竜と亜人の新時代 二頁目
教師役を買って出たルーエンス曰く、ギルドの地位はここ十年のあいだに著しく向上したとのことであった。
理由はいくつかあるが、重要な事の一つに亜人に対する偏見や差別をなくしたいと思った神の座、すなわち古賀蒼野が各勢力の代表者と結託し全身全霊で動いた結果であり、その大黒柱となったのが、世界中の人らに竜人族という種族を知ってもらう事であった。
「神の座に就いた蒼野様は、ほどなくして我々竜人族に関して必死に説明しました。他のどの種族よりも大きく、力持ちで、丈夫な体を持っており、息切れすることなく数日間動けるという有用性。見た目に反し理性的かつ温厚な性格で、他者と協力し合う協調性も備えているという性格などを絶えず説明し、竜人族と他種族間の仲を必死に繋いだのです」
「一人一人が異星人ではなく、同じ星に生きる仲間であるという事を伝え続けた、確か教科書にはそんな風に乗っていましたね」
「そうです。それに加え大きな実績を作った」
「実績?」
「五年前にあった一斉蜂起。前神の座を崇め続けていた者達が起こした『残痕の蜂起』を大事になる前に鎮めたという実績です」
ル-エンスが説明しながら持っていた棒で小突いたところには、水性の蛍光ペンで『新暦五年 残痕の蜂起』とデカデカと書かれているのだが、この件に関してはこの場にいる全員が知っていた。
これは惑星『ウルアーデ』の数十の地域で同時多発的にテロが発生し、これにより起きた混乱に乗じ、『かつての神の座イグドラシルこそが至高である!』と声高に叫んだ者達が、蒼野目掛けて襲い掛かってくるという事件で、竜人族はこの件において誰よりも早く事態を察知し、各所で起き始めた暴動を鎮静化。
ターゲットとして狙われていた蒼野も傷一つ付くことはなかったことから、彼等の実力が世界中に知らしめられ、この一件の後、青のは各地に竜人族が待機できるほど巨大な支部を建築。
加えて『ギルド』の中に新部門を設立。
それがギルドを中心に置いた商業組織『団結商会』で、これを正式に完成させることが今のギルドの、いや世界中の目標であった。
「お勉強はこの辺りにしておきましょう。難しい話でしたからね。皆さんそろそろお腹が空いて来たころではありませんか?」
「そりゃまあ」
「勉強をしていれば多少は………………」
「俺なんて腹と背がくっつく勢いで腹が減っちまたよ。どうすんだよコレ………………」
「それでもなお分厚い筋肉の鎧を保っているとは! あ、貴方の体は神秘で包まれているというのか!?」
「あーいい。今そういうのはいいんだ。さっさと飯にしよう」
ここまでの事柄を数分で一気に話した上でルーエンスはそう尋ね、子供たちはみな同意。
中でも我龍の様子は他とは一線を画しており、天井を見上げ口から涎を垂らす様子は、正気とは思えぬものであった。
ただそのヤバさが伝わったからであろうか、壊鬼曰く『嫉妬モード』と呼ばれる面倒くさい状態になる事は阻止され、
「ベルラテスに住む者ならみんな大好きなステーキハウスがあるんです。皆さんをそこに案内させていただきますよ」
一行は外に出るとルーエンスが紹介するステーキハウスへと向かい歩いていくが、既に目にしていたとはいえそこまでの道のりの光景は圧巻だ。
「巨人の世界ってこんな風景なんだね。驚きだよ」
なにせ全てが小さく見える。
周囲を囲っている山の数々が、空を飛んでいる雲が、遠くに見える名も知らぬ農村が、どれもこれもミニチュア模型であるように思えるほど、今の彼らは大きかった。
「ところで一つ聞きたいことがあるんですがよろしいでしょうか?」
「どうされましたか?」
「基本的な疑問になってしまうんですが、竜人族の里ベルラテスを囲う周囲の物はなぜここまで大きいのですか? 木々や川の規模は当然の事、飼っている牛や豚も私達が普段見るものとは比べ物にならないほど大きいですし、お米の一房とて一般的な物の百倍以上の大きさです。ここまで成長するのはなぜですか?」
ここで疑問を投げかけたのはエラッタで、ルーエンスは首を上下させながら聞き続け、一つの仮説を提示する。
「その辺りに関して『コレ』という意見は言えません。ただよく言われているのは、ベルラテスを囲う自然や動物は、元々はここまで大きくなかったという話です」
「というと?」
