してくれよ。こんな機会滅多にないんだし」

「アンタについていけばゼオスの力が使える。加えて話を聞く限りあたしより地形についても詳しい…………うん、今回はアタシもアンタについて行くわ。あ、でもついでにアタシが行きたいところも考慮してくれるとありがたいんだけど」

「まあついて来るなら俺の行きたいところばっかりまわるのも不公平だしいいさ。ちなみにどこなんだ?」

「えっと以前ネットで見た評判のお店で」

「へぇー。あ、じゃあ会う約束が終わったらここでなんか食べよう」

「……貴様ら、俺の自由意志は無視か」

「ゼオス、じゃあ予定通りこのブク資料館に移動で」

「……やれやれ」


 二人の自身を無視した物言いになおもゼオスが抵抗するが、それは容易く呑みこまれ、最終的に折れた彼は息を吐き僅かにだが肩を落とす。

 その後渋々といった様子で『時空門』を開き、博物館前の人気の少ない場所に移動を開始。

 

 一度も彼が行った事がない場所なため一直線に向かう事はできなかったが、視界に映る範囲で何度も短距離のワープを実行。

 

「き、君! 一体今のはどういう力なんだね。科学? それとも何らの能力?」

「見たこともない歪みを感知した、希少能力の類か?」

「もう一度おじさんに見せてくれないかね」


 予想外であったのは、その際に彼らを目にした科学者たちの反応だ。

 普段ならば蒼野達が突如その場に現れようと、様々な能力があるこの世界ならばさしておかしくないと思う人々が大半であるが、この町に住んでいる者達の大半は科学者、つまり探求者達だ。

 彼らは突如自分たちの知らない力で現れた彼らを目にすると各々が持っている道具を用い彼らを追いかけ、数度目のワープが終わる頃には彼らの周りは満員電車の中のすし詰め状態のようなものに変化していた。


「ちょ、蒼野、なにこれ。何であたしたち囲まれてるの!?」

「ゼ、ゼオスの能力を見られたんだ! ここの人たちは関心があるものを見つけると、一気に集まってくるらしいから、恐らくそれだ!」

「……冷静な分析はいい。どうにかしろ古賀蒼野」

「ああああぁぁぁぁ時間回帰!」


 二人の言葉に後押しされた蒼野が自身を中心に周辺一帯に時間の巻き戻しの効果が及ぶよう地面へと向け能力を発動。

 蒼野に優、そしてゼオスの三人は発動の瞬間空へと逃げ、地面に足をつけていた全ての研究者たちが自分たちから離れていくのを目にする。


「君!」

「今の能力は!」

「一体なんだというのだね!!」

「ちょっとおじさんの家へ着いてこないかね!!」

「……結果的に火に油を注いだな」

「ゼオス、能力を発動しろぉ!」


 が、それでもなお知識欲に狂った顔で再び彼らのいる場所へと向かって来ようと画策する彼らを前に蒼野は叫び声をあげ、そんな彼を傍目にゼオスは冷静に頭を働かせる。


 移動した先に誰かがいれば、追いかけられ無駄に時間が過ぎていく。


 なので彼はできるだけ人のいない閑静な場所へと移動しようと空中に浮かんだ状態で辺りを見渡し、


「…………そこか」


 結果人が最も少ない四段目の一帯へと能力を発動し黒い渦を足元に展開。二人を引きずり込むと、他の誰かが入ってくるよりも早く能力を解除。、

 少々手元が狂ってしまったため人の気配がする建物に前に移動してしまったのだが、それでも追手が来る気配はない。


「お、恐ろしい町だな、ブク! 噂以上だ!」

「でも研究者の大半って使命感とかルーチンワークで動くというより、好奇心の方が勝ってそうなイメージだから、まあ研究者らしい反応っちゃ反応よね。相手にしたくはないけど」

「だなぁ。あ、ところでゼオス、ここってどこだ?」

「……確かな位置はわからん。ただ四段目のどこかではある。見たところ人気が少ない場所がそこしかなかったからな。細かな場所設定はできなかったが、目に見えた建物に大体の位置に移動した」

「あら、じゃあもしかすると善さんと一緒のところに」

「優、ちょっと静かに。俺達思ったよりもいい場所に出れたらしい」

「?」


 時刻は十一時半過ぎ、ちょうど康太と善がメヴィアスの家に入った直後に移動して来た蒼野達だが、その場所の壁を見て蒼野が好奇心から笑みを浮かべる。


「ここがどこだかわかるの蒼野?」


 現在位置がわからない事に不安を抱いた優がそう尋ねると、それに対し蒼野は頷く。


「ああ、パンフレットに書いてあった。んで、俺も見れるなら見てみたいと思った場所だ。ここはな、三賢人ジグマ・ダーク・ドルソーレが経営している個人塾だ!」


 懐からパンフレットを取り出しページをめくり、ある場所を指差す蒼野。

 そこに書かれていたのは木造建築の小さな学び舎で、それと今三人がいる場所の壁を見比べると確かに同じものに見えた。


……だとし……、…………死者………………望む。


「!」


 聞いたことのある声が蒼野の耳に入ったので首を上下左右に動かし音の出所を探る。

 すると音源が見上げた先にある窓の向こう側からなのを彼は理解すると、そこから目の位置まで蒼野は頭を出し、校舎の中の光景を覗き見る。


 そこでは、テレビで見たことのある人物、すなわち三賢人の一人が講義を行っていた。


ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


本日の話は蒼野達サイドの一幕。

この町に住む住民がどのような性質の人間かよく分かる話となっています、

なお、捕まっていた場合は恐らく解剖されていた模様。

まあ、命に別状はない状態で帰っては来れますが、蒼野辺りはトラウマを植え付けられていたでしょう。

そうならず良かった良かった。


恐らく次回の最後辺りに、もう一人の仲間候補が登場するはずです


それではまた明日、よろしくお願いします

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