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ウルアーデ見聞録 少年少女、新世界日常記  作者: 宮田幸司
1章 ギルド『ウォーグレン』活動記録
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本と知識の町『ブク』 三頁目


「いやはや、なんの約束もしていないはずなのにチャイムがなってしまって驚いてね、取り乱してしまって申し訳ない」


 善と康太が三賢人の一人、メヴィアス・ロウを数分後、二人は彼の自宅に招待され、リビングに置いてあった椅子に座り、家の主は紅茶を差し出した。


「いやこっちこそ、驚かせちまって悪かったな。配慮が足らなかった」


 突然の来訪の誤解を解くために必死に説明をした彼らはその後、アル・スペンディオの自宅がどの建物かを教えてもらったのだが。約束をしたアル・スペンディオが今はいないことを聞いた結果が今の状況だ。


「にしても…………結構片付いてるんッスね。なんつーか、科学者の部屋ってのはもっと色々散らかってるもんかと、てイテッ!?」

「配慮が足りないって言った後に失礼な事言うなよお前は」

「はっはっは、その程度の事は気にしないよ。よくあるイメージだからね。実際には必要なものをすぐ取りだせるよう、整理してることが多いんだ」


 三人が入る部屋は整理整頓が丁寧にされており、木製の箪笥が幾つかの場所に設置され、部屋の中心には長机とそれを挟むように天然革のソファーが置かれている。


「とはいえ、やっぱすごいな」


 加えて部屋の景観を壊さない範囲でだが辺りには他にも様々な物が存在しており、善は感嘆の声をあげる。

 箪笥や机、それに本棚などの上には彼の発明品、研究の成果が置かれている。

 それらは機械もあれば植物もあり、絶滅したはずの古代の動物の飼育まで行われていた。


 メヴィアス・ロウ、彼は三賢人のトップ、すなわち科学分野の頂点に立つ男だ。

 他二人が特定の分野における権威な事に対し、彼にはそれがなく、亜らゆる分野において他を寄せ付けない功績を残す偉人である。

 彼の研究結果が元で、世界中の歴史が、文明が、技術が、幾度となく塗り替えられてきた。

 まさに生きる伝説と呼べる存在である。


「こいつは前テレビで見たな。確か遥か昔絶滅した植物だったか?」

「そうだ。だが触らないでおくれよ。一人許してしまうと、どこからそれを嗅ぎ付けるのか知らないが面倒な連中が取材に来るからな。それは避けたい」

「なるほどな」

「にしてもすんません。おやすみ中でしたよね」

「ん? ああ、これか。いや科学者なんて大体こんなものだよ。むしろアルとジグマの二人がおかしい」


 康太の視線がくたびれた白衣と目の下にできている隈に向けられているのを理解しメヴィアスは笑って返す。

 彼の目の下にはっきりとした形でクマができており、どれだけ徹夜を行い、神経をすり減らしているのか、康太には一目でわかった。


「そんなもんなんッスか?」

「そんなものさ。特に研究にのめり込むタイプの奴と、締め切りに追われるタイプの人間は顕著だ。私なんて、前者であるだけ恵まれている」

「話してる最中で悪いんだがな、先にやることだけやっておきてぇ。アル・スペンディオが今ここにはいないって話だったんだが、今はどこに?」


 名古屋かな談笑を行う彼らであったが、本来の目的は別だ。

 なので善が会話に割って入り質問をすると、メヴィアスもここに彼らを招待した当初の理由を思い出し口を開いた。


「ああ、今が十二時ちょっと前だろ。この時間なら娘のお迎えだろうな」

「……約束はしっかりしてあったはずなんだがな」


 思いもよらぬ理由に頭を抱える善を見て、メヴィアスが力なく笑う。


「驚くのも無理はない。だがまあ、どんなことがあっても娘については触れない方がいいぞ。あいつの娘に対する溺愛ぶりはまさに目に入れても痛くないという言葉通りだからな。少しでも変な気があると思われれば、うまく言ってたはずの事柄もうまくいかなくなる」

「娘ねぇ、そんな話はどこにも書いてなかったが」

「不特定多数の他人に見せたがるタイプじゃないからな、アイツは。けど身内や仲のいい知人友人には嫌というほど自慢してくるぞ。例えば娘の成長記録なんかは、話しだすと一時間は終わらない」

「めんどくせぇタイプだなおい」


 げんなりとした表情を見せる善。


「それより、君の武勇伝を聞かせてくれ。アルの奴が帰ってくるまで十数分はある。いい時間潰しになると思うんだがね」


 が、そんな彼を前にしても男は表情一つ揺らさず、原口善という武人の滅多に聞けない武勇伝に関心を示し、原口善が合う人物の大多数から聞かれる質問をされ、顔を曇らせる。


「そんな面白い話ばかりじゃねぇと思うが。まあ話せと言われりゃ守秘義務に触れない程度には話させてもらうぜ。どんな話が御所望だ?」

「そうだな、それでは」

「……」


 長くなりそうだな、善とメヴィアスが話し始めたのを脇で眺め、そう考える康太。

 自分だけがやることがないこの余った時間をどう過ごそうかと考えたところ、僅かだが尿意が迫っており、ふとそれを用いた悪だくみを思いついたので、実行することを決意。


「メヴィアスさん、トイレ貸してもらっていいッスか?」

「ああ。リビングを出てつきあたりを左に曲がって、最初の扉がトイレだ。先程も言わせてもらったが、研究に関するものには触らないでくれよ」

「うぃす」


 手を挙げてそう告げるとメヴィアスはトイレの場所を教え、それを聞いた康太は部屋から出てポケットに手を突っ込み、左右を見る。そうして誰もいないことを確認するとそのままトイレのある左側に向けて歩き目的地を見つけるが……無視して先へと進む。