「竜人族という種族がここに住み着き、その影響で周りの物が全て大きくなった。ないし長い年月研究を続けていく事で大きくした………………というもの。つまり竜人族がこの周辺に集まったからこそ、州日の自然や動物も大きくなったという説です」
一丸となっている一行の横を通る、ジーパンを履いた竜人族の青年の側を歩いている高さ二十メートルはある一頭の乳牛。
その頭を優しくなでながらルーデンスは穏やかな声でそう告げるが、それを聞き数人が眉を持ち上げ訝しげな表情をした。
「生育する場所や人によって生物が変化するなど………………あり得るんですか?」
とすると質問者であるエラッタが返事をするが、ルーエンスは怯えた表情こそすれど意見を曲げない。
『あくまで一説ですが』というように前置きを置いた上で口を開く。
「『定向進化』という考え方があるのですが、これは多少なりともそれに近い考え方です。環境に沿って動くのではなく、そこで生きる生物達に影響され変化していく。その結果が我々竜人族という種に都合がいい方向への変化というわけです」
「………………」
「最も、長い年月をかけて品種改良したというありきたりな考え方もありますけどね」
普通に考えれば正しいのは後者の考え方である。
しかしこの場においてシェンジェン・ノースパスだけは知っているのである。
多くの人のあずかり知らぬところで暗躍していた存在。
千年という日々を使い世界を自分の思い通りの方角へと進化させようとした女の事。
すなわちかつて神の座に座っていたイグドラシル・フォーカスが、意図的に二大宗教を反発させるようにして戦いが頻繁に起こる世を作り、強い戦士を育成しようとしていたことを、彼はかつてガーディア・ガルフから聞いていたのだ。
「着きましたよ。ここの麦酒に浸して味をしみこませたサーロインステーキとリブロースステーキが格別においしいんです。サラダや果物ジュースも全て新鮮なものを使ってるので、思う存分食べてください」
「あの、我々は全員未成年なんですが………………」
「ご心配なく。アルコールは全て、焼くときに抜いてしまいます。残ってるのはここベルラテスの名産品である麦酒の素晴らしいコクと芳醇な苦みです」
そうこうしている内に辿り着いたのは、ステーキを食べる牛のキャラクターをデザインした看板を立てているログハウス。
ベルラテスに住む竜人族が皆大好きな飲食店。
すなわち『ステーキハウス メガロ』であり、最初こそ異議を申し立てた勇美であるが、ルーエンスの説明を聞き終えると、少し離れた位置にいる我龍と同じく涎を垂らし始めた。
「もう一個確認したいんですけど、巨大化したサイズのまま食べても大丈夫ですの? この場所を出る時に胃の居の中に残った牛肉は戻らず体が破裂する………………なんて恐ろしいことはないでしょうね?」
「おいコラ! 飯の前に不吉なこと言うんじゃねぇよ! 食欲失せるだろうが!」
「失せるにしてもこれだけは確認する必要があるでしょうが!」
さらに質問を投げかけたのは猫耳をピコピコと動かすメイで、食って掛かる我龍に対し一歩も引かないのだが、これも問題ないとルーデンスは言い、
「一緒に縮小される設定になっているので、そのまま食べてもらっても大丈夫なのは検証済みなのですが、万が一の事を考えて外から来たお客様に出すお肉は、元々は小さかった物を皆様同様大きくしたものです。それなら間違いないので」
「なるほど。サービスが行き届いているんですね。感心しました」
最後まで聞いたところで、納得した様子で頷いた。
とすると今度こそ食事を始めようとする一行であるが、席に案内されるタイミングで、シェンジェンは歩いている途中で目にするのだ。
「だから――――わかんだ――! 俺は――――――ってな!」
「そう言うな。これも――――ことなんだよ」
見覚えのある赤と黒の竜人の姿。
具体的に言うならば、エルドラとその息子であるデリシャラボラスが何らかの言い争いを、彼ははっきりと目にしたのだ。
それが、午後に起こるある騒動に巻き込まれるきっかけであった。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
申し訳ありません。分量はある程度行っているんですが、体調が微妙なため本日文章に違和感があるかもしれません。
早いうちに直そうと思ってるので少々お待ちいただければ幸いです
それではまた次回、ぜひご覧ください!




