最後の時の一歩手前で
「で、この戦いの目的はオレ達を強くする事だったってわけだ」
「……」
「ん、どした?」
両陣営の長が戦う戦場から場所は移り、濃霧の前。
康太を先頭に歩いていた一行が一人で最後まで戦い続けていた蒼野の元に辿り着き事情を説明。
『無貌の使徒』の面々が攻撃を中止したのもあって、蒼野は胡坐を掻いて首を上下させながら話しを聞いていた。
「ておい! 大丈夫かよ!」
康太が説明を終えてから、僅かに時間が経過する。
座り込み黙って聞いていた蒼野だったが、全てを聞き終え硬直したかと思えば無言のまま横に倒れ、周り全体に聞こえるほど大きなため息を吐く。
「……それで、俺以外はそれがわかってたと?」
康太達仲間に対し半目になってじっと見つめ、それを受けて康太と優の二人がたじろぐ。
「……アタシは半信半疑だったわ。知ってたのは康太とゼオスだけね」
「おい畜生犬、てめぇ逃げるな」
「しりませーん。私は確信なんて得てませーん」
「ヴォォォォォォォォォォ!」
「うわビビった!」
康太と優が普段と同じように喧嘩をしていると、怪獣のような叫び声が彼の口から発せられる。それを見て、康太や優だけではない、ゼオスや『無貌の使徒』も含めた全員が思わず後ずさる。
「俺はさ俺はさ……マジで死ぬんじゃないかって思いで戦ってたのよ。そんな中で何? お前らは事情を知ってて戦ってたの。ひどすぎじゃね?」
「いやその……恐らく知らずに戦う事が前提だったんじゃないかと思ってな。その方が特訓にもなるし。ついでに言うと、命の危険もなかったから黙っててもいいかと思ってな」
「そうそう。このレベルの集団との摸擬戦なんてめったにないんだから……ねぇ?」
「……まあ、隠し方が下手だったことは疑いようがないがな」
普段ならば決して意見を合わせない二人が額に冷や汗を流しながら顔を合わせ同意すると、ゼオスがため息をつく。
「おおーん。見捨てられた~」
「ひ、人聞きの悪いこと言うな!」
それに対して二人が同時にゼオスを睨もうとするのだが、汗のように涙を流す蒼野を目の前にして、それどころではないと感じ必死になだめ始めた。
「しかし、彼には感服しました。まさかあの大人数を、たった一人で抑え込むとは」
「防衛戦は俺の十八番なんだが、自身を失くすよ」
そんな彼らを目にしながら、アーチャーとウォーラーの視線は蒼野が対峙していた者達の方角へと向いていた。
彼らの目に映ったのは、蒼野が相手取った十数人全員が這いつくばっている姿。
誰一人として戦闘不能の状態ではないのだが、負傷していない者は誰もおらず、対する蒼野は怪我一つない姿を保っていた。
「…………奴はどれだけ傷つけても元に戻す再生者の類だ。神器持ちが相手でもなければ、そうそう死ぬことはなかろうよ。加えて、人を殺さぬ術には長けている」
「なるほど、足止めには長けているというわけか」
「というか、なんでお前はそんなに嫌そうな顔してるんだ?」
「…………」
ほんの少し前にあった自身と蒼野の戦いを思い出しうんざりとした様子で説明。
ウォーラーが話題を振ると黙ってしまうのだが、そうしている内に蒼野が自分の頬を垂れていた涙を完全にぬぐい取り、一度ため息を吐くと二人をじっと見つめた。
「………………まあわかったよ。いつまでも愚痴言ってても仕方ないし、今回の件についてはいいよ。俺の予想は外れてたんだ。それでいい」
「予想? なんだそりゃ?」
立ち直った蒼野の姿を目にして息を吐く康太と優だが、ウォーラーがふと気になった様子で彼に尋ね、
「ああ。今回の戦いで、ヒュンレイさんは死ぬんじゃないかって思ってて」
安堵した様子で口にした内容を耳にして、周囲の空気が静まり返る。
「失礼。なぜあなたはそう思ったのですか?」
この世界から――――音が消えたかのような時間が続く。
しかししばらくしたところで困惑した様子のアーチャーの声が帰って来た。
「いや、その……昨日の夜の事なんですけど、善さんと話してたらどこか寂しそうな表情をしていたから……まるで死地に出向くようで」
『無貌の使徒』の面々はギルド『ウォーグレン』に所属する子供たちの事はよく知らされていない。
これは情報面においてまで対等にしてしまえば、蒼野達の勝機がなくなってしまうと考えたヒュンレイの配慮だ。
しかしこの場にいる『無貌の使徒』の面々は早くも古賀蒼野という人間は悪意のある人物ではないと認識し始めており、怒りよりも先に焦燥感が彼らに募り、アーチャーがまず動く。
「…………ウォーラー、主に連絡を」
「ああ!」
冷静になったアーチャーが指示を出し、それに従いウォーラーが電話をかける。
「ダメだ、出ない!」
それに対し焦りを交えた声が返ってくると、その場にいた『無貌の使徒』全員が慌ただしい様子で行動。
「おい落ち着け。まず第一にあの二人はどこにいる。所在を確認させろ」
「え、ええ。主は濃霧の中心点で善殿と話をして待っているとの事でした」
「これからの予定は?」
「我々は全て終わればあなた達に真実を話し待機。後は二人が話しあいを終わらせるのを待つだけ、という計画です。しかしこれは!」
僅かに強張った声で声で康太が答えを求め、それを聞き『無貌の使徒』の数名が動きだす。
それからすぐに濃霧の奥にいないと気が付くと、二つの組織の面々全員が顔を合わせた。
「ひとまず手分けして探そう。俺達はこっち側。あんたらは向こう側だ。急ごう」
そのまま康太が霧の奥に『ウォーグレン』の自分たちが向かうと宣言し、その逆側に『無貌の使徒』が走りだした。
終わりの時が――――迫る
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
終盤に向けて進む前の箸休め、予定では善さんの反撃の予定でしたが、ここで蒼野達の方を入れておかなければ置き去りになってしまうと思い、説明回を入れさせてもらいました。
次回からはクライマックス
こうご期待、と煽って見ます。
それでは、また明日よろしくお願いします