「まあ少しくらい動き回っても大丈夫だろ」


 物に触るな、とは言われたがトイレ以外に行くなとは言われてないし


 そんな風に言いわけを考えながらすぐそばにあった観葉植物を眺め、その先にまで歩いていく。


「思ったより広いな」


 外から見れば一般の住宅と変わらぬ大きさであったメヴィアスの住宅であったが、いざ歩いてみればすぐに空間が大幅に拡張されていることがわかった。

 なにせ外から見た形と比べありえない程奥行きが深く、奥の様は見えない。上へと昇っていける螺旋階段が設置されているが、その長さと高さは外から見た物の数倍はある。

 数分にわたり歩いているとただの壁から巨大な歯車が動き回る奇妙な空間に出て、これ以上は機密情報に当てはまるであろうことを察知し引き返すことを決意。


「さて、トイレトイレ」


 その後元の場所に戻ってきた康太がトイレへ入り用を足す。

 そのまま手を洗い持っていたハンカチで手を吹き、壁に背を預けたところで違和感を覚える。


「なんだ、ここ?」


 康太の勘が、奇妙な反応を示す。

 それは彼の立っているところから数歩歩いたところにあるシミ一つない桃色の壁の一角なのだが、康太の勘が『そこに何かがある』事を告げていた。

 気になった彼は右手中指の第二関節でノックをすると、空洞を小突いたような高い音が聞こえてきた。


「?」


 研究に関する物に障らないでくれよ、その言いつけを半ば忘れ、その正体を探ろうと手で細かい場所を探す康太。


「ここか」


 彼の手がそれから数十秒その場をまさぐっていると、ガコン! と、何かが抜けたような音が発せられ、康太の目の前の壁が音もなく消滅し、正体不明の空間が出現した。


 幅は一メートルに届くかどうかという程度。高さは二メートルに届かない程度のその空間は、光を通さないためかその先の景色を一切映さず、生暖かい風が流れてくるのも合わせ、先の見えない洞窟を思い浮かばせるものであった。


 どうするべきか、そんな風に考えながらも好奇心から僅かに下る康太。


 意識せず触れた部分はひんやりとした温度と、鉄のような硬度を備えている。にもかかわらず、まるで心臓が脈打つかのような動きを繰り返している。


なんだここは?


 それを認識した瞬間康太の勘が危険信号を発する。それだけでない、康太自身も直感ではなく全身でこの先は危険であると理解している。にも関わらず、何かに魅了されたように康太の足は前へと進み、その正体を知ろうとする。


一歩、二歩、三歩、まるで生物の体内へと進むかのような錯覚を覚えながら、前へと足を動かしていく康太。


「おーい、結構時間が経ってるが大丈夫かい康太君、もしかしてトイレットペーパーが切れてたかい?」


 しかしその時、扉の外から聞こえてきた家主の声を聞き、正気に戻る。


「あ、もう少しで出ますんで……すんません」


 悪い事をしてしまったという罪悪感に苛まれながらもできるだけ心中の動揺を悟られぬよう、極めて平静を装い返事を返す康太。

 冷静に考えれば洞窟のような空間の中から返事を返しているため、十中八九ばれてしまうのだが、今の康太は急いでトイレまで戻る事に専念し気が付かない。


「急げ~」


 小声でそう呟きほんの数歩歩いた康太がトイレへと戻り、水を流す。


そこで一息つき振り返ると、


――――既にあの道は消えていた。


 いったいなんだったというのだろうか、気になった康太がもう一度壁を叩いてみるが、先程のような変化はなく、胸中に疑問を抱えたまま、トイレから出る。


「遅かったな。さてはオメー、物珍しさからトイレ以外も回ってただろ?」

「あ、ああ。すんません、物珍しさからちょっとだけ」

「ええ!? たぶん大切なものは隠してあると思うからいいけど、なにか変なことなかったかい?」


 善の言葉に対し僅かに動揺しながらも神経を集中させ、目の前の男を探る。

 先程トイレの前に現れたのは偶然か、それとも必然か、そしてトイレの中での出来事を語るべきかどうかを吟味し、


「いや、特には。適当に歩いただけで何にも触れちゃいないですよ」


 最終的にはトイレの中での出来事を隠す事に彼は決めた。


「そうかい、それならいいんだ。触れた瞬間感染するウイルスだってあるからね。『好奇心は猫を殺す』だよ。本当に気を付けてくれよ」


 そんな調子で話していると、部屋に掛けてある古時計の、重苦しくも荘厳な音色が一面に響きわたる。


「12時か、アルの奴もそろそろ帰ってくると思うんだが、行ってみてはどうだい?」

「もうそんな時間か。短い間とはいえ世話になったな。なんか用事ができたら、家のギルドに頼んでくれ。特別割引をして受けさせてもらうぜ」

「それはいいね。君の実力は噂に聞くし、ぜひ利用させてもらうよ」


 立ち上がり際に善とメヴィアスが握手を行い、そのまま善と康太の二人は玄関へと行くと靴を履き外へ、善と康太の二人は一度だけお辞儀をして、アル・スペンディオの家へと向け歩きだした。



ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


遅くなって申し訳ありません、諸事情で遅れてしまいました。

が、まさか深夜零時を過ぎてしまうとは。

流石に遅すぎると思う所存です。


さてうだうだといいわけがましい事を語るのはこの位にして本編についてですが、今回出た三賢人の一角メヴィアス・ロウは本編で言われた通り科学サイドの長に当たる人物です。

彼に関して言えば色々と語る内容があるのですが、恐らくそれが顕わになるのはずっと先になると思います。

それまでは、変わった部屋を所持してた男、程度で考えてくださればよろしいかと


明日は恐らく10時までには投稿できると思うので、よろしくお願いします


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